対談企画第1弾
2Dドットで描かれたグラフィックとバイオレンスな描写、優れたゲーム性が世界中で話題を呼んだ、見下ろし型アクションゲーム『HOTLINE MIAMI』。海外で2014年8月にプレイステーション4版として発売された第1作『HOTLINE MIAMI』と、今年発売された続編『HOTLINE MIAMI2:Wrong Numbers』がセットになり、『ホットライン マイアミ Collected Edition』として、スパイク・チュンソフトから2015年6月25日に発売された。
ファミ通.comでは、『HOTLINE MIAMI』シリーズの開発者であるDennaton Gamesのデニス・ウェディン氏とジョナタン・ソーダーシュトロム氏、『ダンガンロンパ』シリーズシナリオを手掛ける小高和剛氏(スパイク・チュンソフト)、お互いのゲームのファンという3人による特別対談企画を実施。どのようなトークがくり広げられたのか!?
シナリオライター
小高和剛氏
共同経営者、グラフィックアーティスト、ゲームデザイナー
デニス・ウェディン氏
共同経営者、プログラマー、ゲームデザイナー
ジョナタン・ソーダーシュトロム氏
――小高さんは、かなりの『HOTLINE MIAMI』ファンだとうかがいました。本作の魅力はどこだと思われますか?
小高和剛氏(以下、小高) 『HOTLINE MIAMI』を初めて見たときに、サイケデリックな色彩に訴えるものがあって驚きました。ドット絵風のデザインだけでもゲーム好きにはグッときますが、ドット絵の中でも“これぞビデオゲーム”という特徴的な画面作りで心に突き刺さりましたね。
デニス・ウェディン氏(以下、デニス) ありがとうございます。
小高 この刺激的なビジュアルは、どこから着想を得たんですか?
デニス グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一さんの作品や、90年代のマイアミのネオン街からインスパイアを受けました。当時のネオン街は、煌びやかだけど怪しい雰囲気があり、その特徴的な色使いがいまでも記憶に残っています。
小高 日本では少し前から音楽やファッション、映画など、80~90年代のリバイバルブームが熱を帯びているので、発売のタイミングもよかったんじゃないかと。そのあたりは意識されていたんですか?
ジョナタン・ソーダーシュトロム氏(以下、ジョナタン) 多少は意識していましたが、自分たちが好きな80~90年代のよさを活かせるような作品を作りたかったので、こういった形になりました。
――デニスさん、ジョナタンさんは『ダンガンロンパ』シリーズのファンでもあるそうですね。
デニス そうなんです! 小高さんにお聞きしたいのですが、『ダンガンロンパ』シリーズに出てくるピンク色の血は、どのようなアイデアからきているんですか?
小高 いや、それは単純に血が赤い色だとシンプル過ぎるし、他の色だとペンキのように見えてしまうので、ピンクにした感じですね。僕らの会社はゲーム開発に巨大な予算が掛けられないので、ふつうだと思われていることを疑ってかかって、そこからオリジナリティーを出すように工夫しています。そういえば、『HOTLINE MIAMI』をプレイしたときに、「このゲームを作った人は音楽や映画が好きなんだろうな」と感じたんですが、実際はどうなんですか? 好きな映画はありますか?
ジョナタン 新しい体験が楽しめるもの、世間的には“変わっている”と言われるような作品が大好きです。スタンリー・キューブリックやデヴィッド・リンチの作品とか。
デニス 私は『マッドマックス』の新作や『ファイト・クラブ』など、じつは壮大な物語を描いているものが好きです。『HOTLINE MIAMI』に関しては、『ドライブ』という映画にインスパイアされました。
小高 なるほど~。好きな作品をゲームに落とし込んでいるところがすごい! マスクによって能力が変化するシステムは、じつは日本のゲームとしてはけっこう企画が成立しづらいので、すばらしいなと思いました。
デニス えっ!? 企画が成立しづらいとはどういうことですか? 詳しく教えてください。
小高 え~と、日本のゲームはキャラクターに主眼を置くことが強くて、グッズ展開を積極的に行っています。というわけで、僕はどうかと思うんですけど、キャラクターの顔がコロコロ変わるとグッズ化しづらく、企画が通りにくいという現状があるんですよ。
デニス なるほど。ほかにも日本だからこそ通りにくい企画はありますか?
小高 そうですね……。日本では、マンガやアニメを巻き込むメディアミックス展開が主流になっているので、“これぞビデオゲーム”というのが少なくなりつつあるなと。だからこそ、『HOTLINE MIAMI』にはグッとくるんですよね。あっ、聞きたいことがあるんですけどいいですか? 本作では、敵の配置や武器がパターンになってなく、ランダム性がありますが、その意図を教えてください。
デニス それは、どんなプレイヤーも死んでしまう可能性を持たせたかったからですね。
小高 へぇ。攻略方法が決まっていて、こちらとしてはパターンを覚えて何度もトライするようなゲームではないので、死んでしまっても「今回は難しかったからしょうがない。逆にもう1度トライしてみよう」という気持ちになるんです。パターンが決まりきっていると、覚えるのがめんどうくさくなっちゃうけど、敵の配置や武器が変わることでアクション的なスキルだけではなく、戦略性も求められるところがおもしろいなと感じました。
――『HOTLINE MIAMI』はゲームシステムとアートだけではなく、シナリオも特徴的です。小高さんはシナリオライターとして、本作のシナリオをどう感じましたか?
小高 正直な話、わからなかった(笑)。でも、雰囲気は伝わってきました。僕はそれでいいと思っていて、デヴィッド・リンチの作品もシナリオが完全にわかるわけじゃないけど、なんとなく雰囲気が伝わってきますよね? その雰囲気を伝えるセンスが『HOTLINE MIAMI』はズバ抜けているなと感じました。「3つの忠告をしよう」といった言い回しも映画っぽくてかっこいいなと思いました!
デニス ほとんどのゲームは、プレイヤーに押し付けるかのようにストーリーをすべて伝える傾向がありますが、『HOTLINE MIAMI』では、できるだけ余地、空白を残して、プレイヤーに穴を埋めてもらえるように作りました。『ダンガンロンパ』も外の世界で何が起きているのか、プレイヤーに想像させるという意味で似ていると思います。
小高 そうですね。とくに日本のプレイヤーは説明を求める傾向があるので、『ダンガンロンパ』で外の世界を一切見せなかったことに対して批判的な意見もいただきました。でも、物語を考察するのが好きな人ってけっこういると思うんですよ。デヴィッド・リンチの映画も「どういう意味なんだろう?」って話し合うのがおもしろかったりするので、僕も話し合う相手を増やすために『HOTLINE MIAMI』をもっとたくさん宣伝してたくさん売れてほしいです。
デニス クール!(笑)
――少し話が逸れてしまいますが、海外のクリエイターから観て日本のエンターテインメントシーンのどんな点がおもしろいと感じますか?
ジョナタン いまの日本のアニメは長く続かせる、長編のストーリーを伝えることに特化していて、そこが興味深いと感じました。
――印象に残っている作品はありますか?
ジョナタン 『新世紀エヴァンゲリオン』ですね。
デニス ちょっと言いかたは悪いですが、日本の作品はキャラクターを不自然な形(デフォルメ)にすることができる。特徴付けるという意味で、非現実的でもどこかに焦点を絞って恰好、行動、能力など、何か特化しているものがあります。そのキャラクター性に驚きました。
小高 キャラクターを考えるときに気になることがあって、たとえば映画の『X-メン』のキャラクターは原作とだいぶ異なりますよね? “デッドプール”や“シルバーサムライ”がすごく変わった扱いを受けているので、国内のファンから批判されたりしないんですか?
デニス 海外、とくに西洋圏でマンガやアニメは基本的に子どものためのものであって、大人が楽しむものとして扱われていません。子どものためにおもしろくする努力を行ったことで、ある部分が置き去りにされてしまうのかもしれませんね。
小高 日本の場合はだいぶ大人が楽しむものとして定着していますし、キャラクターへの愛が深いのでコスプレ文化も発達しています。やっぱりコスプレイヤーの質に関しては、日本がいちばんだなと思いますね(笑)。
デニス たしかに日本の熱はすごい(笑)。
小高 そういえば、さきほど海外だとマンガ、アニメは子ども向けという話がありましたが、ゲームはどうなんですか? 立ち位置が違うんですか?
デニス ええ。少なくとも私たちが生まれたスウェーデンでは、大人が遊ぶゲームといえば『バトルフィールド』や『グランツーリスモ』、『ニード・フォー・スピード』などになります。実際に大人向けかどうかは議論の余地があると思いますが……。最近はマンガ、アート、ファッション、ゲームといったコンテンツの購買傾向が日本寄りになっていて、大人向けのゲームを遊ぶ10代後半の子どもたちも増えています。それに、そういう大作ゲームをプレイしている人は、自分たちのことをゲーマーだとは思ってなく、テレビを観るような感覚で楽しんでいますね。
小高 最近の映画を観ていても、ふつうの主人公が何気なく『バトルフィールド』をプレイしているシーンがあったりしますよね。
デニス 昔は、音楽でいえばロックやテクノと言ったようにジャンルごとにファンが区切られ、それぞれが独自のコミュニティーを作っていました。それに似たような形で、ゲーマーというひとつの文化的なグループに所属し、自分の存在意義をアピールする人たちが増えたことで、映画などにも取上げられるようになったのかもしれませんね。
小高 『ニード・フォー・スピード』や『HOTLINE MIAMI』などは、すごくオシャレですよねぇ。オシャレなゲームではなく、ひとつのアート作品と言うか。僕も自分の作品では“ゲーム=ダサい”ものではなく、“オシャレなもの”として描いていきたいです。
デニス 私たちも同じように思っていて、サイン会を行う際もただサインを書くのではなく、クールなピクセルキャラなどの絵を描くことで、作品作りへの熱意やこだわりなどを伝えられたらいいなと考えています。
小高 僕も見習わないといけないなぁ。さて、『HOTLINE MIAMI』の話に戻りますが、おふたりはゲームの残虐表現についてはどう感じますか?
ジョナタン 『HOTLINE MIAMI』に関して言えば、自分が行っている行動に拒絶反応を感じさせず、アクション性とゲーム性を楽しんでもらうためにこのような表現方法をとりました。
デニス たとえば、壁蹴りといったいかにもゲーム的な特殊な描写はあえて避け、暴力行為自体をリアルかつシンプルにしています。
小高 ゲーム性と演出のバランスを大事にされているんですね。前からずっと気になっていたんですが、おふたりはつぎはどういうゲームを作りたいと考えていますか?
デニス ジャンルや設定を含めて、『HOTLINE MIAMI』とはまったく異なる形になりますが、自分たちがプレイしたいものを作っていきたいと思います。
小高 おー。それはすごく楽しみです!
デニス 同じ質問をしていいですか? 小高さんは次作どうするんですか?
小高 『ダンガンロンパ』シリーズはもちろん作り続けると思いますが、基本的には僕もあなたがたと同じで自分が好きなものを作りたいし、それしか作りたくないというタイプですね。ビッグタイトルに携わりたいというよりは、自分の好きなもので勝負していきたいです。
――最後にうかがってもいいですか? 皆さんはゲームを作るうえで“プレイヤーの心を揺さぶりたい”という気持ちがあると思います。音楽や小説、アートなどさまざまなジャンルがある中で、なぜゲームで表現をしているのでしょうか?
デニス プレイヤーをどうやって感動させるか、感動させるためにはどのようなものを作るかと考えたときに、ゲームには音楽、物語、アートなどすべての要素が詰まっているからです。
ジョナタン ゲームはほかのコンテンツと比べるとそれほど長く存在してきたわけではないので、新鮮なことを行う余地が十分にあり、たとえ完璧にこなさなくても新鮮に感じてもらえる。それがゲームを選んだきっかけです。
小高 僕がストーリーをいちばん効果的にユーザーに伝えられるものがゲームだと思ったからです。プレイヤーが自分で操作することで没入感を持たせたり、『ダンガンロンパ』の場合なら犯人がわかっていてもあえてプレイヤーに指摘させて、自分で選んだと思わせることでストーリーにのめり込ませられるので、ストーリーを伝えるためにいちばん効果的なものがゲームという。
デニス とても興味深いお話でした。ありがとうございます。
小高 対談の前に久しぶりにSteamで『HOTLINE MIAMI』をプレイしましたが、すごいゲームだと改めて感じました。日本版を弊社で発売するという話を聞いたときに、「スパイク・チュンソフトもなかなかやるじゃないか」と思ったほどです(笑)。今日はお会いできてうれしかったです!
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ホットライン マイアミ Collected Edition
メーカー | スパイク・チュンソフト |
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対応機種 | PSVPlayStation Vita / PS4プレイステーション4 |
発売日 | 2015年6月25日発売 |
価格 | 各3700円[税抜](各3996円[税込]) |
ジャンル | アクション |
備考 | 開発:Dennaton Games |