ゲームから離れていた人にこそ遊んでほしいRPG
ゲームのジャンルは数々あれど、いちばん好きなのはやっぱりRPG、そんなゲームライター、リプ斉トンです。『いけにえと雪のセツナ』(以下、『セツナ』。)は、“とりもどそう。ボクたちのRPG”というコンセプトのもと、Tokyo RPG Factoryが開発を手掛けたタイトルです。今回は、ひと足お先に本作をクリアーまでプレイさせていただきました。そのプレイした感想を踏まえて、本作がどんなゲームで、どんな人にオススメなのかを書きたいと思います。
セツナを最果ての地まで導く旅路
まずは『セツナ』がどんなゲームかを紹介したいと思います。本作は、コマンド入力形式でバトルが進むRPG。同社がスクウェア時代にリリースした名作RPG『クロノ・トリガー』を彷彿させるシステムがいくつも採用されています。
舞台となるのは、一年を通して雪が降り積もる、とある島。この島では、はるか昔から魔物による被害が続いていて、最果ての地に“いけにえ”を捧げることで魔物の活動を抑えられると信じられています。主人公は傭兵家業を生業としている青年で、ある依頼をきっかけに、つぎの“いけにえ”に選ばれた少女セツナと出会い、最果ての地を目指す旅をすることに。
近年は“いけにえ”を捧げても、魔物による被害が増えてきていると感じる人もいる模様。“いけにえ”と魔物の活動を抑制する効果には、いったいどんな関係があるのか? また、“いけにえ”を捧げる最果ての地とは、いったいどんな場所なのか? ゲーム序盤に投げかけられる謎を抱えたまま、主人公とセツナは旅を続けていきます。最果ての地にたどり着いたとき、その謎は解けるのか? そして、“いけにえ”となるセツナはどんな運命を迎えるのか? ぜひクリアーまでプレイして、その結末を確かめていただきたいところです。
かつてのゲームファンも楽しめる懐かしいバトルシステム
さて、つぎにゲームシステムを解説しましょう。本作のバトルは、時間の経過でゲージが溜まり、それが満タンになると“たたかう”などのコマンドを入力できる、“アクティブタイムバトル”で展開します。また、ふたり以上のキャラクターが特定の魔法を覚えていると、強力な“連携”が使用できることにも注目です。このあたりは、『クロノ・トリガー』を踏襲したシステムですね。
パーティーに加わるキャラクターの魔法の組み合わせによって、使用できる連携が変化するので、パーティー編成がかなり重要。キャラクターの性能以外にも、使える連携を考慮してパーティーを組む必要があります。序盤はふたりでの連携がメインですが、中盤以降になると3人での連携も可能に。3人連携はどれも効果が高く、演出もかなり派手! すべての連携を見たいがために、パーティー編成をこまめに変えたくなること請け合いです。
さらに、バトル中にコマンドを選んで行動したり、ATBゲージが溜まった状態であえて待機したり、ダメージを受けたりすることで、“SPゲージ(刹那ゲージ)”が溜まっていきます。このゲージが満タン(3つまで溜められる)になった状態で、キャラクターの行動時にタイミングよく□ボタンを押すと、本作オリジナルのシステムである“刹那システム”が発動。使用した攻撃や魔法の効果をアップできます。なかには、追加で異なる効果が発生する魔法などもあるので、超重要です。ただし、刹那ゲージを素早く溜めるためには、行動できる状態のまま待機しなくてはならず、当然、行動回数が減ってしまうことになります。刹那システムは使わず、最速で行動して敵を殲滅したり、消費MPが高い魔法を使うときに刹那システムを活用し、火力をさらにアップさせるなど、状況によって使い分けることで、バトルの戦略の幅が広がります。ちなみに、刹那システムを発動するために□ボタンを押すタイミングは、キャラクターが行動した直後。ボタン入力を受け付ける時間は長く、バトルで数回試せばすぐにマスターできるレベルなので、アクション要素が苦手という人でも大丈夫です。
つぎに、キャラクターの育成システムについてご紹介します。本作は、バトル中に得られた経験値が満タンになるとレベルが1上がる、オーソドックスな方式になっています。そして重要なのが、新しい魔法やキャラクターの能力の底上げなど、特殊な能力の付与が可能な“法石”と、その法石を装備できる枠を拡張する“法器”という装備品。装備できる法石の数は、キャラクターのレベルアップにともなって増える固有の装備枠の数や、装備する法器の枠の数によっても変化します。汎用性を考えて魔法の装備を最優先にするのか、使う魔法を減らしても、キャラクターの能力を底上げする法石を集中して装備させるか……。魔法は、法石を装備しないと使えないので、どの法石を装備させるかは、プレイヤーの性格が出そうなカスタマイズ要素です。筆者のオススメは、道中は攻撃魔法をそれぞれひとつだけ装備し、1ターンでザコ敵を殲滅させられるような法石の構成にしておき、ボス戦は補助魔法や回復魔法の法石を装備し直して挑む、というもの。使える魔法はキャラクターによって異なるため、装備できる法石の種類や敵の属性などによっても、戦いかたが大きく変わります。いろいろなことを考えつつ、パーティーメンバーを選択するのが、本作の悩みどころであり、同時にいちばん楽しいところでもあると感じます。
長すぎず短すぎず、ちょうどいいボリューム
個人的に、いちばんこのゲームをプレイしてほしいのは、筆者と同じアラサー世代の、“かつて”のRPGファン。この世代だと、スクウェア・エニックスが手掛けた『クロノ・トリガー』、『ファイナルファンタジーVI』、『ドラゴンクエストVI』、『ロマシング サ・ガ3』あたりの傑作を、小学生という多感な時代にプレイしてきたことでしょう。学校では友だちとゲーム談義に花を咲かせ、家に帰ればすぐにゲーム機をポチリ。勉強はそっちのけで、親に怒られるまでゲームをプレイしていたという人も少なくないはず。ですが、社会人になって忙しくなり、ゲームをする時間がない、あるいは集中してゲームがプレイできず、近年の大作RPGはクリアーまで遊べない……そんな人にこそ、『セツナ』をプレイしていただきたいと思っています。バトル自体は簡単すぎず、難しすぎずといった絶妙な難度で進み、刹那システムと連携のコツをつかめば、家庭用ゲームで久しぶりに遊ぶという人でも詰まることなく進めます。筆者も、集中的にレベル上げをすることなく、サクサクとクリアーまで到達。トータルのプレイ時間も長すぎず短すぎずといった感覚でエンディングを見ることができました。
バトルは、敵に接触するとそのまま戦闘に突入する方式なので、マップの端を歩いていれば、敵と戦わずに先に進めます。とにかく早く先に進みたいという人や、セーブポイントまで進んでゲームを中断したいという人にもやさしい設計。また、敵の背後から(警戒されないように)接触すれば、ATBゲージと刹那ゲージが溜まった状態でバトルが始まるので、先手必勝でザコ敵を倒すことも可能。育成も、時間をかけすぎずに楽しくできるのもうれしいところです。
RPGならではの楽しさを詰め込んだやり込み要素
先ほど、“ちょうどいいボリューム”と書きましたが、クリアーしたらやることがすべてなくなるというわけではありません。プレイするうちに、RPGならではのやり込み要素が満載なことに気がつくはず。
魔法を使うために必要な法石は、敵を倒したときに手に入る素材を売却することで入手できます。ここで注目すべきは、敵がかなり多くの種類の素材を持っており、同じ魔物でも倒しかたによって落とす素材が変化するということ。火属性攻撃で倒す“ファイアキル”や、敵のHPを大幅に上回るダメージを与えて倒す“オーバーキル”、敵を弱体化や状態異常にさせた状態で倒す“デバフキル”など、どうやって倒すかという戦略も重要になります。ちなみに、一度手に入れたモンスターの素材は、“雪世界の記憶”というデータベースに記録されるので、1体ずつモンスターのドロップリストを埋めていくのが非常に楽しいです。RPG好きのツボをいい感じに刺激する、やり込み要素となっています。ただし、攻撃魔法や回復魔法など、必須となる法石を入手するのに必要な素材は、比較的簡単に手に入るように設定されているので、「あの法石がないから先に進めない」ということもありません。ゲームがある程度進んで、「この法石が欲しいから、この素材を落とす敵をこの方法で倒しにいこう」というような、寄り道要素だと思ってもらえばいいかと。
そして、RPGのお約束である宝箱の存在も、やり込み要素のひとつ。ゲーム序盤から、鍵がかかっていて開かない宝箱がワンサカ出てきます。開かないものは開けたくなるのがRPG好きのサガ。宝箱が“開かない”ということは、いずれどこかで、開けるための“鍵”が出てくるということ。この“鍵”を入手した瞬間、世界中の宝箱を開けに回る道草が始まるのではないでしょうか? 想像しただけで興奮しますね。宝箱を残さず開けたい人は、鍵付きの宝箱の場所をしっかりメモしつつプレイしていただきたいところ。
また、旅の道中にたびたび見かける“光るポイント”は、調べると食材や換金用素材が拾えます。この食材を欲しがっている人に渡すと、バトル時の能力を上げたり、経験値や落とす素材の量を増やすなど、さまざまな効果が発生する料理の“レシピ”を渡してくれます。これらのレシピも、必須というわけではありませんが、レシピを料理人に渡すと、アイテムとして料理が買えるようになるため、ボス戦や素材収集がかなり有利になります。村やダンジョンを隅々まで探索したり、鍵を使って宝箱を開けたり、敵のドロップアイテムを集めたり……。こういった、RPGならではの楽しさの数々を、ゲームシステムとうまく調和させている点も見逃せません。探索したら、探索したなりにご褒美がもらえるのって、すごくうれしいですよね。本作には、このようなやり込み要素が満載なので、村やダンジョンはくまなく歩き回りたくなってしまいます。また、それがまったく苦にならないゲームデザインになっているのは、さすがのひと言。開発者の皆さんの、緻密なバランス調整の賜物なのだろうな~と、しみじみ思いました。
プレイすれば味わえるノスタルジーと達成感
2015年に『プロジェクトSETSUNA』の名前で発表され、『いけにえと雪のセツナ』としてついに発売されることになった本作。公式サイトを見ると、“あの頃、みんなRPGに夢中だった。とりもどそう。ボクたちのRPG――。”というキャッチコピーが書かれています。本作の関連記事を見て、「これならクリアーまで遊べそう」とか、「懐かしい感じのゲームシステムがいいな」、「切ない感じの物語に興味があるんだよね」といった感想を持った人も多いのでは。子どものころの懐かしさを感じたり、物語の切なさに心をザワつかされたり、ゲームをクリアーする達成感を味わったり――。そういった体験をしたいと思っている人にこそ、迷わずオススメしたいタイトルです。また、本作には、「あそこに貴重なアイテムがあった」、「この技が強い」、「この物語の展開がよかった」など、プレイヤーどうしでゲーム談義をくり広げたくなるような魅力もあります。友だちや同僚を誘っていっしょに遊び始めると、よりいっそう本作が楽しめること請け合い。学校の休み時間や放課後に楽しんでいたようなゲーム談義を、今度は居酒屋で盛り上がってみるのもいいのではないでしょうか。雪の舞い散る大地をセツナとともに歩き、“いけにえ”として彼女が迎える結末を、ぜひ目にしてほしいです。クリアーまでプレイすれば、自分自身が歩いてきた人生と、本作のゲーム内で歩いてきた道を同時に思い出し、ちょっとノスタルジックな気分に浸れると思いますよ。