価格や発売月などが発表された、プレイステーション4用のVRシステム、PlayStation VR(PS VR)。ゲーム機ベースでビデオゲームにとどまらない本格的なバーチャルリアリティ体験を提供する本ハードウェアについて、プレイステーションのハードウェアとソフトウェア設計を統括する伊藤雅康氏(SCE EVP 兼 PSプロダクト事業部 事業本部長 兼 ソフトウェア設計部門長)に話を聞いた。
ハードウェア側でこだわった部分
――PS VRの価格と発売月が発表されましたが、発売までに残されている課題などは?
伊藤 ほとんどないんですけども、あるとすれば酔いやすいお客様がまだいらっしゃるので、そういった方も酔いにくいような作り方を共有していくという所ですね。デベロッパーさんと密に話をして「こういう作り方をするといけないので、こう作りを変えてください」とか、そういう感じのものが多いです。
――価格が決まってくる中で、ハードウェア側でいちばんこだわった部分はなんですか?
伊藤 やはり映像が表示される部分ですね。いちばん最初にプロトタイプを出した時は液晶でスタートして、今はOLEDのパネルになっているんですけど、そこの部分がやはり、酔いにも関係してきますし、解像度も上げていきたいので、そこがこだわった部分ですね。
――単純な解像度だけで言うと競合のOculus RiftやViveの方が大きいですが、そこはバランスの中でということでしょうか。
伊藤 単純な解像度だけだとそうなんですが、ピクセル数にしたらPS VRのほうが多いんですよ。配列を変えたりしているので。
――120ヘルツのリフレッシュレートで高速な表示が可能なのもこだわりでしょうか。
伊藤 そうですね。やはりリフレッシュレートが高ければ高いほど速く動いた時に(表示の)追尾性があって酔わないと考えると、90ヘルツでもなんとか酔わないものを作れるんですけど、それ以下だとやはりいろいろ試すと酔っちゃう人がいたので。それで90、さらに120まで行けば大丈夫だろうなぁという部分があったので、こだわりました。
――そこで90の上を狙った時に120という数字になるのは、60の倍という部分ですか?(※秒間60フレームで動くゲームの対応がやりやすい)
伊藤 まぁそうですね。そこがいちばん大きいところです。
――基本的に、PS VRを被るとシネマティックモードと同じようにPS4のメニューが表示されますが、PS VRが接続されている時だけのための、VRに最適化されたようなOS側の機能などはないのでしょうか。先日、日本のテレビで、VRヘッドマウントディスプレイでホラーゲームを体験していて、びっくりしてヘッドマウントディスプレイをぶん投げちゃうというようなことがありましたよね。ああいう時に防ぐ機能、例えばどんなゲームでもなんか特定のボタンの組み合わせでゲームを止めて戻れるとか、何かあればいいのかなとも思うんですが。
伊藤 うーん、OS側でというのはなかなか……。
――PS4の普通のゲームだったら、たとえばPSボタンを押せば戻れはするじゃないですか。
伊藤 はい。それ以上のことをオートマチックにやるのは難しいですね。ただ、範囲から外れてしまった時に警告を出すような仕組みは入っています。大きく外れて、何かにぶつかってしまったりしては危険なので。
次に気になるVR技術は?
――PS Moveは再生産をやっていく形になると思いますが、それに合わせて、新Move的なアップデートはないのでしょうか? たとえばアナログスティックがつくとか、基本の構成は同じままでもハプティクス(振動による触感の擬似表現)がもっと細かく取れるとか、そういうVR向けのアップデートがあるといいなぁと思うんですよね。
伊藤 確かに、そういうのがあればいいという話を頂くこともありますし、実際そういう話もしたんですけど、今のところそういう予定はまったくないですね(笑)。
――Move以外の細かいインタラクションができるもの、例えばVR向けグローブなどの可能性はどうでしょう。
伊藤 研究開発の段階ではいろんなものを試したり実験していますが、実際に商品化するというのはまったく決まっていないですね。
――HTC Vive/SteamVRの“ルームスケールVR”的に、歩ける広いVR空間を作る可能性は。Oculus Riftでも、モーションコントローラーのTouchを使う時はセンサーをもう一本立てて使用空間を広げられますよね。
伊藤 逆の発想だったんですよね。あそこまで広いと、欧米の家ならいいですけど、日本ってなかなか厳しいかなと思って(笑)。逆に狭いところでも遊べるようにするほうがいいんじゃないかという考えで、広げるという発想は今はまったくないですね。
――4月から組織的にはSCEからSIEになり、本社もカリフォルニアになりますが、ハードウェアの開発に影響はあったりしますか?
伊藤 なにもないですね。ハードウェアの設計は日本でそのままやっていくので、とくに変化はないと思います。
――PS VRとは関係なく、VRの研究に関わられている中で次に気になるVR技術はなんですか? 例えば視線を検出して使用者が見ているところだけ描画を最適化するとか、いろいろありますが。あるいは操作ではグローブ系があったり、ヘッドマウントディスプレイ自体の無線化だったり、いろいろ研究されている方がいらっしゃいますが。
伊藤 まぁ、ワイアレスは実現したいですが、なかなかいまの技術だと難しいので、ちょっと先の話になるかもしれないですね。あとは個人的にはARとどう結びつけていくかというところですかね、次に来るとしたら。
まずは「とにかく体験してもらいたい」
――エンターテインメント系のコンテンツを体験したのですが、今後そういったVR映画などをソニー・ピクチャーズで制作したりPS Storeで配信する予定はどうでしょうか。
伊藤 予定というほどの計画はないんですけども、実際そういう形のものは今後広げていきたいなと考えていますね。実際いつからというのは考えていないですが。
――発表されたパッケージにPS Cameraが入っていないので「カメラはいらないのか」と誤解する人なども見かけたのですが、バンドル版などの予定は。
伊藤 まず、カメラが必須なのは間違いないです。それで、PS4の発売時も地域によってカメラのバンドルなどの施策が違っていたので、今回も各地域によってカメラをバンドルしたパッケージを売るところもあると思います。実際、カメラをすでに持っているお客様にとっては、カメラをバンドルしたものだけが出てきたとして、ふたつあっても邪魔なので(基本パッケージにはバンドルしない)。そういったこともあって、今回スタンダードモデルを発表させて頂きましたが、発売までの間に各地域でどういうバンドルをするかが決まっていくと思います。
――VRでは今までと違うプロモーションが必要だと思いますが、いかがでしょうか。
伊藤 こればっかりは体験してもらわないと伝えられないんですよね。言葉でもそうですし、写真でも伝えられないし。VRという言葉は聞いたことがあっても、どんなものかまったくわかってらっしゃらない方が多いと思うんですよね。いかにそういう人に体験してもらうかが鍵だと思っていまして、ひとつでも多く体験する機会を増やしていくというところかなと思いますね。
――PS VRの発売月が発表されたばかりで恐縮なんですが、VRの次の体験を実現するデバイスにとりかかっていたりするのでしょうか。
伊藤 それはないですね。さっきのAR(との融合)の話もそうですけど、VRをいかに次のスタンダードに持っていくかを考えているので、次のデバイスというのはまったく考えていないですね、正直いまのところ。
――VRを手がかりに新しい山を登っていくような。
伊藤 まぁ、まだ登ってもいないので(笑)。ようやくこれからといった感じですね。