“『ロマサガ』を初めて遊んだときのような感覚”が待っている!?
スクウェア・エニックスより、2016年12月15日に発売予定のプレイステーション Vita用ソフト『サガ スカーレット グレイス』。本作は、河津秋敏氏がゲームデザインを担当する『サガ』作品としては、『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』(2005年4月発売)以来、11年ぶりに登場する『サガ』シリーズ最新作だ。
本記事では、開発の中心に立っている河津秋敏氏と、本作のプロデューサーを務めている市川雅統氏のインタビューをお届け。4人の主人公の特徴や、新たに登場する“フリーワールド”システム、バトルの詳細などをうかがった。
※本記事は、週刊ファミ通2016年9月29日号(2016年9月15日発売)に掲載されたインタビューに、加筆・修正を行った完全版です。
右:プロデューサー 市川雅統氏
これまでいなかったタイプの主人公たちを巡る物語
――2014年末の制作発表から1年9ヵ月が経ちましたが、ついに! 発売日が発表されましたね。
河津秋敏氏(以下、河津) ようやくですね。
市川雅統氏(以下、市川) お待たせしましたが、12月15日にお届けできることになりました。
――12月15日というと、シリーズ第1作『魔界塔士サ・ガ』の発売日でもありますね。
河津 たまたまなんですけどね。
市川 『サガ スカーレット グレイス』を発表したのも、2014年の12月15日でしたので、運命なのかもしれませんね。
――記念すべきシリーズの誕生日に最新作が遊べるとは、うれしいです。ではさっそく、ゲームの詳しい内容についてうかがっていきたいと思います。まず、小林智美さんが描かれたイメージイラストについてうかがいたいのですが、これは“ロマンシング佐賀展”で、先んじて展示されていたものですね。
市川 この絵は“光焔万丈”(長い時間長い距離、炎が勢いよく立ち昇る様子のこと)というタイトルなのですが、『サガ スカーレット グレイス』の世界を象徴する絵だと思い、発売日発表とともに公開させていただきました。
――ここに描かれているのは邪神ファイアブリンガーと、星神でしょうか。
河津 そうです。
――キャラクターの立ち絵ではないイメージイラストが公開されるのは今回が初ですが、「星神とファイアブリンガーを描いてほしい」と河津さんからリクエストされたのですか?
河津 いえ、絵のテーマについては、特別注文していません。イメージイラストについて、「主人公の集合絵は必要ですよね」というくらいの話はしていますが、細かい指定はしていませんので。小林さんのイメージで好きに描いていただいています。
市川 決まっているのは枚数くらいですね。絵の大きさもお任せしていますので、受け取りにいって「こんなに大きいんですか」と驚いたり(笑)。
河津 これまでも、キャラクターだったり、世界をイメージするものだったりをバランスよく描いていただいているので、「こういうのを描いてください」とはあまり言わないようにしています。
――星神とは、そもそもどのような存在なのか教えていただけますか?
河津 世界を形作っている神です。いろいろなところにいる人が、いろいろな形であがめています。どの程度ゲームに関わってくるかは、遊んでからのお楽しみということで。
――プロローグには、星神が力を与えた人間が帝国を作った、とあります。
河津 はい。ファイアブリンガーと帝国の戦いは長く続いたのですが、だいたい100~150年前に最後の戦いが終わりました。それから帝国が滅んで、しばらく経ってからの物語が、『サガ スカーレット グレイス』のお話です。
――今回は、主人公は4人から選べるとのことですが……以前、河津さんはご自身が手掛けるRPGについて、主人公が複数いることは必須だとおっしゃっていましたよね。その理由を教えていただけますか?
河津 ロープレは、キャラクターを選んだり、作ったりするところから楽しさが始まるので、最初からひとりにしてしまうと、かなり幅が狭まります。主人公がひとりで「このキャラはちょっとな」と思ってしまったら、その時点で入り込めないので、複数のキャラクターを描きたいということはつねに思っています。
――主人公を考える際は、男女比や年齢を意識するのですか?
河津 性別や年齢は最初から分散させますね。もともとの設定では8人くらい考えていたのですが、泣く泣く削ってこの4人になったという感じです。
――では、それぞれの主人公について詳しくうかがいたいと思います。まずウルピナですが、彼女は王道の主人公という印象を受けます。
河津 ユラニウス家という貴族の家に生まれた、正統派の主人公です。家がたいへんなことになってしまい、翻弄されながら世界を巡っていくという。『ロマンシング サ・ガ』(以下、『ロマサガ』)のアルベルトのような立ち位置のキャラクターです。
――一方、レオナルドは、正統派の雰囲気ではないですよね。
河津 単純に言えば“ヤンキー”で、まっすぐなキャラクターです。自分はこういうキャラを作ったことがなかったので、楽しかったですね。
――プロフィール文によれば、悪ガキ仲間と遊んでいたのに、急に農業をやり始め、マジメになったかと思いきや、祖父の農園を売って旅立つとありますが……。
河津 ちょっとこの人の頭の中身は、想像しがたいですね。
市川 河津さんにも想像しがたいんですか(笑)。プレイしていると、レオナルドはマジメだなと感じますよ。
河津 でもワルですよ。手が先に出るタイプなので。とりあえず殴っちゃって、その後「俺が間違ってた」と言って鼻血を拭いてくれるような(笑)。悔いる悪いヤツです。
――レオナルドはこれまでの主人公にはいないタイプですが、タリアも輪をかけて、これまでにいなかったタイプですよね。職業が陶芸家ですし。
河津 タリアは、陶芸家にしたいと最初から考えていました。アーティスティックなことをしている主人公は珍しいので。
――自分が作る陶器が歪むので、歪みの原因を探しに行くそうですが、物語がまったく予想できません!
河津 かなり特殊なバックグラウンドを持つキャラクターです。ネタバレになるので詳細は言えませんが、そういうことを言ってしまう人なんですよ。タリアは、“大人の女性”ということを意識しています。人生のいろいろなことを経験した人が旅に出ていくというのを描きたかったので。結婚していたし、子どももいたという設定です。
市川 本当に独特なキャラクターで、お話がおもしろいですよ。陶芸家が主人公になるなんて想像もしていませんでしたが、ここで河津さんが新しいものをぶつけてくるということが、もううれしくてしかたないですね。
――主人公の職業としては、バルマンテの処刑人という職業も珍しいです。しかも、処刑した相手が蘇るという。
河津 殺した相手が生き返る、という物語はよくある話ですが、最初にこれだけのシチュエーションが用意されているという点では珍しいキャラクターですね。世界から見たら、処刑人であるバルマンテは影の存在ですが、そういう人を主人公にしてみようと思ったんです。
市川 ちなみに、物語の雰囲気は、それぞれのキャラクターでぜんぜん違うんですよ。
河津 シナリオの構成はかなり違うので、飽きずに楽しめるんじゃないかなと思います。キャラクターごとにきっちり物語を作っている点は『サガ フロンティア』に近いかもしれません。
――主人公4人は皆、装いが異なりますが、この世界では、それぞれの地域に異なる文化が根付いているということでしょうか。
河津 帝国が滅んだことで、それぞれの地域に独自性が出始めているという世界なのですが、着ている服が違うのはそういう理由からではありません。自分が小林さんに「ぜんぜん違う服で描いてください」と言ったので。キャラクターの絵を見ただけで印象がつくように、ガラッと変えてもらっています。帝国はローマ風のデザインがベースですが、みんながローマ風の格好をしていてもおもしろくないので。
市川 世界の広さはこれまでの『サガ』シリーズと同じくらいで、アジアっぽい場所があったり、ヨーロッパっぽいところがあったりするところは『ロマサガ2』や『ロマサガ3』と同様ですね。
選択肢の差は、うどんとそばくらい!?
――主人公ごとにシナリオが異なるとのことですが、ひとりの主人公のシナリオ中でも、選んだ選択肢によって展開が変わっていくのですよね。
河津 『サガ スカーレット グレイス』に限らず、毎回そうなんですけど、分岐をさせることが目的じゃないんです。ラスボスのような存在が最初から出ているというのが自分のやりかたで、そこにいたる道がどう変わるかというだけですから、その場その場で自分の気持ちに従って選んでもらえれば。分岐させていろいろなパターンを作りたいという気は、とくにありません。納得できるものであれば、一本道でもかまわないくらいで。
――分岐は重要ではないのですか!? 今回公開されたスクリーンショットに、“殺すか、殺さないか”という選択肢がありますが、これも重要なものではないと?
河津 ここでの“殺す”は、これは選ばないでしょ、という提示のしかたなんです。でも、「こっち選んじゃったらどうなるんだろう?」という気もする。そんなちょっとしたスパイスみたいなものです。
――てっきり、重い選択をプレイヤーに委ねたいのだと思っていました。
河津 “殺してでも うばいとる”がメインではないんですよ。その選択を、『サガ』の象徴だと考える方もいるのですが。究極の選択をさせたいのではなくて、さりげない二択を、そのときの気分に近いほうを選んでもらいたいんです。選択肢にステーキとお茶漬けほどの差をつける気はなくて、あくまで、うどんとそばくらいの差しかないというところにポイントがあるので。
市川 とはいえ、“殺す”を選んだ場合は、そのまま相手を殺して物語が進むんですよ。ふつうはないですよね。そんな仕掛けがあちこちに張り巡らされていて、テストチームから「全貌が見えません」という声が上がるほどで(笑)。さりげないように見えた選択の先に、まったく違う展開が待っていたりもして。自分がいままでテストプレイで見てきた物語は、氷山の一角でしかなかったのでは? と思うほどです。不思議なゲームですが、そこがおもしろいと思います。
河津 選択肢を用意しても、けっきょく同じ結果になるだけでは楽しくないので、ちゃんと別々の結果を作っているんですけど。そのせいでボリュームが増えて、自分の首を絞めているところはありますね(笑)。
――ちなみに、1周あたりのプレイ時間はどのくらいでしょうか。
河津 1周あたり、約30~60時間です。2割くらい削っておけばよかったかな。
――年末はたっぷりと『サガ スカーレット グレイス』で遊べそうです。ところで、今回はフリーシナリオがワールドマップと融合しているとのことですが、そのフリーワールドシステムとは、具体的にはどのようなシステムなのですか?
河津 マップ上に街やオブジェクトがあって、訪れたり調べたりするとイベントが発生します。どこに行って何をしてもらっても大丈夫です。一応、「あの場所へ行くといい」、「ここでは、こんなことが起こりそう」という情報は伝えますが、そこに行ってもいいですし、戻ってもいいです。
市川 マップではいろいろなことが起きています。何をやるかはプレイヤーの自由です。
――ただ、いつかは行きつくところにラスボスがいる?
河津 います。勝たないと終わりません。勝てるかどうかは別として。
――『サガ フロンティア』のリュートのように、すぐにラスボスのもとに行けたりも?
河津 あそこまですぐには行けませんが、狙ってプレイすれば早い段階で行くことはできます。いちばん早くたどり着けるのは、おそらくレオナルドですね。