2018年5月12日、13日に京都市勧業館みやこめっせにて開催されたインディーゲームの一大祭典BitSummit Volume 6。会場内のデジカブースでは、なんとこの日のためだけに用意されたという柏木准一氏のシューティングタイトルが出展されていた。
本記事ではブースのリポートとともに、柏木氏にインディーゲームやシューティングゲームについて聞いたインタビューの模様も合わせてお伝えしていく。
エイプリルフールのためだけに作られた『2010』がまさかの展示に!
出展されていたのは柏木氏が代表を務めるピラミッドとコロプラが共同開発しているアクションゲームアプリ『アリス・ギア・アイギス』のエイプリルフール企画として登場したシューティング『2010』。制限時間内に出現する敵をより多く倒してスコアーを競う、いわゆるキャラバン方式の縦シューティングだ。
この『2010』は、『ダライアスバースト』を手掛けたピラミッドのスタッフが制作を担当。……しているにも関わらず、ユーザーが遊べたのは2018年4月1日のたった1日のみ。
今回筆者初めてプレイさせてもらったが、1日限定にしておくには非常にもったいないと思ったほど、クオリティーの高いシューティングで、1プレイの制限時間は2分と短いながらも、何度でもプレイできてしまうような軽快さと、多数の敵を倒していく気持ちよさが感じられるタイトルとなっていた。
そんな本作を今回出展した経緯を柏木氏に伺うと、「デジカブースに呼んでいただいて、せっかくゲストとして呼ばれたのでエイプリルフールに作ったものを皆に見てもらおうかなと思って」とのこと。
また、『2010』の制作については、「せっかくエイプリルフールならキャラバンゲームが作りたい」というスタッフから上がってきた意見をプログラマーの方が実現させたのだそう。制作自体は業務の空いている時間などを工面して作られたそうで、本当に好きな人が自由に作ったものだからこそ、このクオリティーが実現できたのだろう。なんでも、エイプリルフールの企画としていくつか案が出ていた中でも、一番予算がかかるものだったのだとか。
作り込みも細かく、レトロゲームの雰囲気を演出するために、ブラウン管に映したような曲面のゲーム画面になっていたり、あえてドットも荒くしているなど、細部からもこだわりが伝わってきた。
本作に関して、今後も遊ぶ機会があるかのかを伺ったところ、「イベントなどでまた日の目を見る可能性があるかもしれない」と柏木氏からのコメントを聞くことができた。
なお、柏木氏によると『アリス・ギア・アイギス』では、現在初心者やコアユーザーが楽しめるような追加要素を計画中とのことなので、こちらも期待して待ちたい。
そしてここからは柏木氏に、インディーゲームやシューティングゲームの現状について話をうかがったので、その模様をお届けする。
王道シューティングと弾幕系は違う系譜
――まずは柏木さんのシューティングに対しての愛をお伺いしたいんですが、シューティングのどのような魅力に取り憑かれているのでしょうか。
柏木准一氏(以下、柏木) 子どものころからアーケードに対しての憧れがあって、僕がシューティングゲームを作れるようになったのは『LOGiN』にPC-88やシューティングゲームエディター系のソフトがあって、あれを子どものころに触って以降ですね。『バカスカウォーズ』がリリースされたあとに、『シューティングゲームツクール』や『デザエモン』だったりがあって……それで作り込んだんです。ゲームの仕事をしてからも、『カオスシード -風水回廊記-』を作っていた小倉唯克さんといっしょに、“パソケット”(同人ソフト専門の販売イベント)用にゲームを作っていたりしていて。そういう意味では、わりとインディーは身近な存在だったんです。
――当時はインディーという言葉はなかったけれど、いま思うとそれに近いことをしていたと。
柏木 そうですね。パソケットってまさにそうだと思うんですけど、パソケットもコミケも、昔の開発者たちはふつうに行っていたので。
――では、いまのインディーの状況は素直に受け入れられている感じなんですね。
柏木 とはいえ、当時からするといまはものすごくちゃんとした形になっているというか。フロッピーを自分たちでデュプリケートして手渡しで売っていた時代からすると、いまはふつうにコンシューマーに移植されてストアで買える状況になってきているじゃないですか、インディー開発者のレベルや開発環境がすごく上がってきたんだと思います。昔もエムツーの堀井(直樹)さんが作っていた『リボルタ』とか、コミケットにあった『超連射68k』とか、頭ひとつ抜けていたものがありましたし、『東方Project』といったずっと続いているシリーズもあったりしましたが、知っている人は知っている存在で留まっていた気がしました。そこから考えるといまの状況は本当にすごいなと思います。
――お話を伺っていると、シューティングというジャンルはインディー的なものが支えてきたという側面もありそうですね。
柏木 1980年代後半から1990年代前半はアーケードのシューティングゲームへの憧れという部分が非常に強いのだと思います。当時アーケードゲームを作るのって、敷居が大変に高かったですし、88や98の時代はかなりがんばらないとアーケードっぽい物が作れなかった。X68000が出てから「わりと、近い物ができるぞ」となり作品がどっと増えた印象です。当時の“パソケット”では仕事でゲームを作っていた人たちが、X68000でシューティングゲームを作っていたりしていたんです。
――それはアーケードだと開発にお金もかかるけど、“パソケット”やコミケとかだといろいろなことが試せるから、気軽にいろいろなものが作れて、そして新しい循環などがあったりするということでしょうか。
柏木 たぶん、作っていてめんどくさいことを言われないからだと思います(笑)。アーケードとかだと、たとえば「3分で全滅させてね」とか、難易度的な制約はありましたし、当時のコンシューマー機だと、ちょっと仕様的な制約が多かったりと。ですので、X68000で好きに作っていた人が多かったんだと思います。
――柏木さんの理想のシューティング像はどんな作品でしょうか。
柏木 僕は昔のオーソドックスなスタイルが好きなので、いまの弾幕系というよりは、敵を撃って壊す爽快さがあるものをずっと作っていきたいと思っていますし、作ってきたものもわりとそういう感じのものが多かったですね。それで言うと『スターフォース』みたいに撃って少し避けるくらいの快感重視のゲームが多いし、いま運用している『アリス・ギア・アイギス』もわりとそういう感じでデザインしています。やっぱり王道のシューティングゲームには根源的な楽しさがあると思います。あと、インディーでシューティングゲームが多いのも、構造的に一番簡単だからだと思いますね。
――構造的に簡単でありながら、ゲームの根源的な楽しさを実現しているからということですか。
柏木 だからみんな作っているんだと思います。あと分かりやすいですよね。
――ちなみに、弾幕系のシューティングはちょっと違うという気持ちがあるのですか?
柏木 そうだと思います。弾幕系のシューティングと、いわゆる王道のシューティングゲームはカテゴリ的には同じなのですが、ジャンルとしては違っていて、弾幕系には弾幕系のおもしろさがあるし、撃ちまくって倒すシューティングゲームとはまた違うと思います。シューティングゲームの進化の系譜があったときに、先端のほうで分かれている大きな幹のひとつという感じしょうか。いわゆる王道シューティングも幹になっていて、本来なら両方をうまくマッチさせた真ん中の作品が出てくればいいのですが、それが昔のいわゆる“横シューティング御三家”と言われる『グラディウス』や『R-TYPE』、『ダライアス』だった。それらのタイトルは全部の要素を持っていたじゃないですか。
――なるほど。
柏木 弾幕系のルーツとしてよく言われるのが、『沙羅曼蛇』の5面とか6面なんですけど、『グラディウスV』とかも後半に行くと完全に弾幕系になるので、そういう意味で言うとあのへんがある意味一番真ん中のところにあると思います。いまはその王道中の王道の作品が出ていないっていうのは残念なことなのかなと。個人的には王道の続編的な作品を復活させて作ってみたいなと思っています。
――いまはユーザーの好みも細分化しているという状況もあって、王道的なものが作りづらい状況もあると思いますか。
柏木 あると思います。メーカーで王道のシューティング企画ってそんなに通らないと思うんですよね。僕がすごくいいなと思ったのが、KONAMIさんが出している『ときめきアイドル』っていうソーシャルゲームがあって、その中に「私がトップアイドルになって『グラディウス』を復活させるんだ」っていう女の子がいるんです。その子を僕は推しているんですけど(笑)。
――(笑)。
柏木 やっぱり『グラディウス』が好きな開発者の人たちがいて、王道的なシューティングに心惹かれるのかなと、勝手に思っています。
――昔のシューティングゲームが好きな方が開発の中枢になっているというところでいうと、今後流れがくる可能性はありますよね。
柏木 そうなるといいですね、ブームになるようなシューティングゲームが出てくるとその可能性はあるかもしれません。RPGの御三家はずっと続いていますけど、“横シューティング御三家”は途絶えているのは悲しいですよね。日本の開発者はシューティングゲームで育ってきた人たちがとても多いので、作りたいと思っている人は、僕以外にもたくさんいると思います。
「RPGの御三家はずっと続いていますけど、“横シューティング御三家”は途絶えているのは悲しい」との柏木氏の言葉が耳に残る。柏木氏のようにシューティング愛にあふれた開発者たちが多いことは間違いなく、事実BitSummit Volume 6の会場にも注目すべきシューティングゲームは数多く出展されている。新たな歴史が紡がれる日もそう遠くはないのかも……と、いちシューティングファンとして思わされたインタビューだった。