遊びたくなくなるほど怖いホラーゲー。それが、『魔女の家MV』だ。
2018年10月31日。世間がハロウィンでにぎわう中、Steamである名作ホラーゲームのリマスター版が発売された。タイトルは『魔女の家MV』。本作は2012年にふみー氏によって公開されたフリーゲーム『魔女の家』を、『RPGツクールMV』によって再開発したものだ。
本稿ではゲームライター脳間寺院が、『魔女の家MV』の特徴を紹介したうえで、本作の“どんでん返し”にプレイヤーはなぜ引っかかってしまうのか、という点について考察したい。
※この記事には『魔女の家MV』についての軽いネタバレが含まれます。ネタバレが気になる方はブラウザバックを推奨します。
『魔女の家MV』の魅力
『魔女の家MV』のジャンルはホラーアドベンチャー。本作は『青鬼』や『Ib』のようなツクール製ホラーゲームの中でも人気が高く、ゲームの前日譚が描かれた小説も発売されるほどだ。
ざっくりとしたあらすじは以下の通り。
ある日、謎の洋館に迷いこんでしまった少女ヴィオラ。洋館には恐ろしい“魔女”が住んでいるらしく、洋館のあちこちに危険な罠が仕掛けられている。果たしてヴィオラは無事に洋館から抜け出すことができるのか? “洋館に住む魔女”の秘密とは……
本作はゲーム性自体はごくふつうの謎解きアドベンチャー。怪しい家具を調べたり、手に入れたアイテムを組み合わせたりすることで洋館の仕掛けを解き、先へ先へと進んでいく。
謎解きの難易度はそこまで高くない。通常の難易度では部屋ごとに謎解きが完結している場合がほとんどなので、詰まってもいろいろ試していればいつかは謎が解ける。
むしろ本作の白眉は謎解きの難易度ではなく、プレイヤーの恐怖を限界まで煽る演出だ。たとえば序盤の謎解きに、テディベアの手足をハサミで切り落としてからカゴに入れる、というものがある。ハサミでクマの手足を切り落とすだけでも気味が悪いうえ、この謎解きを解いてから部屋を出るとき、テディベアの入ったカゴがこちらに向かってひとりでに動き出す! さらに、これにビクビクしているとつぎの部屋で巨大なクマがヴィオラに襲いかかってくる。
“何かが出てきそう”という気配で怖がらせて、不安が最高潮に達した瞬間に化け物が登場するのは『リング』や『呪怨』のようなJホラーの方法論だ。
また、テディベアの化け物に追いかけられるような場面では、『青鬼』的な軽いアクション要素もある。死んでしまうとセーブポイントまで戻されるので、くれぐれも慎重にプレイしたい。
フリー版からの大幅な進化
2012年の『魔女の家』は『RPGツクールVX』で作成されていたが、今回の『魔女の家MV』はタイトル通りRPGツクール最新版の『RPGツクールMV』で作られている。
グラフィク・サウンドの両面が前作よりもパワーアップし、より恐怖を煽るものになっているほか、3段階の難易度が選べるようになったのも大きな変更だ。
アクションが苦手な方やサクっと遊びたいという方は、死んでも直前からやり直せる“easy”をオススメする。また、すでに『魔女の家』を遊んだことのある方は、謎解きのほとんどが変更され、より難しくなった“extra”モードに挑戦してほしい。“extra”モードでしか見られないテキストや会話もあるほか、既プレイの人ほど引っかかってしまう新たな謎解きもふんだんに用意されている。
衝撃のエンディング
『魔女の家MV』のエンディングは、クライマックスのある行動によってふたつに分岐する。ネタバレを避けるためここではハッキリとは言及しないが、“トゥルーエンド”と呼ばれる真のエンディングでは思わず声が出るほどのどんでん返しが待っていた。
トゥルーエンドへのたどりつきかたは、制作者ふみー氏の公式サイトにも記載されているため、気になる方はぜひ自分の目でトゥルーエンドを確かめてほしい。
2DRPGと信頼できない語り手
さて、ここからはゲーム本編の話から少し離れて、本作が『RPGツクールMV』で制作されている意義について考えたい。
『RPGツクール』シリーズは、プログラミングをせずとも手軽に自分だけのゲームを作れるソフトとして有名だが、『魔女の家MV』のストーリーはツクールゲーだったからこそ成立したのではないだろうか。
『魔女の家MV』のトゥルーエンドでは、主人公ヴィオラの持つある“秘密”が明らかにされる。しかし、この秘密はヴィオラがゲーム中ほとんど自分から言葉を発さないからこそ成立するものだ(ヴィオラがゲーム中に喋ると、“秘密”と発言の内容に整合性が保てなくなる)。
小説や映画において、語り手となる人物が読者を騙そうとしたり、あるいは認識の違いによって事実とは違った発言をすることを、一般的に“信頼できない語り手”という。『魔女の家MV』の主人公ヴィオラは、典型的な信頼できない語り手だ。いや、正確に言えば彼女は語らないからこそ信頼できない。
もし『魔女の家MV』が2DRPGの形式を借りて作られていなければ、ゲーム中ヴィオラが言葉を発しないのにプレイヤーは違和感を感じていたはずだ。クライマックスまでヴィオラが無言でも自然なのは、このゲームが2DRPGの皮を被っているからだ。
『ドラゴンクエスト』の主人公が無口なのに違和感を持つプレイヤーはほとんどいないだろう。主人公に“はい”と“いいえ”しか喋らせないことで『ドラゴンクエスト』は高い没入感を生み出した。いまや2DRPGで主人公が喋らないのは、もはやお約束になっている。
そして『魔女の家MV』は『RPGツクール』で作られたからこそ、この“主人公が喋らない”お約束をプレイヤーに自然と意識させられる。だからこそ本作のプレイヤーはエンディングで初めて、ヴィオラの秘密に気づくのだ。
本作の衝撃のエンディングは、2DRPGの形式を借りて初めて成立するものなのだ。
ツクールゲーだからといって……
「怖いって言ったってツクールゲーでしょ」とお考えの方にこそ『魔女の家MV』をプレイしてほしい。たとえば、伝説的なホラー映画『悪魔のいけにえ』は低予算映画だったが、本物のホラーコンテンツは予算やグラフィックにかかわらず恐ろしいものなのだ。
『魔女の家MV』はSteamにて14.99ドルで配信中。また本作の前日譚を書いた『魔女の家 エレンの日記』は、小説とコミカライズ版の両方が出版されている。こちらも本作のストーリーに惹かれた方にはぜひ読んでほしい。
本作をプレイするときは、ヘッドホン推奨……といいたいところだが、私は怖すぎて途中でヘッドホンを外してしまった。
文/脳間 寺院(のうま・じいん)
京都生まれポケモン育ち、ボンクラオタクはだいたい友だち。「ゲームをもっとおもしろく」をモットーに記事を書くゲームライター。Twitterにてゲームにまつわる情報を発信中。
Twitter:@noomagame