2018年9月に突如発表された“Visual Works Character Prototype”は、スクウェア・エニックスの高品質な映像制作を担う部署“ヴィジュアルワークス”と、同社のサウンドチームが手掛けた4分半のムービー。日本を思わせる場所を舞台に、片目を眼帯で覆った美女と不気味な人形たちが激しいバトルをくり広げる。
これは同社の既存IP(知的財産)に関連するものでも、新作ゲームのイメージ映像でもなく、映像に登場するキャラクターを外部のクリエイターやスタジオなどに提供するという、挑戦的なプロジェクトの一環で制作されたものだそう。さまざまな方面から問い合わせが来ているということで、もしかしたら今後、何らかの作品にこの美女が登場するかも!?
そこで今回は、映像制作を担ったヴィジュアルワークスのジェネラル・マネージャー/チーフ・クリエイティブディレクターである生守一行氏に、キャラクターデザインや映像についてミニインタビューを実施。貴重なアートワークも提供していただいたので、じっくりと観賞してみてほしい。
こだわり抜いた世界観に注目
――今回のキャラクターデザインは、どのように決まったのでしょうか?生守 以前、スクウェア・エニックス社内の取り組みで、社員からキャラクターデザインを募集するという企画がありました。テーマはとくに決まっておらず、いろいろなキャラクターデザインの応募があったようですが、その中から松田(洋祐)社長がひとつを選んで「このキャラクターを原案として映像を作れないか」とヴィジュアルワークスに話があり、スタートしました。
――キャラクターデザインのコンセプト、表現したかったことを教えてください。生守 コンセプトとしては“眼帯をつけた女性”などの大まかなことだけが決まっていて、ヴィジュアルワークスでそのほかのデザイン要素や、細かい世界設定などを盛り込みました。キャラクターのコンセプトを最大限に活かす世界観にしたかったので、もしこのキャラクターが映像やゲームの世界にいたとき、どんな風に表現したらクールに見せられるか、というLook Dev(※ルックデベロップメント。ここでは画作りや表現の方向性を決めるための試作、検証映像を指す)のようなものとして表現しました。
――キャラクターデザインの利用を促すために映像を作るというのはかなり手間がかかっているように思うのですが、ここまでの大作を制作することになった経緯とは?生守 ゲームや映像作品の制作にはたいへんなコストがかかり、人員も大勢必要になる傾向にあります。そんな中で、早期にコンセプトを可視化、共有することは非常に重要になってきます。映像として可視化することにより、プロジェクトが本格化する前の早い段階で、全制作者や関係者にイメージを共有することができるので、ゲームや映像制作の指針となることが多く、こういったLookDevは時々行います。
また、それを早期に行えるということは、映像やゲームを作り始める前に、制作をするかしないか等の判断をすることもできるので、決して手間ではありませんし、関係者や世の中の反応も知れるので意義があります。
そういった意味で、一見すると手間がかかるように思えるかもしれませんが、その後大きく動く取り組みの全体像を考えると、そうではありません。指針を作り、イメージを共有するために費やす時間は重要で、早い段階でイメージが共有できることは結果的にその取り組みにとって有意義なものになります。
――映像の見どころを教えてください。制作上で苦労したポイントがあれば合わせてうかがえればと思います。生守 今回の映像は、“海外の方から見た”オリエンタルなダークファンタジーの世界観にしました。和のエッセンスを入れる過程では、能の表現をとくに丁寧に盛り込んでいます。能面は、日本文化を知らない人から見れば、怖い印象を与えるかなというところも逆におもしろそうだったので。苦労したポイントも、能の世界の理解を深め、表現したことです。たとえば、能面にもそれぞれ意味があり、嘘はつけない部分なので丁寧にリサーチを行っています。映像をご覧いただく時には、ぜひそういった点にも注目いただけると嬉しいですね。