サンフランシスコで開催中のゲーム開発者向けの国際カンファレンス“GDC”(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)。その4日目となる現地3月21日、PCゲーム配信ストアを運営するエピック・ゲームズとValveの講演が相次いで行われた。この記事では両社の発表内容を通じて、そのスタンスの違いを探っていく。
先攻:エピック・ゲームズ
昨年末に、Valveが運営するストア“Steam”の利益分配率“70対30”に対して“88対12”(※)を提示してPCゲームストア“Epic Gamesストア”をオープンさせたエピック・ゲームズ。(※ストア側の取り分がそれぞれ30%/12%)
ストアのオープン後は独占タイトル獲得による攻勢を続けており、前日の基調講演ではQuantic Dreamの『Detroit: Become Human』PC版をはじめとする強力なラインナップを追加発表し、話題を呼んだ。
講演の開始時間で“先攻”となったエピック・ゲームズだが、ローンチしたばかりでまだまだこれから整備していくサービスということもあって、発表内容はその方針の説明や、開発者からの質問に対するQ&Aがメイン。
その中でも、Steamと差別しようとしている部分は利益分配率以外にもさまざまな要素から見て取ることができた。特に大きなキーワードとなっていたのが“キュレーション”だ。ここではストアに並べるタイトルを人間のスタッフが選定していく事を指す。
そしてこれは、Steamが抱えている問題を裏返したものになっている。SteamもかつてはValveのスタッフによるキュレーションを経るのが一般的だったが、PCゲームやインディーゲームなどの盛り上がりによるニーズ増加に沿って門戸開放を進めてきて、2017年には一定条件を満たせばSteam Directを通じて誰でも配信が可能になった。
それ自体は悪いことではないのだが、問題は誰もチェックしきれないほどタイトルがあふれかえってしまい、低品質なゲームも増え、開発者が露出に苦労するようになったこと。Steamはストアの推薦アルゴリズムを強化したり、ゲーマーコミュニティにタイトルを薦めてもらう“Steam キュレーター”を追加してきたが、なかなかうまく行っていない。
それに対し、Epic Gamesストアはスタッフがじっくり厳選したタイトル群によるプラットフォームをまず目指そうとしていて、タイトル数が多すぎないストア(Uncrowded Marketplace)であることを売りのひとつにしているほどだ。なお、スタッフの手が足りない現状は特に絞った展開になっているものの、2019年中に段階的に拡大していきたいとのこと。
一方、プレゼンテーションで示された数字には、いろいろと興味深いものも。
まずは自社ストア機能を主に『フォートナイト』PC版のものとして使っていた頃のユーザー状況。ユーザーの40%はSteamを持っておらず、あまり使っていない人を加えると68%となり、むしろSteamより家庭用ゲーム機の方を使っている人が多かったことなどがストア立ち上げのきっかけになったという。ゲームを遊べるPCがあるのにSteamがリーチできていなかった層を発見したわけだ。
また、現在日本のユーザーは全体の1%。なお中韓ではサービスをしておらず、韓国でのサービスは現地法やレーティングへの対応待ちとなっている。
もうひとつ、ゲーム配信者などのインフルエンサーを対象にしたアフィリエイトプログラム“Support-A-Creator”では、ゲームによってセールスの最大25%がインフルエンサー経由になっているとか。
Q&Aセッションでは、しばしば邪推される主要株主の中国テンセントからの影響に突っ込む質問も登場。しかし、「テンセントがストアについて何も言ったことはないし、決定権はティム(・スウィーニーCEO)にあり、ティムはテンセントから何の指示も受けない。影響はゼロだ」と明言。なお株式の話に限れば、創業者のティム・スウィーニー氏が依然としてエピック・ゲームズの株式の過半数を所有している。
また性的な要素を持つゲームの判定基準についての質問では、北米のレーティング機構であるESRB基準で「M(17歳以上対象)であればそこが問題になることはないが、AO(成人指定)であればアウト」と、基本的にレーティング準拠で判断していく基準を提示していた。
一般公開されているストア機能アップデートのロードマップを見ればわかる通り、まだまだ基本的な機能がついていなかったりもするEpic Gamesストア。独占タイトルによって存在感を示しつつ、地固めをしていく1年となりそうだ。
後攻: Steam
エピック・ゲームズの講演の終了後からわずか15分後にスタートしたValveの講演では、(利益分配率の切り下げのような)直接的な対抗策の提示はなかったが、地道な投資によりどのようにサービスを拡充し開発側をサポートしてきたかを振り返りつつ、弱かった部分をカバーする新機能や改修策もいくつか発表された。
ゲーマーにとって大きいのは、Steamクライアントのライブラリー機能の改善だろう。ライブラリーのトップとゲーム単体のページで再デザインが行われ、今夏よりオープンβが行われる。
ライブラリーのトップに直近で遊んだゲームが優先的に表示されるなど、Big Pictureモードのライブラリーを土台にしたような部分もありつつ、所有するゲームのコンテンツアップデートなどをまとめた休止プレイヤーの回帰を刺激するエリアも存在する。
そしてフィルター機能なども強化され、タグ分けや、検索結果から“コレクション”を作成する機能などもあるようだ。これまでカテゴリー機能はあったものの、存在を知らなかったりカテゴリー分けを途中で諦めた人も多いんじゃないだろうか? 「あのゲームなんだっけ……」と長大なリストをスクロールする必要がなくなるのを期待したい。
一方、開発者向けには“Steamイベント”機能が追加に。これはゲーム内イベントやスタジオからの発表などの配信など、さまざまなイベントを通じてプレイヤーコミュニティにリーチするための仕組みだ。今後数ヶ月以内にβ投入が予定されている。
将来のイベントに対するリマインダー機能なども用意されており、参加したいと思ったユーザーはカレンダーアプリやSteamのモバイルクライアントの通知、メールなど、任意の方法でリマインダーを受け取れる。
Steam上でのスタジオとプレイヤーコミュニティとの繋がりのサポートが弱かった中で、海外ゲームスタジオではチャットアプリのDiscordなどを活用している所も増えている。Valveとしても、この機能でスタジオのコミュニケーション方法をSteamに引き戻したいのではないだろうか。
新情報としてはこんなところで、こちらは完全におまけになるが、いかに各地域への対応への投資が大事なのかということを解説した場面ではなんと日本が事例に登場していた。
「我々はVISAとかマスターカードとかPaypalが決済手段として好まれると思いがちだが……日本人は一回家を出てコンビニに行ったりするんだ、デジタルダウンロードなのに!」と、要は「そのためにSteamプリペイドカードの販売をはじめましたよ」という話なのだが、記者は思わず爆笑してしまった。
なおアジア圏では、Valveの言う5種類の“スタンダードな”決済は12.5%に過ぎず、残り87.5%は90種類以上のマイナーな決済手段が占めているという。