ずっとゲームする最高のイベント
まずは以下の写真を見てほしい。
これらはとあるゲームイベントのひとコマだ。
最新ゲームの発表はない。高額賞金のかかった大会もない。かわいいアイドルのライブもTVスターのトークショーもない(いや、ゼロではない。少しだけある)。
その代わり、物産展も盆踊りも足湯も生ハムもある。そして、あふれんばかりのゲーマーがいる。
イベントの名はC4 LAN。
LANパーティーと呼ばれるタイプのイベントで、ざっくり言うと、自由にゲームを遊ぶのが目的だ。参加者が好きなゲームをハードやPC本体ごと持ち込み、はちゃめちゃに遊びまくる。
そう、はちゃめちゃだ。なぜなら、3日間にわたって夜通し開催されるから。好きなだけゲームやって、お腹がすいたらご飯を食べて、眠くなったら横になる。野生動物みたいである。
直近のC4 LAN 2019 SPRINGは5月10日~12日に開催され、延べ2000人以上が参加。右を見ても左を見てもゲーマーがにこにこしていた。
ゲームはひとりで遊んでもオンラインでほかの人と遊んでも十分におもしろい。ゲーマーにとっては当たり前の感覚だ。日常と言っていい。
ただし、1000人ほどの大人数がひとつの場所で思い思いにゲームをすると、非日常に変わる。
この感覚は“お祭り”に似ていると思う。直接は参加しないまでも、高揚感を肌で感じてわくわくすることってあるだろう。ああいうグルーヴ感みたいなものが生まれる。
僕はC4 LANがまとう空気が好きだ。だから、イベントのオープニングでほら貝を吹いた。
ほら貝から始まるゲームまみれの3日間
唐突な告白をしてしまった。
C4 LANのオープニングは聖火ランナーならぬ“LANNER(※)”がPCにLANケーブルを挿す演出が定番。このとき、僕もステージ上でほら貝を吹かせてもらっている。
深い意味はない。ほら貝は僕の私物で、吹いたら盛り上がるかなと思って数年前に主催側に打診したところ、いつしかオープニングアクトの一員になっていた。
よくわからないだろう。僕もよくわからない。
C4 LANではそれぞれが好き勝手にゲームを遊ぶことが至上の目的だ。ステージイベントなども実施されるものの、そちらがメインということはない。
真っ当にリポートすると「みんな楽しくゲームやってました」以上のことを書きようがないのだ。とはいえ、仕事を放棄するわけにもいかない。
というわけで、3日間ふらふら歩き回って感じたことなどを適当に書いたり写真を載せたりします。時間軸はあまり気にせずに。
C4 LANは金曜の夕方頃から始まる。平日ということもあって、いきなりアクセルをベタ踏みする人は少ない。
初日は準備、最終日は後片付けがあるので、慣れた参加者ほど2日目が本番と考えているものだ。
前言撤回。ペース配分なんて考えずに頭から全力の人もけっこういる。後半にぐったりしたりもするのだが、回を重ねても反省を活かさない生き様は愛おしくすらある。おまえら最高だぜ。
僕はこのテンションに付き合って3日間を生き抜く自信がなかったので、遊びそこそこに写真を撮って回った。
カメラを向けるとだいたいポーズを取ってくれる。「自然な感じで撮らせてほしい」とお願いすると、笑ってゲームに戻る。やっぱりゲーマーはゲームをしているときの顔がいちばんいい。
C4 LANは席の利用権を買って参加するのが基本の有料イベント(席なしの入場券もあるが)。借りた席にPCやゲーム機をセットして遊ぶ。
会場内を歩いていると、いろいろな人の基地が目に飛び込んでくる。席の作りかたにも個性が出るのがおもしろい。
今回はデスク上の席だけでなく“床席”も用意された。設営の自由度はさらにアップ。敷物に座ってゲームすると、一気に人んちっぽくなる。
床席の発表当初、「土を敷き詰めて農業をしたい」みたいな声があったそうだが、主催者判断でNGとなった。C4 LANは畑仕事ではなくゲームをするイベントだからだ。当たり前である。
物産展・盆踊り・お色気。2日目の熱気はすごかった
初日の夜はいったん帰宅して体調を整えた。2日夜~3日朝にかけての様子を見たかったからだ。
「2日目の夜はすごい」とは知人からよく聞いていた。夜は自宅やホテルに戻る人が多いが、土~日曜にかけてなので会場に残る人が多い。加えて、多少の疲れと長時間のゲームプレイにより、テンションがおかしくなるのだそうだ。
さらに。さらにだ。2日目夜はステージ&大画面で『DEAD OR ALIVE Xtreme』シリーズを遊ぶのがお約束。ご存知、青少年をむずむずさせるタイプのゲームである。
野外フェス、もしくはメタルバンドのライブみたいな状況を想像しつつ、2日目は昼に会場入り。
2日目はとにかく大盛況だった。C4 LANは徐々に規模を大きくしていて、今回の2日目は過去最高に人が入っていたように思う。
ただゲームをしたい人がこんなにいる。すばらしいと言うほかない。
岩手県が本気出してゲーマーに歩み寄ってきたぞ!
会場内をふらふらしていると、企業や団体による出展ブースが目に留まる。個人的にいちばん気になったのはここ。
冒頭にも写真を掲載した岩手県ブースだ。ゲームやeスポーツなどを推進する岩手県内の企業というわけではない。“岩手県”として出展していた。
見た目は完全に物産展。名物がずらりと並んでいる。うまそうなので気になるものは一通り買った。爆買いである。
ブースには何人か接客スタッフさんがいて、中には穏やかそうな初老男性の姿も。けっこう偉い人っぽいなーと思ったら、副知事だった。けっこうどころか、めちゃくちゃ偉い人じゃねえか。
1時間くらい副知事が来ることは聞き及んでいたが、ふつうに現場に立つとは思わなかった。参加者にも気さくに話しかけている。「やさしいおじさんがいるな」と思ったきみ、その人は岩手県のNo.2だぞ。
ここしばらく地方の動きが活発だ。3月には大分県別府市でLANパーティー“別府おんせんLAN”が開催されたし、今後もイベントは多数。パッと思いつく限りでも、
6月14日~16日
瀬戸内LAN(広島県)
6月22日
福島ゲーミングDAY(福島県)
9月28日~29日
ToyamaGamersDay2019(富山県)
などが予定されている。別府は最高だったので、これらのイベントにも行きたい。
上の3件はユーザーが主動。岩手県の場合は自治体が率先して動いている点が異なる。
岩手県がそこまでしてゲーマーに歩み寄る理由は何なのか、お話を聞いて週刊ファミ通に記事を書いた。5月23日発売号に掲載されているので、ぜひお読みください。
C4 LANが一瞬にして風流なイベントに
一方、富山県のブースでは盆踊りが行われた。こいつ何言ってるんだと思った人もいるだろう。そんなの僕にもわからない。
富山県の伝統の踊り“越中八尾 おわら風の盆”が実施されたのは、正確には富山県eスポーツ連合と大分県eスポーツ連合の共同ブース。
富山県eスポーツ連合会長の堺谷さんは「だめ元で(越中八尾 おわら風の盆の)協会にお願いしたら来てもらえることになりました」と言っていた。本場の踊り手さんだ。政治力を発揮する場面を間違えていないか。
そもそもどうして越中八尾 おわら風の盆をやろうと思ったのだろう。堺谷さんに聞いても回答はあいまい。
地元の文化に触れてほしいようだが、僕は「おもしろそうだから」くらいの感覚だったのではないかと勘繰っている。それもまたC4 LANらしい。
このように、C4 LANには自社製品の展示を主軸にするような、いわゆる“一般的な企業ブース”が少ない。ゲーマーと積極的に遊びたい企業に支えられているのだ。ありがたい。
ご飯の話題が多いが、C4 LANは楽しいゲームイベントです。
『DEAD OR ALIVE Xtreme 3 Scarlet』で新たな扉が開く
2日目の23:00。
ついに楽園の時間がやってきた。ある参加者によるとここが本番。J-POPで言うとサビだ。そわそわした様子でステージ前に紳士たちがやってきた。
みんなでゲームをやると盛り上がる。大画面だと迫力がすごい。映像美に打ちのめされて自然に歓声が上がる。一体感がその場を包み込み、天からひと筋の光が差し込み、誰かが悲しむ争いが世界から少しだけ減る――。
果たして、それを『DEAD OR ALIVE Xtreme 3 Scarlet』で体感したらどうなるのだろう。
『DEAD OR ALIVE Xtreme 3 Scarlet』は南の島で女の子ときゃっきゃするゲームだ。女の子を好きな角度で眺めたりできる。
ヘッドマウントディスプレイをつけてVRモードでプレイすると臨場感がたいへんなことに。首の動きとゲーム中の視線が連動するので、直感的に見放題だ。
女の子のすてきな仕草に、僕らはいつだって視線を奪われる。胸の高鳴りを抑えられない。
参加者はひとりずつステージに上がってVRモードをプレイ。いちばん見たい光景を、大画面を通してみんなで共有するステージイベントと言える。
リアルにしてもゲームにしても、女の子のどこを見ているか、人に知られるのは少し恥ずかしいと思う。ステージ上のプレイヤーは心のいちばん柔らかい部分をさらけ出さないといけない。
プレイ中は画面内の女の子に集中するので完全にノーガード。心の扉をあけ放つ。そこにあるのは信頼だ。だって、僕らはかけがえのない仲間なのだから。
暴徒か。
きれいなニュアンスで紹介を試みたが、諦めることにした。要は“いかにセクシーな女の子を見せて歓声をもらうか”という趣旨のイベントである。
視線が際どすぎると画面が真っ暗になるため、ぎりぎりを狙う必要がある。意外なほどに勝負勘が試される。
最高の映像を届けるため、プレイヤーは真摯にゲームに向き合う。観客はその気持ちに応え、のどをからすほどに叫ぶ。
そこには、ある種のコール&レスポンスが成立していた。卒業式で言うと「楽しかったー!」がステージ上のプレイヤー、「修学旅行ー!」が観客である。
この光景を夢に見たら、フロイトは何と結びつけるだろうか。
みんないい顔だった。名作映画“ショーシャンクの空に”のラストシーンみたいな体験をしていたのだと思う。
近年まれに見るすばらしい一体感を味わわせてもらった。感謝の気持ちを込めて、彼らにこの言葉を贈ろう。
ほどほどにね。
ゲームイベント界のキメラ
この調子で最終日もふらふらと会場内を散策。今回も無事に3日間を完走できた。
岩手県の取り組みは興味深かったし、いろいろな人から話を訊けた。後日、あと1~2本記事を作りたい。知人のライターさんがふつうに参加していたので、参加者視点のリポートをお願いするのもいい。
C4 LANは不思議なイベントだ。“ゲームイベントとはこういうもの”という固定観念にとらわれることなく、一般の参加者も含めて各人が趣向を凝らす。そして、誰もが持ち込まれたアイデアを受け入れる。
こういった場は“カオス”と形容されがちだ。まとまりがない。みんながみんな自分勝手に行動する。そういうイメージが付きまとう。
だが、C4 LANは少し違う。秩序と節度はわりと守られている。完全に何でもありというわけではない(個人の主観になるが、僕はそう感じる)。
僕の中でC4 LANはゲームイベント界のキメラ(合成獣)だ。もしくは周囲の生物を吸収して自分の力に変えるラスボス。何でも取り込むのに、奇跡のようなバランスでぎりぎり成立している。
そのバランス感覚は主催側と参加者の信頼関係によるところが大きい。トラブルが起きると主催側はルールを厳しくしないといけない。伸び伸びゲームをしたいのなら、参加者自身がマナーよくふるまうことが肝要である。
説教くさいことを書いてしまった。「みなさん、わかってますよね」という僕からのメッセージだ。僕はC4 LANがなくなると困るので、みんなに節度を持ってほしいのである。
ゲーマーにとっての幸せとは何か。答えはかんたん。ゲームを遊ぶことだ。ゲーマーは人生に迷ってもインドまで自分探しに行く必要はない。C4 LANに来たら秒で見つかる。
次回開催は2019年12月6日~8日。会場は東京・ベルサール高田馬場。
知り合いがいないからイベントに行けないという人がいる。気持ちはわからなくもないが、ひとりでもいいんじゃないかなと、僕は思う。
とはいえ、すぐにほかの参加者と仲よくなれるから大丈夫という話とは少し違う。
こういったオフラインイベントの魅力として、よく挙げられるのが“参加者同士の交流”だ。たしかに、ゲームという共通言語があるので初対面の人とも会話しやすい。
それはそれとして、僕は別に交流しなくてもいいと考えている。ゲーマーしかいない空間に漠然と身を任せてゲームを遊ぶ。森林浴みたいなもので何となく気分がいいものだ。
C4 LANみたいに大きなイベントになれば、ぼっちはたくさんいる。無理に仲よくしなくても“ゲームが好き”という共通項でみんな薄くつながっている。それでいいんじゃないかなと思う。
ぼっちでもいいじゃないか。気が向いたらいっしょに遊ぼう。僕はきみとゲームがしたい。