ファンがメーカー側と交流
2019年6月22日、PC用オンラインRPG『メイプルストーリー』ユーザーを招いてのオフラインイベント“Maple Community Day”が開催された。
ファン同士、およびファンと運営サイドの交流を目的とした本イベント。第1部では各運営チームから“メイプルストーリーにまつわるお仕事”が紹介され、第2部ではご褒美付きのワークショップが行われた。
お仕事紹介 デザイン編
最初に登壇したのはデザインチームから北澤さんと岩本さん。ふたりから紹介されたのはアイテムができるまでの過程だ。
例として使われたのは2019年1月に実装された“ゆるうさぐるみ”。初期コンセプトの“かわいいJK・ JCが持っていそうなアイテム”から、どのようにして現在の形に行き着いたのだろうか。デザインチームの努力の跡は、以下のラフデザインから読み取れるはず。
ベース案をうさぎのぬいぐるみと定めながらも、サメやオットセイなどサブカルっぽい可愛さの動物も試していく。
ぬいぐるみではなくカバンにしてみたりと、この時点で相当数のラフを提出したそうだ。その疲れが絵に出たのかもしれない。次第にぐで~っとダウナーなポーズが目立ち始める。
完全に闇堕ちした。縫い目とか糸のほつれが目立ち始め、最終的にはキメラが誕生している。うさぎちゃんに回帰してくれて本当に良かった。「闇堕ち」って言葉が出てくるお仕事紹介あります?
この後は「二頭身なのでセクシーな衣装を作るのは難しい」という話が続き、「特別ですよ」とぽっちゃりお腹を隠すためのメイプル式着痩せ術が公開された。
デザインチームからは最後に「メイプルキノコに付けたいアニメーションを挙手で教えてください」とお願いが。なぜそんなことを聞くのだろう? 真意はわからないままだが、来場席ではつぎつぎと手が上がる。
回答の一例としては「焼いてほしい」、「ロケットみたいに飛んでってほしい」、「爆発してほしい」、「巨大化してほしい」、「頭が取れて刈り上げ勇者が出て来てほしい」などなど……。
「わかりました。それじゃあ焼かれて吹っ飛んで爆発してふたつに割れるメイプルキノコのアニメーションを実際に描いてみますね」
「イベント終了までにお見せできるようがんばります!」
お仕事紹介 WEB企画編
WEBディレクターの國頭さんはゼイエムのコスプレで登場。『メイプルストーリー』公式サイトにまつわるアレコレが語られた。
メイプルWEBの課題は、ユーザーがあまり見てくれないこと。もっと訪問者を増やしたいという國頭氏はこれまでの実績を紹介していく。
たとえば、エイプリルフールには嘘のリアルイベント告知が行われた。来場者にはウェルカムキノコが配られ、レクリエーションはドッグフード早食い大会。会場は縁もゆかりもないアメリカである。
ちなみにドッグフード早食い大会は告知動画も公開。動画には犬の餌をいただく元GMの様子が収められていた。「わざわざ匂いがきつめの商品を選びました」と語る國頭さん。職人の細かい仕事がきらりと光る。
ドッグフードの選定だけがWEBディレクターの仕事ではない。期間限定で入れ替わるメイポン(いわゆるガチャ系アイテム)を作ったり、アップデートごとのイベントサイトを作ったりと、ユーザーがわくわくする仕掛けを日夜考えるのも業務の一環だ。
「アイテムがもらえたりするので、たまにはWebサイトに遊びに来てみてください」と呼びかけて、WEB企画チームのプレゼンは締めくくられた。
お仕事紹介 マーケティング編
“生放送の企画”、“広告制作”、“コラボ交渉”、“ボイス収録”、“PV制作”など多岐にわたるマーケティングチームのお仕事は、動画を使って一気に紹介された。
マーケティングチーム・森田さんの登壇時間は短かったが、それでも会場は大いに盛り上がった。Maple Party 2019の開催が発表されたからだ。Maple Partyはメイプルファン数百名が一堂に介するオフラインイベント。こうしたファン交流会の運営も森田さんたちの仕事である。
Maple Party 2019は11月9日に開催。過去最大規模の会場と内容を用意しているとのことなので、続報を待とう。
お仕事紹介 ローカライズ編
韓国発の『メイプルストーリー』を日本に届けるローカライズチームは、運営を支える大黒柱だ。1回のアップデートにつき、原稿用紙およそ850枚分のテキストを翻訳する。ただ日本語にすればいいというものではなく、日韓の文化や感性の違いを理解し、日本のユーザーが受け入れられる形で訳さなければならない。本当にすごい。
だが、ときには失敗もある。
スクリーンに映し出された文字列に、会場から大きな笑いが起こった。
「レであってボピッの玉」、「あははははははは」。
何かキメてる集団にしか見えないが、断じて違う。登壇した出本さんから語られたのは、いまや伝説となっている“誤訳”にまつわる裏話だった。
たとえば、“上級呪文の浄水”、“歪んだ時間の浄水”、“太初の浄水”など、まったく水と関係ないアイテムに名付けられまくる浄水シリーズ。アイテムの見た目も“核”、“鉱石”、“神秘の石”などバラバラである。
日本語のニュアンスとしては“精髄”が近いのだが、“浄水”という言葉と“精髄”は韓国語の同音異義語。発音も表記も同じことから生まれた誤訳だ。
膨大なテキストを処理する都合で、現在でも細かい誤訳は発生してしまう。アップデート直後などは長い目で見守ってほしいとのことだ。ちなみに次回アップデートでは食べ物にちなんだ可愛いNPCが登場するらしい。
お仕事紹介 運用チーム編
トリを飾ったのは運用チームの細田ヒカルさん。ユーザーにアップデートを届けることが最大のミッションである運用チームからは、次回アップデート“ADVENTURE”の内容が紹介された。
最大の目玉は新職業“パスファインダー”の追加。本実装は2019年7月10日で、6月26日から直前イベントも開催される。
WEBサイトでは期間限定“アドベンチャーメイポン”が実装され、新アイテムも大量追加。ここまでのお仕事紹介を見た後だと、どの企画も各担当チームのがんばりの上に成立していることがわかる。これまでの仲間が集結するアニメの最終回みたいな演出の中、会場は盛大な拍手に包まれ、お仕事紹介は終了した。
最優秀賞はゲーム内に実装! 称号作成ワークショップ
続く第2部はオリジナル称号を考えるワークショップ。参加者が6人~8人の班にわかれ、効果やデザインも含めた称号アイテムを考案する。優秀賞はゲームに実装されるということもあり、どの班も議論が白熱していた。
記事ではいきなり最優秀賞から発表してしまう。運営の心を射止め、ゲーム内に実装される称号は“放置中”。ログインしたまま長時間放置することの多いプレイヤーにとっては、喉から手が出るほどほしい称号だろう。
事実、以前開催された“椅子デザインコンテスト”でも同様の要望が取り入れられたデザインが多く投稿されており、運営の間でも「機会があれば実装したいね」と話していた経緯があるそうだ。
最優秀賞に加え、特別賞として細田ヒカル賞、デザインチーム賞も発表された。
細田ヒカル賞にはスウとオルカのイベントをモチーフにした“天国での約束”、デザインチーム賞には名前に「ナス」と付く皆さんで結成された“ナス同盟”が選ばれた。
どちらも深いキャラ愛を感じられるアイデアだ。特別賞が実装されるかどうかは未定だが、機会を見つけてぜひ制作したいとのこと。
惜しくも選外だった作品もすばらしいものばかり。ステータスアップの数値が29(肉)で統一された“力こそパワー”、強力なステータスの代償として運営に媚を売る“卍神ネクソン神卍”など、「メイプルはこうでなくっちゃ!」と思わせる馬鹿馬鹿しいアイデアが並んだ。
と、結果発表も終わり円満無事にイベントは幕を閉じた。
運営型ゲームはユーザーと運営の相互コミュニケーションで成り立っているといっても過言ではない。運営はユーザーの欲しいものを与え、ユーザーはそれを全力で楽しもうとする。互いのことを知れば知るほど、ゲームはうまく回っていく。
だがアンケートや統計データなど運営がユーザーを知る手段と比べて、ユーザーが運営を知れる機会はあまりに少ない。今回のようなイベントは、16年続くメイプルストーリーを次の時代へと進める潤滑油となるに違いない。やさしさに溢れた素敵な時間だった。
やさしさに溢れた素敵な時間だった。