『スーパーマリオ』のコースを自由に作れる人気シリーズの最新作『スーパーマリオメーカー2』。2019年6月28日にNintendo Switch向けに発売される同作だが、E3 2019期間中、プロデューサーを務める手塚卓志氏(任天堂)にインタビューを実施。以下では作品の魅力について語られた取材の模様をお届けする。

手塚卓志

任天堂 執行役員(企画制作本部 上席統括)/『スーパーマリオメーカー2』プロデューサー

発売はあくまでもひとつの区切り。発売後のゲーム運営にこそ全力を注ぐ

――『スーパーマリオメーカー2』が、いよいよ6月28日に発売されます。まずはゲームが完成した率直なお気持ちをお聞かせください。

手塚確かにソフトは発売しますが、これはひとつの区切りであってゴールではないと思っています。本作は(ソフト発売後の)改善や要素の追加を継続していくことを前提に作っていますので、開発スタッフはいまも引き続き作業を進めています。むしろ、ソフトがユーザーさんのもとに届いてからが本番だと気を引き締めています。

――確かに、ゲームの性質上、発売したあとのユーザーのリアクションを見ながらやるべきことが多そうですよね。

手塚そうですね。こちら(ゲームの作り手側)が用意したコンテンツを遊んでいただくだけでなく、プレイヤー自身がコンテンツを作り上げることで盛り上がっていくゲームですので。そうした盛り上がりが少しでも大きくなるよう、継続して環境づくりを行っていきます。

――改めての話にはなりますが、ファミリーコンピュータの初期の時代から『マリオ』シリーズのコースを作り続けて来られた手塚さんからみて、『スーパーマリオメーカー』シリーズの遊びのおもしろさは、どういった部分にあるとお考えなのでしょうか。

手塚僕たちは『スーパーマリオメーカー』シリーズをちょっとハイテクなおもちゃだと認識しています。用意されたコースをこなすだけでなく、自分で工夫して作りを楽しむ、いわば積み木やブロック遊びのようなイメージです。本作は、それをゲームというフォーマットに落とし込んだ玩具なのです。これを通じて、とくにお子さんにクリエイティブな遊びの楽しさを知ってもらえたらいいなと思っています。

――おっしゃる通り、クリエイターが遊びかたの隅々までをコントロールするタイプのゲームとは趣きが異なる『スーパーマリオメーカー』ですが、1作目はユーザーの評価的にもセールス的にも成功といえる結果だったかと思います。これは事前に予想された通りの展開だったのでしょうか。

手塚正直な話、どれくらい盛り上がるのかは本当にわからなかったです。“作る”ことに興味を持って、『スーパーマリオメーカー』を好きになってくれるユーザーさんがどれくらいいるのか、想像がつきませんでした。結果的には想像以上にコースを作ってくれる方がたくさんいらっしゃって、ありがたく思っています。

――マーケティングはあまり意識せずに、アイデア重視で開発を進められたのでしょうか?

手塚どのくらい売れるか、みたいなことはじつはあんまり考えていなかったですね(笑)。そもそものきっかけは『スーパーマリオ』シリーズの新作開発のために社内の開発チームが作ったツールでした。ゲームパッドの操作でモノを置いてコースを作り、それをすぐにテレビ画面に出力してプレイできて、改良を重ねていくような仕組みで。

――なるほど。

手塚ツールチームのスタッフは、ふだんゲームそのものを作っているわけではありません。そんな彼らがこのツールを「おもしろい」と言ったんです。しかも、まだ遊びとして成り立っていないただのツールの段階で、です。これは間違いなくすごいポテンシャルを秘めていると感じ、改めてゲームとして開発しようという話になったのです。

――それはおもしろい成り立ちですね。

手塚ただ、ツール系のゲームソフトはいくつか出ていますが、大概は出口がなかったんですよね。『マリオペイント』というソフトは僕がずっと好きな作品ですが、これも言ってしまえばただお絵かきをして終わりなんです。その点、『スーパーマリオメーカー』では、作ったコースを実際にプレイしたり、ネットを通じて公開するという出口を用意できました。これが多くの方に受け入れてもらえた要因だと思っています。

――そういえば、1984年に発売された『エキサイトバイク』にもプレイヤーがオリジナルのコースを作れる機能がありましたが、こうしたユーザーが作り手まわるような遊びの提案をしたいという発想は、昔からあるものなのでしょうか。

手塚(『スーパーマリオメーカー』を)『エキサイトバイク』と繋げて考えたことはありませんでした(笑)。ですが、ファミコンのディスクシステムで大容量のセーブデータを扱えるようになったときから、ユーザーに何かを作ってもらうということに会社として興味を持ち続けているのだと思います。もちろん、作り手が用意したコンテンツを遊んでもらうゲームについてもクオリティーを高め続けますが、別の角度からの遊びも提供したいという考えはずっと持っていると思います。

『スーパーマリオメーカー2』でより深みを増す“つくる”と“あそぶ”。そのこだわりを手塚卓志プロデューサーに聞く【E3 2019】_06
『スーパーマリオメーカー2』でより深みを増す“つくる”と“あそぶ”。そのこだわりを手塚卓志プロデューサーに聞く【E3 2019】_03

“作る”ことに興味を持たせるための工夫。ストーリーモードのプレイ中でも気軽にコースをエディット

――『スーパーマリオメーカー2』では多くの新要素が加わりますが、もっとも注力した部分はどこなのでしょうか。

手塚たくさんありすぎて、ひとつには決め切れないですね(笑)。大きな要素としては、“ストーリーモード”(ピノキオからのクエストを引き受けてさまざまなコースにチャレンジし、報酬としてもらえるコインを使ってお城の立て直しを進めていくモード)の追加がありますが、これは、“作る”ことにあまり興味を持たない人でも十分に楽しんでもらえるようなソフトにしたいという思いがあります。このモードの中にコースを100以上収録しているので、じつはこれを遊ぶだけでもけっこう満足してもらえると思います。

『スーパーマリオメーカー2』でより深みを増す“つくる”と“あそぶ”。そのこだわりを手塚卓志プロデューサーに聞く【E3 2019】_05
『スーパーマリオメーカー2』でより深みを増す“つくる”と“あそぶ”。そのこだわりを手塚卓志プロデューサーに聞く【E3 2019】_04

――確かに100以上もあると、それを遊ぶだけでも満足度が高そうですね。ただ、こちらについても遊んでいるうちに“つくる”のヒントが得られるような設計になっていますよね。

手塚さまざまなパーツやスキンを増やしましたが、その使いかたのヒントになるようなコース作りに力を入れました。それから、コースのプレイ中にも少しだけコースをエディットできるところもユニークな点だと思います。

――ルイージのアシスト(連続でコースクリアーに失敗した際に、“スーパーキノコ”や“スーパースター”、ステージのパーツなどを選んで配置できる機能)ですよね。プレイヤーが自分でアシスト内容を選択できるのがおもしろいと思いました。

手塚この仕様は本作だからこそ成り立つものだと思います。先ほどストーリーモードだけでも楽しんでもらえると言いましたが、我々としては少しでも“作る”遊びに興味を持ってほしいと思っているんです。

――プレイに行き詰ったときの解決法としては斬新ですよね(笑)。

手塚エディットモードと違ってコースのどこでも変えられるわけではなく、そのとき映っている画面内だけを少し変えられるようにしました。たとえば、ふつうに遊んでいてどうしても越えられない場所を、少しいじってあげることでクリアーできるようになります。これなら、“遊ぶ”側だったプレイヤーに自然と“作る”遊びを体験してもらえると。『スーパーマリオメーカー』らしい遊びにできたので、とても気に入っています。

――確かに、本作ではゲーム性に即した遊びなので自然と受け入れられますが、ほかのゲームにこの仕様があったら少しズルく感じてしまうかもしれません(笑)。

手塚そうかもしれないですね(笑)。本作では気軽にルイージのアシストを使ってみてほしいです。「どうにかがんばってアシストを使わずにクリアーするぞ!」というよりは、ラフに「ここを少し変えてみよう」という気持ちで遊んでもらうのが、作り手としては理想ですので。

――それをきっかけに、自分でもコースを1から作ってみようとなるわけですよね。“つくる”の要素を見ても、本作では新たなスキン(『スーパーマリオ 3Dワールド』)とそれに紐づく新パーツのほか、“太陽”や“スネークブロック”といったパーツも登場しています。エディットモードに関して、ユーザーに注目してほしい部分はどこですか。

手塚“条件ゴール”(特定の敵を倒したり、指定された枚数のコインを集めるなど、コースのクリアー条件を設定できる仕様)をぜひ試してもらいたいです。同じコースでも条件を変えるだけで遊びかたがガラリと変わりますから、コースをひとつ作るだけで何倍ものバリエーションを楽しめます。

――条件はいくつくらいあるのですか?

手塚そのコースで使っているものに対してさまざまな条件をつけられますから、数えられないくらいあります(笑)。『スーパーマリオメーカー for ニンテンドー3DS』でも条件ゴールのコースは提供していたのですが、これをエディットモードに取り入れたほうが遊びの幅が広がるだろうということで、本作にも実装することとしました。

――確かに同じコースでも、条件設定でまったく別の遊びが楽しめますよね。

手塚たとえば敵を10匹倒してゴールするとか、コインを100枚とってゴールするなど、自由に変更できます。遊びのバリエーションがたくさん増えたと思っていただければ。

『スーパーマリオメーカー2』でより深みを増す“つくる”と“あそぶ”。そのこだわりを手塚卓志プロデューサーに聞く【E3 2019】_07

――そのほか、コースのシーンを夜に変えることで表れる追加効果(地下のコースでは上下が反転、さばくのコースでは風が強く吹くなど、多彩な効果がある)もおもしろいです。もちろんどんなシーンを夜に変更するとどんな効果があるのかは覚えることもできますが、敢えて何も考えずに挑んで偶発的な変化を楽しむという遊びかたもできますよね。

手塚僕たちが提供しているのは道具箱のようなもので、それを使ってどう遊ぶのかは、ユーザーさんに委ねています。そこでおもしろいものができればみんなが見て喜んでくれますし、ゲームクリエイターではない一般のプレイヤーが、職人のような存在になれる可能性もあります。プレイヤーにとっても未知の体験を提供したいと思っておりますので、期待していてもらえたらと思います。

――新たに『スーパーマリオ 3Dワールド』のスキンも登場するということですが、もともと3Dのゲームを2Dにすることにはどんな難しさがあるのでしょうか。

手塚本来は3Dで自由に動く敵を2Dに落とし込むにはどうしたらいいかとか、どんなカメラを使うのがいいかとか、ひとつひとつ考えて実装しました。作業量もかなり多くなりましたし、2Dと3Dが混在することでプログラマーには負担をかけたと思います。

――もともと2Dだったものを3D化することはあっても、その逆というのはあまりないですよね……。

手塚そもそも『スーパーマリオ 3Dワールド』自体に、仕込まれている遊びが多いんですよ(笑)。それまでの『スーパーマリオ』シリーズにない要素がたくさん入っていますし。パーツも独特なものが多かったので、ほかのスキンとは切り離すことでなんとか収拾がついたかなと。

――新スキンの実装について、いろいろな選択肢があったと思います。その中で『スーパーマリオ 3Dワールド』にされた理由は何だったのでしょうか。

手塚いくつか候補があったのですが、できるだけインパクトのあるもので、かつ実現可能なものから最終的に選ばれたのが『スーパーマリオ 3Dワールド』でした。前作で実装した『New スーパーマリオブラザーズ U』のスキンもよかったのですが、さらにそれを超えるようなものが作りたいと思っていたので。

『スーパーマリオメーカー2』でより深みを増す“つくる”と“あそぶ”。そのこだわりを手塚卓志プロデューサーに聞く【E3 2019】_08

――ちなみに、先日の“Nintendo Treehouse Live:E3 2019”(日本時間2019年6月12日配信)では、“ヤマムラ道場”(ハトのヤマムラがコース作りの考えかたを教えてくれる要素)に御社のアクションゲームにおけるレベルデザインの思想が詰め込まれている、というお話もありました。これについても詳しくおうかがいしたいのですが。

手塚コース作りのレッスンのようなものと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、我々の想いは少し違うんです。もうちょっと、自分でも作ってみたくなるような刺激を与えたくて入れ込んだモードと言いますか。ヤマムラ道場に収録する要素を社内の人たちに見てもらったときに「この内容を商品に入れてもいいの?」と驚かれました(笑)。これは任天堂のアクションゲームのノウハウそのものじゃないか、と。

――(笑)

手塚そういう声もあったのですが、まあ、あくまでもノウハウの一部ですし、あまり気にしなくてもいいんじゃないかと(笑)。ヤマムラ道場を見て、よりおもしろいものを作ろうと思う人が出てきてくれることの方が作品全体にとっていいことだと思っていますし。そういう刺激を受ける人が出てくることに期待しています。

――間違いなく出てくるでしょう。ヤマムラ道場を見るためだけでも、ソフトを買う価値があるくらいの内容ですよね。

手塚そう言っていただける方がいるとありがたいです。実際に30年以上もレベルデザインを手掛けてきたスタッフが担当しているので内容の質は保証できます。

『スーパーマリオメーカー2』でより深みを増す“つくる”と“あそぶ”。そのこだわりを手塚卓志プロデューサーに聞く【E3 2019】_09

職人の作ったコースが新たな職人を生む好循環。そのための環境づくりを徹底

――自分で作ったコースを投稿したり、誰かが投稿したコースを遊べることがシリーズの大きな要素ですが、そのあたりについて、改めてご説明をいただけますか。

手塚『スーパーマリオメーカー2』では、自分で作ったコースをアップロードして、それをたくさんの人が見ることができます。それに、投稿されたコースがそれぞれどのように遊ばれたか、どれくらいクリアーされたか、何人に遊ばれたかなど、いろいろなデータを集計したランキングも見ることができると。

――データが見られるのがいいですよね。

手塚自分でコースを作る人にとっては、何かしらの反応を見ることでモチベーションが上がると思います。そして、たくさんの人に楽しんでもらいたいと思う職人が多くなればなるほど、おもしろいコースが増えて、さらにそれを見て刺激を受けた人たちがつぎの職人へと成長していくと。この循環が生まれることが本作にとってとても大切なのです。

――自分の中だけで完結しないからこそ、よりよいコンテンツができあがるというわけですね。

手塚そうですね。投稿したコースに何の反応もない、というのはあまりにも寂しいので、できるだけ投稿したコースは誰かしらが遊ぶような仕組みを整えています。新規に投稿されたものが目につきやすくなっているのもその一環です。

――そこは工夫されているわけですね。

手塚アップロードした以上は誰かに遊んでもらいたいものですし、そうした環境作りが我々の仕事です。また、環境を荒らす人をいかに排除するかということにも力を注いでいます。不正が横行してしまうと、みんなが安心して遊べなくなってしまいますから。

――“Nintendo Treehouse Live:E3 2019”では、ソフト発売後のアップデートでフレンドマッチが実装されるというお話もありましたが、この経緯についてもお聞きしたいです。

手塚確かに追加のアップデート要素ではありますが、もともと開発段階から実装を予定していたものだったんですよ。

――そうだったのですね。

手塚はい。我々としては、まずはローカルの環境でおたがいの顔を見ながら、声をかけながら遊んでいただき、そのうえでオンラインでのフレンドマッチ機能を実装しようという計画でした。

――なるほど。順を追って実装していく予定があったのですね。ちなみに、前作ではパーツが追加されるアップデートもありました。本作ではそういった予定はありますか。

手塚いまの段階では何とも言えませんが、できることはいろいろあるので、ソフト発売後のユーザーの皆さんの反応を見ながら考えていくつもりです。

――前作にあった“キャラマリオ”のようなコンテンツはどうでしょうか?

手塚あれは『スーパーマリオブラザーズ』のリリース30周年を記念した意味合いが強かったんですよね。それがあって、いろいろなキャラクターがゲーム内に登場するお祭りのような雰囲気を演出したかった。今回は別の遊びを用意したので、そちらを楽しんでいただければなと思います。

――最後に、『スーパーマリオメーカー2』の発売を楽しみにしているゲームファンに向けてメッセージをお願いします。

手塚いまの段階で自分たちがやれることは、すべてやったと思っています。『スーパーマリオメーカー2』がどんなふうに遊ばれるのかは、蓋を開けてみないとわかりませんが、くり返しお伝えしているように、皆さんの反応を見ながら、よりよい環境を提供し続ける予定です。そもそも皆さんからの投稿がなければ、ただのコース作りツールになってしまいますから(笑)、皆さんといっしょに本作を盛り上げていければなと。どうぞ、よろしくお願いします。

『スーパーマリオメーカー2』でより深みを増す“つくる”と“あそぶ”。そのこだわりを手塚卓志プロデューサーに聞く【E3 2019】_01