ゲーム好きを持って知られるソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏は、とにかく楽しそうにゲームを語る方だ。それを持って“ゲーム業界の淀川長治ではないか”と、記者などは密かに決めつけているのだが、吉田氏がゲームのことを話しているのを聞くと、つい「それは気になる!」と思わされてしまう。

※ちなみに世代的に知らない方もいるんだろうなあ……とは思うんだけど、淀川長治さんというのは有名な映画評論家で、32年間にわたってテレビ朝日“日曜洋画劇場”の解説を務めていたことでもおなじみ。映画をけっしてけなさない方でもありました。

 そんな吉田氏には、ここ数年毎年BitSummitでお話を聞く機会があり、それは記者にとってはとても楽しいひとときだったりするのですが、今年のBitSummit 7 Spiritsでもありがたいことにお時間をいただくことができました。以下にそのやり取りをお届けしよう。

 内容的には、吉田氏にBitSummitの会場で気になるインディーゲームのことを語り尽くしてもらおうかなと思いつつ、可能であれば何とか次世代機のことも……とスキをうかがっていたら、いつの間にか『Dreams Universe』の魅力に触れていたといったところでしょうか。

SIE WWS吉田修平氏に気になるインディーゲームのことを聞き倒しつつ、何とか次世代機のことも……と思っていたら、最終的には『Dreams Universe』の魅力に触れた_02

吉田修平氏

ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント

アジアのインディーゲームがきている

――今回のBitSummitで気になるタイトルはありましたか?

吉田いろいろありましたね。おもしろいと思ったのは、ボタン操作がひとつひとつパネルみたいにプログラムチックになっていて、時間の制限なく入力していくというアクションゲームです。いままでにありそうでなかったようなタイプのゲームですね。ふつうのアクションゲームだと、“右を押しながらジャンプして攻撃して……”というのをリアルタイムで瞬間的に判断してプレイすることになるのですが、この作品の場合はワンステップずつ順番に、“右”、“右”、“右”、“ジャンプ”、“アタック”といった形で入力していくんです。そして入力する度に1フレームずつゲームが進んでいく。言ってみれば、パズルゲームのようでもありますね。失敗したと思ったら、巻き戻して何回でもやり直せる。それがすごくおもしろかったですね。

――何ていうゲームです?

吉田Sweep It!』ですね。プレイステーションのゲームではないのですが……。

吉田プレイステーションだと……ブースはご覧になりました?

――もちろんです!

吉田プレイステーションのゲームだと『Wattam』や『Bloodstained: Ritual of the Night』といった大御所のタイトルは言わずもがなですが、「お!」と思わされたのがアジアのタイトルですね。私たちは、BitSummitでは昨年あたりからアジアのタイトルも積極的に紹介しようとしているのですが、今年出展した4タイトルは、いずれもクオリティーが高いんですよ。「ああ、がんばっているな」というのが肌で実感できるタイトルです。1本は『F.I.S.T』というアクションゲームで、2.5Dの映像表現がすごかったです。あとは、『ANNO: Mutationem』というアクションゲーム。これも2.5Dでの映像表現なのですが、大きな敵のクリーチャーがポリゴンでぐるぐると動くんです。すごくいいですよ!

吉田あと、アークシステムワークスさんがパブリッシャーになっている『HARDCORE MECHA (ハードコアメカ)』。これも中国発のゲームだと思うのですが、中国開発のゲームも、日本のパブリッシャーさんがつくるようなクオリティーになってきているのかなと、改めて実感しました。

――近年アジアのインディーゲームは底上げがなされているという実感が、吉田さんの中にはある?

吉田ありますね。昨年から今年にかけてさらに。弊社では、現地のデベロッパーをサポートするプログラムを行なっているんですね。中国だと、China Hero Projectですね。そのプロジェクトに参加しているタイトルの中からいくつかを、今回BitSummitで紹介しています。

――China Hero Projectの成果がBitSummitで出てきているということですね。

吉田そう思います。私たちだけではなくて、台湾ブースやテンセントさんのWeGameのブースなどにも展開されていましたよね。BitSummit全体でも、アジアのゲームが存在感を増しているように思います。

――吉田さん的にはアジアのゲームの持ち味はどのへんにあると思われますか?

吉田中国ならではの剣戟があったり、中国の歴史にもとづいた設定があったりと、地域に根ざした設定が魅力ですよね。あとはアートですね。背景が墨絵のようできれいなグラフィックだったり。これは東京ゲームショウでも出展されていて、「お!」と思ったのですが、絵柄やテーマがアジアっぽいタイトルもありましたね。

――地域に根ざしたテイストというのは、たしかにありますね。

吉田SFでも、20xx年の荒廃した上海を舞台にした、中国のデベロッパーならではのタイトルもありました。実際のところ、その地域の現地のデベロッパーが作るタイトルってあるじゃないですか。サッカーパンチがシアトルをベースにゲームを作ったり、『Days Gone』では、オレゴン州のチームが現地を舞台にしていたり。そういった自分たちが住んでいる土地を舞台しているという意味で、上海の未来や近未来を描くというは、中国のデベロッパーならではのもので、おもしろいですね。

――ワールドワイド・スタジオのプレジデントとして、世界各地域のスタジオは、それぞれの地域の持ち味を活かしたタイトルを作るのが望ましい?

吉田作るべきとまでは思わないのですが、(住んでいる土地には)自然とふだんから影響を受けていますので、そのよさを活かすべきだとは思いますね。とくに欧米のゲームなどですごくお金をかけている作品に、真っ向から勝負するというのは難しいじゃないですか。ところが、欧米のゲームが作らないような、独特なテーマやアートがあれば、成功するチャンスがある。これは、日本のデベロッパーにも言えることだと思いますが。

――日本のデベロッパーは、自国の地域の属性を活かしたものに対してはあまり意識が鋭くない?

吉田それは戻ってきていると思います。一時は、欧米のゲームに触発されたFPSなどを作ろうとしていたのが、いまは自分たちの強みを活かす方向に戻ってきているという実感があります。日本のゲームファンは海外にも多く、日本テイストの作品を求める欧米のユーザーさんも大勢いらっしゃいます。むしろおもいっきり日本テイストの作品を作ったほうが、欧米市場で目立つということもあります。その成功例のひとつとして、『ペルソナ』シリーズがありますよね。

――ワールドワイドで展開されてみて、肌感覚として自国の特性を活かしたほうが評価されやすいと感じていらっしゃるのですか?

吉田感じています。欧米市場で評価されている日本のゲームが、必ずしも欧米市場に向けて制作したものではなかったりするのは、最近のいい意味での現象だと思います。もちろん、『モンスターハンター』シリーズや『ファイナルファンタジー』シリーズのように、明確にグローバルをターゲットに据えたチームもありますが。

――二分化されているんですかね。

吉田いま中規模のタイトルは、欧米市場ではきびしいんですね。タイトルのボリュームやマーケットの規模では、AAAタイトルに負けてしまうので。そんなとき、欧米のほかのスタジオが作らないようなテーマや見栄えのゲームであれば競争相手がいないので、逆に日本的なものが存在感を発揮できるチャンスがあるのではないかと思います。

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吉田氏も注目するアクションゲーム『F.I.S.T』。

インディーゲームのクオリティーは底上げされている

――BitSummitを俯瞰されてみて、改めてのインディーゲームシーンに対する感想をお願いします。

吉田毎年思うのですが、年々クオリティーがアップしてきていますよね。これは、ゲームエンジンなどのおかげでもあるとも思うのですが、学生さんが作られているような作品であっても、プロフェッショナルに近いクオリティーのものばかりになってきている感じがします。BitSummitの会場は、大手パブリッシャーのあいだに個人レベルで開発している小さなインディーゲームのブースがあるという極めておもしろい構成なのですが、会場内を歩いていても、大手と個人レベルの違いがわからないくらい、けっこうクオリティーの高いものが多いと思います。

――底上げはされてきている?

吉田されてきていると思います。

――BitSummitの来場者も増えてきていると思いますし、ファンの方のインディーゲームに対する認知度も高まってきているという印象もありますね。

吉田そうですね。2016年から任天堂さんもオフィシャルに参加されて、家族4人で会場に来ていっしょに遊ぶとか、友だちと遊ぶとか……。イベントで楽しさが広がるゲームが並ぶ可能性が増えてきているのではないでしょうか。“ケイドロ”をテーマ-にした、『オバケイドロ!』というタイトルもおもしろかったです。ひとりが警察官になって、3人が逃げるという1対3のマルチプレイです。警察官役はお化けなのですが、人間が3人で逃げて、お化けに捕まったら檻の中に入れられてしまうので、残りのふたりは助けにいかないといけない……という、“ケイドロ”のルールをゲームに落とし込んだタイトルですね。これも、とてもインディーゲームチックなのですが、よくできていて、遊んでいて楽しかったですね。

――しみじみと思うのですが、吉田さんは本当にゲームを楽しそうに語りますね。

吉田いえいえ(笑)。

――淀川長治さんが映画の楽しさを語るような……。そのモチベーションはどこから湧き上がってくるのですか?

吉田おもしろいものを見たら、人に伝えたいという衝動ですかね。あと、ほかにも気になるタイトルがありました! iPad向けのアーティスティックなソフトで、これも「おおっ」と唸らされたのですが、『here AND there』というタイトルです。手描きの絵をスキャニングしてアニメーションを入れているんですね。『Cuphead』の手法に近いことを、割と軽く作られていて、画面の中でいくつか触れるものがあって、インタラクションがあって、動く絵本みたいな感じなんです。すごくセンスがよくて。無料で配布しているのですが、文字もないので、お子さんでも楽しめるんですよ。これもすごく印象的でしたね。

――たしかにおもしろそう……。

吉田あとこの『にんげんタワーバトル』もすごくおもしろかったですね。

――ああ!

吉田これはイベント用みたいですね。話を伺ったのですが、いろいろなロケーションベースのエンタテインメントとして訴求しようと思っているそうです。実験的にロケーションテストもしているようなのですが、施設が集客を図りたいときに、この『にんげんタワーバトル』を設営すると、人がいっぱい訪れるかもしれないですね。どんなゲームかわかります?

――わかりません!

吉田グリーンスクリーンの前でポーズを取っているでしょう? ユーザーさんがここでポーズを取ると、それをスキャンして“人型ブロック”となって、上から落ちてくるんですよ。

――ああ!

吉田昔ネコを降らすゲームがありましたよね。倒したら負けというあのゲーム性と同じで、撮ったポーズがブロック化されて上から落ちてくる。倒れなければつぎの人に交代というゲームですね。行列が途切れることがなくて、けっこうな人気でしたね。

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グリーンスクリーンの前でポーズを取ると、それがスキャンされ“人型ブロック”化。ゲーム内で上から落ちてくる。写真は子どもたちによる微笑ましい“人型ブロック”。これだと一生積み上げられそう……。

「これは見たことがなかった」というタイトルには心惹かれる

――さまざまな楽しいゲームをご紹介してくださいますが、吉田さんがゲームのおもしろさで着目するポイントはどのへんになるのですか?

吉田それはですね。やっぱり「これは見たことがない」というのがいちばん大きいです。ゲームを新しく開発される方にとって、既存のものを真似してみるということは、いろいろなことを学ぶ上で重要なことですが、ときどき「こんなものはなかった!」というタイトルがあるんですね。『Baba Is You』もそうでしたし、もっぴんくんの『Downwell』もそうでした。発想が新しいタイトルには、やはりハッとします。あとは、アート面ですごく目立っているタイトル。かっこよかったり、魅力的だったり、そういったタイトルに惹かれますね。

――あと、いまインディーゲームは活況を呈しているかと思いますが、今後インディーゲームがさらに発展するために、吉田さんからみてあえて課題だと思える点などありましたら。

吉田これは以前にもお話ししたかと思うのですが、いまはたくさんの良質なインディーゲームが毎週のようにリリースされていますよね。そういったタイトルを、まずはユーザーさんに手にとってほしですよね。自分がまったく知らないようなタイトルでも、ファミ通さんのクロスレビューで30点を超える点数がつけられていたりすると、「あれ?これっていいゲームなのでは?」と思ったりしますよね。さらに低価格なものが多く、手軽に試せるので、ぜひ遊んでみてほしいです。いま日本では、インディーゲームのパブリッシャーが増えてきているのですが、世界中から厳選したタイトルをセレクトしているんですね。いわば、目利きのおメガネにかなったタイトルばかりなんですよ。これまでインディーゲームにはあまり興味がなかったとか、何を遊んでいいかわからないという方は、安心して気になるタイトルを1度買っていただいて、試していただくのがよろしいかと。そうすると、“当たり”が見つかる可能性はとても高いのではないかと思います。もちろん、“アタリハズレ”はありますし、趣味嗜向もありますが、いまだとPlayStation Storeでも、他所でも、いいタイトルは“推し”としてフィーチャーされていますからね。そういう評価の高いタイトルを遊んでみたら、「こんなゲームなかったよね?」という新鮮なゲームが見つかるはずなので、楽しみが広がると思います。

――日本のインディーゲームクリエイターに対しての要望はありますか?

吉田(インディーゲームを作るクリエイターが)もっともっと増えてほしいと思いますし、成功してほしいです。現状ですと、オリジナルタイトルを自社のリスクで作るというデベロッパーさんは少ないという印象があります。そういった状況が出てくるためには、市場として盛り上がって、ビジネスになるような状況になる必要がある。“自分の作りたいものを作れる”状況ですね。いいものを作ればビジネスにもなる環境になっていく必要があるんです。それは時間がかかるかもしれませんが、もっともっと盛り上がる必要があると思います。そういう意味で言えば、日本のインディーゲームデベロッパーに対する要望はとくにはないです。“機会があれば、オリジナルタイトルを作ってほしい”くらいかな。

――インディーゲームのお話をうかがっているときに、こんなことを聞くのは極めて無粋なのですが、時節柄どうしてもおうかがいしないわけにはいかず……芸能リポーターが無理くり関連付けて質問するような感じで恐縮なのですが、次世代機ではインディーゲームはどうなりますかね?

吉田ガクッ(笑)。一般的に言いますと、技術が高くなって表現することが増えるということは、これまで世の中になかったものを作り出すひとつのきっかけになりますよね。バーチャルリアリティはその一例です。それまで世になかったもので、評価されている。少ない人数でアイデアがよければ、世界中で評価されるようなモノが作れますよね。それと同じようなことで、次世代機なるものが新たなフィーチャーや新たなことが可能な形で出てきたら、それは新しい可能性があると思いますね。

――方向性として、少しでも多くの人にゲームを作ってほしいという思いが、吉田さんの中にある感じなのですか?

吉田うーん……そうでもないですけど、才能のある人が作るのがいちばんいいと思うのですが。そういう意味では、私がいまいちばん推しているのが、『Dreams Universe』ですね。

――ああ、4月22日にアーリーアクセス版が配信されたばかりのタイトルですね。

吉田『Dreams Universe』は、プロではなくても一般の人がゲームを遊ぶような形で学べるものすごく優秀なツール群なんです。あれは、ゲーム作成ツールなんですよ。小学生でも中学生でも、一般の人でプログラムがわからなくても、絵を描くのが好きだったり、アートに携わるような方に、ぜひ手にとってほしいです。そうすると、ものすごくきれいなものが表現できたり、簡単に小さなゲームを作ってみることができる。それを世の中に発表したりできるんです。たとえ自分はいろいろなものを作らなくても、ほかの人が作ったアイテムを取り込んで、それをうまく集めて作るといったことも可能です。世界のいろいろな人と友だちになったらコラボレーションしていっしょに作るとか、そういうことができるタイトルなんです。『Dreams Universe』は、Media Molecule が7年くらいかけて作ってきたプロジェクトなのです。

――7年も!?

吉田ゲームとして、サービスとして今後も長く続けていきたいですね。

――けっこうスケールの大きな話ですね。

吉田スケールの大きなプロジェクトなんですよ。今年は1年目と思っていますから。まだアーリーアクセスということで、一般の方が遊べるようなコンテンツはそんなにたくさんはないのですが、ツール群はほぼ完成しています。何かちょっとクリエイティブな表現をしてみたいという方に来てもらって、その人にツールを使ってもらってツールをブラッシュアップする一方で、その人たちが作るコンテンツがほかの人にも使える部品になったりするわけです。いまは、それをプロモーションしている時期ですね。

――もしかして、『Dreams Universe』でインディーゲームのコミュニティーができることを期待されています?

吉田コミュニティーになればいいですが、ならなくても……たとえば若者で将来ゲームクリエイターになりたいという方に、「自分は『Dreams Universe』でオリジナルのキャラクターを作ってみました」とか、「ほかの人が作ったシューティングを、自分なりにアレンジしてもっとおもしろくしました」といったふうに、ゲーム制作を学ぶ際に、手に取りやすいツールのひとつになってほしいとは思います。しかも、ものすごく深い。時間をかけてやればやるほどすごいものができる作品になっていると思うので、少しでもゲーム作りに興味がある人は、「これで何かやってみよう」と思ってほしいです。アーリーアクセス版は値段もお手頃ですし。

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さまざまなコンテンツを自由に作れるゲームクリエイティブプラットフォーム。ほかのプレイヤーがシェアした作品をプレイして楽しんだり、編集して自分自身の作品に活用したりすることも可能だ。