レイニーフロッグから配信中のNintendo Switch向けダウンロードソフト『ビビエット』は、閉ざされた屋敷を舞台にしたホラーパズルゲーム。プレイヤーは、真っ暗闇の屋敷の中を、ライトを頼りに、仕掛けられた謎をひとつひとつ解きながら、探索を続けることになる。主人公は武器をもたないために、敵と直接戦うことができず、まわりのアイテムを効果的に使いながら、苦難を脱していくことになる。ドット絵で表現されたホラー表現が特徴的で、この夏楽しみたいホラーゲームの1本と言えるだろう。
本作の開発を手掛けるのは、スペインのデベロッパーDYA Games。本作開発の経緯を、メールインタビューという形で実施した。
――まずは、日本のゲームユーザーに向けて、DYA Gamesさんがどのような会社なのかを、これまでに手がけたタイトルやスタジオの方針などを絡めて、ご紹介頂けますか?
我々AlbertoとDaniは兄弟です。学んだのはそれぞれ美術とコンピューター科学ですが、ゲーム好きが高じて会社を設立し、仕事としてインディゲームのデザインと開発に取り組むようになりました。DYA GAMESはスペインの会社で、2017年10月に正式に創業しましたが、遡ること2014年から、モバイルデバイスとコンピューター向けのプロジェクトに取り組んでいます。Nintendo Switchの登場をきっかけに、コンソールゲームに挑戦してみることにしました。これは我々のゲームには、小さい持ち運び可能な画面が最適だと考えた上での決断でした。また、ビジネスとしてタイトルを発表するようになる前に、『RPGツクール2003』やActionScript、iOSデバイス向けのCocos2dライブラリを使用して、個人的に非営利タイトルやファンゲームを開発してきました。趣味で開発したものも含めて、我々は16年間もの間ゲーム開発に携わってきたこととなります。
我々は日本のコンピューターゲーム、とくに16ビットのコンソール機向けゲームと1990年代のアーケードゲームから、多大なる影響を受けています。ビジュアル的には、カプコンやアイレムソフトウェアエンジニアリング、バンプレスト(当時)、スクウェア(当時)、そのほかにもたくさんの会社の作品から学ばせてもらい、ゲームプレイのメカニズムについては、32ビット機が主流だった時代を好んで参考にしています。我々はあの時期がコンピューターゲームにおける創造性の黄金時代だったと思っています。こうした理由で、ドット絵という表現を時代を超えた視覚技法として尊重し、“レトロ”な哲学を捨て置き、よりダイナミックな(複雑でない)プレイスタイルを内包したゲームを作るのが、目下の目標となっています。最近のプロジェクトでは音響と映像の設定と、没入感に重点を置いています。
――上記ご質問と少し重複するかもしれませんが、おふたりだけのスタジオと聞いております。開発にあたっての役割分担はどのようになっていますか?
Albertoはチームにてドット絵師をしています。またビジュアル全体(グラフィック、アニメーション)と美術指揮、プロモーション美術の一部の責任者でもあります。彼は12年以上(大体ね、もう覚えていないほどです!)ドット絵を描いており、経験豊富です。その作品の数々はSNS上で発表されていますので、我々のYouTubeチャンネルとプレイリストの“PIXEL ART TIMELAPSE!”をぜひご覧ください。簡単なスケッチから高品質のスプライトやモックアップを作成する過程が一通りご覧いただけますよ。
一方、Daniはそれ以外のすべてを担当しています。プロジェクト監督のほかにも、プログラミング、オーディオ編集とマスタリング、外部リソース(作曲家、声優、翻訳者)との連携、さまざまなプラットフォーム上でのプロジェクト発表に関して責任者の立場にいます。そしてときにはプロモーション美術も担当します。
この機会を借りて、ふだんいっしょに仕事をしている外部スタッフの皆さん、作曲家のDominic Ninmark氏、声優のOmri Rose氏とElissa Park氏にお礼申し上げます。また、本作の日本市場への展開にご尽力頂いた、レイニーフロッグのチームにも大変感謝しています。
また、読者の皆様にお伝えしたいのは、我々が修めてきた学問は重要でなかったことです。プロジェクトに利用している技術はすべて、独学で身に着けたものです。ゲームデザインを教えてくれる最高の教師はゲームそのものです。
――本作を開発するに至った経緯を教えてください。
『ビビエット』は、古典的ホラーの要素が少し入った、探索とパズルを組み合わせたゲームです。探索を続けていくにつれてプレイヤーの好奇心が刺激され、プレイヤーはゲームにのめりこんでいきます。これを私たちは“イマ―ジョン(没頭)”と呼んでおり、このような強い感覚はゲームにおいて重要だと思っております。最近は、この感覚が不足しているプロジェクトは発表したくないと考えています。ゲームの中に出てくるパズルは創造力を目覚めさせ、研ぎ澄ませます。型にはまらない独創的なパズルを解くと、達成感があることでしょう。『ビビエット』でヒントなしにパズルを解けば、とてもいい気分になれますよ。ぜひチャレンジしてみてください!
――ホラーにパズル要素を組み込んだ理由を教えてください。
ゲームが持つ古典ホラー要素により、プレイヤーがプレイ中リラックスできず、探索とパズルの解答に緊張感が漂います。当然、プレイヤーは可能な限り、より深くゲームに没入することになります。“古典ホラー”という言い回しは、重すぎず暗示的で、ちょうどプレイヤーを油断できない状態にするような、心理的な部分に重点を置いたホラーという意味で使っています。
――開発にあたって特に注力したポイントは?
少ないヒントを頼りに問題を解決したり、アイテムや鍵、ドア、隠された場所を探したりする環境をプレイヤーに提供したいと考えました。そのため、『ビビエット』では『バイオハザード』や『サイレントヒル』、『DEMENTO』、『クロックタワー』といったゲーム作品の基本的な要素を参考にしています。古典的なカットシーンに加えて、我々は環境そのものがストーリーを物語るような、没頭できるリアルな設定の作成に尽力しました(それゆえシナリオが細部まで作りこまれているのです)。プレイヤーにゲームの最初から追い詰められた気持ちを体感して欲しかったのです。
――リアルな3Dが主流の昨今のビジュアルトレンドにあって、2Dのドット絵で“恐怖”を表現するのは非常に大変かと思いますが、心がけた方法論などはありますか? また“恐怖”という点において、ドット絵ならではの魅力としてはどのような点があると思いますか?
おっしゃる通りで難しかったです。事実、我々は作品が単体で怖くなるとは認識していません。それを実現するのは2D表現では不可能に近いです。しかし、プレイヤーが先入観をなくしてプレイすることによって、本作の謎と絶え間のない不安に包まれることになるでしょう。このゲームは、想像力豊かで、特殊で個人的な体験を楽しみたい人向けのニッチな作品です。このゲームが我々の思惑通りに機能するには、プレイヤーご自身の没入が不可欠なのです。
しかしながら、非常に単純なものの、不安感を絶え間なく与えるような演出をいくつも用いました。照明効果、不自由な視界、明るさが一定でないランプ、地図の不在、不定期に現れる敵、人を驚かせるような演出、奇妙な音、不気味な音楽などがそれです。たとえば、主人公が、部屋の隅にいるときでも画面の中央に表示されることにお気づきでしょうか? この単純なトリックによって、プレイヤーの空間と方向感覚が歪められます。この作品にはそうしたちょっとしたトリックがいたるところに散りばめられています。
――開発をしていてとくに楽しかったことはなんでしょうか?
何もかもが楽しかったです。解決しなくてはならない状況を作ったり、それに意味を加えたり。いつもならば、デザイン段階が一番楽しいのですが、今回はプレイヤーを驚かせる演出を考えていた段階がもっとも楽しめたフェイズでした。じつのところ、YouTubeで『ビビエット』の実況プレイを見ては各自の反応に笑っています。とくにプレイヤーが驚いて「マジかよ…?」とリアクションするのは拝見していて痛快です。
――開発に要した期間はどのくらいですか? また、とくに辛かった時期はありますか?
こうした作品の開発は難しいものではありません。ただ経験と粘り強さが必要です。この作品の開発には、アイデアを思いついてから、最初のPC版発表に至るまで8ヵ月かかりました。我々は以前、GameMaker Studio 2(2Dゲームを作成するための比較的単純なプログラム)を使ってこのタイプの作品を開発したことがありますし、本プロジェクトに関してはフルタイムで取り組むことができました。そういって条件ではありましたがら、それでもこの水準のプロジェクト開発期間としては記録的な短さだと思っています。最初から明確な完成図があったことが大きかったと思います。
開発についてのご質問があったので、本プロジェクトについての我々の考えかたを説明したいと思います。だいたいの場合、我々は短期間でゲームを開発します。インディーゲーム事業においては、規模がそこまで大きくなくとも内容が上質なゲームを定期的に発表できる会社のほうが生き残りやすいと思います。我々は自己資金でプロジェクトを立ち上げ、開発に時間のすべてを費やします(マーケティングにはそれほど力を入れません)。小規模なチームですし、利益を出すのは比較的簡単なので、これが有効な手法です。要するに、我々は開発にかかる時間と費用をできるだけ少なくしつつも、重要な音響と映像の質や独自性の部分を犠牲にしないよう配慮し、マーケティングにはそれほど注力しなくてもプロジェクトがビジネスとして成功するよう心掛けているのです。
――とくにインスパイアを受けた作品はありますか?
もちろんです。『ビビエット』は昔のホラー映画からたくさん影響を受けています。たとえば、『回転』(1961年)、『たたり』(1963年)、『ハロウィン』(1978年)などから影響を受けています。今回のプロジェクトではサイコホラーを選びましたが、今後のプロジェクトでは別のジャンルを選ぶこともないとは限りません。サイコホラーは、視覚的恐怖よりも、心理的恐怖が基本です。この手法で空白の部分がプレイヤーの想像で埋められていきます。想像力こそが、私たちが自由に使える最強の道具です。
ゲームでは、『サイレントヒル』も参考にしました。また、『バイオハザード2』が昔から大好きなので、それの探索とパズルを解く形式を参考にしました。事実、これこそが我々が大好きなゲーム形式なのです。『クロックタワー』、『DEMENTO』なども、しつこい敵が不規則に現れる点が好きです。すでに触れた“恐怖”が強調されますよね。
――タイトルの由来をお教えてください。
基本的に、私たちのクリエイティブな作業の過程は、どのプロジェクトでも3つの段階に分かれています。
第1段階としてプレイ方式を考えます。すなわち、プレイヤーの皆さんに楽しんでもらいたい体験の種類を決めるのです。『ビビエット』では、プレイヤーに、倒せない敵に追われながら、制限のある過酷な状況(探索とパズル解き)を解決してもらおうと考えました。この基本となるゲームプレイの前提は、そこからブレないようにするわけですが、通常、開発を通じて変更することはなく、シンプルであり続けました。
第2段階では、ゲームプレイの前提に合う設定を作成します。このフェイズでは、無数の種類の設定をプレイモデルに適用できるので、創造性と開発チームの力がここで化学反応を起こします。たとえば規模の話をすると、『エイリアン アイソレーション』と『ビビエット』は同じ前提を使っていますが、それぞれの設定は違います。我々のケースでは、呪われた邸宅がよい選択肢だと思いました。なぜなら私たちは悪霊と幽霊を扱った古典的なホラー映画が好きだからです。
第3段階では、ゲームプレイの前提と選択された設定を損なわないストーリー(イベントの連なり)を作成します。じつのところ、すべての要素に意味を持たせなくてはいけないため、ここがもっとも創造力が必要な段階であり、難しい所です。それぞれのキャラクターの相関関係、彼らをどうゲームプレイと連動させるか、そしてストーリーの始まりと終わりなど……をここで考えます。たとえば、敵を倒せないと決めたら、敵に反撃したり敵にダメージを与えたりできない理由をどうにかしてプレイヤーに説明しなくてはいけません。この作品の場合、主人公ジュールズの敵は、ジュールズの妹です。ジュールズは妹を傷つけたくはないので、これが戦わずに逃げ回る理由になります。
じつのところ、ゲームデザインは一番おもしろい部分で、せいぜい1ヵ月足らずですぐに終わってしまいます。大変なのはそれ以外の部分で、プロジェクトを完了させるまで懸命に勤勉に働くことこそがすべてです。
――最後に、日本のファンに向けてのメッセージをお願いします。
まず、このインタビューを通じて作品を宣伝する機会をくださったファミ通様にお礼を申し上げます。また、我々の小さなインディープロジェクトを支援してくださる日本のプレイヤーの皆さんにも同様にお礼申し上げたいです。我々は日本のアーティスト(ゲームクリエイター、イラストレーター、マンガ家、作曲家)から多大なる影響受けています。我々のゲーム作品は、豊かで興味深い文化の複合体です。本作の最大の魅力は、とっつきやすく個人的なキャラクターだと思っています、手作り感あふれる製品と言えるでしょうし、そのように認識していただければ幸いです。我々の考えに賛同してくれるのであれば、いつの日か最高傑作を完成させるまで、今後のプロジェクトもぜひチェックしてください。
お時間を割いてインタビューを読んでくださり、本当にありがとうございました。