『十三機兵防衛圏』は、時代を超えた十三人の少年少女がひとところに集い、世界を滅ぼさんとする謎の怪獣たちを迎え撃つ物語。十三人はそれぞれが主人公であり、誰の物語から進めてもよいが、語られている事象を俯瞰してこの世界の歴史を、背後に隠された思惑を理解するためには、すべての物語をたどっていくことになる。
ある話はまるでミステリーのようだし、ある話は切ないジュブナイルだ。またある話は快活な少女の冒険譚だったりと色とりどりだが、これらがプレイを進めるうちにやがて合流し、プレイヤーの予想を軽やかに跳び越え、大きな物語となっていく。そのダイナミズムが作品の魅力のひとつだ。
2019年11月28日にプレイステーション4用ソフトとして発売されたこの『十三機兵防衛圏』(以下、『十三機兵』)について、ファミ通では、開発会社であるヴァニラウェアにインタビューを行い、この独創的な作品の成り立ちについて、ディレクターの神谷盛治氏やコアスタッフの前納浩一氏と平井有紀子氏、アトラスの山本晃康氏に話をうかがった(神谷氏がメディアのインタビューに登場するのは非常にまれであり、今回は極めて貴重な機会となっている)。
今回は、先に公開した“抜粋編”を増補改訂した、完全版となるものをお届けしよう。言わば“総括編”だ。
少女マンガをモチーフにしたという繊細なキャラクターたちが織りなすアドベンチャーパートと、ロボット“機兵”によるタワーディフェンスを楽しむゲームパートのミスマッチが独特の世界を醸成する本作。ヴァニラウェアにしか描けない美しいビジュアルが包み込むこの快作は、どこからやってきて、どう形作られていったのか。数多の苦労話とともに、発想の原点や、じんわりと染み込んでくるテーマを感じ取っていただければ幸いだ。
神谷盛治氏(かみたにジョージ)
ヴァニラウェア代表。本作でもディレクションをはじめ、シナリオにメカデザインにと、大活躍を見せている。
前納浩一氏(まえのうこういち)
デザイナー。本作ではキャラクターアニメーションをはじめ、神谷氏の手の回らないところを丁寧に補佐している。
平井有紀子氏(ひらいゆきこ)
デザイナー。本作ではキャラクターのデザインとイラスト、アニメーションまで担当。繊細なタッチが活かされている。
アトラス山本晃康氏(やまもとあきやす)
本作のプロデューサー。言わばヴァニラ&神谷氏のお目付役。インタビューの末尾では圧巻のアツさを見せる
すべては2013年の年賀状から
──『十三機兵』の最初にあったものは何だったのですか?
神谷複数の視点からバラバラな時系列で描かれる物語は、昔から温めていました。ロボットというアイデアに決まるまでは、“超能力モノ”でしたが。
──いつごろから考えていたものなのでしょうか。
神谷そうですね……。これがどんな新作であるかということは明言せず、試験的に年賀状にキービジュアルを描いたのが2013年のことでした。
──すでにタイトルも決まっていますね。
神谷もともと主人公が7~8人いるような想定でしたが、2013年ですし、13人にしようと。中二病みたいでカッコイイですしね(笑)。13人で機兵に乗ってタワーディフェンスするから、“防衛圏”です。
前納神谷さんは最初にタイトルを決めますよね。
神谷そうしないと後でコンセプトが揺らぐからね。
──“名は体を表す”ですね。
神谷もとは昔のドラマの『NIGHT HEAD』(※)のような超能力モノがやりたかったんですが、地味すぎて売れないだろうと(笑)。それとは別に“SF要素を全部乗せ”したいという考えもありました。
※1992年のテレビドラマ。豊川悦司と武田真治扮する、超能力を持つ兄弟の数奇な運命を描き、カルトな人気を博した。
──機兵はSFからの流れなのですね。
神谷僕は『ロボ・ジョックス』(※)がやりたくて。つまり細くて速くて空を飛ぶような、いま風のスタイリッシュなロボットじゃなく、重たくて無骨で、オイルが漏れる重機のような、いかついロボットものがやりたかった。それだから世界観は真逆の、線の細い少女マンガのようにして、そのギャップを味にしたいと考えたんですね。
※アメリカで制作された1990年の実写特撮映画。国家紛争を二足歩行の巨大ロボットの対戦によって決する。
──だから少女マンガの要素があるのですか。
神谷僕は中学時代に、かがみあきらさんの大ファンでした。少女マンガのようなかわいいキャラクターを描かれるマンガ家さんですが、『超時空要塞マクロス』などのメカデザインにも携わられていた、“少女とメカ”の走りのような方です。
──それが『十三機兵』にも影響していると。
神谷ええ。そういうロボットと少女で、小規模ながらも、プラモ化やアニメーション化など、横に広がる可能性のある企画として温めていたんです。
──小規模な企画とは、どういうことですか?
神谷『ドラゴンズクラウン』が世界に向けたプロジェクトで苦労したので、『十三機兵』はもっと小規模なものにするつもりだったんですね。でも企画が走り出すと、「ワールドワイドでの展開で」という話になって。ずいぶん勝手が変わりましたね(笑)。
──時代背景が少し昔なのはなぜですか?
神谷じつは現代の子を描く自信がまったくなくて。だって僕はもうオッサンですよ? そんな僕が学生の会話を書いても、嘘臭くなるだろうと。だから軸となる舞台を1984~85年に設定しました。要は自分がわかる学校生活を描き、ノスタルジックな雰囲気を出そうと思ったんです。僕が青春時代に見たキラキラしたもの、懐かしいものは全部入れて。
──なるほど、納得がいきました。
神谷ロボットアニメがいちばん盛況だったのも、そのあたりなんです。それで『十三機兵』の世界観のベースは『メガゾーン23』(※)にあって。ヒロインが劇中でつぶやく「この時代、いい時代よね」を、まさに『十三機兵』でやろうと思ったんですよね。
※『マクロス』のスタッフが手掛けた1985年のオリジナルビデオアニメ。メカとアイドル歌手、宇宙船内の都市といったモチーフが共通する。
──前納さんと平井さんは、企画の原型について神谷さんからそう説明されていたのですか?
前納僕が初めてコンセプトを聞いたのは、2015年くらいでした。「アドベンチャーゲームとシミュレーションバトルをどう組み合わせるか?」と、神谷さんから相談されたのを覚えています。その時点でストーリーの大筋はあったと思いますが、軽く聞いただけではまったく理解できないほど非常に複雑で(笑)。
平井私もだいたい同じですね。設定についてはあまり理解できませんでしたが、“ロボットと少女マンガ”だということはしつこく言われていました(笑)。
──その設定ありきで広がった企画なのですね。
神谷いえ、ラストシーンありきでした。結果に至るまでの神様視点の年表があって、さまざまな事件が起きているという。それを13人の視点で描き分けるのが本当にたいへんで、死ぬかと思いました(笑)。