ルービックキューブで応用力や思考の速さなどが向上!?
各面の色を揃えて遊ぶ立体パズル“ルービックキューブ”。「この面はどうやったら揃うのか?」と考えるだけで、相当の“脳トレ”だ。今回ルービックキューブが人間の思考表現力の成長において、どのような影響があるかという調査結果が、国内販売元のメガハウスより発表された。その驚くべき内容とは……?
2020年はルービックキューブ発売40周年!
エルノー・ルービック氏が開発した立体パズルは、今年で発売40周年を迎える大ヒット商品。おなじみの6面体(3×3×3キューブ)以外にも、さまざまなタイプが発売されている。ちなみに“世界キューブ協会”によると、3×3×3キューブを一回で揃える世界記録は、なんと3秒47(2020年4月21日現在)。
ルービックキューブによる脳活動への影響・創造性テスト成績の変化に関する調査
【実験概要】
- 対象者:小学校4年生~6年生の22人(男女各11人)
- 監修:公立諏訪東京理科大学 篠原研究室
- 実施月:2020年2月
TOPIC1 解法中は“前頭前野”が活性する
ルービックキューブを解いているときの脳活動を計測した調査では、最初にアドバイザーが1面の揃えかたをレクチャーし、最後は被験者である子どもたちが独力でチャレンジした。その結果、“地頭力”(この調査では、みずから考え、自分なりの答えや方向性を見出す力と定義)の中核的な役割を担うとされる“前頭前野”が活性化されることが明らかになった。下のグラフにある通り、レクチャー時は論理的に考えているので論理的思考力に関わる左脳が大きく働き、独力でチャレンジしているときは空間的認知力に関わる右脳も活発に働いていることがわかる。
TOPIC2 解法学習前後で思考の速さなどが向上
続いては、ルービックキューブの解きかたを覚える学習時間の前後に創造性テストを実施し、“想像的思考力”にルービックキューブの解法がどのような影響を与えているかという、従来の知能検査とは異なる角度から調査したものだ。
まず応用力(※すでにある知識を工夫し、新たな事柄に対応する能力)について。身近なものを本来の使いかた以外にどのように利用、応用できるかテストした結果、解法学習後のほうが向上した。つぎに思考の速さ(※一定時間にどのくらい速くアイデアを発展させられるかという、思考のスムーズさ)では、課題に沿った回答の出る速さに差が見られたことから、ここでも好影響が出た。最後は、思考の深さ(表面的な情報以外に、真の意味や内容について深く考えたり分析したりすること)。どのようなプロセスを経て、具体的に表現できるかを計測したところ、ここでも大きな有意さが出る結果となった。
ルービックキューブ解法学習後のテスト成績では、応用力、思考の速さ、思考の深さのすべてにおいて向上が見られた。
ルービックキューブは新しい世界を切り拓く“思考力”を養う
篠原 菊紀(しのはら きくのり)
公立諏訪東京理科大学・工学部情報応用工学科教授、地域連携研究開発機構・医療介護・健康工学部門長。応用健康科学、脳科学。
――今回の調査を行うことになったきっかけを教えてください。
篠原いまの世の中で求められているのは、すでに知られたことを覚える力ではなく、今後が読めない新しい世界を切り開いていく力です。
ルービックキューブは、ルール理解や立体想像といった思考のプロセス通じて、左右の前頭前野いずれもが活性化されると予測できました。そのようなトレーニングは、これからの社会で活きる思考力を養ううえで可能性があると考え、今回の調査監修の依頼に協力するに至りました。
――調査するにあたり、調査前の予想と調査結果についての感想を教えてください。
篠原調査前の予想では、ルービックキューブを作っているとき、一時的な記憶の力(ワーキングメモリの力)を使うので前頭前野は活性化するだろうと思っていました。予想通り、活性化したのですが、少し意外だったのは、左の前頭前野の活動の方が高かったことです。ルービックキューブは空間認知課題なので、空間認知にかかわる右の前頭前野のほうが活性化しやすいと考えていたからです。しかし、左のほうが強く活性化しました。これは、ルービックキューブでは手順やルールを覚えることが大事で、そのために言語的な理解にかかわる左の前頭前野が強く活性化したものと解釈されました。
また、調査前では、創造性テストの成績は、ルービックキューブトライ程度では、そう変わらないだろうと思っていましたが、観察的な結果に過ぎませんが、有意な変化が見られたのは驚きでした。
――ルービックキューブの魅力はどんなところにあるとお考えですか?
篠原私自身、数面までしかトライした経験がないので、正直わかりませんが、できなそうに見えるのに、手順を踏んでやっていけばできてしまう。そのロジックの持つ強さが魅力なんじゃないかと思います。
――最後に、ズバリ篠原教授はルービックキューブの6面を揃えられますか?
篠原揃えられません。私はこれまで、さまざまなゲームや遊びでの脳活動を調べてきました。自分が好きな遊びについて調べたこともありますが、思い入れがあると、どうも解釈にバイアスがかかる気がしています。できるだけフラットな気持ちでデータ収集、解析を行いたいので、実験対象はあまり深くは経験しないようにしています。