『荒野行動』や『Identity V 第五人格』などで、日本でも大きな存在感を放つ中国の大手ゲームメーカーNetEase Gamesが、中国・広州ならびに日本・東京を拠点とした、桜花スタジオを設立したことを発表した。これまでスマートフォンやPCオンラインゲームを精力的にリリースしてきた同社だが、桜花スタジオは、次世代家庭用ゲーム機向けタイトル制作を行う拠点になるという。今年秋には渋谷にオフィスを設立予定だ。NetEase Gamesはどのような狙いで桜花スタジオを設立したのか。ここでは、スタジオ長の赤塚哲也氏を始めとする、3人のキーパーソンに聞いた。(聞き手:週刊ファミ通編集人 林克彦)
ちなみに、あらかじめお伝えしておくと、本インタビューで紹介しているのは、桜花スタジオがいま進めているプロジェクトのコンセプトビジュアル。その詳細については、インタビューの後半でしっかりと確認してほしい。
赤塚哲也氏(写真中央)
NetEase Games
桜花スタジオ スタジオ長
ナムコ(当時)入社後20年以上開発に専念し本部長などを経験。2019年10月にNetEase Gamesに入社する。いまは桜花スタジオの組織作りに邁進。
ジェズ・フライ氏(写真左)
NetEase Games
アートディレクター
イラストレーターとしてキャリアをスタートし、マイクロソフトやカプコンなどでアートディレクターを務め、2019年6月に現職に就任。AAAアート制作に向けたチームを組織する。
マット・リュー氏(写真右)
NetEase Games
シニア・グローバルパブリッシング&マーケティングディレクター
海外パブリッシング部門のリーダーとして、『荒野行動』などの世界各国におけるプロモーションを主導する。
ゲームが大好きな人に向けて、“ふつうにおもしろいゲーム”を作る
――桜花スタジオのことをうかがう前に、まずはNetEase Gamesの開発ポリシーをお教えください。
マット私たちのポリシーは、“ゲームが大好きな人のためにゲームを作る”ということに尽きます。その方針は開発スタイルにも現れていまして、NetEase Gamesでは、“こんなゲームが作りたい”と思い立ったスタッフは、定期的に開催される“審査会”に、立場の違いなく参加することが可能です。そこで経験豊富なゲームデザイナーやマーケティングディレクター、プログラマーなどに対してプレゼンをすることで、さまざまな観点からのフィードバックや支持を得ることができます。もちろん有望だと判断されたら、プロジェクト化が検討されることもあります。とにかく企画立案者の意思が重要視されるわけですね。
――本人が“ゲームを作りたい”と思い立ったら、開発への道は開けているということですね。
マットそのとおりです。あとは、マーケティングの側面からお話しさせていただくと、開発者が精魂を込めて作ったタイトルと、遊んでいただくユーザーさんとの架け橋を作るというのが、方針としているところですね。
赤塚“ゲーマーに向けていいゲームを作る”ことに向けて、NetEase Gamesはゲーム開発者に対して会社全体で真摯で、かなり手厚いバックアップを提供してくれます。そこは、まさに私がNetEase Gamesに入社するきっかけになった大きなポイントになっています。
――NetEase Gamesは社内の開発スタジオの独立性が高いように思うのですが、クリエイティビティを優先するという方針の現れでしょうか。
赤塚私が20年前にナムコ(当時)に入社したときの印象にすごく近いです。非常に若くフレッシュな会社だなというイメージを持っています。会社全体がディレクターにやさしく、「どんなチャレンジャーな提案しても許してもらえるだろうな」という社風はありますね(笑)。
――では、桜花スタジオを設立した経緯を教えてください。
マット『荒野行動』や『Identity V 第五人格』などは、少しずつ各市場、とくに日本市場での支持を集めることに成功したと言えます。しかし同時に日本市場におけるユーザーの要望、マーケティングコミュニケーションの独自性に対し、リソースをもっと拡充していかなければならないと感じました。同時にNetEase Gamesとしては、日本のゲーム業界におけるたくさんの人材と出会い、クリエイティビティやクオリティーに対する追求に深い感銘を受け、「日本でスタジオを作りたい」、「もっと積極的に日本市場にフルコミットしたい」という思いはかなり前から持っていました。ただ、なかなかきっかけがなかった状態が続いていたのですが、赤塚さんが昨年(2019年)10月にNetEase Gamesにジョインしてくださったことによって、一気に話が進みだしたんです。
――赤塚さんがきっかけだったのですね。
マットそうですね。昨年から話がもちあがって、具体化しました。
――人材確保と市場的魅力の両面から、日本でスタジオを設立することにしたのですね?
マットはい。私たちは、“もっとすぐれたゲームを作っていきたい”と思っているので、世界中の優秀な人材を確保することも必然的に、私たちの命題となります。実際のところ、カナダのモントリオールなどに開発拠点を設けていますし、日本での展開も外せないと思っていました。ゲームを作りたいというパッションを持った開発者がいる国・地域であれば、そこにしっかりと足をつけて、展開していきたいです。一方で、市場としても日本は魅力的です。開発スタジオの設立を通して、より密接に日本のマーケットのことを知ることができるのでは、今後の日本での展開に向けても、有益だと判断しています。
――ちなみに、桜花スタジオのスタッフの陣容はどのような感じになるのですか?
赤塚最近、桜花スタジオのコアスタッフ参加の情報などがネットにちらほら出始めてはいますが、実際採用はまだ始まったばかりの段階でして、現在絶賛コア人材を募集中です。何でしたら、この記事を見て興味をお持ちの方がいらっしゃったら、ぜひお気軽にお問い合わせいただきたいくらいで(笑)。いっしょに楽しく熱いゲーム作りができればと思っています。
――どのような人材を求めているのですか?
赤塚自分で言うのも少し気恥ずかしいのですが、うちでは職人気質でゲームを作っていまして、“ふつうにおもしろいゲームを作る”というスタジオの目標を立てています。人々に楽しんでいただくゲーム作りをするには、開発しているメンバー各々がゲームを楽しむことが前提となります。遊び尽くすことも当然ですが、ツライことも多いゲーム制作において、その過程を楽しめる人材、“ゲーム制作におけるおもしろさをいっしょに見出してくれる方”が、求める人材像ですね。
実際ゲームを作っていく過程でおもしろさが積まれていく度にまわりのスタッフと共有し、皆で遊びながら互いに確実な手応えを掴み、最終的にはお客さんがワイワイ楽しんでいる姿を見て、ひそかにガッツポーズをする……そんなスタッフを求めています。
あとは、制作スキルが高い人はもちろんありがたいですが、それよりゲーム作りに情熱がある人が来てくれると嬉しいです。研究熱心で情熱に溢れ、前の晩に自宅で思いついたアイデアを、翌日会社に来て仲間や私に、「こういうことを思いついたから、ぜひ試させてほしい! おもしろいでしょう!」と、ドヤ顔で言ってくるくらいの人と仕事したいです――(笑)。
で、それがうまくいかなくても、「同じ失敗はしないので、つぎは絶対おもしろいのを持ってくる!」くらいの気概のある人を求めています。精神論みたいになってしまってなんなのですが……。
――次世代家庭用ゲーム機向けのタイトルを制作するとのことですが、具体的にはどのようなタイトルを考えているのですか? 『荒野行動』や『Identity V 第五人格』といった自社IPの展開や、他社とのコラボなどは考えているのでしょうか?
赤塚まずは、オリジナルタイトルで勝負したいという気持ちはあります。既存のIPとのコラボに関しては、僕らと組むことがおもしろいと判断していただけるのであれば、できるだけ何でもやりたいです。興味がある方には、いつでもお声かけいただきたいくらいです。
――それは、NetEase Games社内外を問わずということですか?
赤塚社内外は問わないですね。互いの力を合わせた上で、“開発者どうしで意気投合できるか?”とか、“おもしろいことを考えられるか?”、ということを重要視しています。スタジオ長としては、もっとビジネス的な観点でお話をしないといけないのかもしれないのですが(笑)、そのへんはビジネスチームのサポートもありますので、彼らの助けを借りつつ、私としては、関わってくださる方々がいかにワクワクできるようなことを考えられるのかということが大切で、こういうチャンスをいただけた自分の使命だと思っています。コラボに関しては、全世界のクリエイターから誘っていただけたらいいな、くらいの気持ちは持っています。ただ、私たちの実力を磨いたり、少しずつ活動を広げていかないと、当然のことですが誰も話に乗ってくれないので、これから鍛錬あるのみだと思っています。
――『荒野行動』や『Identity V 第五人格』といった自社IPに関しても、ほかのスタジオ長と意気投合できたらやるというスタンスですか?
赤塚そうですね。私の過去の経験から、ただIPだけ借りてくるという仕事は行わないつもりです。互いのチームでそのIPに対し愛をもって制作できるかがポイントだと考えております。開発者の愛が薄いと、ファンの人からすれば、一瞬で、「これ、違うじゃん!」、「開発者はわかってないなあ」とすぐに分かってしまうものですから。
過去にものすごい数のゲームタイトルもしくはアニメシリーズの魅力をすべて把握理解することが前提のお仕事を多数経験しましたが、その際は仕事時間以外の自分の時間をすべてを費やして、作品を把握するため、寝ずにとにかく研究してましたね――(笑)。そうして研究と努力をした上で自分自身がコンテンツを愛するところまでいった上で、 “そのIPをお借りして、恥ずかしくないモノを作る”ということを目標に仕事をしてきました。人気のあるIPで儲かりそうだからゲーム化しようという考えかたですと、私自身はあまりいいゲームを作れないと思いますので、とにかくチームどうし話し合いをしながら共感できるものをいっしょに作っていきたいですね。
ハードウェアの限界によって何かを犠牲にせずに形にできる時代がようやく来た
――オリジナルタイトルはどのようなものになりそうですか?
ジェズ今回、いま進めているプロジェクトのコンセプトビジュアルを公開させていただきました。次世代家庭用ゲーム機向けに私たちが作った、新しい世界観です。内容については一切お話しできないのですが、ひとつ言えるのは、私がこの仕事に就いてから初めて、コンセプトアートをリアルタイムで3D化する過程で、ハードウェアの限界によって何かを犠牲にせずに形にできる時代がようやく来たということです。次世代家庭用ゲーム機では、クリエイターが頭に思い描いているそのままのモノを見ていただけると思います。
――クリエイティビティに制約がないということですね。
赤塚昨年から本格的に作業に入って、新型コロナウイルスの影響などであまり時間が取れない中、ジェズさんが率いるアートチームと、私が作りたいものをすり合わせて、初期コンセプトビジュアルを制作しました。今回発表したコンセプトビジュアルは、そのまま製品に反映されるものもあるかもしれないですし、これからブラッシュアップして、ぜんぜん違うものになるかもしれません。ひとつ断言できるのは、“新しいものを作ろうとしている”ということですね。“ふつうにおもしろいゲーム”を目指して開発しますので、見ただけでおもしろそうで、触って感動、どこまでも遊び続けたい熱狂を目指して、新しいタイプのマルチプレイアクションゲームを提案したいです。
ジェズ私は、自宅にセガのアストロシティ筐体を持っていて、いつも息子といっしょにゲームを楽しんでいるくらいのゲーマーなのですが、ひとつ言えるのは、赤塚さんといっしょに開発を進めているゲームは、クリエイターとしてだけではなく、ゲーマーとしての自分にとってもワクワクするゲームだということです。日本のゲームファンの皆さんにもワクワクしていただけるものになるよう、これからもゲーム作りに取り組んでいきます。
――これが桜花スタジオの最初のタイトルになるのですか? それとも複数のラインを走らせているのですか?
赤塚ふたつ以上が複数なら複数です(笑)。ひょっとすると、ほかのタイトルが先になるかもしれませんね。今後にご期待ください。
――桜花スタジオの1作目はいつくらいまでに出したいと思っていますか?
赤塚そうですね。次世代家庭用ゲーム機が普及してきて、ある程度お客様が集まって盛り上がってくるころまでには、ソフトを出したいと思っています。そのハードがいちばん勢いのある時期に合わせたいなと。その時期までに開発が終わるのかという別の問題はありますが(笑)、理想はお客さんが盛り上がっている時期に、僕たちのタイトルを出すことですね。
ただし、念のためにお伝えしますと、NetEase Gamesのポリシーとして、開発時期を決めて、それに向かって無理やり開発するということはありません。ご存じの通りゲーム業界では発売に望ましい時期というのはあるのですが、とくにオリジナルタイトルは開発が難しいですし、いま準備している新作に関しては、とにかく納得のいく出来になったら出すというスタンスでいます。
――わかりました。ところで、“日本と中国を拠点とする”とのことですが、今後具体的に開発が進んでいくときは、渋谷と広州のスタジオで連携しながらやっていくのですか?
赤塚私としては、どこの国・拠点ということもなく、全員が“桜花スタジオのメンバー”ということで、いっしょになって開発をしていく体制作りをしていきたいと思っています。拠点の役割などについては、「よりおもしろいゲームを作るためにはどちらを主導でやったほうがいいのか」ということを基本に、適材適所でさまざまなケースに合わせ、フレキシブルに対応していきたいと考えています。集まったタレントの意気込みとかによっても変わってくるでしょう。魅力的なスタジオ目標に対して人が集まってくるでしょうから、その流れを見つつ役割分担を考えていきたいです。それは、タイトル内容が具体化していく中で、より明確になっていくでしょう……と、曖昧な答えとなりますが、まあ何が言いたいのかと言いますと、まだまだ準備中ということです(笑)。
――あと、とても気になっていたのですが、桜花スタジオというネーミングの由来を教えてください。
赤塚桜は毎年咲いて、人々に楽しさや喜びをもたらしますよね。1年のうち短い期間だけ咲いて、あとは地道に育まれる。咲いては散り、また咲くという、そのループを体現できる職人気質な集団を作りたいとの思いがあって、桜花スタジオとさせていただきました。
――毎年花を咲かせるというコンセプトはいいですね。
赤塚僕自身、開発していて行き詰まっていたときに、春の季節に桜を見て勇気づけられることも多かったですから(笑)。秋の紅葉でもよかったのですが(笑)、華やかなで鮮やかなスタジオを作っていきたいという思いから桜にしました。
桜花スタジオでは、広州と渋谷を拠点に、世界向けにしっかりとしたタイトルを作っていきたいと思っていますので、これからの展開にご期待ください。今後必ず、“うわっと驚けるような追加情報”をお送りできると確信しております(笑)。
さて、ただいま桜花スタジオでは、東京オフィスでの人材を募集中。気になる方は公式サイトをチェックされたし。中国・広州での業務にチャレンジしたい方も、公式サイト内の問い合わせフォームより連絡可能とのこと!