2020年11月5日にNintendo Switch、PC(Steam)向けに配信がスタートしたリメイク版『Mad Father(マッドファーザー)』。
本作は2012年に配信されたフリーゲームの探索型ホラーアドベンチャー『マッドファーザー』をもとに、PLAYISMが商業化した作品『Mad Father』(2016年配信)を、さらにリメイクしたもの。
2016年版からグラフィックや演出の強化、一部システムの見直し、エピソードの追加などが行われています。また、筆者がプレイしたのはNintendo Switch版ですが、PC(Steam)版をすでに購入している場合は、無料でリメイク版へとアップデートされるとのこと。
本稿では進化を遂げた名作の魅力を、ネタバレに配慮しつつ、お届けしていきます。
『Mad Father(マッドファーザー)』ニンテンドーeショップページ 『Mad Father(マッドファーザー)』Steamページ惨劇によって暴かれる、ある一家のおぞましい真実
物語の舞台は、夜な夜な狂気の実験が行われている人里離れた地にある屋敷・ドレヴィス邸。ある日、眠れぬ夜を過ごしていたドレヴィス家の娘・アヤは、地下の実験室から響く父親の悲鳴を耳にします。
父が残酷な実験をくり返していること、そして助手のマリヤと愛人関係にあることに薄々気づいているアヤ。しかし幸せな思い出の記憶も多く残る父を、彼女は心から愛していたのです。1年前に母親が病死して唯一の肉親となってしまったこともあり、父が危険に晒されているなら、見過ごすことはできないアヤ。父の無事を確かめるため、少女は地下を目指します。
屋敷は不思議な力に支配され、アヤの知る我が家とはなにもかも変わってしまったかのよう。実験室にたどり着くのも簡単ではなく、いくつもの仕掛けを解いていく必要があります。いたるところで異常な現象が起きており、ときとして不気味な屍(しかばね)や人形が、アヤを見かけて襲いかかってくることも。片目を失った少年や、黒服に身を包んだセールスマンなど、謎の人物も現れ、アヤはいまだかつてない恐怖と困惑を経験することになります。
そしてやがて明かされる、おぞましい真実。果たして幼いアヤは、数々の身の毛もよだつ体験をくぐり抜け、父親を見つけ出し、無事に生還することができるのでしょうか?
本編エンディングまでのプレイ時間は、謎解きやアクションの得意不得意で多少変わってくるものの、だいたい初見で2時間半~3時間ほど。マルチエンディングを採用しているため、これをすべて見届け、さらに後述する収集要素の“ジェム”をコンプリートしようとすると、もう少し掛かるかもしれません。
ボリュームは決して多くはありませんが、物語を見届けたあなたは、1篇の上質なホラー映画を観たような満足感を得られることでしょう。
絶妙なホラー演出で彩られた、屋敷探索
屋敷内では、攻略のカギとなるアイテムを、いくつも入手します。これらを適切な場所で使用したり、ときには複数のアイテムを組み合わせたりすることで、行動範囲が広がったり、新しいイベントが発生したりするのです。これから行うべきことはメニュー画面の“ミッション”の項目でいつでも確認できるので、目的を見失う心配はありません。
探索中は、窓にべったりと血に染まった手形が付く、飾られた人形の体の一部がボトッと床に落ちる、画面いっぱいに一瞬顔らしき模様が映るなどのホラー演出が手を替え品を変え画面上に現れては、プレイヤーを驚かせます。これがビクッとさせられるものから「いま何か動いた?」というようなさりげないものまでバリエーション、タイミングともに絶妙で、最後まで楽しませてくれました。
探索中は“ジェム”と呼ばれるものが手に入ることがあり、これが本作の収集要素になっています。入手方法には、少し頭を使わなければ手が届かない場所に配置されているもの、成仏できないでいる屍の心残りを解消してあげる“サブミッション”をクリアーすることで手に入るものなどが存在。コンプリートは本編クリアーに必須ではありませんが、ある隠しシナリオを解禁する条件になっています。
ゲームに緊張感をもたらすアクション要素
加えてゲームのアクセントとして機能しているのが、襲いかかってくる屍や人形の攻撃を回避するアクション要素。これには大きく分けて2種類が存在しています。
ひとつ目は襲いかかってきた敵に接触するたびにアヤがダメージを受け、画面上部に表示された体力ゲージがなくなるとゲームオーバーになるというもの。廊下から部屋に入るなど、画面が切り替わるところまで逃げ切れば体力は回復しますが、突然襲ってきた相手に逃げ道をさえぎられたりするとなかなか焦らされます。
ふたつ目は敵が襲ってきた瞬間、画面中央に十字キーが表示され、表示通りの方向にキーを入力すれば危機を回避できるというもの。一度の入力で成否が決まるものもあれば、制限時間内に複数の入力を成功させる必要があるものもあります。敵の視界に入らないように進んでいく場所で、見つかったペナルティとして発生する場合もあるなど、シチュエーションと組み合わせたバリエーションも存在。これら十字キー入力のアクションは、失敗したら即死となってしまうので要注意です。
いずれのアクション要素もいつ発生するか初見ではわからないので、つねに緊張感を持ったプレイが要求されます。なおゲームオーバーになってもコンティニューすれば、セーブした場所に関わらず直前からプレイを再開できる点は親切設計。謎解き、アクションともにそこまで難易度が高いものではないので、いずれか、もしくは両方が苦手な方でも、少しがんばれば物語を見届けられることと思います。
追加シナリオ“Bloodモード”であの結末がより味わい深く
※この項目では本編トゥルーエンドの内容にほんの少し触れているので、些細なネタバレも見たくない方には読み飛ばすことを推奨します。
リメイク版の追加要素でも大きな目玉となっているのが、新たなシナリオが楽しめる“Bloodモード”。これは本編でトゥルーエンドを迎えた後に解禁される2周目用モード。基本的に本編のゲーム展開をなぞっていくことになるのですが、その中で紡がれる物語は、まったくの別モノになっています。
本編トゥルーエンドの結末は「どうしてこうなってしまったの?」と、若干モヤモヤが残るものの、そのちょっと心地の悪い余韻は、ホラー作品ならではのすばらしいものでした。ただ、この結末になる伏線はゲーム内で読めるいくつかの資料などに散りばめられていたものの、プレイヤーの想像に任せる部分が大きかったように思います。
“Bloodモード”ではこの結末にいたるまでの、ドレヴィス家にまつわるいくつかの新しいエピソードが明かされ、あのエンディングが必然であったことがより鮮明に描かれることに。それらは、人によっては物語の解釈がひっくり返ってしまうかもしれない、重大な要素となっています。
すでに仕掛けの解きかたがわかっている2周目以降にプレイするモードであることに加え、仕掛けをスキップできる箇所もいくつかあり、おそらく1時間前後でクリアーできるはず。『Mad Father』の世界に魅せられたプレイヤーには、ぜひ結末を見届けてほしいモードです。
この冬、名作ホラーの決定版をぜひ
極度にホラー表現、残酷描写が苦手な方におすすめするのはためらわれる『Mad Father』。しかしそれ以外の多くの方は、ストーリー、演出、ゲームシステムの相乗効果による恐怖を、抑えめな難易度もあって、きっと最後まで満喫できることと思います。
新たに追加された“Bloodモード”で明かされるエピソードも含め、物悲しさ、やるせなさの残る物語は、いまでも色あせていません。また、プレイした者同士で議論をしたくなるような、考察の余地があるのも大きな魅力です。
グラフィックやシステムも改良され、決定版といえる進化を遂げた名作に、ぜひ触れてみてください。