『バルダーズゲート』シリーズや、『ネヴァーウィンター・ナイツ』シリーズ、『ドラゴンエイジ』シリーズなど、RPGの開発を得意としているカナダのデベロッパー・BioWare。そのBioWareが開発を手掛ける人気シリーズのひとつが、『Mass Effect(マスエフェクト)』シリーズだ。

 2021年5月15日、エレクトロニック・アーツより『マスエフェクト』シリーズ3部作を1本にまとめ、リマスター&多彩な変更点を加えた『マスエフェクト レジェンダリーエディション』が発売された。これまで配信されていたダウンロードコンテンツ(DLC)も“ほぼ”すべて収録されている(詳細は後述)。対応ハードはプレイステーション4、Xbox One、PC(Origin、Steam)となっている。

 本記事では『マスエフェクト レジェンダリーエディション』のレビューをお届け。プレイはPC版でおこなった。基本的な内容はオリジナル版と同じなので、おもに変更されている点をメインに解説する。と、その前に、まずは『マスエフェクト』シリーズとはどんな作品なのか紹介していこう。

『マスエフェクト』シリーズとは?

 初代『マスエフェクト』はXbox 360とPCでリリースされたタイトルで、日本の場合はPC版が英語版しかなかったため、実質Xbox 360専用タイトルといったところ。物語の舞台となるのは、地球や火星などが存在する、惑星間移動が可能になった22世紀の銀河系。プレイヤーは地球連合軍の少佐・シェパードとなり、多彩な惑星を渡り歩きながら、過酷な任務に挑んでいく(のちに少佐から昇格する)。

 主人公はキャラクタークリエイトが可能で、男性・女性といった性別から、見た目やクラスなども変更可能。デフォルト名は男性ならジョン、女性ならジェーンとなっているが、名前も変更可能だ(ただし、シェパードという姓は変更不可)。

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 ゲームは1作目のみ特殊ではあるものの、基本的には三人称視点で進めるTPS。さらにステータスやレベルの概念、装備の変更などといった要素もあり、RPG色も強い。TPS型アクションRPGというゲームシステムが、本シリーズの特徴である。

 銃で敵を撃つのはもちろんのこと、ハッキングなどが得意な“テック”や重力や衝撃波をあやつる“バイオテック”などといった能力もあり、プレイヤーは選んだクラスによってさまざまな立ち回りが可能だ。

 BioWareの作品は会話の選択肢が非常に多いことが特徴で、『マスエフェクト』シリーズも選択肢がかなり多い。かつ、選択肢が物語の重要な鍵を握っている。シリーズ作品の中で、シェパード少佐はときに苦渋の決断を迫られるような場面もいくつかある。その選択は、のちのシリーズ作品にも影響する。

 セーブデータを引き継ぐことで、『マスエフェクト』で起こした行動が、『マスエフェクト2』、『マスエフェクト3』にも影響するなど、シリーズを通してプレイヤーそれぞれが異なるドラマ体験ができるのも、大きな魅力のひとつだろう。なおキャラクターたちとの恋愛といった要素もある。

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初めて遊ぶ人にはうってつけ!

 そんな『マスエフェクト』シリーズ3本をリマスターし、さらにダウンロードコンテンツも遊べるのが、今回の『マスエフェクト レジェンダリーエディション』だ。

 初代『マスエフェクト』はXbox 360のみで発売されたということもあり、遊んだことがないという人も少なからずいるのではないだろうか。『マスエフェクト2』はXbox 360、プレイステーション3でも発売された。ただ、『マスエフェクト2』のXbox 360版は、追加ミッション系のDLCが日本では配信されなかった。しかしプレイステーション3版はもとから『マスエフェクト 2 ボーナスコンテンツ コレクション』として、追加ミッション系のDLCも含まれた状態での発売となったので、プレイステーション3版のみ追加ミッションを含んだDLCが遊べる状態だった。

 筆者は初代『マスエフェクト』からデータを引き継ぎたいがハードが違うという理由から、Xbox 360版の『マスエフェクト2』を遊んだ。そのため、プレイステーション3版で追加ミッションなどを経験しなかった(もうひとつの理由としてはドラマ的に、違うシェパード少佐を作って経験したくなかった気持ちがあった)。というように、日本においては1作目から3作目まですべてを遊び切るのがなかなかに難しかったという事情がある。

 だが『マスエフェクト レジェンダリーエディション』は、3部作のすべてを一挙に体験可能。セーブデータも当然引き継ぎ可能で、すべて日本語字幕化対応されている。以前まではありがちだった“どのハードで遊べばいいんだろう?”というような、ややこしいところを考えずに遊べるのは、非常にうれしいところ。シリーズファンにはもちろんのこと、まだ『マスエフェクト』シリーズを遊んだことがない、という人にはうってつけの1本となっている。

グラフィックはすべてリマスター

 オリジナル版もかなり綺麗な印象だったが、グラフィックはすべて4K Ultra HDでリマスターされ、さらにHDR(ハイダイナミックレンジ)などビジュアル効果の追加にも対応し、より美麗な画面でゲームを楽しめるようになった。とくに初代『マスエフェクト』2007年11月16日発売(海外版の発売日。日本版は2009年5月21日)は、もう14年前のゲームであることもあり(まじかよ……)、グラフィックは劇的に進化している。

 テクスチャはより高画質になり、さらには被写界深度(簡潔に言うと、画面のぼかし)などの要素も加わり、これまで以上に没入感の高い画面となった印象。惑星ごとに異なるライティングの違いなど、オリジナル版を遊んでいる人ならば「おっ!」と思うだろう。なお、ほかにもサウンドなどもすべてリマスターされているほか、ワイドモニターへの対応など、多彩なアップグレードが含まれている。

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被写界深度によりシーンのメリハリがつくようになった
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マスエフェクト
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マスエフェクト2
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マスエフェクト3

DLC&マルチプレイについて

 最初に、『マスエフェクト レジェンダリーエディション』には“ほぼ”すべてのDLCが収録されているとお伝えした。ほぼ、と言ったのは、一部含まれていないDLCがあるからだ。

 ひとつが、『マスエフェクト』の“Pinnacle Station(ピナクルステーション)”という、バトルをメインにした追加コンテンツ。こちらを開発したのはBioWareではなく別の会社であるということもあり、どうやら元となるソースコードが使えない状態だったため、あえなく収録を断念したとのこと。

 もうひとつが、『マスエフェクト3』のオンラインプレイに関するDLCが、すべて収録されていない。というのも、『マスエフェクト レジェンダリーエディション』の『マスエフェクト3』は、オンラインプレイに対応していないからだ。

 なお、たとえばDLC武器は特定のキャラクターなどから一気に入手できるような仕組みもあったが、本作ではゲーム進行に合わせてDLC武器も手に入れられるというような仕組み。つまり、序盤からいきなり強いDLC武器で戦える、というような状況が(ほぼ)ない。

ランチャーからゲームを起動しよう

 さて、『マスエフェクト レジェンダリーエディション』はランチャーから3作品のいずれかを選んで、ゲームを開始する。開始前には全体のオプション変更も可能で、とくに字幕の大きさはここでしか変更できない重要なところなので、自分の好みの字幕の大きさにしよう。

 ちなみに各タイトルごとにゲームを始める前に、必ずオプションを確認してもらいたい。筆者の場合、『マスエフェクト』と『マスエフェクト3』は、デフォルトの設定が字幕オフの状態になっていた(『マスエフェクト2』は問題なし)。日本語字幕が表示されないままプロローグが始まってしまうので、1作目、3作目は字幕をオンにしよう(PC版のみの問題かも?)。

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字幕サイズが小さいゲームも最近は多いが、中でもそこそこの大きさだったので、中でもオーケー。ゲーム配信とかを考えたら、視聴者向けに大がいいかもしれない。
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字幕の有無は必ず確認するのがオススメ(もちろん英語が聞き取れる人はなくても問題ない)。

キャラクタークリエイトが統一!

 これまで『マスエフェクト』シリーズは、シリーズ作品ごとにグラフィックが大幅に異なり、たとえば『マスエフェクト2』から『マスエフェクト3』にデータを引き継いだとしても、外見がかなり変わってしまうという問題があった。

 『マスエフェクト レジェンダリーエディション』はキャラクタークリエイトが統一化されており、全作品をまったく同じシェパード少佐でようやく遊べるようになったわけだ。さらに、キャラクターも肌の色や髪型などのカスタマイズできる項目が増えた。なお、データを引き継がずとも、キャラクターコードを入力すれば、どのタイトルでも同じ容姿で遊ぶことも可能。ほかの人が作ったキャラクターを使う、ということにも使えるだろう。

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セクシーシーンが排除

 もしかしたら賛否両論かもしれないが、オリジナル版は登場キャラクターのひとり・アマンダ博士などのお尻をやたらとアップで映すカメラアングルが多かった(当時“Ass(お尻)Effect”などと揶揄されていた)。また、女性主人公を選んだ場合、ミニスカートの衣装なのに大股開きでイスに座って、おパンツ丸見えシーンになってしまう、なんてことも。

 本作ではそういったセクシーシーンは極力排除され、カメラアングルの調整がされている。個人的にはちょっとナンセンスな要素なので、まぁなくていいかなという印象。もちろん人によっては残念だとは思うが……。もちろん、キャラクターたちとのロマンスがなくなっているわけではないのでご安心を。

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1作目から遊ぶ必要はなし

 筆者としてはイチからシェパード少佐の活躍を楽しんでほしいが、もし2作目から、3作目だけ遊びたいなどという場合も問題なし。ゲームスタート時に前作のストーリーを描いた『Mass Effect: Genesis』というコミックを読むことができ、そこでは選択肢も登場。前作を遊んでいなくとも「シェパード少佐はこのときどんな選択をした?」という重要な部分をいくつか選べるので、あらすじを知りながらも疑似的なセーブデータ引き継ぎが可能なのだ。

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タイトルごとの違いについて

 ここからはタイトルごとの違いについて解説していくが、『マスエフェクト2』と『マスエフェクト3』は、さほど変更・追加点はない。というのも『マスエフェクト』だけがかなり特殊なゲーム性になっていたからだ。では、『マスエフェクト』のおもな変更・追加要素を解説していく。なお、今回ピックアップした要素以外にも、多数の変更・追加要素がある。

『マスエフェクト』

 シェパード少佐の成り立ちから、のちの戦争がなぜ引き起こされたのか? “リーパー”とは何なのか? など、すべての発端や物語の設定が詳しく語られる、シリーズで最も重要とも言えるのが、初代『マスエフェクト』。

 『マスエフェクト』はTPSのスタイルではありつつも、RPGを得意とするBioWareらしく、RPG色がかなり強い作風だったのが特徴であり、賛否がわかれる点のひとつだった。それらが、のちの2作に近くなるように統一され、より遊びやすくなっている。

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バトル外でもダッシュ可能

 本来シェパード少佐はバトル中のみダッシュが可能で、これはどちらかというと遮蔽物に素早く近づくための機能だった。しかしバトル外ではダッシュできず、広大な街などの移動はややかったるい印象があった。

 本作ではバトル外でもダッシュができるようになり、少しだけ移動が楽になった。ただ、『マスエフェクト2』のように、走り続けると息切れして走れなくなる仕様。しかも息切れするまでの時間が、非常に短いので、あまり有効な追加要素とは言えない印象。もし移動を楽にしたい、という名目で追加したのならば、息切れしない仕様にしてほしかった。

命中率の事実上の廃止

 『マスエフェクト』は一見TPSでありながらも、じつは裏では命中率や回避率などのサイコロを振り続けている、老舗のBioWareらしいシステムが採用されていた。これにより“狙っているのに当たらない”なんてシーンも、しばしばあった。今回は命中率のステータスが、そのまま武器の威力に加算されるようになり、狙ったところは外さない仕様となっている。

射撃が扱いやすくなった

 オリジナル版は銃を撃った際のレティクルの広がり非常に大きく、ちょっと撃つだけでレティクルが大きくなり、制御が大変だった。本作ではレティクルの広がりが抑えられ、取り回しがよくなった。

 また、スナイパーライフルは覗くと手ぶれが激しく扱いにくかったが、手ぶれ自体が削除された。ほかにもエイムアシストが改良されるなど、戦闘でのストレスが軽減された印象。

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近接攻撃がボタンで出せるようになった

 オリジナル版の近接攻撃は敵に近づくと自動的に発動するものだったが、近接攻撃ボタンが追加され、任意で攻撃できるようになった。これにより勝手に近接攻撃が発動してしまう、変なタイミングで近接攻撃が発動して逆にピンチになってしまう、というような状況がなくなった。

クラスごとの武器ペナルティ削除

 クラスごとに得意武器が存在し、オリジナル版では得意武器以外を使うと弱体化するという仕様だった。本作ではペナルティが排除され、制限を考えずに武器を自由に切り替えながら戦えるようになった。ただ、特定の武器を強化、またはアップグレードする機能はそのままなので、クラスの特性という部分はそのまま残されている。

すべての敵のヘッドショット判定

 オリジナル版は、人型の敵など、一部の敵にしかヘッドショット判定がなかった。世界観設定などにこだわりを持つBioWareだからこそ、機械生命体などのヘッドショット判定はあえて失くしてしたのではないだろうか。本作ではゲーム的な部分も考慮されて、すべての敵にヘッドショット判定が付くようになった。

仲間個別に指示が出せる

 本作は3人1組になって戦うシステム。ほかのふたりの仲間には、オリジナル版でも指示ができた。しかし全体指示なので、ふたりが同じ行動を取る。本作では個別に指示を出すことができるようになり、より多彩な戦略が取れるようになった。

 また、オリジナル版の仲間たちははっきり言って頼りなかったが、本作ではしっかりと戦ってくれるのでようやく心強い味方が得られたな、という印象を受けた。

探索車両がパワーアップ

 惑星探索車両“M-35 Mako”に乗り込むシーンでは、M-35 Makoを操縦して探索・戦闘を進める。オリジナル版のM-35 Makoは、なぜかとても軽い作りになっていて、大きく飛び跳ねて制御不能になるなど、ちょっと遊びにくい部分があった。

 本作ではそれらが見直され、より探索車両を操作している感がアップ。さらにはブースターなどが追加され、M-35 Makoを操作するシーンがグンと楽しくなった。

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『マスエフェクト2』

 RPG色の強かった前作から一転し、TPS色が色濃くなり、アクションゲームらしさが増した『マスエフェクト2』。『マスエフェクト』は弾数は無限だったが、『マスエフェクト2』より銃の種類ごとに弾丸が登場し、弾数のマネジメント要素も取り入れられた。

弾薬が落ちやすくなった

 『マスエフェクト2』は倒した敵が弾薬をドロップする機会が少なく、弾切れを起こしやすい印象だった。今回は弾薬ドロップ率が調整されたため、ある程度は弾切れの心配をせずに戦えるようになっている。と言っても、弾薬節約のために、弱い武器を駆使して敵を倒すなど、別のやり応えがあったのも事実だが。

重大なバグが直された

 『マスエフェクト』シリーズにはパラゴン(善)、レネゲイド(悪)というような好感度的なシステムがある。オリジナル版はそこに大きなバグがあり、後述の重要なストーリーイベントに関連するところに関与していたため、クライマックスに大きな影響を与えていた。本作ではそこのバグが直されているので、少しだけ準備がやりやすくなっている。

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『マスエフェクト3』

 よりアクションに特化し、とくに遮蔽物に隠れるカバーアクションがパワーアップ。敵も手ごわくなり、バトルがより激しく楽しめるようになった。3部作の物語の終わりであり、前2作での選択がストーリーに影響する。また、戦闘がカンタンになるストーリーモードや、選択肢を選ばなくていいアクションモードといった新モードが登場。

戦争が楽になった

 ネタバレは極力控えるが、物語は最終局面を迎えると、全銀河の勢力が戦争をするフェイズに移行。シリーズの中での行動によって、そのとき誰が味方に付くのか、という部分が増加したり変わったりする。前述の『マスエフェクト2』の修正により、そこが改善されたというわけだ。

 また、戦争の中で、プレイヤーは軍事力を溜めていくことになる。その結果に応じて、エンディングなども変わってくるのだが、オンライン要素などが排除されたため、そのあたりがシングルプレイでもやりやすくなった。

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宇宙規模の危機に立ち向かえ!

 以上が、『マスエフェクト レジェンダリーエディション』の概要となっている。物語はすべてつながっており、しかも1本1本が壮大なドラマとなっているので、圧巻のプレイボリュームで楽しめるのが大きな魅力。

 『マスエフェクト』や『マスエフェクト2』は現代の観点から見るとやや遊びにくい部分があるものの、すべてを引き継いで体験する『マスエフェクト3』は、プレイヤーそれぞれ唯一無二の体験が味わえる。気になる人は、ぜひ購入してみてはいかがだろうか。

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