2021年6月11日、E3開幕に先駆けて配信されたオンラインショーケース“SUMMER GAME FEST”で、アメリカの新興スタジオDeviation Gamesとソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)がパートナーシップ契約を締結し、新規オリジナルIPのAAAタイトル(※)を開発することが発表された。(※超大作ゲームのことを指す)

 Deviation Gamesは、FPS『コール オブ デューティ ブラックオプス』などのディレクションや製作総指揮を務めた、デイブ・アンソニー氏とジェイソン・ブランデル氏らが立ち上げたスタジオ。すでに100名以上のスタッフを集め、今回発表された契約に基づいてゲーム開発を進めているという。

 今回本誌では、両氏およびSIEでPlayStation Studiosの統括責任者を務めるハーマン・ハルスト氏にオンラインインタビューを行った。まだゲームの内容はまったく明かせないとのことで、意気込みや業界情報的な部分がメインの内容だが、その方向性を探るヒントとしてもらえると幸いだ。

デイブ・アンソニー

Deviation Games CEO

ジェイソン・ブランデル

Deviation Games チーフクリエイティブオフィサー(CCO)

ハーマン・ハルスト

SIE PlayStation Studios 統括責任者

キャリア的に最高の今だからこそ、クオリティに集中した作品を作るため独立した

――今回発表されたパートナーシップはどういう内容なのでしょうか? 誰がIP(知的財産権)を持つのでしょうか? スタジオは独立企業のままですか? 資金の援助以外に『Death Stranding』のように技術提供もあるのでしょうか? 今話せる範囲でその意味するところを教えて下さい。

デイブまず私達は個人投資家からの支援を受けている完全に独立したスタジオです。会社が動き始めたその日から完全に資金的に安定していて欲しいので、これは私達にとって大事なことでした。

 というのもゲーム作りは大変な作業です。開発をやっていて資金的な心配もすることになるとすると、それはあまりよろしくない事態です。本来はゲームのクオリティにこそ集中すべきで、それが何よりもまず優先されるべきことです。これがパートナーとしてソニーを選んだ理由でもあります。クオリティに関してずっと大事にしてきている会社ですから。

 IPに関してはソニーが持ちます。彼らは素晴らしいサポートをしてくれていて、私とジェイソンがどれだけハッピーかお伝えしきれないぐらいです。ここまでのやり取りでソニーがハイクオリティなAAAゲームを生み出すプロセスを持っているのがはっきりわかりますし、そこに加われるのは光栄ですね。非常に重要で意味のある形でソニーのポートフォリオを拡大できるのをとても楽しみにしています。

ハーマン私からはプレイステーションスタジオ側の話をさせてください。私は最高のクリエイターたちと働きたいと思っています。それがプレイステーションスタジオの一員であっても、(今回のケースのように外部の)パートナーであってもです。

 この素晴らしいチームについて私が愛してやまないのは、彼らがともに働くことで彼らの長年の夢を現実の作品にしようという欲望があることです。私にとって、とてつもなくモチベーションのあるクリエイター集団を見つけて、彼らのキャリアで最高の作品を作り出すのを手助けする以上のことはありません。

 ですので、彼らは我々プレイステーションが提供するサポートのすべてにアクセスできます。それはサンタモニカスタジオやノーティードッグやゲリラゲームズなどのために作り上げてきたものですが、そういった内部的に培ってきたもののすべてをDaviationの皆さんも利用できます。これはプレイステーションスタジオにしても外部の独立したパートナー企業にしても不可欠な部分です。

――なぜ新しいスタジオを始めたのでしょうか? たとえば前職での成功を手に早めにリタイアしてみるとか、別の業界に投資してみるとか、イギリスに帰ってみるとかできたわけです。でもカリフォルニアのオレンジ・カウンティでスタジオを立ち上げることにした。なぜでしょう?

デイブジェイソンと私は子供の頃からお互いをよく知っているんですが、ゲームは私たちの血の中に流れてるんです。引退なんてありえませんよ。DNAのように刻まれているものですから、その選択肢はないです。

 私たちは幸運なことにいくつかの巨大なフランチャイズに関わってくることができました。素晴らしい時間を過ごせましたね、本当に。そしてそこからとてもたくさんのことを学べた。

 そうしてゲーム作りをもう長いことやってくることができた。まぁ見た目はまだ若く見えるかもしれませんが、確かに私たちは年季の入ったオッサンで、業界入りたてのひよっ子ではありません(笑)。それで……。

 キャリア的に頂点であるいまこの時こそ、自分たちのためのことをやろうと思ったんです。自分たちのために何か完全に新しい、最初から最後まで集中しきった、とにかくクオリティに執着したゲームを手掛ける時だと。

 クオリティの高いゲームを作るためのクリエイティブプロセスは、決して簡単な道のりではありません。時には間違えることすらも重要な一部だったりする。試行錯誤できる時間と余裕が必要です。よく言われることですが、間違えるぐらいじゃないと限界は超えられません。

 最初から最後までそういったレベルでやりきるというのは、私たちがずっとやりたかったことなんです。そして今それをやれる機会がやってきた。そうするにあたってソニーは完璧なパートナーです。ここまでそういったことをずっとやってきているわけですから。

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両氏はTreyarchが手掛けたCoDブラックオプスシリーズで有名。

スキルと情熱を兼ね備えた型破りな人材を集めた

――いつ頃スタジオを作り始めたんですか?

ジェイソン昨年通してやってきましたね。私たちはゲーム作りでもっとも大事なことのひとつはチーム作りだと思います。まぁ当たり前に聞こえるかもしれませんが、情熱があり、献身的で、コミュニケーションに長けていて、共同作業ができる、そういったチームがいないと始まりません。「愛があれば料理(ゲーム)は美味しくなる」と信じています。

 これは『コール オブ デューティ』シリーズをやっていた時に気がついたことで、チームで働いている時に、自分たちがやっていることが気に入っている場合ってやっぱり、その中にいるとその熱や愛情が伝わってくるんですよ。これはあらゆる分野でそうです。アートでもプログラムコードでもゲームデザインでもね。

 というわけで昨年実は一番大変だったのは求人でした。全員の個人面接をやりましたしね。求めるのはスキルだけじゃありません。というのも、やってきた人材はすべて世界中のゲーム業界から集まってきた腕利きでしたので。プラスαとして求めていたのは、ルネッサンス的な博学な精神というか、単に自分の専門領域のエキスパートというだけでなく、他の分野への関心を持てることでした。

 私たちが何年もやってきてわかったのは、そういう人に出会えたら手放すなってことです。だからそういう、クリエイティブなプロセスを楽しむことができ、他の領域にも興味があって質問したがるような、そんな人たちを集めることにしました。

 現在スタジオ内から湧き上がってきているアイデアや熱情を見るに、そういった開発者たちをまとめられれば、魔法が起こるのは決まったようなものです。デイブと私なんかただ神輿にしがみついているようなものですよ。そういった人々は偉大なものを作ろうと純粋にやっている。そこに同乗できるのは光栄ですね。

デイブひとつ付け加えると、ウチには“従業員”はいないんです。いるのはDeviators(型破りな者たち、逸脱者)です。私たちは現状に満足することにも、すでにやられたことにも興味はありません。私たちがここにいるのはイノベーションのためです。新しくて新鮮でエキサイティングなことをするためです。

ジェイソン誤解されないように言っておくと、単にぶっ飛んでるわけじゃないですよ。スタントを見て「うわ危ない!」と思っても、スタントマンはリスク計算をちゃんとした上でやっているのと似たようなものです。だからマネージメント(管理職)側はリスクと限界の追求のバランスを取れるようにしています。

ハーマンデイブとジェイソンが集めたチームは優れた人材の集まりです。やり取りをしていて印象に残っているのはイノベーションとクオリティを追求する態度だけでなくて、すごく透明性のある組織になっているということです。我々の側のプロデューサーが入っていっても、失敗も隠さず話してくれます。いいことも悪いことも、そこから何を学ぶべきかもちゃんとわかる。素晴らしくオープンな関係を築けていますし、我々の側でもエキサイティングですね。

ジェイソンマイルストーン(開発目標ごとの区切り)ごとに完全にすべてを公開していますね。義務ではないんですけど、本当のパートナーでいてほしいので、クリエイティブなプロセスにちゃんと関わっていてもらおうとしているんです。どういう決定をして何をしているのかが見えるようにしていますし、そこから変えることになってそれがうまくいったらそれはそれで一緒に喜ぶという感じです。

――発表では100人以上のスタッフがいるとのことですが、一見大きい数ではあるものの、AAA開発でのチームサイズとしてはそうではありません。少数精鋭で勝負していくようなタイトルなんでしょうか、それともこれはあくまで現時点の人数で、ここからさらに広げていく前提なのでしょうか?

デイブチームは成長中です。このゲームにかける期待は非常に大きく、大規模なゲームになるのは間違いないので、それに合わせて採用を続けています。

 いつも驚かせてくれるDeviatorのひとりに、最高人事責任者のクリスティ・スタルがいます。彼女のチームの作り方は見たことないです。転職エージェントを使わずにスマートかつ研ぎ澄まされたやり方で人材を見つけてきてくれます。いまスタジオに素晴らしい才能がこれだけ集まっているのは彼女の存在が大きいですね。

 「テクニカルチームはこれでどう?」って言われて面接とかするんですけど、ジェイソンと私はもともとはプログラマーだったにも関わらず(ブランデル氏「大分昔にね」)「あぁ、はいはい、それは私もやったね」って言いながら実際はふたりで「彼が何を言ってるかわかる?」という感じなんですよ。それぐらい進んだ人たちが集まっています。

 でも、このゲームでやろうとしている革新的なことを実現するには絶対的にワールドクラスなテクニカルチームじゃないといけないのでね。クオリティはそこから出てくるわけですから。

 それとプレイステーション5のパワーは驚異的です。私たちが今作っているゲームでは、そのパワーを使って単に見た目をよくするんじゃなく、素晴らしいプレイを実現したいと思っています。

ジェイソン少し付け加えると、採用の時には私たちがいかにワクワクし興奮しているかを味わっているかを伝えられるようにしています。それは実際に入ってきた人たちからも聞いていることだからです。

 業界20年以上のベテランが先日、「あなたたちは業界に初めて入ってきた時の事を思い出させてくれるね」って言ってくれたんですよ。そういうコメントを聞くたびに、私たちの姿勢や雰囲気の点で正しい方向に迎えているという自信が持てますね。

CoD以外にも超大作のコアに関わったスタッフが集結

――ゲーム内容は話せないと思いますが、新作でどのような体験や感情を伝えたいのでしょうか? おふたりは『コール オブ デューティ ブラックオプス』などで有名ですし、すでに有名な配信者をコミュニティマネージャーで雇っていたりするので、マルチプレイがあるんじゃないかと思いますが……。いきなりハードコアなシムシティとか恋愛シミュレーションゲームを作るわけじゃないですよね?

ジェイソンまずい、バレてるぞ!(冗談)

デイブどんなゲームになるか話すにはまだ早すぎるのでそれは言えませんが、これまでお話したように、重要なのは私たちにとってもチームにとっても、これまでのキャリアの中でかつてないくらい高いクオリティの体験にするということです。スタジオの成功についてそれ以上気にかけていることはありません。それこそがこれをやっている理由です。

 私たちはゲーム開発人生のピークにいて、業界のベテランによるコアチームがスタッフを率いています。何人か例をあげさせてください。

 デイブ・コサック(クリエイティブディレクター)は『World of Warcraft』と『ハースストーン』のリードデザイナーのひとりで、彼は天才です。オンラインのことをよくわかっていますし、一緒に働くのが本当に楽しい人物です。物事を見る際のまったく違った視点を与えてくれますし。素晴らしいチームというのは議論をぶつけあってこそ生まれます。

 ジェイミー・マクナルティもいます。公式サイトには載っていませんが私たちのアートディレクターでさまざまな素晴らしいゲームに関わってきましたが、特筆すべきは初代『バイオショック』でしょう。今でも非常にユニークなアートスタイルのゲームですが、彼はアートチームのキーメンバーのひとりでした。『ギアーズ オブ ウォー』の4と5でもコアで関わっています。彼から学ぶことは多いですね。

 そしてベテランだけでなく、育成のための若くてフレッシュな人材も交えたいい配分でいることを目指しています。成長を促進できる場所になっていると思いますし、それだけに採用にはそれぞれじっくり時間かけて、正しい才能、正しいポテンシャルを持つ人を求めています。

ハーマンそういったレガシーのあるスタッフとフレッシュな人材の組み合わせ、イノベーションへの意思、そしてこの組織が示しているクリエイティブなビジョンは本当にエキサイティングです。そういう才能のあるチームに関われるのは素晴らしい機会ですし、プレイステーションスタジオとしてもそういった信念を追求してきましたから、このパートナーシップに大変満足しています。

PS5の性能を、単に見た目を良くするのではなく、革新的なゲームプレイのためにこそ使う

――新世代のゲーム機や最新の技術、あるいは流行のゲームデザインなどで、今もっとも興奮していることはなんでしょう?

ジェイソン家庭用ゲーム機として、プレイステーション5のパワーには驚かされましたね。ゲームでどういうことができるかいろいろ考えさせてくれます。

 たとえばローディングの速度、データをシステム領域に読み込ませるスピードは画期的です。扱える世界のスケールや、イマジネーションのスケールやアイデアをもっと……口を滑らせないようにするのが大変なんですが、以前ならいろいろズルをしないと実現できなかったようなアイデアを超えられる。やろうと思えば、そういったトリックなしで実際にできてしまうわけです。

 ゲーマーとしても、より大きな世界、より広大なものがそこにある感じというのはいいですよね? より多くのコンテンツをプレイヤーの手の届く実際のものとして高速に出せるのは、以前の世代ではできなかったプレイステーション5ならではの部分です。

 毎晩あれこれ考えて「あ、こんなことできるな! これもできるじゃないか!」とやっています。素晴らしいですよ。

デイブ前世代のハードを振り返った時に、基本的にはゲームがより見た目がよく、やれることの範囲が大きく、ステージも大きく、テクスチャーもより細かいといったことを見るでしょう。

 でも自分としては、プレイステーション5が本当に完全に革新的と言える真価を発揮するのはビジュアルの点だけでなく、あの性能を活用したゲームプレイだと思います。どうあの性能を使うかという点で私たちが狙っているのもそこです。(見た目だけでなく)これまでは不可能だったゲーム体験を実現したいですね。

ハーマン私も今の話に賛成です。単に技術やグラフィックがどうというより、大事なのはそれによって実現されるストーリーや体験なわけです。私たちはストーリーテラーなわけですから。

 彼らの信じられないほどの創造的なビジョンがどのように実現されるか、今から待ちきれないです。