『ラチェクラ』誕生のヒミツに迫るインタビュー2本立て

 2021年6月11日にソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)よりリリースされた、プレイステーション5(以下、PS)用ソフト『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』。歴代PSハードで展開されてきた人気アクションアドベンチャーゲームのシリーズ最新作で、ロンバックス族の青年ラチェットと相棒のロボット・クランクが、PS5の圧倒的なビジュアルと超高速SSDが生み出す新たな銀河で冒険をくり広げる。

 本作では、別次元のラチェットも言うべき存在の女性ロンバックス族・リベットが、プレイアブルキャラクターとして初めて登場。ストーリーの序盤で離れ離れになってしまったラチェットの代わりとして、クランクとパートナーと組むことに。最初はぎこちなかったふたりが、冒険を通して絆を育んでいく様子や、ラチェットとリベットの邂逅など、これまでのシリーズ作品とはひと味違った見どころが満載だ。

 そして『ラチェット&クランク』シリーズと言えば、洒落のきいたセリフ回しで展開されるコメディータッチのストーリーも大きな魅力。それを的確に日本語にするのは、相当な困難があったはず。ここでは、2本のインタビューから、その舞台裏を探っていく。

 1本は、SIEスタッフとしてローカライズを担当した石立大介氏と立山斉氏へのインタビュー。そしてもう1本は、初代『ラチェット&クランク』からローカライズを担当し、本作でもローカライズに参加している鶴見六百氏へのインタビューだ。どちらも意外な秘話満載なので、ぜひご一読を。

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石立大介氏(いしだて だいすけ)

SIE/ローカライズプロデューサー

立山 斉氏(たてやま せい)

SIE/ローカライズスペシャリスト

鶴見六百氏(つるみ ろっぴゃく)

初代『ラチェット&クランク』からシリーズの制作に携わってきたゲームクリエイター。最新作『パラレル・トラブル』でも制作に参加。現在は株式会社アーゼスト所属。

石立大介氏・立山斉氏へのインタビュー

『ラチェット&クランク』シリーズならではのローカライズへの強いこだわり

──『ラチェット&クランク』シリーズはコメディータッチのストーリーで、ダジャレやギャグが多く、日本語にするのが難しそうな印象があります。今回はいかがでしたか?

立山本作もそうですが、本当にダジャレやギャグが多く、直訳してもまったく『ラチェクラ』のよさが伝わらないので、ギャグにはとても苦戦させられます。英語のギャグを難しく考えすぎてしまうと、翻訳が固くなってダメになってしまうので。『ラチェクラ』の台本は、開き直って頭のおかしいノリで書くしかないんです!(※『ラチェクラ』で「頭のおかしい」は、最大限の誉め言葉ですよ)。

 たとえば、脳内をキャラクターによって塗り替えていきます。おかしいおじいちゃん、わがままガキ大将、好戦的超ハイテンションJK、やさぐれたパリピ、洗脳された異様に明るいロボ兵、エセフランス語をしゃべるお調子者、ちょっぴりゲスくて怪しい商売人……。こうやって並べると本当にまとまりのない作品にしか見えませんね(笑)。でもそのノリで書いていると、キャラクターが言いそうな“おもしろ台詞”が咄嗟に降ってきたりします。

 悩んだときは、“頭おかしい”の大先輩ズである、初代『ラチェクラ』担当の鶴見さんと、本作のローカライズプロデューサーである石立に相談して、みんなでイカレっぷりを追求しました。

――イカレっぷり(笑)。

立山そう、まさしく5年ぶりのドクター・ネファリウスのイカレっぷりに悩まされていたときに、鶴見さんに「頭のおかしいおじいちゃんを降臨させるんだよ!」って言われまして(笑)。必死で召喚しましたよ、頭のおかしいおじいちゃん。気づけば、「あひゃあ!」とかつぶやきながら変なゾーンに入っていました。

 ローカライズの台本作りでは、原音の尺に合わせて日本語の長さが合うか、声に出しながら台詞を作っていきますが、「親愛なる下僕どもへ」とか「痛いのはイヤンであります!(ラチェットの攻撃を食らって)」とか、「ワクワクの殺戮タイム~♪(おやつタイム~なノリで)」とか、もう自分でやっていて楽しくなっちゃって。それがクセになりそうで、ラチェクラの台本のあとは自分の言動が怖いです(笑)。

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』インタビュー。コミカルでユニークな世界を生み出したローカライズチームを直撃!

──――ゲーム中の端々から聞こえてくるセリフが隅々まで徹底してコミカルで、プレイしていて本当に楽しいですよね。

立山『ラチェクラ』のノリには、“音で聞くおもしろさ”がすごく重要だと思っています。たとえば、単純な「ぐあぁ!」などのやられ系の音があったとき、原音がシリアスに聞こえても、日本語版ではあえて苦しそうな表現は避けて、「あひゃひょ~ん」とか、音で聞いて「何それ?」とぷっと笑えそうな台詞にしてみたり。全部が全部そうだと「何語の台本?」となってしまうので、適度に散りばめる感じですが、「あれ?」や「なに?」もあえて崩して、「はへぇ?」や「なにゅぅ?」にしてみたり。キノコ型兵器には、やられながらいろいろなキノコの名前を叫んでもらったり。『ラチェクラ』の台本は、楽しんじゃったもん勝ちです。

石立ヤラレ音声などをローカライズしたのは、全世界でも日本語だけだったはずです。作業量が一気に増えたのでたいへんではありましたが、敵が撃たれたり、ヤラレたりしたときの声などが日本語化されていることで、ゲーム全体のリズムや躍動感が増して、さらに楽しくなったと思います。

──新キャラクターのリベットは、“女性ロンバックス”といういままでにないタイプのキャラクターですが、日本語をあてるにあたって注意したところ、苦労したところはありますか?

立山リベットいいですよね! あのもふもふシッポといい、見た目もとてもキュートで。ローカライズしながらずっときゅんきゅんさせられました。最初にインソムニアックから、別次元の「もうひとりのラチェット」だと聞いていたのですが(ゲーム内では“パラレル・ツイン”と呼んでいます)、そのストーリーもすごくステキで、リベットの葛藤や成長、ほかのキャラクターと築く絆や関係性がとても大切に描かれていて、ストーリー資料を読んだだけでリベットが好きになっていました。

 しかも新しいプレイアブルキャラなので、ユーザーにとってものすごく身近な存在になること間違いなし。「リベットに感情移入することで本作のストーリーにより引き込まれる、だからリベットの魅力を最大限引き出すんだ!」というのが出だしから注力したポイントです。

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』インタビュー。コミカルでユニークな世界を生み出したローカライズチームを直撃!

――やはり、相当に気合を入れて臨んだポイントだったのですね。

立山そのためにプロジェクト開始時に鶴見さんと石立とも、リベットのキャラクターを練りに練ったのですが、それを維持するたいへんさが最初はありました。たとえば、気を抜くとラチェットになっちゃったりするんですよね。パラレル・ツインなのでラチェットに似せた口調をところどころ盛り込んだのですが、そもそも少年であるラチェットの語尾も大人っぽくなりすぎずのバランスが難しく。

 それを“女性版ラチェット”仕様で適度なラチェットっぽさを引き出そうにも、最初はみんないろいろな方向にイメージが偏って、リベットの特徴を決めた後も、人によってやんちゃボーイっぽくなったり、姉御っぽくなりすぎたりして……。「~だかんな」とか「~わ」などの語尾は避けて、台詞ひとつひとつに注意して、たまには台詞の別パターンも試しながら「リベットらしさ」を追及していきました。

 そしてリベットは、本作でいちばん心の変わりようが描かれるキャラクターのひとりで、シーンごとにその心境の変化を盛り込んでいたのですが、時系列順にローカライズしたわけではありません。ストーリー後半のシーンが、前半のシーンに混ざっていたりでの進行だったので、シーン内でキャラクターがブレないよう慎重にやりました。

 まだ映像もゲームプレイもできあがっていないシーンで、「いまって、このキャラクターとどのくらいの心の距離感だっけ?」って考えたり。収録しながらも、「この台詞は完全に打ち解けていないのでツンデレっぽく」とか、「微妙に心を開きかけてるけどやさしくなりすぎず」とか、バランスが難しかったです。本当に複雑なキャラクターで、逃げ道のひとつとして、基本的には「自信満々で前向きだから」という設定にしてあります(笑)。

──吹き替えを担当した役者さんは、いままでと同じ方々でしょうか?

立山  過去作のキャラターたちは、いままでの役者さんたちにご担当いただいています! 石立も私も、なんとかおなじみの役者さんたちに戻ってきてもらいたいとは思っても、メインの役者さんは超ベテランの方も多く、前作の『THE GAME』から5年も経っていて声優業から離れている方もいらっしゃるし、最初はもしかしたら何人かキャスト変更が必要になってしまうのでは……とハラハラしていました。でも、役者さんたちからもぜひ参加したいとご快諾していただき、無事全員「お帰りなさい」してもらうことができました。

 ラチェット役の津村まことさん、クランク役の大川透さん、ドクター・ネファリウス役の山野史人さんのほかにも、この質問に答えている段階では未発表の懐かしいキャストもいるので、ぜひ本作でチェックしてください。

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』インタビュー。コミカルでユニークな世界を生み出したローカライズチームを直撃!

──新キャラクターのリベット役の方は、どのような基準で選ばれたのでしょうか?

立山リベット役の選定基準は、まず何よりもラチェットとの声の相性で、「やんちゃ少年」であるラチェットとお似合いの「かわいい少女」ボイスをイメージしました。英語版のリベットは少し大人びたふうですが、津村さんのラチェットに合わせるために日本語版のリベットも年齢層を下げています。

 演技の面で重要視したのは、ひとりでなんでも乗り切ってしまう戦士としての“勇ましさ”と“前向きな自信”、心を開く前の“ツン要素”に見え隠れする“やさしさ”や“面倒見のよさ”、過去のトラウマによる“繊細さ”など、けっこう細かなイメージがありました。

 ただ、少女と言ってもかわいくなりすぎず、戦士と言ってもボーイッシュになりすぎずなど、バランスが難しく、自分の中のリベットのこだわりもけっこう膨れ上がっていました……。そんな役者さん、一発で見つかるわけないよな、と思ってしまうくらいに。

――プレイしてみると、立山さんのおっしゃる理想のリベットそのものであると感じました。

立山はい、それらを兼ね備えていたのが本泉莉奈さんだったんです。オーディションで本泉さんの凛としたかわいらしいリベットを聞いたとき、イメージぴったりだと思いました。強いけど健気さもあり、ハキハキしているけどお茶目さもあって、ハチャメチャなキャラばかりの『ラチェクラ』でも印象に残る、主人公向きの声だなぁと。

 でもいちばんの決め手は“雄たけび”だったかもです。オーディション台本の最後に、ムカデ型の大きな敵に向かって「うぉおおお!」と獣のごとく飛びかかるリベットの台詞を入れてあったのですが、本泉さんのそれを聞いたとき、「あ、これだ」となりました(笑)。本当に「かわいい」と「かっこいい」のパーフェクトバランスなんですよね。開発や海外ファンからも、「日本のリベット好き!」という声が寄せられ、とても人気です!

――収録はスムーズに進みましたか? 収録を通じて感じたことなどありましたら教えてください。

立山本作のキャラ付けが濃すぎて、初めて『ラチェクラ』に出演いただく役者さんたちは、キャラ付けや説明でけっこう難航するんじゃないかと心配しながら収録スタジオに向かいました。しかも最初のころは、映像もほぼない状態での収録だったので、キャラクターのイメージも掴みづらい……。

 でも実際に収録がスタートしたら、めちゃくちゃスムーズだったんですよ! 収録当日まですごく悩んでいた重要な敵キャラもいて、何パターンかのキャラクターを演じてもらっていちばんいいものに決定しようと思っていたんです。とりあえず役者さんに台本のイメージに沿って演技してもらったのですが、一発目の演技で圧倒されました。間抜けさとおっかなさの絶妙なバランスもすごかったのですが、何よりも緊迫したシーンでのその圧倒的な威厳に、思わずラチェット風の「かっけぇえ!」が飛び出ちゃいました。多くを語らなくても、『ラチェクラ』の世界観に合わせて最高の演技をしてくださる声優さんたちの適応力、想像力や柔軟さに感銘を受けました。

 そして何より役者さんたちが、「こんなキャラ初めてでおもしろい!」と楽しんでくださったのがうれしかったです。きっと役者さんたちもふだん使わないような声音だったり、社会的に見て「あぶねぇ!」と思うようなおかしなキャラたちを演じるのが爽快だったのかな、と(笑)。

――僕らプレイヤーにも、楽しんでいる雰囲気が伝わってきている気がします(笑)。

立山あと、本作の演出を担当してくださったディレクターの津司大三さんが、役者さんをあおるのが上手で! 役者さんが迫力ある演技をしてくれた後に、「いい感じですが、もうひと狂い、いけますかね」と、キレッキレの表現力でさらにとんでもない演技を引き出してくださって。その後、私と鶴見さんのあいだで「もうひと狂い」が流行りました(笑)。

 本当にいろいろなおもしろ発言が生まれる現場で、『ラチェクラ』では「“おもしろい”が正義!」なのだと実感しました。みんなが楽しいノリで演技しているときに、予想をはるかに超えるおもしろいものが生まれる、そんな貴重な現場なのだなと。

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』インタビュー。コミカルでユニークな世界を生み出したローカライズチームを直撃!

――そのほか、本作の日本語化にあたって苦労したところや、とくに注目してほしいところなどがありましたら教えてください。

石立もちろん、さまざまなトラブルやアクシデントに加えて個人的なもろもろもあったのですが、本作は『ラチェット&クランク』シリーズの中でも有数の楽しさですので、作業は本当に楽しかったです。

立山本作では苦労も楽しいも紙一重なようで、やっている最中はたいへんだったこともあるかもしれませんが、終わって振り返ってみると楽しかった思い出で埋め尽くされています。

 注目していただきたいのはパラレル・ツインたちです。本作のキャラ作りのハードルを上げていたのが、過去作の別次元の存在として登場するキャラクターたちです。初代『ラチェクラ』のキャラクターたちは鶴見さんが濃ゆ~くキャラ付けされているので、「パラレル・ツインたちも負けないくらい濃ゆくしてやるぜ!」という気持ちで、マイナーなキャラクターまでとことん練りました。結果、頭のおかしいキャラクターのオンパレードなのですが(笑)。

 こっちの世界だとあのキャラクターがこんなことになるんだぁ、と過去作のファンの皆さんには心くすぐるものがあるかと思うので、ぜひ楽しんでいただきたいです。もちろん、過去作を知らなくても楽しめるよう、インソムニアックがキャラクターの登場を工夫してくれているので、シリーズ初プレイの方もぜひ本作をプレイしてみてください!

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』インタビュー。コミカルでユニークな世界を生み出したローカライズチームを直撃!

──最後に本作の魅力について、読者やファンの方に改めてアピールをお願いします。

石立ゲームプレイでは “スピード”がキーワードだと思います。『Marvel’s Spider-Man』や『Marvel’s Spider-Man:Miles Morales』を経て、触っているだけで楽しく気持ちいいアクションについて開発のインソムニアックゲームズが得た知見がつぎ込まれていて。移動やアクションや射撃などすべてのゲームプレイがスピードアップして、遊んでいるだけで爽快だったり、気持ちよかったりしちゃうんです。敵もたくさんの種類がわちゃわちゃと出てきますし、これまでの『ラチェット&クランク』がもっさりと感じた方でも楽しんでいただけるはずです。

 ですが、一方で、設定によって、ワンボタンでゲームスピードを調節できるようになる機能も追加されました。これによって、難しいアクションや激しい戦闘の際には映画『マトリックス』のように時間の流れをスローにして“詰む”ことなくプレイしていただけるようになっています。これがまた、うまくゲーム内に組み込まれていて、スローにしても不自然な感じがないんです。アクションゲームが苦手な方でもプレイできるし、そこまで苦手じゃない方でも過剰なストレスを感じることなくプレイできるというサービス満点の仕様。さすがインソムニアックだなと感心しました。

 もちろん、超高速SSDの恩恵も大いにあります。“次元の裂け目”を使っての瞬間的なワープは戦闘アクションの戦略の幅を広げてくれました。敵の側面をついたり、ピンチの時に脱出したりすることで、大量の敵相手にも立ち回れます。あの、ググッと移動する感覚はクセになりますよ。ヤラレてしまっても、すぐに復帰できるのでまったくストレスがありません。

 『ラチェット&クランク』シリーズは、“武器ガラメカ”と呼ばれるユニークな武器が特長のひとつですが、この点についても本作はバッチリ。武器の種類もかなり豊富です。しかも、各武器のバランスがかなりしっかりしていると思います。

 ストーリーの魅力は、ネタバレを避けるために詳しくは言えませんが、過去のシリーズ作品のいいところをうまく融合させたなというストーリーになっています。何より、キャラクターがいい! ラチェットとクランクはもちろん、リベットも、再登場するキャラも新キャラも、とにかくキャラクターの魅力を感じていただけるはず。

 PS2時代の『ラチェクラ』が好きで『FUTURE』シリーズは違うな―と思われた方も、逆に『FUTURE』が好きだった方にも、そして、新たに『ラチェット&クランク』シリーズをプレイされる方にも気に入っていただけるのではないかと思います。

立山ひと癖もふた癖もある魅力的なキャラターたちによって展開するハチャメチャなユーモア、心温まる友情と成長物語、全次元の存続をかけた壮大なクライマックスバトル。それに加えてPS5の奇麗すぎるグラフィック(クランクの質感がツヤッツヤのテッカテカで見惚れちゃいます)で味わう、“ロードいらず”の目まぐるしくも爽快なアクション。今回も遊び心満載の武器がたくさん追加されているので、そちらも見どころです!

 そして本当にロードが速いので、やられてもストレスなく死ねますよ(笑)。プレイしながらいろいろな笑いと「きゅん」とワクワクを味わえて、みんなをとことん元気にしてくれる作品です。まさしく次元を超えたおもしろさなので、ぜひ体験してみてください!

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』インタビュー。コミカルでユニークな世界を生み出したローカライズチームを直撃!

鶴見六百氏へのインタビュー

いま明かされる『ラチェット&クランク』誕生秘話

――初代『ラチェット&クランク』を手掛けたときの思い出やエピソードなどがありましたら教えてください。

鶴見スパイロ・ザ・ドラゴン』(1999年にPSで発売されたアクションゲーム)シリーズの後、インソムニアックではPS2向けの1作目として準備していたアクションゲームのプロジェクトを中断させ、そこまで研究開発していた内容を活かして新プロジェクトを立てることになりました。それが初代『ラチェット&クランク』です。

 驚いたのは、新プロジェクトに大きく舵を切ると聞いてから、実際に初期資料が送られてくるまでが、本当に「あっという間」だったことです。インソムニアックのチームがノリにノっていたんでしょうね。しかも内容がまた、宇宙、冒険、メカ、友情に、武器と破壊とお宝稼ぎ!と、ワクワクするような要素がたっぷり詰め込まれていて。「このワクワクを、日本のプレイヤーにも感じてもらいたい」と思ったのが、日本側の出発点です。

 インソムニアックの資料は最初から完成度が高かったので、日本側から口を出したのは、ラチェットのデザインぐらいです。ラチェットの初期デザインは、身体の模様がなく、目の上の骨が出っ張っているのが目立ち、なんというか“原人”っぽかったんですよ。主人公というよりモブキャラの動物。そこで、送られてきた画像に、キャラクターを特徴づけるような模様や、骨の出っ張り感を軽減するための眉毛なんかを描き入れて、「日本では最低限これぐらい必要!」とアメリカに送り返して。そんなやり取りを何度かくり返した結果、子ども向けのキャラクターテストでも好評を得るレベルにまとまりました。ただ、子どもからは好評でも、匿名掲示板を中心に、大人からは不評をくらってしまいましたね。「眉毛がキモい」って。ゴメンナサイ、あれは不可避だったんです(笑)。

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』インタビュー。コミカルでユニークな世界を生み出したローカライズチームを直撃!
『ラチェット&クランク』パッケージ(PS2)

――当時は、眉毛は大きな話題になりましたね(笑)。

鶴見なお『パラレル・トラブル』では、ラチェットのモデルは骨格から見直したということなので、もう眉毛をいじる必要はありません。表情もいままで以上に豊かになって、ケモナーじゃない方にも納得いただけるのではないでしょうか。

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』インタビュー。コミカルでユニークな世界を生み出したローカライズチームを直撃!
『パラレル・トラブル』ラチェットのコンセプトアート

――ゲーム内容についてはいかがでしたか?

鶴見ゲーム内容そのものについては、インソムニアックに全幅の信頼をおいていましたし、モニターテストでも難易度やカメラには大きな問題はないというデータも出たので、日本側としては「どうやって日本のユーザーをワクワクさせるか」に注力しました。そういった意味では、名称にはかなり気を配りましたね。とくに武器ガラメカは、『ドラえもん』なら“ひみつ道具”にあたる、『ラチェクラ』の主役級要素。これが魅力的に思ってもらえなければダメだろう、と。

 たとえば、ガラメカの“Taunter(原語)”はストレートに訳せば“タウンター”ですが、日本語圏の人間にとっては「なにそれ……?」ですよね。まったくワクワクしない。それを、使ってみたくなる「なにそれ!!」にするため、意味と語感の両面からネーミングし直して、日本版では“シャベルスピーク”としたわけです。年寄りにしかわからないかもですが、“オストアンデル(饅頭)”や“ヒネルトジャー(蛇口)”みたいな、インチキ和製英語ですね。直訳だとイマイチな名前には、できる限り、ひみつ道具っぽいネーミングを盛り込むように心がけました。

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』インタビュー。コミカルでユニークな世界を生み出したローカライズチームを直撃!
『ラチェット&クランク』(PS2)

鶴見ただ、その中で困ったのが、最強ランチャー“RYNO”です。これ、「Rip Ya New One(お前のケツの穴、新しくもう1個あけてやろうか)」という英語ギャグの頭文字が由来なんですけど、ムービーでその台詞をしゃべっちゃってるんで、台詞の訳とネーミングを合わせなきゃならない。これは翻訳難易度がゲキムズでしたね。「どてっ、腹に、風、穴」という台詞で“ドテッパランチャー”とか“カザアナランチャー”とか、いろいろアイデアは出したんですが、どれも最強武器の名称としては語感がしっくりこない。結局、砲身が8本あることから、「ラン、チャー、ナンバー、エイト」という台詞とともに“ランチャーNo.8”という名称にしました。ほかのガラクトロン製ガラメカとはネーミングルールをあえて変えて、ふつうには手に入らない“いわくつきのブツ”に聞こえる違和感を狙ったんです。

 脳内ストーリーでは、“銀河の裏世界に存在するいわれる伝説のナンバー付きランチャー”みたいなことを考えてました。翻訳としては反則技で、続編のことを一切考えないムリヤリな力技でしたね。とはいえ、英語の“RYNO”は新作のたびに番号が入っていってたんで、後に『ラチェット&クランク FUTURE』で、“RYNOナンバー4”と、日本語と英語の名称イメージを統合することができました。“ドテッパランチャー”にしてたら、こううまくはいかなかったかもしれません(笑)。

――そういったところは、言葉遊びがふんだんに盛り込まれた『ラチェクラ』ならではのご苦労ですね。

鶴見名称以上に注力したのが、「ワクワク」を作るための重要な要素、キャラクターと世界観です。初代『ラチェクラ』では、当時のアクションゲームとしては破格な分量の、トータル1時間ほどのムービーを作るということだったんで、かなり細かいところまで詰めた覚えがあります。

 第一には、感情移入の対象であるラチェットとクランク。異なる出自の彼らが初めて出会い、冒険を通じて絆を深めていく……というユーザーさんに共感してもらいたいお話が底流にあったので、ムービーで深く語っていないふたりの関係性の表現については、音声側でいろいろと工夫しました。

 たとえばクランクなんですが、英語版での彼は「It’s」とか「I’m」といった短縮形を使わず、必ず「It is」「I am」といった丁寧な口調で喋るんですよね、ロボットだから。本来ロボットは誰かに仕える存在だから、主人に対して丁寧に接するというイメージです。でもラチェットは主人ではなく“友だち”なので、クランクもただ丁寧に振る舞わせるのではなく、“ロボとしての存在”と“友達としての立場”を折衷させていることを表すために、日本語の語尾を「~っす」としました。あくまで、“ロボットだけど、友だち”なんです。

 対してラチェットは、ロボと生物の立場の違いなんて知らないようなド田舎で育っているんで、口調は極めてフランクな、それこそ日本でのターゲットユーザーである小中学生が“同世代”と感じてもらえるように、実際に友だちどうしでしゃべっているような言いかたにしています。ちなみに、「~じゃね?」みたいな平板な語尾は、実際にゲームショップで子どもが友だちとしゃべっているのを聞いて、パクったものです(笑)。

※編集部注:ラチェットとクランクの出会いについては詳しくしりたい方は、初代『ラチェット&クランク』をリブートし、再構築した作品『ラチェック&クランク THE GAME』(PS4)をチェック。

――ふたりの関係性は『ラチェクラ』の物語の根幹に関わることなので、とても繊細に表現されているのですね。

鶴見第二には、ストーリーを進める動機となる、ボスキャラや、各惑星のミッションに関わるサブキャラたち。これはインソムニアックがめちゃめちゃコミカルで頭のおかしい(褒め言葉)ものを作ってきたんで、それを活かすべく力を入れました。個人的に、ハンナ・バーベラの1960年代のカートゥーン作品(の日本語放送)を見て育ったので、インソムニアックの目指しているのもそのあたりなんだろうと解釈して、いかにキャラクターにおもしろい言動をさせるか、台詞にギャグを詰め込むか……要は“おもしろ優先”で作っていきました。ゲームを進めるごとにバラエティーに富んだ惑星を巡る冒険にワクワクするわけですから、なら惑星の住人たちもバラエティーに富んだおもしろキャラにしなきゃ!ってことです。

 ただ、ラスボス(ビッグボス・ドレック)は、単なるおふざけキャラだとプレイヤーの動機になりづらいので、コミカルだけど“マッド”な、ヤベエ奴であることを強調しています。シリーズを通じてラスボスは、“シリアス:コミカル”の比率こそ違えど、たいていが“マッド”ですよね。だから“マッドサイエンティスト”のネファリウスは、登場回数が多いのかもしれません(笑)。

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』インタビュー。コミカルでユニークな世界を生み出したローカライズチームを直撃!

――『ラチェット&クランク』シリーズがこれほどまでに長く支持され続けているのはなぜでしょうか? 本シリーズの魅力について、お考えをお聞かせください。

鶴見それはズバリ、「宇宙、冒険、メカ、友情に、武器と破壊とお宝稼ぎ!」という、ワクワク要素がテンコ盛りなところですね。これこそが、初代から最新作にいたるまでブレていない最大の魅力だと思います。そのうえで毎作品キッチリと、既存の要素は完成度を高めて、新しい要素にもチャレンジしています。遊びやすくて気持ちイイ……多くを語るまでもなく、これが『ラチェクラ』の魅力だと思います。

――今回、『ラチェット&クランク』の制作に携わるのは久しぶりのことだとお聞きしていますが、どのような経緯で制作に参加されることになったのでしょうか?

鶴見最後に自分がメインで携わったのは、『FUTURE外伝』か『クランク&ラチェット』のどちらかですね。だから、『FUTURE2』は一度遊んだきりでしたし、『オールフォーワン』や『銀河戦隊Qフォース』、『INTO THE NEXUS』は遊んですらいませんでした(汗)。

 今回、そのあたりをキャッチアップすべく、初代からひと通り全作見直しましたが……いやあ、知らないあいだにラチェットたちもたいへんな冒険してたんですねえ(笑)。とかいいながらじつは、前作の『THE GAME』はメインキャラクターの台詞を監修していたりします。初代のリブート作なので、初代担当のワタシに、久しぶりに声がかかったんですね。『パラレル・トラブル』は、その流れで引き続きお声がけいただいた、ということになります。

――最新作『パラレル・トラブル』ではどのようなお仕事を担当されたのでしょうか? 

鶴見SIEさんからの当初のお話では、過去作に出演したメインキャラクターたちの台詞チェック、および彼らのパラレル・ツイン……つまり彼らに対応する別次元の新キャラクターたちの方向性チェック、という依頼だったんですが、終わってみたらなぜか、タイトル名から始まって、新キャラのキャスティング、予定していたキャラクター以外の台詞、ゲーム内のテキストや用語名称、しまいには宣伝動画のナレーションにまで口を出していました(笑)。ローカライズスペシャリストの立山さんが内容の大半を作っていたので、私としてはなんとか彼女に「鶴見SUGEEEEE」と言わせようと、本当に細かいところまで見まくって、ちょっとでもよくなるようなチェックコメントやアイデアなどを送りまくりました。

――最新作で苦労したところ、工夫したところ、とくに注目してほしいところなどがありましたら教えてください。

鶴見本作でいちばん注目してほしいのは、やはり、新メインキャラクターでしょうか。最初に宣言したんですよ、「とにかく今回は、リベットちゃんを魅力的にできれば大成功だから!」って。プレイアブルキャラなので、感情移入できるかどうかがホント重要で、いかに新キャラクターの魅力を引き出すか、みんなで知恵を絞りに絞り抜きました。

 とくに重要だったのが、キャラクターの関係性に関わる台詞ですね。当初はギクシャクしていた主人公たちが徐々に絆を深めていくさまは、まんま、初代『ラチェット&クランク』を彷彿とさせます。で、ボイスを担当した役者さんたちがまた、心を揺さぶるいい演技をしてくださったんですよ! リモートで収録立ち会いをしていたんですが、年甲斐もなくきゅんきゅんしながら聞いて、モニターのこっち側でパチパチパチと拍手ばっかりしてました(笑)。

 そう、今回の作業はすべてリモートワークでやっていたんですが、もし会社のオフィスで仕事していたら、ここまではできなかったかもしれませんね。考えてもみてください、『ラチェクラ』シリーズでおなじみの、頭のおかしい台詞の数々……あれは自分でも役になりきって喋りながら(叫びながら)チェックするんですが、ふつうのオフィスで「下僕ども~! 輝かしい勝利を、トコシエに語り継げ~!」とかネファリウスっぽく叫ばれたら嫌ですよね(笑)。幸い自宅だったんで、頭のおかしい台詞でも存分に叫びまくってチェックすることができました。

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』インタビュー。コミカルでユニークな世界を生み出したローカライズチームを直撃!

――最新作をご覧になっての率直なご感想を教えてください。

鶴見率直な感想は、「インソムニアック、やりやがったな!」です。映像表現については、私が語るまでもなく、最新のPCゲームまで見渡しても“圧倒的”ですよね。惑星を巡って敵を撃って高速でひゅんひゅん移動してるだけで、もうワクワクです。マジ、やりやがりましたね。

 でも私がいちばん心を動かされたのは……ちょっと適切な言葉がないんですが、“体験”そのものですかね。“アクション体験”と“物語体験”が混ざった、“ゲーム体験”。

 “物語体験”についてちょっと説明しますと、個人的な考えではありますが、プレイヤーというのは、小難しいストーリーとか複雑な設定とかを知りたいんではなく、世界観に浸りながら“キャラクターの物語”を追って、心を動かしたいんだと思ってます。で、『パラレル・トラブル』では、ラチェットたちの物語と、別次元のラチェット……新キャラクターの物語が交錯してストーリーが進むんですが、リベットちゃんのパートをプレイしながら彼女の物語を追っていくのが本当に楽しくて楽しくて。後半の英語台本が到着する前は、「このコ、どうなっちゃうの!? 早く台本送ってくれよー!」と本気で思ってい
ました。僕の心をここまで揺さぶりやがって、やりやがったなインソムニアック、と(笑)。

 制作者目線で分析しても、惑星ステージのマクロレベルデザインが物語の交錯に合わせてかなり緻密に構成されていたり、ムービーとゲームがシームレスにつながってたり、惑星間のロード時間がほぼゼロだったりと、あらゆる場面で“体験”をジャマしないように磨き抜かれてますよね。「ここまでやりやがったか」、と本当にうならされました。

『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』インタビュー。コミカルでユニークな世界を生み出したローカライズチームを直撃!

――最後に読者やファンにメッセージをお願いします。

鶴見『パラレル・トラブル』には、いろいろなワクワクが詰まりまくってます。たぶん記事や公式動画でもまだ明かされていない、サプライズなワクワクも山のようにあると思います。ぜひ自分の手で体験してみてください。あと、リベットちゃんを推すのもぜひお願いします(笑)。