ビデオゲームの金字塔『パックマン』シリーズの40周年を記念した書籍『PAC-MAN: Birth of an Icon』が、海外限定で2021年11月9日に発売された。同書は『パックマン』の歴史からデザインにいたるまで、40年の歴史を一気に味わえる、マスターピース的な1冊となっている。
『PAC-MAN MUSEUM+』の発売を記念して(Nintendo Switch、プレイステーション4は2022年5月26日、Xbox OneとWindowsは5月27日、Steamは5月28日)、本記事では本書籍の著者であるおふたりにインタビュー。本の内容についての話題や、『パックマン』への想いなどをお聞きした。
Tim Lapetino氏
『PAC-MAN: Birth of an Icon』著者(文中はTim)
Arjan Terpstra氏
『PAC-MAN: Birth of an Icon』著者(文中はArjan)
日本と米国の両面で『パックマン』を追う
――まずは、『PAC-MAN: Birth of an Icon』を作った理由と、コンセプトを教えてください。
Tim『パックマン』の起源となる“両面”を本にしたかったのが理由です。この本では、日本から始まった、ゲーム、そしてキャラクターとしてのパックマンの起源のほか、米国での起源について、歴史の両方を扱っています。『パックマン』はポップカルチャーの代表的な存在のひとつですから、歴史についてご存じの方も多いかとは思います。ですが、深く知らない人も少なくないと思うので、ゲームとしての『パックマン』、キャラクターとしての“パックマン”について、詳しく調べています。
――この本の日本語版はいまのところありませんが、表紙などに日本語が使用されていますね。なぜ日本語をデザインに取り入れたのですか?
Arjan本の中身では、『パックマン』の日本の起源についてだけではなく、日本のゲーム業界、そしてナムコの輝かしい歴史についてまで書いています。日本での歴史を語る中で、日本語自体も本のデザインに取り入れるべきだと考えたのです。また、生みの親である岩谷 徹さんと、『パックマン』制作陣へのリスペクトでもあります。さらも言えば、我々は単純にデザインとして“漢字”が大好きです(笑)。
――本の中身には貴重な資料や写真が掲載されています。どのようにして集めたのでしょうか?
Arjan多くはバンダイナムコエンターテインメントさんに協力していただきました。開発に携わった当時の、旧ナムコの関係者様への連絡も取り次いでいただき、たいへん感謝しています。また、世界中にいるビデオゲームやポップカルチャーのコレクターたちともつながることができ、彼らから提供していただいたものも中にはあります。『パックマン』の決定版となる本を作りたいという想いに共感してくれた、彼らなしにはこの本は完成しなかったでしょう。
Timかつて米国で正式ライセンスを受けて『パックマン』を稼動させていた、ミッドウェイゲームズの元従業員ともつながることができましたね。彼らからも写真や画像などのアーカイブを提供していただきました。
――ちなみに、本には『Crazy Otto』(※)など、当時ナムコ以外が作った『パックマン』類似タイトルも掲載されていますね。『Crazy Otto』の基板は現存するのでしょうか?
※『Crazy Otto』……1980年代、『パックマン』を無断で改造して作られたタイトル。ゲーム性が強化されており、その出来栄えを評価してミッドウェイゲームズが公式に契約・承認をして『ミズ・パックマン』として稼動された。『ミズ・パックマン』自体も、のちに旧ナムコが公認している。
Tim私が知る限りでは、『Crazy Otto』の基板とコードは、一般には公開されたことがありません。私たちはリサーチとコネクションを通じて、なんとかゲーム画面は取得できました。ただ、やはり改造タイトルであるため、法的には黒に近いグレーな存在です。私たちが見ることができたのは、それがすべてでした。ですが、『ミズ・パックマン』の誕生に貢献したことは事実ですし、その原点となる画面を見ることができたのはとても興奮しました。
――なるほど。この本を作るうえで、とくに苦労した部分は何でしょうか?
Arjanこの本は、2019年に企画がまとまりました。当初の計画では、対面インタビューを行うために東京へ旅立つ予定も含まれていました。2020年5月に日本へ行くつもりでしたが、そのころは皆さんご存じの通り、世界的に新型コロナウイルスの問題が浮上しました。そのため、計画を変更せざるを得ませんでした。また、これは米国内での問題にもなりました。当初予定していたインタビュー対象者や、取材訪問などの計画を調整する必要が出てきてしまったのです。
ただ、悪いことばかりではありませんでした。世界的に皆さんが外出を控えるようになったため、そのぶんオンラインインタビューに多くの時間を割いていただけることが多かったのです。これは予想外の出来事ではありましたが、 おかげでより詳細な取材ができました。
――この本の付録のひとつとして、1982年にBuckner&Garciaがリリースした楽曲『Pac-Man Fever』のレコード盤がありますね。なぜ令和の現代にレコード盤を?
Tim楽曲を物理的にリリースすることが、『パックマン』の精神を捉えると思ったからです。米国ではいま、レコードの人気がふたたび高まっているのも理由のひとつです。それと、曲自体はデジタル配信もされているため、聴こうと思えば誰でも簡単に聴けます。それよりも、ひとつのファンアイテムとしてお届けしたほうが、皆さんに喜んでいただけるでしょうし、この本の魅力のひとつになると判断しました。
――さらに、付録にはメダルが付いていますよね。このメダルに込めた想いをお聞かせください。
Tim『パックマン』は、 デジタルではなくアナログがまだまだ主流だった時代に生まれたタイトルです。ゲームのカセットや、ゲームに使うコイン……。本や新聞も、いまやデジタルが主流になりましたが、当時はアナログこそが王道の存在でしたよね。レコードと同じように、アナログなアイテムで『パックマン』を結び付けたかったのです。
Arjanまた、『Pac-Man Fever』を暗示したアイテムでもあります。『Pac-Man Fever』の歌詞に「ポケットに25セント硬貨をいっぱい詰め込み、ゲームセンターに向かう」というフレーズがあります。あの当時、硬貨をたくさん持って、ゲームセンターへ向かった当時の興奮というのは、おそらく世界共通であると思います。いまでこそゲームは身近な存在で、ゲーム機に電源を入れればすぐに遊べますし、いまや携帯電話すらゲーム機です。
ですが1980年代にゲームを遊ぶのは、どんなに大変だったことか。子どもであればあるほど、金銭的にも難しかったですし、ゲームセンターへ足を運ぶのもどれだけ大変な旅だったか……。でも、筐体に吸い込まれていったお小遣いの額なんて、帰りには忘れてるくらい遊んだでしょう(笑)。そんな記憶を呼び起こしたい、そんな気持ちをメダルに込めたのです。
――2022年5月26日に、『PAC-MAN MUSEUM+』が発売されます。『パックマン』シリーズ作品が現代に復刻されることについて、おふたりの感想をお聞かせください。
Timここ最近、 バンダイナムコエンターテインメントさんが、『パックマン』シリーズの復刻系をどんどん発売していて、とても興奮しています。『PAC-MAN MUSEUM+』ではあまり知られていないタイトルも遊べますし、ファンにとって遊びやすい環境になると思うので、いちファンとしてもうれしい限りです。とはいえ、『ミズ・パックマン』が収録されていないのは個人的には残念です。権利的に難しいのかもしれませんが、『ミズ・パックマン』は米国では欠かせないビデオゲーム史に名を残すタイトルですから。
――ありがとうございました。日本の『パックマン』ファンに向けて、メッセージをお願いします。
Arjanこの本は、日本が産んだデザイン性、クリエイティビティを称えた本です。『パックマン』が世界的人気を博したのは、 ゲームへの創造的なチャレンジがあったからだと思います。いまなお通用するデザインのすばらしさも、時代を超越していますよね。現代でも、40年以上前と同じ楽しさと興奮が体験できる、それが『パックマン』なのだと思います。
Tim『パックマン』の生みの親である岩谷 徹さん、そして制作チーム全員をリスペクトしています。 いまなお通じるゲーム性とデザインのすばらしさは、彼らの努力と創意工夫が産んだものです。その工夫を私たちが分析し、そして世界の皆さんに共有することは、この本の制作においてとくに楽しかったところです。ぜひ皆さんも読んでみてください。
『パックマン』シリーズ40年の歴史が綴られた本書。貴重な写真や資料がふんだんに載っており、英語が読めなくとも十二分に楽しめる内容だ。また、翻訳アプリを使って読むという手もある。
本書はいまでも購入可能なので、興味のある方は手に取ってみてはいかがだろうか。
『Pac-Man: Birth of an Icon』の購入はこちら (Cook and Becker/英語サイト)