1991年に登場して以来、30年以上にわたって関連作が発売され、世界中のゲームファンに愛されている“音速のハリネズミ”ソニック。そんなソニックのデビュー作である『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』を始めとした初期4タイトルをまとめたお得なソフト『ソニックオリジンズ』が、2022年6月23日に、Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC向けに配信された。
ここでは、本作のリリースに際して、プロデューサー・大橋宣哉氏とディレクター・鴫原克幸氏にお話をうかがった。インタビューにあたってのテーマは以下のふたつとなる。
- 『ソニックオリジンズ』開発の経緯と遊びどころ
- 今年31周年を迎えた『ソニック』に対する想い
そんなわけで、インタビューをどうぞ!
大橋宣哉氏・写真右(おおはしのぶや)
『サカつく』シリーズやXboxの『パンツァードラグーン オルタ』などに携わったあとで、『マリオ&ソニック AT 北京オリンピックTM』(2007年)でアシスタントプロデューサーを担当して初めて『ソニック』関連タイトルに関わる。その後も『マリオ&ソニック』のオリンピックシリーズを手掛け、『ソニックオリジンズ』ではプロデューサーを務める。
鴫原克幸氏・写真左(しぎはらかつゆき)
Wii用『ソニックカラーズ』や『ソニックジェネレーションズ』などを担当。その後『マリオ&ソニック AT 東京2020オリンピックTM』などを経て、『ソニックオリジンズ』ではディレクターを務める。
まさに運命のような『ソニック』との劇的な出会い
――まずは、せっかくの機会なので、おふたりの『ソニック』との関わりを教えてください。
大橋私が『ソニック』と初めて出会ったのは学生のころです。大学生時代、私は留学でアメリカの学校に通っている時期があって、そのときに安いアパートに住んでいたんです。安いアパートなので、下の階の声とか音とかが筒抜けのですが、毎日のようにある音楽が聞こえてくるんですね。「どう考えてもこれはゲームの音楽だな……」と思って毎日聞いていたのですが、すごくいい曲だったんです。
で、ある日、ショッピングセンターに行ったら、ゲームコーナーがあって、ジェネシスと『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』のバンドルパックが売られていて、試遊台があって、まさにその曲が流れていたんですよ。「あ! これは毎日聞いていた、あのゲームだ!」と思って、とうとう見つけたということで、その場でバンドルパックを購入して……というのが、私と『ソニック』との出会いです。
――素敵な出会いですね。
大橋ちなみに、そのアパートには数年間住んでいたのですが、その間流れてきたのは、ずっと『ソニック』の最初のステージである“グリーンヒルゾーン”の音楽でした(笑)。「きっと、つぎのステージに進めないんだなあ……」と思って、下の人に聞こえるように、大きな音を出して、ゲームをクリアーしました。つぎのステージの音楽を聞かせてあげようと思って(笑)。とにかく『ソニック』はおもしろかった。
――いい話ですね(笑)。その流れで、セガ・オブ・アメリカに就職したとか?
大橋残念ながらそうではなくてですね、ゲームばかり遊んでいたので、留年ばっかりしていまして、ろくなところにも就職できずに、日本に戻ってきたんです。で、「なんとかセガには入りたいな」と思っていたら受かってしまったんです。
――何と。アメリカのアパートの下の階でその人が『ソニック』をプレイしていなかったら、いまの大橋さんはなかったかもしれないという……。
大橋まさにその通りですね。
――これだけで記事が1本できてしまいそう……。(気を取り直して)鴫原さんはいかがですか?
鴫原さすがにそこまでの話はないですが(笑)、僕と『ソニック』との出会いというのは、小学生の低学年のころに、近所のお兄ちゃんがメガドライブを持っていて、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ2』を遊んでいたんですよ。それを見たときにすごく衝撃的で。いままでのゲームとまったく違ったんです。
そのとき近所のお兄ちゃんは“ケミカルプラントゾーン”をプレイしていたのですが、“ケミカルプラントゾーン”って、縦横無尽に動くステージで、「こんなに速く、ダメージも食らわずに走り続けられてすごい! このゲームすごい!」と思ったのが最初の出会いです。ゲームを初めてカッコいいと思ったのが『ソニック』でした。
大橋当時、あのスピードはほかになかったね。あのスピードで画面が移り変わるタイトルというのは、ほかになかったんじゃないかな。
鴫原ないですね。自分が操作しているキャラクターを見ても、何が起きているかわからないのですが(笑)。でも、すごいスピードで走り続けているんです。これがすごかったですね。
――もしかして、いま『ソニック』の開発に関わっている方たちって、原体験で『ソニック』に憧れがあって、それでセガさんに入社されて『ソニック』を作っていらっしゃるという方が多い感じなんですか? それともたまたまおふたりがそんな感じだった?
大橋たまたまここにいるふたりがそういうことなので、そういう人は多いんだと思います(笑)。
『ソニック』の“原点”を提供したいとの想いから開発に着手
――では、本題に入りまして、単刀直入に、『ソニックオリジンズ』を制作に至った経緯を教えてください。
大橋もともと『ソニック』は、欧米では知名度がものすごく高かったのですが、2020年に公開された映画『ソニック・ザ・ムービー』が大ヒットを記録したこともあり、知名度がさらに上がったんですね。さらに、北米では4月に公開された続編映画の『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』は、前作を超える大ヒットを記録したりもしています(※)
※『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』は日本では8月19日公開予定
単純に『ソニック』を知っている人という人がものすごく増えて、とにかく有名になってしまったという状況があったんです。ですが、最近『ソニック』を知った人というのは、映画とかで初めて『ソニック』を知ってくださって、ゲームの『ソニック』はあまりプレイされていないと思ったんですね。『ソニック』はもともとはゲームから生まれたキャラクターなので、その原点を知ってほしいと思ったんです。そんな思いも込めて、タイトルにも“オリジンズ”と付けたのですが、「これが最近皆さんが知ってくれた『ソニック』の原点なんですよ」というのをお伝えしたいというのが、いちばんの根底にあります。
――新しいファンに『ソニック』の原点を知ってもらいたいということですね。映画のヒットがあればこそ……の一面はあった?
大橋たまたま時期が重なったというのはありますね。別に映画がヒットしたから、「よし、作ろう!」と動き出したわけではなくて、構想自体はもっと前からありました。ただ、映画も大ヒットして、状況がそういうことになってきたので、「きちんと『ソニック』の原点を伝えたい」ということが、ますます意味合いとして大きくなってきたというところはあります。
鴫原いままでクラシックの『ソニック』は、それぞれ単発で出ているのですが、そういったものを全部ひとまとめにして、“原点”としてお客さまにお伝えするという思いはありました。本作には『ソニック・ザ・ヘッジホッグ3&ナックルズ』も収録しているのですが、これってほかのコンピレーションモノでもなかなかないもので、クラシックの『1』、『CD』、『2』、『3&ナックルズ』という一連の流れを、大きなストーリーとして、お客様にプレイしていただきたかったという経緯があります。
まさに、「これがオリジンズだ!」と言えるようなタイトルですね。新規のお客様に対してもそうですが、いまのタイミングで出したらオールドファンの方も喜んでいただけるのではないかと思っています。
――ほわっとした質問でお答えしづらいかもしれないのですが、開発にあたってもっとも心がけた点を教えてください。
鴫原『ソニック』は昔から熱狂的なファンが多いタイトルなので、“熱狂的なファンの方に納得していただけるものになるか”というところが、いちばん心がけた点になります。
今回メインメニューに舞台となる島を3Dで作ってあるんです。その島のクオリティーも現代向けにきっちり作り込んだら、それはそれでそんなにファンの方には刺さらないでしょうし、逆にチープ過ぎても、今度は新しい人が見たときに「何だ、これ?」となってしまう。両者に「いい」と思ってもらえるようないいところ取りができるような、そんなところに気をつけていました。
――なるほど……。メインメニューが『ソニックオリジンズ』の象徴というか、そこに『ソニックオリジンズ』の本質がすべて表現されているということですか? 開発者の精神がここに注入されている?
鴫原そうですね。ここはオススメの、ぜひ見ていただきたいポイントになります。『1』のメインメニューは、サウスアイランドが舞台になっているのですが、それを3Dにしただけではなくて、エネミーが動いていたり、ループの地形であったり、マーブルゾーンの神殿があったり……と、いろいろなギミックを入れ込んでいるんです。これを見ているだけでも、けっこう楽しんでいただけるのではないかなと思います。
大橋つぎの『ソニックCD』に行くと、メインメニューは『ソニックCD』の舞台となる島になっているんです。ひとつひとつの島に、各タイトルの要素が凝縮されている感じですね。しかも、全体も見られるという。
――あら! 大橋さん的にはどうですか? こだわった点としては。
大橋さきほど、鴫原が言っていたように、『ソニック』のコアファンを大切にしないといけないというのは当然そうなのですが、『ソニックオリジンズ』には、プレイしていただきたい層がふたつあるんですね。コアファンと、今回初めて『ソニック』に触れられる方です。『ソニック』初心者ですね。一見相容れないふたつの訴求層がありまして、両方に納得いただいて楽しんでもらえる必要があるタイトルだったので、その両立というのが、いちばん気にしたところだと思います。
――両立は……?
鴫原しています! 今回のメインモードである“アニバーサリーモード”は、コアファンの方にも新しいファンの方にもプレイしていただきたいモードです。“アニバーサリーモード”は画面比率が16:9になって、残機制をなくしたモードなのですが、残機制をなくすというのは、一見ゲーム性がひとつ削れたような感じがするかと思うのですが、そうではないんです。
やはり『ソニック』は速さがいちばんなので、残機を削っても、速さを楽しめれば大丈夫なんですよ。コアファンの方にも速さに集中して楽しんでいただけますし、新しいファンの方にも、難しいゲームではあるのですが、残機が無限なので何度でもやり直して挑戦していただけますし。というところで、“アニバーサリーモード”は、バランスが取れたモードになったかなと思っています。
大橋“アニバーサリーモード”は、どちらかと言うと、初めてプレイされる方が気持ちよく『ソニック』を楽しめることに重点を置いたモードではありますね。コアファンの方ももちろん、楽しんでいただけますが。コアファンの方がもともとのルールで遊びたいということであれば、“クラシックモード”を用意しているので、そちらをプレイしていただければという感じです。両方それぞれ楽しんでいただきたいです!
“アニバーサリーモード”は、16:9と横長になって先が見えるので、初心者の人はとくにプレイしやすかったりするんですよね。いままで見えていなかったところが、より早く見えるようになるので、見通しがよくなります。
――4:3から16:9にするのは、けっこう細かい調整を入れた感じですか?
鴫原そうですね。オリジナルの4:3だと、ソニックが止まってしまってその場所から先には行かないところもありますので……。そのへんは適宜調整しました。16:9の画面比率に関しては、『1』と『CD』、『2』については、過去に配信されているモバイル版やSteam版などを参考にしながら、しっかりと動くようにしています。『3&ナックルズ』は、完全に新規なので、いちから作っていますね。
初心者にも遊べるようにしつつ、ベテランユーザーにも満足してもらえるものを
――新モードとして“ボスラッシュモード”と“ミラーリングモード”を導入した理由と、遊びどころを教えてください。
鴫原“ボスラッシュモード”は、ボスのみを連続で遊べるようなモードになっているのですが、リングがなかったりするので、けっこう手応えのあるモードになっています。“ボスラッシュモード”をクリアーすると、本作で初めて導入された“コイン”が手に入ります。“コイン”を使うと“ミュージアム”でアイテムコレクションをオープンできます。“コイン”は、“アニバーサリーモード”でスペシャルステージにリトライするときも使えます。
――コインは“ボスラッシュモード”じゃないと取れないのですか?
鴫原“ボスラッシュモード”と、あとは“アニバーサリーモード”でも取れます。ただ、取れる数は“ボスラッシュ”のほうが断然多いです。
あと、“コイン”をメインで集めるのは“ミッション”ですね。“ミッション”も本作で初めて導入されたのですが、選りすぐりのお題にチャレンジできるモードになっていまして、クリアーしたときのランクが出るんですね。そのランクに応じてもらえる個数が変わるようになっています。
――“コイン”を集めることによって、いろいろなモードを遊び尽くしてほしいということですね?
鴫原そうですね。いろいろなモードを遊んで“コイン”を集めてもらって、“ミュージアム”でコレクションをオープンしてほしいですね。
――ちなみに、“ミラーリングモード”を導入した理由は?
鴫原“ミラーリングモード”では、いままで走っていた方向が逆になるわけです。これは、コアファンであればあるほど難しいモードになると思います。「ただ、逆に走るだけじゃん!」って思うかもしれませんが、実際プレイしてみると、「あれ、こんなところにスプリングあったかしら?」とか「水がこんなところにあったかな?」と、いままで自分が見てなかったところに目がいくようになるので、そういうところで新しい『ソニック』の発見があるようになっています。
大橋今回、『ソニックオリジンズ』に入れるもともとのクラシック『ソニック』のタイトルは、さきほど鴫原がお話した通り、ひとつの物語になっている初期の4作にするということは決めていたんですね。それ以外のタイトルは入らない。その方針があった上で、この4作をいかにコアファンにも初めての人も遊び尽くしてもらえるかという観点で、どんな遊びかたを提供できるのかな……というので出てきたのが新規で入れた“ボスラッシュモード”と“ミラーリングモード”、それから“ミッション”なんですね。
ちなみに、僕は“ミラーリングモード”がいちばんオススメです。けっこうびっくりしました。
――あら! そうなんですか。
大橋僕は学生のころに、大学の授業にも行かずにずっとゲームを遊んでいて、留年するくらいに『ソニック』をやり込んでいたのですが、それだけ遊び尽くした僕からしても、“ミラーリングモード”はやはり遊びづらかったです(笑)。「こんなにもプレイ感覚が違うんだ」ということで、すごく新鮮に楽しめました。
――“ストーリーモード”は、本作のために新たに制作したアニメーションでひとつにつなぎあわせたとのことで、相当なこだわりぶりがうかがえますね。
鴫原『ソニック』初期4作のストーリーがつながっているということはおなじみのことだったのですが、それを一連の流れで遊べるというのは、いままでになかったんですよ。ですので、まずは一連の流れでとして遊べるようにしました。『1』をクリアーすると、つぎは『ソニックCD』が来て……という感じですね。
――ストーリー順に遊べるということですね。
鴫原そうです。ただ、それだけだと唐突なので、あいだをつなぐショートムービーを作りました。
――『ソニック』のお話がわかりやすく理解できるようになったということですね。そうやってゲームの『ソニック』シリーズのストーリーがわかりやすく伝わりやすいようにしたのは、「ゲームの『ソニック』は、映画版とは違う、こんなストーリーが展開されているんだよ」ということを、ファンの人に知ってほしいという思いからですか?
鴫原そうです。『ソニック』の原点を作っているので、オリジナルを正しく伝えるということが、作品の命題ですね。
大橋鴫原の話に付け加えるならば、ファン目線からすると、いままでなかったアニメーションが新規で観られる唯一のタイトルなので、そういったところにも付加価値を見出していただけるコアファンの方はいらっしゃるのではないかなと思います。
――そんなにアニメーションには力が入っているのですね。
大橋入れました。あと、『ソニックCD』というタイトルは、もともとメディアがCDだったので、オリジナル版にもムービーが入っていたんですね。いかんせんメガCDだったので、解像度が低くて、いま見るとちょっとざらざらな感じのものなのですが……。
それが、今回オリジナルで『ソニックCD』に入っていたムービーも高解像度化したんです。『ソニックオリジンズ』用に新たに描き起こしたアニメーションと連続して並べても、ぜんぜん違和感のないような形にアップグレードしています。コアファンの皆さんには、そんなところも含めて見ていただけるとうれしいです。
――ちなみにアニメの制作はどこが?
大橋アニメのほうは、アメリカのスタジオで作っています。
――さきほどお話に出た新要素の“ミッション”ですが、楽しみどころを教えてください。
鴫原“ミッション”に関しては、いままでのグリーンヒルだったらグリーンヒルの地形はそのままで、オブジェクトの位置を変えたり、お題を追加したりしています。“モトラを10匹倒せ”とか、“リングを100枚集めろ”とか。そういう新しいクリアー条件を入れたミッションを作りました。「クラシックの『ソニック』だけど、こういう新しい遊びもできます」という、遊びかたを提供することを意図して入れています。
――これは、さきほどおっしゃったコアファンに向けての、さらに遊ぶためのモードみたいなものですか?
鴫原でありつつも、初心者に向けてのものでもあります。“ミッション”では難易度を設けていて、すごく簡単なものから難しいものまであるので、新しいお客様も2Dの遊びに慣れていただくことができますし、昔からのオールドファンの方にとっては「こんな遊びかたできたんだ!」という、新しい発見があったりします。
大橋ミッションは全部で60あまりあって、難易度の設定が5段階あるんです。難易度は星の数で表示されていて、星ひとつくらいだったらチュートリアル代わりのいい練習にはなるかなと思います。そして、だんだん星の数が増えていけばいくほど、いい意味でイジワルなミッションもあります(笑)。ソニックの動きとかを知り尽くしていないと、なかなか難しいミッションとかもありますので、ゲーム本編と“ミッション”とを行き来しながら、すべてをクリアーしていただけたらいいですね!
――“ミュージアム”はいかがですか?
鴫原“ミュージアム”については、過去のコンピレーションタイトルでもそれに相当する要素はあったのですが、シリーズ作のサウンドとイラストとムービーを観られるというものです。あらかじめ開いているものもありますし、“ナックルズを使って滑空せよ”とか“テイルスを使って空を飛べ”みたいなお題を設けて、そのお題をクリアーすると開くようなものもあります。
それがノーマルコンテンツになるのですが、あとはプレミアムコンテンツというのがあります。そちらはすべてさきほどお話した通り、“コイン”を使ってオープンする内容になっています。で、プレミアムコンテンツのほうが、お宝度が高いものが多いです。
――なるほど。これまでに公開していなかった初出しのコンテンツもあるみたいな話もうかがっていますが、どのようなコンテンツなのですか?
鴫原たとえばですね、『ソニックCD』とか『ソニック3&ナックルズ』で実際に使われた手書きの仕様書であったり、サウンドの発注書であったり……。まあ、いまでは全部エクセルとかワードで仕様書を作ってしまうのですが、昔のそれが手書きで書かれた貴重なものが残っていたんですね。あとは、その仕様書になる前のアイデアノートですね。『ソニック』総合プロデューサーをしている飯塚隆が、当時プランナーとしていっぱい書いた 、バリアのアイデア資料もあったりします(笑)。あとは『ソニックCD』のアニメのイメージボードとか。
いままで外に出していなかったものがばかりだったので、今回貴重な資料を集めて、プレミアムコンテンツのほうに入れさせていただきました。
――もしかして、『ソニックオリジンズ』の“ミュージアム”用に初出しコンテンツがほしいということで、探しまくったのですか?
大橋せっかくだから、“ミュージアム”用にレア度の高いものを用意したいという話はしていました。で、倉庫を漁って探し出しました(笑)。ダンボールの中に入っている“誰々の私物”とか、“何々の設定資料”とかいったものを全部引っ張り出してきて。当時のファイルやノートとかを全部見て、「これはよさそうだね!」というのをピックアップして、厳選して用意しているんですよ。
――けっこう時間がかっていそうですね。
大橋そうですね。でも探すのは楽しかった(笑)。
鴫原楽しかったですね(笑)。「あ、こんなものもあるんだ」とか、昔のアルバムを見ているような感じで。
大橋『ソニックオリジンズ』というのは、文字通り『ソニック』の原点なわけですが、設定資料やアイデアノート、スケッチというのは、その原点が生まれるさらに前の段階のものなわけです。『ソニック』が生まれるためにはこういう資料がもとになっているのだということが垣間見られる、マニアの方からするとけっこうヨダレが出るようなコンテンツだったりするのかなと。僕らも見ていておもしろかったので、ファンの皆さんにもきっと喜んでいただけるのではないかなと思います。
“ドロップダッシュ”は入れてよかった
――『ソニック』はいまとくに海外が人気のようですが、『ソニックオリジンズ』開発にあたって、とくに海外ユーザーを意識した点はありますか?
大橋本作は、北米のヘッドキャノンというスタジオと共同開発しているのですが、海外に開発があって、日本にも開発があって……という遠距離という状況下で時差もたいへんなところを、コミュニケーションを密に取って、みんなで連携しながら作っているんですね。「日本人はこう思う」「アメリカだとこう感じる」ということをつねに議論しながら取り組んできました。そういった意味では、どの国の人でも納得していただけるようになっているという自負はあります。
まあ、近しい感じで、「海外ではトレンドだから……」ということで盛り込んだ要素はあります。
――あら、何ですか? それは。
鴫原“ドロップダッシュ”ですね。ソニックがジャンプ中にもう1回ジャンプボタンを長押ししてそのまま着地すると、すぐにスピンダッシュするんですよ。これを“ドロップダッシュ”と言って、とくに海外ではいま必須のテクニックになっているみたいなんです。メガドライブ時代にはもちろんなくて、『ソニックマニア』や『SEGA AGES』の『1』と『2』には実装されていました。
『ソニックオリジンズ』を作るにあたって、僕たちとしては“原点”を作るので、そういう新しい要素はいらないと思っていたんですね。ところが、アメリカのスタッフからは、「“ドロップダッシュ”はファンにとっては絶対に必要なものなので、入れてほしい!」と言われまして。
大橋僕もジェネシスで遊んでいたときは当然“ドロップダッシュ”は入っていなかったので、あまり重要視していませんでした。アメリカから「ファンからすると絶対必須です」と言われても半信半疑ではありましたね。
鴫原半信半疑でしたね。ちなみに“スピンダッシュ”は方向キーの下を押してジャンプボタンを長押しすると溜められるのですが、その“スピンダッシュ”自体『1』にはなかった機能なんです。
大橋『2』から入ったね。だから、“原点”ではあるのですが、本当の“原点”、メガドライブ(ジェネシス)の原点がどうなのか、というところのさじ加減が難しい。鴫原も僕もA型なので(笑)、どうしてもキチッとしてしまうわけです。
――すごくよくわかります(笑)。
大橋結果として、“ドロップダッシュ”を入れたのはよかったんです。『ソニックオリジンズ』を発表してすぐに書き込みされたのが、「“ドロップダッシュ”は入っているのか?」ということだったんです。初めて公開した映像で、ちゃんと“ドロップダッシュ”のシーンは入れておいたのですが、書き込みをされた方は気づかなかったみたいで……。ファンの皆さんは気にされるんだなというのを改めて思い知らされました。「入れておいてよかった!」と、鴫原といっしょになって胸をなでおろしましたね。
鴫原ちなみに、“クラシックモード”には、“ドロップダッシュ”は入ってないです。
――“クラシックモード”は、オリジナルから極力手を付けないように……ということで?
鴫原一切手をつけていないわけではないんですが、極力メガドライブを目標にしています。リマスターして作り直しているので、当時のバグなどは全部直っています。
『ソニック』とは……
――『ソニックオリジンズ』に関するご質問は以上です。せっかくなので『ソニック』全体に対してお聞かせください。昨年(2021年)『ソニック』が30周年を迎えましたが、31周年以降『ソニック』をどんなふうにしていきたいですか?
大橋そうですね……。僕はできれば、『ソニック』を知らない、もしくは知ったばかりの人に、『ソニック』の原点にはゲームがあって、そこから生まれた青いハリネズミだということを知ってほしいという思いがすごく強いです。とくに映画で『ソニック』を知ってくださった方は、『ソニック』のゲームを触ったことがない人がたぶん多いと思うので。
すごく長いスパンで、いろいろな媒体で『ソニック』と末永い付き合いを実現するための“入門”として、この『ソニックオリジンズ』を楽しんでいただければと思っています。
鴫原今回『ソニックオリジンズ』を作ることで、自信を持って「これが原点です。どうぞ!」とお客さまに伝えられるようになりました。ソニックとDr.エッグマンだったり、テイルスやエミー、ナックルズの関係性というのは、全部この『ソニックオリジンズ』が原点になっているので、「ああ、こういうキャラクターの関係性なんだ」「こんなストーリーなんだ」というところを理解していただくことで、つぎにつながってくる。そうすることで、より『ソニック』を楽しんでいただけると思います。
――日本では、この夏公開の映画『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』や、この冬発売予定の最新作『ソニックフロンティア』にもつながっていくということですね。最後に……せっかくなので聞かせてください。おふたりにとって『ソニック』とは何ですか?
鴫原いきなり難しいご質問ですね(笑)。そうですね……。ゲームの『ソニック』は“かっこいい象徴”だと僕は思っています。ゲームって、おもしろさや驚きだったり、感動だったりと、いろいろな感情を喚起すると思うのですが、“かっこいい”と言えるのが、まずは『ソニック』です。僕の人生において、最初のかっこいい出会いが『ソニック』だったので。かっこいいを体現したのが『ソニック』というイメージです。
――ご自身が『ソニック』作品をお作りになっていくなかでも、そのことを肝に銘じていままで開発に取り組んでいらっしゃったということですね?
鴫原もちろんそうです。かっこいい『ソニック』をどうやって見せるかということをつねに考えています。カメラワークであったり、コース作りにおいてもそうです。
――ありがとうございます。大橋さんにとって『ソニック』とは?
大橋そうですね。かっこいいというのは、鴫原に言われてしまったので……(笑)。“クール”という単語も頭に浮かんだのですが、よくよく考えてみると、かっこいいとほとんど同じ意味ですよね。
それ以外に何があるのかな……ということで、僕の中に浮かんできたキーワードは“驚き”ですね。冒頭のお話に戻ってしまうのですが、北米のショッピングセンターで生まれて初めていきなり『ソニック』を見て、若かりし僕は、たぶん驚いたと思うんです。あのスピード感に驚いて……。そこからすべてが始まって、思えば『ソニック』そこからどんどん進化していきました。たとえば、初めて3Dになったときの『ソニックアドベンチャー』にも驚かされたなあ。
――ドリームキャストですね!
大橋最新作の『ソニックフロンティア』でも新たな驚きがあります。まあ、ゲームなので、最新作になればなるほど驚きというものは必ず必要だとは思うのですが、『ソニック』の場合は『ソニック』らしい驚きを提供してくれている。いちファンという立場から見て、「おお、いいな」と感動しています(笑)。
これからもし僕が『ソニック』の新しいタイトルに携われるのであれば、僕なりに考える『ソニック』らしい驚きというのを伝えられるようなタイトルを作れたらいいなと思っています。
とはいえ、何はともあれいまは『ソニックオリジンズ』ですね! 『ソニックオリジンズ』は、そんな驚き溢れる『ソニック』の原点になっているので、ぜひとも楽しんでみてください!