こんにちは。向かって左にいるのはライターの斎藤充博です。そして右にいるのはファミ通.com編集者のミス・ユースケさんです。
僕たちが来ているのはサードウェーブの綾瀬本社工場。こちらの会社はBTOパソコンやゲーミングPC“Galleria(ガレリア)”で有名なショップ“ドスパラ”を運営しています。なぜこんなところに来ているのか。数日前にこんな話がありました。

サードウェーブさんって、最近ではパソコンの販売だけじゃなくて、修理にも力を入れているらしいんですよ。

パソコンを製造販売しているのなら、修理も行うのは当たり前なんじゃないですか?

それがですね、サードウェーブさんの修理ってこんな感じらしいんです。
- Windows機ならどんなメーカーのパソコンでも修理する
- 自作パソコンでも修理する

へえー。自社以外のパソコンの修理もするんですね。それは知らなかった。

家電なんかもそうですけど、“買ったメーカーに頼まないとだめ”みたいなイメージありますよね。でも、そんなことはないみたいで。さらにこんなサービスもあります。

すごい。僕が前にほかの業者でパソコン修理してもらったときは1週間くらいはかかりましたよ。どうやっているんだろう?

興味ありますか? じつは「サードウェーブのパソコン修理サービスは便利」ということをPRしたいという広告案件が入っているんですよ。

BTOパソコンの印象が強いけどそれだけじゃないぞ、と言いたいわけですね。そして、その広告記事を僕が書くんですね?

修理担当の社員さんにインタビューをお願いします。それと、実際にパソコン修理をしている社員さんと僕で“パソコン修理RTA(リアルタイムアタック)”をしたいんです。そのレポートもぜひ。

パソコン修理RTA? なぜそうなる?

特急プランがあるって言ったじゃないですか。社員さんによる修理がどれだけ速くて正確なのか知りたくて。勝負の結果は読者にも有益だと思います。

ロジカルなようで、ぜんぜん説明になっていないです。でも実際に修理する人の手さばきは見たい気も。どんなメーカーのパソコンも直す凄腕の修理スタッフ……。
これがサードウェーブのパソコン修理センターだ
というわけでやってきました。ここがサードウェーブさんの綾瀬本社工場です。その一角にあるのが修理センター。実際にパソコンの修理をしている部屋になります。
整然と置かれたパソコン……。
修理に必要なパーツ……(直近で使うものを一時的に置いているだけなので、これはほんの一部。別の部屋には膨大な量のパーツがあるそうです)。
パソコン内部に溜まったほこりを吹き飛ばすブロアー。でかい。
そして、いま、まさにパソコンの修理が行われている……!
ファミ通.com編集者 VS 修理職人のパソコン修理RTA

ユースケさん、本当に社員の人とパソコン修理RTAするんですか? 僕らが触ってもいいパソコンなんてあるのかな……。

お客さんから預かっているパソコンを僕が触るわけにはいかないので、こういうルールを考えてみました。
- メモリとグラフィックボードを外した状態の同型ダミーパソコンを2台用意
- ケースを開けてメモリとグラフィックボードを取り付ける
- 取り付けを完了させ、ケースを先に閉めた方が勝ち

なるほど。実際は故障箇所の特定などから入るとは思うんですが、そこはやらないで、今回は純粋に“手の早さ”で勝負するんですね。

はい。これならギリギリ勝てる可能性があると思うので。

これサードウェーブさんのPRですよね。クライアントに花を持たせない編集者っているんだ。

それではお願いします。僕は背後で動画を撮っていますので!
というわけで、スタート!
ケースを開けるところまではほぼ同時。案外ユースケさんもやるじゃん、と思っていたものの……。
渡部さんがあっという間にメモリを取り付ける。一切の迷いがありません。ユースケさんもとくに遅いわけではないのですが、地力の差を感じさせます。
ユースケさん、グラフィックボードを取り付けようとするが、そのままでは付かないことに気づきました(スロットのカバーを外す必要がある)。
グラフィックボードの交換くらいなら何度も経験があるというユースケさん。“交換”ということは古いグラフィックボードが挿さった状態で作業が始まりますから、すでにカバーは外れた状態です。そういった思い込みから、ユースケさんはグラフィックボードがうまく挿さらなくて焦った模様。
すぐにカバーの存在に気付いた渡部さんは淡々と進めていきます。さすが、よく見ています。
渡部さん、開始から3分15秒でクリア。ユースケさんはグラフィックボードを取り付けようとしているのですが、ケーブルが干渉するために手こずっています。
グラフィックボードを取り付けた後はスムーズに進み、ユースケさんは4分20秒でクリアー。勇ましいポーズで敗北をごまかしているような……。

いやー。接戦でしたね。

それなりの惨敗ですよ。順当な結果。渡部さんはさすがプロでした。

ゆっくりやってくれてましたよね。でも、ぜんぜん勝てなかった。僕、一般の方よりPCに詳しいと思うんですけど、最近はデスクトップPCを開けてないから知識が少し古いんですよ。仕様が変わっていたりして、メモリをグッと押し込んでいいのか怖くなってしまい……。思い切りが足りませんでした。

そういう“手触り”みたいな部分で差が付くのがおもしろいですね。大量のパソコンを見続けてるから知識も膨大でしょうし、違和感にもすぐ気付ける。パソコンってデジタルな世界かと思いきや、修理は手作業ですもんね……。
パソコン修理は手作業
修理に携わっている草野強さん(左)と松井崇悦さん(中)に、パソコン修理の実際のお話を聞きました。

渡部さんの手際はすばらしかったです。ただ、素人の想像ではありますが、パソコン修理の中でいちばんたいへんな部分って、不具合の箇所を特定する“診断”じゃないのかなって思うんです。

難しい部分ではありますよね。まずはお客様の申告から故障している部品を推定します。そしてその部品を取り出して、正常なパソコンに取り付けて同じ症状が再現できるか? ということをくり返していきます。

なるほど……。

ただ、これも一筋縄ではいかないことがあります。お客様から申告していただいた症状を検証しようとしても、再現できなかったり違う症状が出ていたりする、ということも。

なんかわかる……。「家ではお腹が痛かったのに、病院では痛くなくなっている」みたいな。

診断は経験が出る部分ではありますね。新人だと、ひとつのパソコンの故障の原因を診断するのに2時間くらいかかったりします。でも、ある程度経験が積み上がってくると「たぶんここだろう」と見えてくるんですよ。20分くらいで診断できることもあります。

けっこう違いますね。実際に作業に入るときに気を遣う場面ってどんなところですか?

これは人それぞれだとは思いますが、私の場合は修理対象のパソコンに電源を入れるときですね。

そこから……!

壊れているパソコンだと、電源を入れることがきっかけになって、新たなトラブルが生まれることも想定されます。気が抜けないんです。

パソコンって電気が流れる機械ですし、発熱もしますからね。ケースの中に積もった埃が燃えるなんて話も聞いたことがあります。ふつうに使うぶんには問題なくても、壊れていると何が起こるかわからないもんなあ。

何というか、めちゃくちゃ“手作業”なんですね。パソコン修理職人の朝は早い……みたいな世界!

始業時間はふつうだと思いますよ。
経験を積んでスキルを上げる

パソコン修理の世界って、どういうふうに修理スキルを伸ばすものなのでしょうか?

マニュアルや資料がたくさんあるんです。トラブルの検証の方法も決まっています。まずはそういったものをきっちり自分のものにしておくことですね。

そこはシステマティックにやられているんですね。

そうですね。古い時代は「自分で痛い目を見てスキルを上げる」というのがあったと思います。私も初任給をつぎ込んで組んだ自作パソコンから煙を出してしまったことがありました。それを全力で直そうとして、一気にいろいろなことを知る、みたいな……。

私もプライベートでサーバーを組もうとして壊したことがあります。これは本当に落ち込みましたが、そのことを話したら先輩たちから「そうして覚えていくんだよ」という言葉をかけてもらいました。

会社全体でのデータと個人の経験が積み重なって、社内用マニュアルとして整理されています。もちろんマニュアルにはテストを重ねて最善と判明した結果がまとまっています。

修理マニュアルの影に歴史ありだな……。
他社のWindowsXPパソコンを修理することも

他社製のパソコンも修理すると聞きました。これはけっこうたいへんなのではと思うんですが……?

パソコンは分解する手順が厳密に決まっています。他社のパソコンでマニュアルが公開されていない場合は開けるのがたいへんですね。これは推測していくしかありません。

なるほど……。僕が家で使っているパソコンは形が“三角柱”なんですが、こういうのは難しそう。

たしかに、そういった専用設計のものはより難しくはなりますね。でも(お任せいただいて)大丈夫ですよ。

手間もコストもかかるわけですよね。どうしてそこまでして他社のPC修理をするんですか?

壊れたらお店かメーカーに持ち込む人は多いと思うんですけど、お店が遠いとか、古くて断られたとか、そういうこともありますよね。我々は昔からパーツショップとしてもやってきましたし、当時から修理相談は多かった。要は、できるので断る理由がないんですよ。

かっけえ……。

他社製品で印象的な修理案件ってありますか?

そうですね……。たとえばこちらの修理依頼をいただいたときはちょっとびっくりしました。OSはWindows XP、CPUはIntel Core 2のパソコンです。

XP! そうとう古いですね。

すごい、前面にIEEE1394端子が付いてる!

これを本当に修理するんですか? 買い換えた方が安いような気がしますが。

事情は人それぞれですし、思い入れもあるでしょうから。買い換えた方がいいのにあえて修理するという意味では、印象的なエピソードがあります。「他界した祖父が買ってくれたパソコンだから直したい」という依頼があったんです。こうなってくるともはやコストでは計れない心情がありますよね。

パソコン修理にストーリーありですね……。

ドラマ化してほしい。
翌日までに修理発送する“特急プラン”ができるわけ

サードウェーブさんの修理には“特急プラン”がありますよね。先ほどはパソコン修理RTAで渡部さんのすばらしいスピードを見せていただきましたが、やはりこうしたスタッフのスピードが特急プランを支えているのでしょうか?

受付時に特急プランを指定いただいた場合は、パソコンが到着しだい特急タグを付けて、優先ラインで問題個所の発見にかかります。注文時の指定金額以内であれば、即座に修理を行い、出荷します。

ん? ふつう修理って、いくらかかるか先に見積もりを出しますよね。特急プランの場合はそうではなくて、申し込むときに「○○円以内だったら見積もりは不要ですよ」とお客さんから指定があるってことですか?

そういうことですね。それと、特急プランはお支払いが代金引換のみとなります。

なるほど! パソコン修理は、実際の修理時間のほかに、決済なんかにかかる時間が意外と長いってわけですか。こういうこと、いろんな仕事でよくある気がする……。

見積りなしで作業に入るって、お客さんがサードウェーブさんを信頼しているからできることですよね。

修理センターの立地もポイントだと思います。東名高速道路がすぐ横を走っているので、送っていただいたパソコンを受け取ることも、修理したパソコンを発送することもスムーズなんです。

もともとパーツの単体販売もやっているので、交換用パーツもたくさんありますしね。

むちゃくちゃによく考えられている。ただ、そこまでしてパソコンを早く修理する意味は? 実際にこのサービスに需要はあるんですか?

おかげさまで多くの依頼をいただいております。特徴的なのは、特急プランでは“ゲーミングPC”の修理需要が高いことですね。

えっ? さらにわからない。仕事と違って、ゲームをするくらいちょっと待てばいいような……。
「ゲームはですね、待てないんですよ」

あ~! むしろ逆なんだ! たしかに僕も仕事用パソコンが壊れたら「仕事をちょっと休む口実ができた」って思うかも。

これは本当にそう。この気持ちをわかってる人が修理してくれるのはほんとに心強い。

最近はオンライン上の友だちといっしょに遊ぶゲームが多いですよね。ゲームがないとコミュニケーションが断たれてしまう。ある意味で仕事が中断するよりも辛いのかもしれません。

もっとも、弊社がゲーミングPCを多数製造しているという事情もありますし、ゲーミングPCを仕事でお使いの方も多いので、ゲームだけが理由ではないと思いますが。

そうかもしれませんね。ただ、ゲームの続きをするのに特急でパソコンを直してもらっていると思うと、それも楽しいかも。「追加料金はかかるけど特急プランを使う?」って悩むところも含めてゲームっぽい。
パソコン修理の楽しさ

修理という仕事をしていて、やりがいを感じるのはどういうときですか? 僕はさっきの「おじいさんから買ってもらったPCだから直したい」という話に感動したのですが。

やっぱりお客様が喜んでくださったときですね。修理以外にスペックアップのサービスも行っていて、これもご好評いただいています。交換したいパーツを当社の製品ラインアップから選んでもいいですし、別で買われたパーツを送っていただいても対応可能です。内部のクリーニングもできますしね。

あ、それいいですね。プロに任せたほうが安心ですもん。

スペックアップのときに、珍しいパーツや高級パーツに触れることがありまして。個人的に、そういう場合は感動します。

ただのPC好きみたいなこと言い出してますね。そういう人は信頼できる。最近だとどんなパーツがありましたか?

たとえば……。そうだ、AMDのCPU“Threadripper”(※)を扱わせていただきました。なかなか個人で触ることがないようなパーツなんですよ。いやー、あれは感動しました。
※Threadripper:単体で50万円くらいするすごいCPU。もちろん性能もすごい。

ものすごい興奮してるじゃないですか。……僕はちょっとわからないんですが、どこで感動できるんでしょうか?

高級なパーツは外観も凝っていますし、持ったとき「お、重量感あるなー」みたいな。まずそこでグッと来ますよね。

そうなんです。ハイエンドなパーツは外装がいい。しっかりしたコンセプトをもとにデザインされてるんだなと感じますね。かっこいいんですよ。

ツボとか盆栽みたいな世界だ。

実際にパソコンに取り付けて、検証のためにベンチマークテストをするんですが、やっぱりすごいスコアが出るんです。ここでも感動します。

それは何となく楽しさがイメージできます。よかった、僕にも理解できる話だった。

そういった珍しいパーツに触れたときはいちPC好きとして感動しますけど、全部のパーツが愛おしいなーという気持ちはありますね。とはいえ、やっぱりいちばんうれしいのは、お客様が困っていることを満足していただける形で解決できたときです。無理だと思われていた修理が完了したときなんてとくに。

でも、お客さんの反応ってわからなくないですか?

弊社の修理サービスではコールセンターを通していないんです。お客様が修理スタッフと直接相談しながら修理の方向性を決めていただく。だから、我々としてはお客様の満足がダイレクトに感じられるんです。お客様の要望を細かく聞いて、できるだけマッチした提案を心がけています。

ちょっと込み入った悩みだと、現場の人と直接話せるのは助かりますね……。

最近では“パソコンの不調についてふわっと相談する窓口”(※)も設けています。具体的な症状までいかなくても、悩みごとがはっきりしなくても、とりあえず相談してもらえたらうれしいですね。
※相談窓口:修理サービスの詳細ページ(→こちら)下部の“問い合わせる”ボタンよりアクセス可能。
取材を終えて

というわけで、サードウェーブさんのパソコン修理部門の方へのインタビューでした。

現場の人の話って、やっぱりおもしろいですね。

“パソコン修理”って聞くと、何となく一律で機械的に対応しているようなイメージがありましたが、実際は人が状況に応じて一生懸命やっているという。直接スタッフと話したりできるのもよさそう。

特急対応できる仕組みとか、他社製品の修理にまつわる話もよかったです。PCのことは何でもお願いしたくなる。

記事としてうまくまとまりそうですね……。ただ、一点だけ疑問があるんですが。

何でしょう?

冒頭の“パソコン修理RTA勝負”って必要ありますか? 実際の修理とはあまり関係のない内容の勝負だし、載せなくてもいいような……?

いや、そのために僕は来たので。残念ながら負けてしまいましたが、だからといって載せないのはフェアじゃないですから。

そのストイックさ、この記事にいらないでしょ。