『ファイナルファンタジー』シリーズの最新ナンバリング作品として2023年夏に発売が予定されているプレイステーション5(PS5)用タイトル『ファイナルファンタジーXVI』(『FFXVI』)。

 本作は、クリスタルの加護を受けし大地“ヴァリスゼア”を舞台に、主人公のクライヴ・ロズフィールドの復讐の物語を描くアクションRPG。これまでにふたつのトレーラー、そしてメディア向けのインタビューが公開され、“オープンワールドやコマンドを採用していない”、“召喚獣を使った大迫力バトル”といったゲームの概要が明かされている。

 そして先日、本作の最新トレーラーが公開された。第3弾となる今回の映像は、ストーリーにフォーカスしたものに。ヴァリスゼアで巻き起こる騒乱の物語が垣間見える内容となっている。

 トレーラーの内容を受け、『FFXVI』のプロデューサーを務める吉田直樹氏、メインディレクターを務める高井浩氏、クリエイティブディレクターでメインシナリオを担当する前廣和豊氏の、開発チームの中核を担うお三方にインタビューを実施。

 インタビューでは、『FFXIV』の開発スタッフであった高井氏と前廣氏が『FFXVI』の開発チームに加わる経緯をはじめ、『FFXVI』のバトルとシナリオの注目ポイント、現在の開発状況などを伺った。

※高井氏の“高”の字は、正しくははしごだかです。

吉田直樹(よしだなおき)

スクウェア・エニックス 取締役執行役員 第三開発事業本部長。2010年12月に『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターに就任。現在、『ファイナルファンタジーXVI』のプロデューサーも兼任している。

高井浩(たかいひろし)

代表作は『ファイナルファンタジーV』、『サガ フロンティア』、『ラストレムナント』。現在は『ファイナルファンタジーXVI』のメインディレクターを務める。

前廣和豊(まえひろかずとよ)

『ファイナルファンタジーXIV』、『ファイナルファンタジーXII』、『ラストレムナント』の開発に携わった。現在は『ファイナルファンタジーXVI』のクリエイティブディレクター&原作・脚本を担当している。

ゲーム体験としてすべてが噛み合うものを

――前回のインタビューは、世界中から大きな反響があったかと思います。それを受けての吉田さんのご感想をお聞かせください。

吉田前回のインタビューでは、オープンワールドをあえて採用しなかった理由、アクションに振り切った理由などに加え、35年続いてきた『FF』というブランドで、作品によってこだわりが異なるからこそ、要求されるすべてには応えられないということを、まずお話しさせていただきました。

 それに対して理解を示してくださる反応がとても多く、開発チームが目指したもの、あえて目指さなかったものを真剣に受け止めていただいたという印象を受けました。また、その内容を発信してくださる方も多かったので、手応えは非常によかったです。それを通して、開発チームとしても、プレッシャーを受けずに進めるようになったと思うので、とてもよかったと思います。

――開発チームとしてもポジティブなインタビューになったのは、メディアとしてもうれしいです。今回は高井さんと前廣さんもいらっしゃるということで、まずは、おふたりが本作の制作に携わることになった経緯を改めてお聞かせください。

高井吉田から評価面談を受けている際に「つぎの『FF』シリーズを作らないといけない」という話をされ、「ディレクターとか、興味ない?」と言われたことがきっかけですね。『FF』のディレクターをやる機会はそうそうないでしょうし、せっかくだからお受けしようかなという思いもありました。また開発の第三開発事業本部にはアクが強い人間が多く、吉田ひとりでは取りまとめがたいへんだと思い、「やってみましょうか」と返したところがスタートでした。

――そのときの心境はいかがでしたか?

高井いやー、たいへんなんだろうなと……(苦笑)。ちょうどその時期あたりに、ゲームにも“PBR(Physical Based Renderingの略)” (高品質のリアルタイムCGの描画に用いられるレンダリング。 ゲームやアニメーションなどの現場で用いられる)という言葉が出てきたタイミングで、そういうところは避けても通れないだろうなと。言いかたは悪いですけど「苦労するんだろうなぁ」とは思いましたね(笑)。ただ、開発スタッフのことを考えると、歩んでいかないといけない部分ではありますしね。

――高井さんはスクウェアのイメージからすると『サガ』シリーズのイメージが強いのですが、『FF』シリーズのディレクターをやってみたかったという思いはあったのでしょうか?

高井やってみたいと思ったことはないです!(笑)

吉田これは本心だと思います。みずから「『FF』のディレクターをやってみたい!」と思うようなタイプの人ではないと思うので(苦笑)。

高井ただ、『FF』のディレクターになるチャンスなんて、この会社にいなければそもそもないものですからね。せっかくの機会ですので、前向きに挑戦させてもらおうかなと。

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――前廣さんはいかがですか?

前廣話を振られたときの記憶が忘却の彼方で、思い出せなくて(笑)。何かの話をされるときに、吉田に焼き肉を奢ってもらったということくらいしか覚えていないんですよ。その思い出だけはあって、焼き肉がおいしかったくらいしか……(笑)。

――『FFXVI』に携わることになってから心境の変化はありましたか?

前廣話を振られてからあまり心境の変化とかはなくて、「わかったよ」くらいだったような気がします。話を受けてからの仕事の量は多くなりましたが、それでも気持ちは変わっていないですね。

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――吉田さんはおふたりにお声がけしたときのことは記憶に残っていますか?

吉田ふたりのキャリアに関わるような、責任重大なことですので覚えています。『FF』の新作の制作というと、プレッシャーのかかり具合が尋常ではなくて、それは自分自身が知っているからこそ、話を振ったときのことはよく覚えています。ふたりはそこからの仕事量が膨大だったからこそ、あまり覚えていないんですねぇ(笑)。

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――おふたりが『FFXVI』を制作するうえで気を付けていることや、大切にしていることなどありましたら教えてください。

高井“プロジェクトで最初に決めたことは基本変えない”ということと、“それが必ずおもしろい形に落ち着くようにする”ということはつねに意識していました。

――軸をぶらさないということですね。前廣さんはいかがですか?

前廣『FF』に限らずですが、プレイヤーの視点から見て、いかに楽しんでもらえるかを意識しています。ストーリーであれば、いかにプレイヤーが理解しやすくて、集中できるようになっているか、自分のアバターでもある主人公を操作して、ゲーム内で受けるすべてのことを素直に体験できるか、ということはつねに考えています。

――開発がスタートしたときにコアコンセプトを決められたと思うのですが、そのときは悩まれたりしたのでしょうか?

前廣悩んでいないと思います。

吉田僕から、“召喚獣をフィーチャーしてほしい”、“マザークリスタルを出す”、“アクションゲームである”、“オープンワールドにしなくていい”、ということを提示していたので、悩みようがなかったかと思います。

前廣困ったのはチョコボぐらいですね(笑)。

吉田世界観を詰めていったときに、チョコボとモーグリが出る余地がないという話になりまして……。プロデューサーの立場としては、チョコボとモーグリがアイコニックとして存在しないのはよろしくないと。いくら地味なゲームになりがちな、我ら第三開発事業本部が作るとしても「チョコボとモーグリがいないと『FF』に見えなくなるからなんとかしてほしい」という話はしましたね。

前廣その話を受けて、うまく『FFXVI』の世界観になじむように調整しました。

――話し合いの結果、チョコボやモーグリも無事に登場することになったというわけですね。コンセプトをもとに世界設定もすんなり決まっていったのでしょうか?

前廣『FF』として成り立つ世界観やストーリー、そしてコンセプトでもある召喚獣。この召喚獣をひとつの要素として出すのではなくて、物語にしっかりと絡めないといけないので、最初に世界設定の形ができあがるまでは時間がかかりました。

――いまの形以外にも候補はあったのでしょうか?

前廣いえ、ほかの候補はないですね。もちろん、いまの形は何度か修正を入れて完成したものですが。

吉田前廣から出てきた設定案は、一発で通ったものでしたね。

――トレーラーでは人対人、人対大型の敵、召喚獣対召喚獣といったように、3パターンのシチュエーションのバトルが確認できました。それもすべて作り上げた世界観に基づいて作られていったのでしょうか?

前廣ストーリーとシステムが絡み合わないとゲームのシナリオは意味がありません。とってつけた召喚獣やシステムでは、没入感も削がれます。そういったことを防ぐためにも、召喚獣が手に入るタイミングや、ダンジョンに行くタイミングなどを含めてプロットを固めていきました。最初に世界観やストーリーができあがるまでは長かった気がしますが、そこからは微調整だけでした。

吉田シナリオの前にコンセプト先行で動いており、要素を指定しているからこそ、ゲーム体験としてそれがすべて嚙み合うように書いてくれています。

前廣それに加えて、ステージや街をいくつ作れるかという実装コストの問題も考えなければいけません。街がひとつ増えれば、そのぶん、必要な要素も変わっていくので、そういった面も含めて決めていきました。

吉田それでも作っている途中で、物量の問題が圧し掛かってきて、「国をひとつ減らせばよかったな……」と話したことはありましたね(苦笑)。ひとつの国を作るにしても、その国だけでは物語は完結せず、ほかの国との絡みも発生しますので、作業量が掛け算になるわけです。

高井その話をしたタイミングでは、ひとつの国をなくすには遅かったんですよね。

吉田国を減らすことで、かえってコストが大きくなってしまうからダメだという結論になりました。

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――これまでに6つの国の存在が明らかとなっていますが、すべての国に行くことはできるのでしょうか?

吉田ちょっとわかり難くて恐縮なのですが、そもそも国に行く、というイメージではないのです。

前廣あくまでも物語に沿って、目的があるから国に出向くというスタイルです。

高井仮に象徴となる首都のようなものがあるとして、その中に入ってくまなく歩いて探索するといったような構造ではありません。

“当たり前のリアリティー”を表現するために

――高井さんはディレクターとして本作をどのようなゲームにしていきたいと考えて開発を進められたのでしょうか?

高井いちばん最初に、「アクションRPGの『FF』にしたい」ということがありました。アクション風ではなく、手触りからすべてアクションゲームだなと思えるぐらいのアクションRPGにしたいなと。

 また、『FF』である限り、物語で引き込むようにしたいという思いもありました。とにかくストーリー主体でどんどん引っ張られる。そんな展開があるゲームにしたいなと思い開発を進めていきました。

 そこにマストで入れてほしいと頼まれていたのが、召喚獣の要素です。これをアクション部分でも要所に絡めていく。この3軸を実現しようと思って制作していったと思います。

――コンセプトで決められたことを忠実に実現させようという。

高井はい。あとは、いまの時代で表現できる・求められているリアリティーが増しているので、全年齢対象という縛りだけは外そうと決めていました。目の前で敵を斬っているのに返り血ひとつでないのは、違和感のほうが勝ってしまいます。いままでの『FF』は全年齢対象でやってきたのは重々理解していますが、このご時世やプレイヤーの購買対象の年齢などを考慮したときに、もう少し融通が利くようにしたいなと思っていました。

――表現のためにあえて全年齢対象を外すということを当初から決めていたと。

吉田「表現のため」と言うと、誤解が生じるかもしれません。残酷表現をしたいから、という表現の理由では決してないのです。おそらく皆さんが思っている以上に、昔に比べてレーティングによる表現の制約がきびしくなっています。

 僕たちは残虐表現がしたくてレーティングを上げたわけではなく、レーティングによってできないことが多すぎるので、全年齢対象という枠を外しておきたかったのです。これは『FFXIV』に長く携わってきて、つねづねぶち当たってきた壁です。“先端が尖っている”という理由で体に矢が刺さるのがNGだったりして……。

前廣たとえば全年齢対象だと、倒したドラゴンを踏みつけて勝利の雄叫びを上げる、ということがNGとなる可能性があります。

――そうなんですか!?

吉田とくに、プレイヤーがコントロールする対象にそういった行動をさせることに対して、さらにレギュレーションがきびしくなってきています。

高井体を剣で切る、赤い血を出すということ自体がアウトで、表現の幅が非常に狭まってしまうのです。

吉田同じ第三開発事業本部で展開している『FFXIV』は、なんとかその制約の中でも工夫してどうにかやりくりしていますが、『FFXVI』ではこれだけのクオリティーの描画の中で仮にごまかして表現しようとすると、嘘っぽい絵になってしまうのです。

 大胆なカット割りもできない。ですので、“ごく当たり前のリアリティー”を表現しようとしたときに、「全年齢対象では無理だ」という判断をしました。僕たちがやりたいことをまっすぐやるために全年齢対象かどうかは関係ないと。

――なるほど。先ほども少し話にありましたが、前回のインタビューで吉田さんから「コマンドとオープンワールドの要素はなしでいい」という話があったと伺いましたが、高井さんはその言葉を受けてどう感じられましたか?

高井じつは自分もオープンワールドにはしたくないと思っていました。開発当初にオープンワールドのゲームがたくさんリリースされていたということもありますし、作る物量の問題がありました。広い土地があったとして、それに見合った遊びを用意しないと、ただ広い空間があるだけになってしまう。そういうものよりは『FF』シリーズの歴代作品の性質を鑑みて、しっかりとしたストーリーが展開していくという作りのほうが望まれているだろうなと思ったので、オープンワールドには固執しないようにしました。

――コマンドに関してはいかがでしょう?

高井コマンドに関しても同様ですね。スクウェア・エニックスでは、『キングダム ハーツ』などがありますが、とくにアクションゲームをたくさん作っている会社という印象はないと思います。その中で、いまのワールドワイドでの市場を考えたときに、プレイヤーが操作したものに対してダイレクトにリアクションが返ってくるという作りを望んでいるユーザー層が多いと感じているので、アクション部分にコストをかけてこだわりたいと思っていました。ですので、あえてコマンドという要素を入れなくてもいいのではないかなと。

――吉田さんから提示されなくてもご自身でそういう結論を出したかもしれないということですか?

高井吉田に「大きな決断になるけれど、コマンドじゃなくてもいいかな?」とは聞いたと思います(笑)。

吉田『FF』という作品は、これだけシリーズが長く続いてプレイしてくださっている人が多いので、参加する開発スタッフにも「『FF』が好き」という人間がたくさんいます。それぞれ思い入れが違っていて、コマンドやドットの『FF』が好きという人もいれば、そうじゃない人もいる。

 そうした状況の中で、先に「コマンドはなし」、「オープンワールドにしなくていい」と言っておかなければ、チームがまとまらなくなる可能性があります。「本当にコマンドじゃなくていいんですか?」、「オープンワールドが流行っているのにオープンワールドじゃなくていいんですか?」という意見が出てきて、作品作りの軸がぶれてしまいかねない。これは良い悪いではなく、好き嫌いが作用してしまうのです。

 だからこそ「こういう理由だから今回はやらない、やらなくていいとプロデューサーの吉田が言っている」と、リーダー陣が開発スタッフに言えるのはひとつの作品を大人数でまとめるために重要です。好き嫌いではなく、明確な理由があり、今回はそういった方針のゲームを作るプロジェクトである、と理解が進むためです。前回のインタビューはファンの皆さんに向けての言葉ではありますが、開発チームも同じく『FF』ファンですからね。言っておかないと、現場がたいへんなのです……。

――吉田さんが宣言されたことでだいぶ作りやすくなりますよね。

吉田それはあると思います。「コマンドじゃなきゃ嫌だ」と言うスタッフが出てきたとしても、宣言しておくことでプロデューサーである僕がその批判を受けることになる。スタッフとしてはそちらのほうが動きやすいのかなと。

――そこまで考えたうえでコンセプトを提示されたわけですね。少し話が変わりますが、トレーラーでは“人対人”、“人対大型の敵”、“召喚獣対召喚獣”の3パターンのバトルが確認できますが、それぞれのバトルをどのように設計されていったのでしょうか?

高井“人対人”は便宜上そう呼んでいるだけで、人間対人間サイズのバトルで、そこには(人間サイズの)モンスターとの戦いも含まれています。バトルのシステム上、地形に影響せずに戦えるものが“人対人”のバトルだと思っていただけるとわかりやすいかもしれません。

 『FFXVI』で行われるバトルの地形は、その時のバトルシチュエーションにあった専用ステージと、自由に移動できる広大なフィールド上での2種類に分類されるのですが、フィールドには足場の高低差がけっこうあったりします。いくら足場がガタガタとはいえ、モンスターが存在しないわけにはいかないので、“人対人”と呼ばれているものは、それらの足場に影響せず配置されて戦うことができるモンスター群となります。

 “人対大型の敵”はおもにボス戦に相当するものです。コンテンツごとに専用アクションやリアクションが用意されており、迫力のあるさまざまな戦いができるようになっています。主人公であるクライヴが超大型のモンスターと自由に戦える、そんなイメージですね。

 “召喚獣対召喚獣”はありとあらゆるレギュレーションが無視され、その場限定の戦いが展開します。1回見たら最後までジェットコースターのように戦い続けていくバトルですね。ワンオフ(一度限りの意味)で専用にすべての召喚獣戦が作られています。自分が操作する召喚獣の大きさが20メートル近くて、敵は数100メートルといった規模の大きいバトルが、空や、底が見えないクレバスなどいろいろなロケーションで展開していきます。

――前回のインタビューで吉田さんがおっしゃられていた、「それぞれに違うバトルが楽しめる」というのは召喚獣対召喚獣のことでしょうか。

吉田そうですね。召喚獣対召喚獣は、初めてプレイするときは操作に戸惑う可能性があるくらいバトルごとにまったく遊びかたが違います。

――操作するボタンがバトルごとによって異なるのでしょうか?

吉田一応、共通にはなるように作っていますが「このバトルではさらに使用できるアクションが増え、それを駆使して対応する場面があります」という感じで、できることや要求されることが増えるという作りになっています。コンテンツ自体も序盤は小手調べから始まって激化していくというイメージですね。

 “人対人”のバトルは基本システムの上で成り立っていますが、“人対大型の敵”のバトルからはすべて専用に作ったものになります。ボス側もイチから構築していますので、マップも派手に壊れたり、ステージ上にあるものを利用して攻撃してきたりするので、そこはシステマチックには作っていません。

高井大型のボスとの戦いから、召喚獣対召喚獣のバトルにシームレスに移行したりもします。

吉田召喚獣に関するバトルは、複数あるバトルの全スケールが入り乱れるバトルになっていて、すべてシームレスになっています。そこが本作の醍醐味のひとつかなと。

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――これまでにないバトルが体験できそうでとても楽しみです。ほかにもバトルにはさまざまな魅力が詰まっているかと思いますが、高井さんから改めて本作のバトルの魅力やコンセプトをお聞かせください。

高井基本的には、ストーリーが進むと召喚獣の力が使えるようになっていき、主人公のアクションの幅が広がっていきます。新たに開放されていくアクションから取捨選択して、どう戦うかを考えていくのを楽しんでほしいですね。

 ただ、MP管理などの要素はほぼなく、最初は難しいことを考えずに、やれることをぶちかましていっていただければ気持ちよく遊べるようになっています。それらをひと通り体験してみて、「もっとこだわりたい」という人は、こだわれる要素を多々用意していますので、そちらで凝って遊んでいただければうれしいですね。

『FF』としてしっかりと遊べて、しっかりと完結した物語を。裏テーマも明らかに

――今回、新たに公開されたトレーラーはストーリーにフォーカスしたものになっていますが、そのような作りにした意図を教えてください。

吉田1回目の発表では『FFXVI』が開発中ということ、2回目は召喚獣どうしの大規模な戦いが展開するゲームになっているということをお伝えしてきました。今回は、そろそろストーリーのベースを知っていただきたいという狙いがありました。全世界中のゲーマーに知ってもらおうというよりは、いまの時点から『FFXVI』を楽しみにしてコアに注目してくださっている方に向けて、『FFXVI』の世界観やキャラクター、登場する国のイメージをしっかりと持っていただきたいなと。

 ここからさらに年末、年明けと本格的にPRが始まるときに、トレーラーで得た知識やイメージがあることによってどんどん想像が膨らむようになっています。その土台として今回はストーリーや世界観を中心に紹介するようなトレーラーを製作しました。

――以前から公式サイトには世界観や国ごとの設定などが掲載されていましたが、ムービーで見るととてもイメージがしやすいですね。最終的にドミナントが石化するということに衝撃を受けました……。

前廣それはこの世界のルールですね。

――ドミナントが石化してしまったら、すぐに新しいドミナントが生まれるのでしょうか?

前廣いろいろな条件のもとでつぎのドミナントが誕生します。先代がなくなったらつぎは数100年後かもしれないし、すぐかもしれない。各属性で同時にひとりしかドミナントが存在しないというルールはありますが。

――ドミナントがいない期間もあるということですか?

前廣あります。細かいルールが存在している中で、いまのこの世代にこれだけのドミナントがそろっているという状態です。

――いまは各国のドミナントが全員そろっている、奇跡のようなタイミングだと。

前廣そうですね。

――ちなみに、ドミナントは各国にひとりという決まりがあるのですか?

前廣お話に関わるところですね。ただ、それはルールではありませんし、ひとりとは限りません。

――今回の情報でウォールード王国にはふたりいることが判明しましたよね。

前廣そのとおりです。

吉田ドミナントは人であり、だからこそ、当然人としての意思も介在するので、世界の理=ルールに縛られにくい。ドミナントそのものの扱いも、国によって異なりますしね。

――なるほど。強奪されることもありそうです。

吉田まさにそうです。そうやって、望まぬ戦いのために使役させられることもある。

――今回のトレーラーでは本を開くところから始まって、閉じるように終わったと思うのですが、本編のストーリーもそういうイメージで進行していくのでしょうか? それとも今回のトレーラーだけの演出なのでしょうか?

吉田この質問が来るとは思いませんでした。ものすごくいいご質問なのですが、いまはまだ内緒にしておきます……(笑)。本作では、ゲームの中にも歴史を知るシステムが用意されているので、それを紐解きつつプレイしていただければ前廣も喜ぶと思います。

前廣そうですね。歴史を紐解くといっても謎に挑むようなものではなくて、言葉どおり、ヴァリスゼアという世界の歴史を知っていくものです。本編の物語と合わせてみていただければ、より一層、ストーリーが楽しめるんじゃないかなと。

高井今回のトレーラーのナレーションの女性の声とかを覚えておくと、本編を遊んだときに「おお!」となるかもしれません。

吉田今回のトレーラーもそうですが、最終的には本編を遊んでいただいたときに、改めて発売までにPRで出てきた動画を見直していただくと、いろいろな発見があるように仕込んでいたりします。ですので、これからもさまざまな『FFXVI』の情報が発表されていくと思いますが、トレーラーも合わせて見ていただければ小ネタとしても楽しめるかなと。

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――そういった仕掛けも用意されているのですね。どのような物語が展開していくかも気になりますが、改めて本作の世界設定やストーリーのコンセプトをお聞かせください。

前廣冒頭でも『FF』として召喚獣、そして物語の作りなどをお話させていただきましたが、個人的なテーマとしては“自己肯定”というものを入れています。肯定するということは認めるということですが、自分が自分を認めるにはいろいろな方法があると思っていて、それをいろいろなところに散りばめていった感じですね。テーマのことは誰にも言っていなかった気もしますが……。

――吉田さんはそのコンセプトを知っていましたか?

吉田面と向かって聞いたのは初ですが、開発中に感じていたところではありました。本作には、自己肯定ができるキャラクターもいれば、最後まで自己肯定ができないキャラクターもいます。それぞれのキャラクターの物語、それがどうつながっていくかも描かれるので、前廣のそのテーマはおもしろい見かたな気がします。

前廣自分を認めるということはすごく辛いことだと思っていて、その葛藤を感じてもらえるかと。もしかしたら世の中には自分が大好きな人もいるかもしれませんが。

吉田自分が思っている自分、肯定していると思っている自分は、じつは表面だけを見ているといったケースが多いと思うのです。こうありたいとは思っているけれど、いまの自分を100%好きになれる人はそんなに多くなくて、どうしても虚勢を張るケースのほうが多いような気もします。本作では、そういった心情がキャラクターごとに描かれていきます。

――キャラクターひとりひとりの生きざまとしての、自己肯定を見届けるという感じですね。

前廣あえてテーマを言うことなんて初めてなので恥ずかしいですね(笑)。

――テーマやコンセプトも含め、世界軸や世界設定を設ける際の意図やこだわりを改めてお教えください。

前廣世界設定は、召喚獣という要素から落とし込んでいきました。召喚獣という危険な存在が世界中にいるという世の中で、平和なことはまずないでしょうし、その存在が何かしらに使われているだろうというところから世界を作っていきました。

 そこから、争いが起こるとしたら、なぜその争いが起こるのか。領土問題や貧富の差など、いろいろな問題があるうえで、ヴァリスゼアでは各国の抑止力として召喚獣があったとしたらどうなるのかというところから落とし込んでいっています。

――召喚獣ありきで世界観が作られていったわけですね。

吉田召喚獣とマザークリスタルありきで制作がスタートしていますからね。その世界での危機として、“黒の一帯”が広がっていたり、エーテルの枯渇が始まっていたりといったことを肉付けしていってもらったイメージです。最初にもらった世界観の時点ですごく練りこんでくれていたので、すぐに企画が通りましたね。

――“黒の一帯”に侵食された地域はマザークリスタルの加護は一切受けられないのですか?

前廣一切受けられません。マザークリスタルは、魔法を使ったり、動植物が成長したりする力の源のような万能エネルギーである“エーテル”を放出しているのですが、“黒の一帯”ではそれが何ひとつ得られないので、何もできない土地になっています。ビジュアルとしても、黒い荒野がひたすら続いていくものになっています。

――“黒の一帯”はヴァリスゼアをどれくらい侵食しているのでしょうか?

前廣全土ではないにせよ、だんだんまわりから侵食されていって、生きるところが狭くなっていくというイメージです。

吉田たとえば、ヴァリスゼアの西方に位置する風の大陸では、2割ぐらいが“黒の一帯”に侵食されています。ただ、風の大陸にはマザークリスタルが点在しているので、その周辺だけはマザークリスタルから大量に放出されるエーテルがあるからまだ大丈夫というニュアンスですね。とはいえ、マザークリスタルから放出されるエーテル量も減ってきて……と、さらなる問題に直面することになります。

――砂漠化みたいなイメージに近いですか?

前廣砂漠よりは月面が近いかもしれません。何もない場所ですね。

――“黒の一帯”となった地はもとには戻らないのでしょうか?

前廣戻りません。

――マザークリスタルでどうにかしようとしてもダメなんですね。

吉田ヴァリスゼアには、目には見えませんがエーテルが満ち溢れています。そのエーテルによって呼吸をして、大地から水を吸い上げて植物が成長していきます。そのエーテルがなくなると、水があっても草木は成長できないし、有機物がなくなっていく。そのようなイメージでいてもらえると。

 “黒の一帯”は、緑もなくなりますし、砂もすべて飛んでいくので、結果的に無機物の大地だけが真っ黒になって広がっていると思っていただければいいかなと思います。トレーラーの中で、最初に「こんな場所に」と言っているシーンがありますが、あれが“黒の一帯”のビジュアルになっています。

――呼吸をすることもできなくなるのでしょうか?

吉田空気はあります。ただ、動植物がなく、人が住めないような場所になっています。

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――徐々にイメージができてきました。前回のインタビューでは『FFXIV』の拡張パッケージ第1弾である『蒼天のイシュガルド』が好きな人に刺さるかもしれないというお話がありましたが、前廣さんも同じイメージを持たれていましたか?

前廣あまり自分では意識していなくて。そういうのしか書けないんでしょうね……(笑)。

吉田前廣味だと言いたかっただけです(笑)。

高井不思議なもので、ゲームの中で漂っている空気感が『蒼天のイシュガルド』といっしょなんですよね。

――前廣さんの作風が全面に出ているということですね。今回は、新たなキャラクターのディオンとバルナバスの情報が解禁されましたが、この2名以外にも本作でキャラクターを生み出すうえでのコンセプトやこだわりなどありましたら教えてください。

前廣僕の話の書きかたなのですが、キャラクターから作らないんですよ。テーマがあって、そこに舞台があり、国や人が存在する。先に世界を作ったうえで、主人公がこういう物語を体験していくという感じで作っていったのです。

高井最初に出てきたのがワールドマップだったもんね。

前廣僕は最初にワールドマップを作るところから始めますから。

――クライヴはワールドマップの後に生まれたと。

前廣そうですね。いわゆる主人公という立ち位置のキャラクターがいることは確定していましたが、クライヴというキャラクターが生まれたのはワールドマップを作った後ですね。ワールドマップがあって、その世界をどう歩いていってというように、先にプレイヤー体験を作ってから物語を書いていきました。

 書き手によってバラバラだと思いますが、僕の場合、キャラクターが生まれるのは最後なんですよ。こういうプレイヤー体験があるから、それにあったキャラクターを登場させていく。もちろん、キャラクターが生まれたらそこに全力を注いで、世に出しても恥ずかしくないようにはしますが。

 最初に作ったワールドマップの設定を見た某氏からは「頭がおかしい」と言われたくらい、風や川の流れを決めたり、森が広がっている場所や、“黒の一帯”の侵食のしかたなどを決めていました。その世界があるから、街や人が生まれるんですよね。

――その世界で登場するキャラクターを生み出すうえで、意識されたポイントはありますか?

前廣プレイヤー体験ありきですね。ここでこういう出会いかたをして、こうやって戦ってとか、プレイヤー体験によって『FFXVI』のストーリーを味わっていただきたいので、その役わりとしてキャラクターを作っていく形ですね。

 たとえばディオンは、クライヴが復讐のために生きるという側面があったので、正統派の王子様とはなんだろうというところから生まれました。バルナバスに関しては、正統派の王子様がいるのであれば、謎に満ちた王様もいたりしてと。そういったように、ここでこういうキャラクターと出会うことで、プレイヤーがより楽しんでもらえるんじゃないかなということを考えながらキャラクターを作っていきました。

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――バハムートやオーディンのドミナントだからこのイメージで、という流れを想定していたのですが、それとはまったく違う形でキャラクターが生み出されていったのですね。

前廣そうですね。とはいえ、プレイしていただければわかると思いますが、召喚獣とキャラクターのイメージのブレはないと思います。

高井最初にワールドマップが完成して、つぎにマザークリスタルが出てきて、キャラクターや国名などはずっと仮称だったんですよね。ディオンもずっと「バハムート」と言われていたりして(笑)。

――そんなプレイヤー体験を重視したストーリーで、注目していただきたいポイントなどありましたら教えてください。

前廣自分で書いて、自分で通してプレイしてみて、僕が会社に入る前から遊んでいたような『FF』のイメージに近いものになったんじゃないかなと感じています。『FF』としてしっかりと遊べて、しっかりと完結した物語を楽しんでいただけると思います。そこをぜひ体験していただければと思います。

『FFXVI』は完成間近。ブラッシュアップで最適化を図るフェーズに

――ちなみに、現在の開発状況は……?

高井9割5分ほどです。

――もう完成間近なんですね!

高井そうですね。日々、通してプレイして粗をつぶしていって、一部パフォーマンスや描画に不備があるものをブラッシュアップしていくというのが現状ですね。あとはバグ取りです。

吉田とにかくゲームの規模が大きいので、デバックには相当時間がかかっています。プログラマーはほぼ全員バグフィックスのためにコードをいじっているという状態です。

高井新しいバグが出るから、コードを追加するのは禁止ですとお触れが出されています(笑)。

――そんなお触れが(笑)。今回のトレーラーではそのまま実装されそうな感じのUI(ユーザーインターフェイス)も見て確認できましたが、そこもトレーラーのままのもので遊べるということでしょうか?

吉田UIに関しては、最後の前廣のフィードバックをいま調整している段階です。トレーラーで描かれている範囲のものは、そう大きくは変わらないかと思います。

――完成間近ということで気になるのは発売日です。現時点では“2023年夏”となっていますが、具体的な発売日はいつごろ判明しそうですか?

吉田年内にもう一度、情報を出させていただく予定ですので、そのタイミングで言えるかと思います。夏は越えないので、大丈夫だと思います(笑)。

 ここ数年、オンラインゲームの開発環境に慣れていたので、こんなに早くマスターアップしなければならないのか、と少し驚きました(苦笑)。物理ディスクを生産して、世界中にそれを配送し出荷して……と考えると、やはりマスターアップしてから物理時間が数ヵ月かかってしまいます。開発状況が9割5分と言うと「すぐ発売してよ」という声も出てくるかと思いますが、そういった事情がありまして……。

 現在はディレクターやクリエイティブディレクターが「どうしてもここを直したい」と言ってももう対応できないという状態になっています。あとはとにかくデバックと最適化、そして祖堅率いるサウンドチームが悲鳴をあげている段階ですので、彼らの悲鳴が消えたら完成かなと(笑)。

――最後はサウンドなんですね。

高井我々もこだわっていじるので、サウンドチームに迷惑をかけちゃうんですよね……。「ここいじったら、音楽もずらさなきゃいけないじゃん」と。

吉田極限までフィードバックして調整したせいで、サウンドチームから「本当に終わらす気があるんですか?」と大説教を受けまして(苦笑)。そういったこともありつつ、僕らがいじって変えてしまったものをさらに調整したりと、どうしてもサウンドは後ろの行程になってしまうのです。いつも迷惑をかけて申し訳ないです。今回はとくにアクションゲームですので、タイミングもシビアなものが多い。祖堅たちもそこに苦労している状態です。

 そこが終われば、最後のバグフィックスと発売準備という形です。ですので、年内には発売日が発表できるかなと思いますし、それが秋になることはないと思います。

――楽しみにしています! 最後に本作を心待ちにしている方々に向けてメッセージをお願いします。

前廣『FF』シリーズ最新作でもありますが、1本のゲームとして本当におもしろいものができあがったかなと。ストーリーもバトルも、ゲームのトータルのデザインとして非常にいいものができあがったと思うので、ぜひ楽しみにしていただければ。

高井ストーリーがしっかりとしていて手触りのいいアクションが楽しめる『FF』を作ろうというところから始まり、本当に手前味噌なのですが、それらの要素が見事に絡み合ったなという手応えのあるゲームになりそうです。あと何ヵ月後かはわかりませんが、発売を楽しみにしていただきたいなと思います。自分で何周したかわからないくらいプレイはしているのですが、止めどきのないゲームにはなったかなと思っています。ぜひ楽しみにしてください。

吉田僕たちは第三開発事業本部の立ち上げのメンバーでもあって、その当時から思っていたのですが、やっぱりどこまでいっても野犬の群れでした……。僕らの作風は、「明るく、澄んだ青空の下での、希望に満ち溢れた冒険活劇! にはならないんだなあ」ということをつくづく感じましたが、無理に背伸びせず、やりたいことと、自分たちがこれは『FF』だろう、というものに仕上がったかなと思います。

 久しぶりに重く沈んだ雰囲気の『FF』ではあると思いますが、だからこそ表現できるものがたくさん詰め込んであります。ぜひそのあたりも楽しんでいただければなと。開発チームがずいぶんといいものに仕上げてくれたので、ここからは皆さんにワクワクしてもらえるような情報を出していきつつ、発売まで盛り上げていきたいなと思っているのでよろしくお願いします。