関家具という家具屋さんがある。創業から54年に渡って黒字経営を続け、年商は188億円(2022年5月期)。家具の卸売界において売上日本一。要するにすごい会社である。
関家具さんは『Contieaks-コンティークス-』(以下、コンティークス)というゲーム関連ブランドを持っていて、前に取材したときはおかしな話をたくさん聞けた。
※この記事は関家具のゲーミングギアブランド『Contieaks-コンティークス-』の提供でお送りします。
【以前の取材で聞いたエピソード】
- お客さんの声を真に受けてすぐに製品を作る。
- ゲーミングチェアの新モデルを発表したら「座椅子バージョンもほしい」と意見をもらい、翌月にラインアップに追加。
- 輸送費を削減して販売価格を下げるため、船便1回でたくさん積めるように外箱を根性で小型化。
- キャスターの回転が滑らかなスピード重視のイスがある。
- 他社の安いゲーミングチェアを分解調査したら、内部の錆びや溶接がひどいものもあった。「お客様に何てものを売ってやがるんだ」とむかついたので同価格帯のモデルを製造。
- その担当者は漫画に出てくる科学者みたいに自社製品に「よ~し、いい子だ」と言ったことが3~4回ある。
など、おもしろエピソードは枚挙にいとまがない。
本記事担当のミス・ユースケが好きなのはふたつめ。新製品を作る際は製造コストの計算や安全性テストなど、多数の工程をクリアーする必要があるはずなのに、翌月。スピード感がおかしい。
これらを総合して、以前の記事では“家具業界のラスボス”と紹介している。

エピソードの後半だけ読むとやばい会社みたいですけど、事実なので何も申し開きができません。

心中お察しします。
とはいえ、「いいものを作ろう」や「お客さんに満足してもらおう」という気持ちが過剰なだけであって悪いことではない。しっかりしている会社とは、こういうものだと思う。
『Contieaks-コンティークス-』製品をAmazonで購入FAV gamingコラボのゲーミングデスク『ロワイヤル』
さて、本題に入る。本記事担当のミス・ユースケは、先ほどの山本さんから呼ばれてFAV ZONEにやってきた。KADOKAWA Game Linkageがプロデュースするプロゲーミングチーム・FAV gamingのトレーニング施設である。
関家具さんはFAV gamingのスポンサー。FAV gamingとコラボしたゲーミングデスクの新モデルが2022年12月10日発売ということで、紹介したいらしい。
その名も『ロワイヤル』。フランス語で“王“や“王室“という意味だ。価格は3万1900円[税込]。こういったデスクは4~5万円くらいしてもおかしくないのに、安いじゃん、王。

山本さん、さっそく新モデルを見せてください。

ユースケさんの前にあるそれです。

なるほど。うっすらそんな気はしていました。
どうりで見たことないデスクがあると思った。実際に試しながら山本さんから特徴を教えてもらう。
ところで、僕は165cm・42kgとかなり軽量小型。使用イメージを撮影しようにも家具にとって重要なサイズ感が伝わりにくい。そこで、一般体型の男性にモデルをやってもらうことにした。
FAV gaming所属の格闘ゲーマー・sakoさんである。
FAV ZONE関係者に「誰でもいいんだけど、中肉中背の人いない?」と相談したのは僕だが、わざわざプロゲーマーを呼ぶとは思わないじゃん。そういう政治力は別の場面で発揮してほしい。
とはいえ、sakoさんはとくに疑問を抱く様子もなく、いろいろなポーズを取ってくれた。さすが格闘ゲームのプロだけあって対応力が違う(適当なことを言いました)。
サイズ:1cm小さくすることで販売価格を抑える

サイズは幅119cm×奥行き59cm×高さ70.5cm。日本の室内に置きやすい大きさだと思います。オフィス用のデスクとしてもいいですよ。

ん? 寸法が中途半端じゃないですか?

デスクは120cm×60cmが多いんですけどね。この1cmが、販売価格を下げる努力の証なんです。
デスクの天板はMDF材という素材だ。メーカー(工場)は大きな1枚板(原板)を仕入れてそこから切り出していく。当然、寸法ぎりぎりまで使ってムダを抑えたい。
原材料と生産量の比率を“歩留まり率”と言い、このデスクは歩留まりが絶妙なのだとか。美しさを感じるほどにムダがない。

いまいちばん使い勝手のいい原板の場合、120cm×60cmだと3枚しか取れないんですよ。でも1cm小さくしたら4枚取れた。じゃあ小さくしちゃえ。

1cm小さくしたらピタッとハマるとわかった瞬間、テトリスくらい気持ちよかったでしょうね。
たとえば原板が100枚あったとする。ここから取れる天板が300枚と400枚では原材料費が段違いだ。ほんの1cmに企業努力が出る。
1cm程度の差なら安いほうがいいという人も多いはず。この記事を読んだ製造業の人は「ほほー、そこで1cm削る判断をしましたかー!」と興奮しているのだろうな。

何kgまで載せられるんですか?

耐荷重は60kgです。かなり重いタワー型PCで20kgほど。そこにモニターを何枚か載せてもさすがに60kgは超えないので十分なスペックだと思います。
同梱パーツで機能を拡張
このロワイヤルはFAV gamingとのコラボモデル。所属選手のアンケートをもとにゲーマーにうれしい要素を取り入れている。
山本さんに「結局、ゲーミングデスクって何?」と聞いたところ、返答は「要するに高機能・多機能な机です」。オフィスワークもゲームもデジタル機器を使う点は共通なわけで、実績豊富な関家具さんがゲーマーの意見をもとに機能を追加したのなら信頼できる。
どんな意見があったのだろう。サイズをミリ単位で調整するとか、光の反射が気にならない色がいいとか、ゲームのプロならではの視点があったのだろうか。

ジュースをこぼすからドリンクホルダーがほしいって言われました。

かわいいな。

ヘッドセットの置き場所に困るという声もありました。これもホルダーを用意したので、ドリンクホルダーの反対側に取り付けると便利ですよ。
ほかに多かったのは「ケーブルをまとめられるようにしてほしい」だそうだ。超わかる。
ゲーム機やPCの電源ケーブル、モニター用ケーブル、LANケーブル、有線キーボード、マウスなど、ゲーマーはつねに配線と戦っている。対戦相手よりも、悪の魔王よりも、とっとと倒すべきはケーブルである。古来よりそう決まっている。ごちゃごちゃケーブル、おれはお前を許さない。

何があったんですか。こわ。

トレイやラックがついてケーブルマネジメントしやすいデスクって高いんですよね。オプションでケーブル収納をつけるメーカーさんも多いですけど、だったら標準でつけたほうがいいと思って。

オフィスデスクだとケーブル逃がし用の穴があったりしますよね。キャップ付きで。

ケーブルホールですね。それもいいんですけど、どうしてもデコボコしてしまう。フラットのほうが使いやすいかなと。

あとはデスクマットが標準でついてるとありがたいと。

わかるなー。でかいデスクマットがあるといいんですよ。固いデスクにずっと手を置いてると疲れるし、キーボードのズレ防止にもなる。

どうせ作るんだったらオリジナルがいいので、FAV gamingの皆さんでデザインコンペをやったんですよ。ひとつはいま敷いてあるsako選手モデルですね。

もうひとつはRADさん。シンプルにまとまっているので、オフィスにも置きやすいと思います。

ふちのグリーンが差し色になっていていいですね。オフィスに置いてもいいのでは。

ネット通販とか家具屋さんで販売予定なので、家具屋さんにも見てもらってるんですよ。「eスポーツはわからないけど、デスクマット付きのオールインパックはいいね」と仰ってくださる家具屋さんは多いです。

ちゃんとしたデスクマットって単品で2000円くらいするし、セットになってたらたしかにお得。

ビジネスで使いたい人にもおすすめです。印鑑を押すときめっちゃ楽。

地味に便利。
【印鑑をきれいに押すコツ】
- ゴムのような弾力のあるマットを用意
- その上に書類を置く
- 印鑑のふちで円を描くようにぐるりと回しながら力を入れる
つい押印の攻略情報を書いてしまった。印鑑を押しまくる人がデスクマットの便利さに気付いたらスタオベすると思う。
山本さんによると、「このデスクマットを作っているのは、もともとマウスパッドを作っているメーカーさんなんです」。マウスのセンサー読み取りテストのような専門的な検査は行っていないものの、しっかり厚みもあって安っぽさはない。

3つ目はチームロゴをお借りしました。ただ、ひとつトラブルが発生したんです。それは……。
「途中でロゴが変わることに気付いて慌てました」
※FAV gamingは2022年4月8日にチームロゴ変更を発表。

たっぷり間を使って言うことか。
『ロワイヤル』にはゲームパッドとソフトを置けるラックも付属している。FAV gamingのプレイヤーはコアゲーマーだが、ファンまでそうとは限らず、PC以外でもゲームをする人は多いだろうという判断である
目指したのは、Nintendo Switchやプレイステーション(PS)、Xboxといった家庭用ゲーム機でも快適なデスク。もちろん、一般的なPC作業用途でもいいし、配線がしやすければ汎用的に扱える。

「地味に便利」ってデスクにとってめちゃくちゃ大事な言葉なんですね。パーツが多いと製造コストも高くなりますけど、どうしてここまでやろうと?

オールインワンパッケージなデスクがいいよね。選手の皆さんはどんなのがいいですかって、ノリで。

ノリかよ。
無邪気に傷をえぐったら文化の違いの勉強になったインタビュー
ゲーミングデスクの新モデル『ロワイヤル』に詰まった機能をいろいろ聞けて満足だ。この流れでおもしろ苦労話でも聞かせてもらい、晩酌の肴にしよう。

インタビューのモチベーションがおかしいと思うんだよな。

何かないんですか? おもしろトークあるんでしょ?

sakoさんも煽ってこないで。

『ロワイヤル』って3万1900円[税込]ですよね。1cm小さくしたことで価格を抑えられたって話がありましたけど、その辺の苦労とか何かないですか?

(この人、無邪気に傷をえぐるな……)

当初は3万円を切る予定だったんですよ。サンプルを作っているうちにコロナ禍になって、電力不足で(中国の)工場が止まって、ロックダウンで検品できなくなって……。

そうこうしているうちに世界情勢のあおりを受けて石油原材料の価格が上がって、輸送コストも上がって……。この話おもしろいですか?

めちゃくちゃ興味深いですね。

(鬼だな……)

そう言えば、サイズに関して選手からの要望はありましたか?

「ゲーム配信するから大きめがいい」という意見はありましたね。ただ、仮に幅140cm~150cmくらいにするとおそらく5万円を超えるんですよ。ファンの皆さんがコスパよく買えるとは言いにくい。価格とサイズのバランス的に119cmがいいんじゃないかなと。

あと、サイズが大きいと運賃が上がっちゃうんです。安く作れたとしても配送にお金がかかったら本末転倒。ネットショップで120cm幅が多い理由はそこ。ほんとに悩ましい。

120cmの壁があるのか!

まさに壁ですね。どこもだいたい箱の三辺計(縦・横・高さの合計)が220cm以下になっているかと。

高さはどうですか? 70.5cmということですけど。

テーブル類の高さは70~72cmという基準があるんです。JIS規格で決まっていて、旧JISだと70cm、新JISだと72cm。海外だと74cmが多いですね。

だいたい2~4cmの差かー。それは単純に日本人が小柄だから、ということ?

食文化の違いもあります。日本はお箸と茶碗を持って口に近づけて食べるので低くてもいいんですけど、欧米はナイフとフォークじゃないですか。

なるほど。お皿を持たないから。

フォークに顔を少し近づけて食べるので、テーブルが高めのほうがいいんです。

(文化の違いも勉強できるいい記事だな……)

ただ、この数cmの差がたいへんでして。今回発注した工場は欧米向けの74cm製品しか作ってなかったんですよ。

そうか。きっと工場は製造を機械化してますよね。製造ロボットのプログラミングから何から作り直しになるということ?

そうです。たった4cmではあるんですけど。梱包箱も海外の規格に合わせてますしね。しかも、世界的には74cmサイズの製品のほうが多いから、少ない日本向けのために設定し直すのもたいへん。ものすっごい粘り強く交渉しました。

コロナ禍の影響もあったんだと思います。海外からの注文が減ってきた。生産も安定しないから近場ですぐに出せる国、少なくてもいいから関家具さんの日本向けを作ろうか、みたいな。そういう気持ちになってくれたのかもしれません。
ゲーミングデスクの情報を聞きに来たら世界情勢の話になってしまった。スケールが大きい。
難しい話はもう少し続きます。僕も半分くらいしか理解してないから大丈夫。ついてきてほしい。

原材料とか製造コストってどれくらい変わりました?

為替円安で15~17%くらい上がってますし、加えて原材料は原価ベースで鉄鋼だと20%くらいアップ。木材もたいへんですよ。ウッドショックって言葉があったくらい。こっちも20%近く上がっていたりします。

これまで1万円で仕入れていた材料が1万2000円に。

コロナも戦争もなかったらでっかい原板から切り出せて、もっと作りやすかったでしょうね。SDGsの流れもありますし、廃棄量をなるべく減らしたいという気持ちもあります。
原材料に製造コスト、為替円安、ウッドショック、そしてSDGs。製造業の人はいろいろ考えてものを作っているのだなと感心するばかり。
これはゲームメディアに載せる内容なのか、と疑問を抱かないこともないが、ゲーマーには設定好きや凝り性も多いし、裏話も興味深く読んでくれると思い、この記事を書いた。
家具の未来
正直に言うと、ゲーミングデスクって何がゲーミングなのだろう、何がすごいのだろうと疑問があった。だけど、デスクとして着実な進化を遂げていた。
今後、家具はどう進化していくのか。たとえば、いま以上にVRが当たり前になったら、大きく体を動かしてもぶつかりにくいデザインのデスクやチェアが流行るかもしれない。熱中して大声を出しそうだから、防音機能が注目される可能性もある。
昔の家具にはわかりやすい売れ筋があったが、いまはそうではないらしい。個性の時代に突入し、いろいろなバリエーションが売れるようになった。「家具って不思議ですよ。日用品だけど嗜好品でもある」と、山本さん。だからこそ好きなものにこだわりたい。

「ゲーミング家具って何? 光ってるの?」なんて冗談もありましたけど、いまはもう現実的にゲーマーの意見が反映されて、ちゃんと進化しているんです。
ちなみに、抜本的な変化が起きにくいのも家具の特徴とのこと。人間が使いやすいサイズと形はほぼ決まっているからだ。それが人間工学。
それでも、ゲーマーに優しい家具メーカー各社は独自の視点で「何をしてゲーミングなのか」を追求していく。山本さんは、もちろんコンティークス(関家具)がいちばんおすすめと前置きしつつ「各社の動向に注目するのもおもしろいと思いますよ」と結んだ。
それでは、コンティークスの未来はどうなっていくのか。

ちょっと意見をお聞きしたいんですけど、ドリンクホルダーは少し大きめのほうが便利ですかね?
少なくとも『ロワイヤル』はすぐに進化しそうである。