バンダイナムコエンターテインメントより配信中のアイドル育成&ライブ対戦ゲーム『アイドルマスター シャイニーカラーズ』(以下、『シャニマス』)。本作のイラストを手掛けるアートチーム所属の雲丹氏と、制作プロデューサー・高山祐介氏のインタビューをお届け。
『シャニマス』のイラスト制作におけるこだわりなどのほか、雲丹氏が担当したという黛冬優子のキャラクターデザインの誕生秘話についても聞いた。
『アイドルマスター シャイニーカラーズ』関連商品をAmazon.co.jpでチェック雲丹(うに)
『シャニマス』アートチーム所属。本作の開発当初よりイラスト制作に関わっている。 現在はイラストのディレクションも担当。(文中は雲丹)
高山祐介(たかやまゆうすけ)
『シャニマス』制作プロデューサー。(文中は高山)
シナリオチームと密に擦り合わせを行い、シナリオへの理解度を深めてデザイン
――まずは、プロデューサー(※『アイドルマスター』シリーズのファンのこと)の皆さんへの自己紹介として、雲丹さんがこれまでどのようなお仕事をされてきたのか教えてください。
雲丹現在、イラストのディレクションをしている雲丹です。サービス開始当初からアートチームに参加しておりまして、カードイラストの原画を中心に、ユニット衣装のデザインやCDジャケットのデザインも一部担当しています。カードイラストはこれまで130枚ほど担当しています。また、黛冬優子のキャラクターデザイン原案も担当させていただきました。
――ユニット衣装のデザインもされているとのことですが、これにはどのように関わられているのですか?
雲丹ユニット衣装のデザインの原案を担当しています。ユニットの担当などは決まっておらず、そのときどきでいろいろなユニットのデザインを行っております。
――なるほど。CDジャケットのデザインも担当されているのですね。
雲丹そうですね。衣装のデザインをしたユニットのCDジャケットの大ラフを担当しました。衣装といっしょにカードイラストの世界観も考えさせていただいたので、それに伴ってジャケットのデザインも担当という経緯です。
――アートチームに参加する前から、『アイドルマスター』シリーズはご存じでしたか?
雲丹2011年に放送された765プロオールスターズのアニメをきっかけに知り、『アイドルマスター ミリオンライブ!』を中心に親しんでいました。ですので、『シャニマス』のアートチームに参加が決まったときは本当にうれしかったですね。
――自己紹介いただけたところで、続いてイラスト制作のお話を聞かせてください。そもそも、カードイラストがどのようにできあがっていくのかを教えてください。
雲丹最初にシナリオチームから大まかなシナリオのプロットがアートチームに共有されます。その際、シナリオ内のアイドルの心情などをシナリオチームの担当と密に擦り合わせた後、アートチームで大ラフを作成するというのが最初の取り掛かりとなります。ですので、シナリオチームとの擦り合わせをしっかり行うというのが、アート制作において重要なポイントとなっています。
――シナリオありきで、そのシナリオに合ったカードイラストを制作されていくのですね。
雲丹稀に、アートチームにお任せという形でこちらから案を出して、「こういう絵を描きたい」と提案することもありますが、基本的にカードにはお話が付いてきますし、シナリオイベントで登場するカードですと、シナリオに沿ったイラストをデザインすることがほとんどです。
どういったものがシナリオ的にもイラスト的にもよいものになるのか、シナリオチームと議論し、制作中も何か不都合がないかなどを確認しながら制作を行っています。
――イラスト先行の場合は、開発チームから「こういったイラストを作ってほしい」という要望などがあったりするのですか?
高山僕から要望を出すことは余程のことがなければありません。基本的にはシナリオチームとアートチームのすり合わせの中で、たとえば私服のイラストは生まれていくと思いますし、ユニット衣装なども、そのときの各ユニットのテーマをもとにデザインしていただいております。
――アイデアとして、こういうところを表現してほしいなどの提案なども、あまりされないのでしょうか?
高山『シャニマス』の立ち上げのころは比較的多かったように思います。それこそ、イルミネーションスターズは『アイマス』的な表現だと、信号機ユニットになるので、それに見合うイメージで、といった提案はさせていただきました。
あとは、過度にセクシー過ぎないようにとか、『アイドルマスター』として気を付けたいポイントを中心にお話をしていました。最初は密に話しながらイラストの試作を重ねていましたが、運営が始まってからは、僕が何かを言わなくてもアートチームの皆さんはすばらしいものを仕上げてくださるので、自由な着想を重視したいという想いもあり、基本的には皆さんにお任せしています。
サポートアイドルのカードイラストはシナリオ内のアイドルの心境を踏まえて、カメラワークや視点などを縛らずに自由な発想で制作
――『シャニマス』のイラストは独特な構図やアイデアのものが多く、それが多くのプロデューサーを魅了していると思います。イラストの制作にあたって、独自のルールや決まり、用いているテクニックなどはありますか?
雲丹サポートアイドルのカードイラストについては“アイドルをどのぐらいの大きさで入れないといけない”というようなルールに縛られないのがいいところかなと感じていまして。アイドルたちの日常の一瞬を切り取ったようなところを表現できればと思っています。
その中でシナリオ内のアイドルの心境を踏まえて、カメラワークや視点なども縛らずにデザインすることを心掛けています。ですので、デザインの都合上、アイドルたちが小さく描かれていたり、実際に映っていないものもあったりします。
具体的に例を挙げると、浴衣姿の大崎甘奈と甜花が手を繋いでいる【Summer for Us】大崎甜花ですね。実際にアイドルの顔は映っていませんが、そうした構図を含めて、プロデューサーの皆さんに評価していただいている部分はあるかと思います。
雲丹我々としては、ほか作品だと「ちょっとこれは……」と言われてしまいそうな構図のイラストにも挑戦しているので、ファンの皆様からそこを支持していただけているのは、うれしい限りです。
――確かに、このイラストはふたりの顔がメインに描かれていませんが、なんとなくふたりの関係性が感じられますね。そういったものも『シャニマス』のイラストのよさだと感じますが、高山さんは、こういったアイドルが前面に出ていないイラストなどについてはどのように考えられていますか?
高山いま雲丹さんがおっしゃった通り、アイドルを直接的に表現するだけではないイラストも多数制作いただいており、それが『シャニマス』の味になっていると考えています。とくにイベントごとに実装されるカードイラストは、ユニットとしての表現に縛られすぎずに自由に制作できる余地があるので、特殊な構図にもチャレンジしていただきやすいのかなと。
【Summer for Us】大崎甜花のカードイラストもかなり挑戦的な構図だと感じていましたが、アートチームと議論をする中で強いこだわりを感じて「それならやってみよう」ということになりました。
結果、私の心配をよそにプロデューサーの皆さんから好評の声が挙がったので、アートチームの皆さんの見事な手腕だったなと思います。
流行りのファッションを取り入れるために、商業施設などで研究を行う
――プロデュースアイドルの着ている私服や衣装のデザインもアートチームが行っているのですか?
雲丹そうですね。担当したカードはすべて私服もアイドル衣装もデザインしています。
――私服や衣装のアイデアの着想はどういったところからきているのですか?
雲丹アイドルの服装に関しては、流行りのものを取り入れたいなと思っていまして。そのときの若い女の子が着ているものを着せてあげたいなという想いがあります。
ですので、渋谷のファッションビルをはじめ、さまざまな商業施設で、最近の若い女の子はどういったものを着ているのかチェックして、その子に似合うものを考えています。ただ、流行に偏りすぎると後から見たとき古く感じるかもという懸念はあるので、バランスは見つつですが。
――最新のファッションを研究し、デザインされているのですね。
雲丹そうですね。それと、「この子はこういうブランドの服を着そうだな」ということをあまり決めすぎてしまわないようにしています。現実の女の子も気分によってカジュアルなものを着たり、ドレッシーなものを着たりすることがあると思うので、「この子はこういう色が好きだから」などと決めすぎないようにデザインしています。
――確かに、いつもと毛色が違う服装だけど、それがまた異なる魅力に繋がっているな、と感じることが多いです。イラストによって、アイドルの髪型が変わるなという印象もあるのですが、これは私服や衣装のデザインをするときに、「この服を着るときはこの髪型が似合うだろうな」というところを想定されてデザインされているのですか?
雲丹おっしゃる通りで、衣装を決めるときに、「こういう髪型のアレンジがいいんじゃないかな」ということを考えてデザインしています。髪型に関しては、毎回印象を変えてあげたい想いがあるので、服装といっしょに、「ハイネックの衣装だったら髪もアップにしてあげたらかわいいんじゃないかな」というように、現実のコーディネートを参考にして髪型のアレンジも意識しています。
――高山さんにお聞きしたいのですが、髪型のアレンジを積極的に行うことについて、ほかの『アイマス』ブランドとの差別化したい、というような狙いはあったのでしょうか?
高山マーケティング的な差別化という発想はありません。いま雲丹さんがおっしゃっていたように、僕たちもたまになじみのないブランドや挑戦的な服を買ったり、著名人の髪型を試してみたり、さまざまなファッションの楽しみかたがあると思います。
その前提として、シャニマスのキャラクターデザインにおいては「ひとつの属性や記号に落とし込むことは避けよう」と考えていたことがありました。その考えをシナリオチーム、アートチーム、開発チームみんなが共有できているので、アイドルの生活や思想信条、気分が服装や髪型に反映されるような絵作りにつながっているのかなと思います。
カードイラストは過去に似た構図がないか気を付けつつ絵的におもしろくなるように
――イラスト制作には、シナリオチームとの密な連携があるとのことでした。『シャニマス』のイラストはシナリオと大きく紐づいていますが、カードイラストのシーンのチョイスはどのように行われていますか?
雲丹シーンのチョイスは、シナリオのプロットをもらって「このあたりがいいかな」とアートチームが考えるものがありますが、ほとんどはシナリオチームから「ここを見せ場にしたい」という指定のもと擦り合わせを行っていくことが多いです。
そこからアートチームが「ここの心情を表現するならこういう構図や視点がいいんじゃないか」と大ラフ制作をしながらシナリオチームと議論して決めています。
その際、アートチームから「ここのシーンを切り取ってしまったら、昔あったイラストに似てしまうのではないか」とか、「あまりよく見せられないのではないか」と感じた場合には、「別の視点を切り取ったほうがいいのでは」と提案することもあります。
たとえば、事務所内でのカードイラストが多くなってきて、見た目が似てしまうという懸念が出ることがよくあります。そういった場合、事務所でも、事務所の外からの構図なども検討して、絵的におもしろくかつ差別化できるようにデザインしています。
――『シャニマス』のカードイラストにはアニメーションがつくものもありますが、アニメーションの展開も含めてイラストはデザインされているのですか?
雲丹カードイラストの構図を考えているときに、アニメーションを考えているものと考えていないものがあって、「こういう流れでここのシーンにたどり着きたい」というものがあると、その時点で提案したりします。
一方で、「まずはこのシーンをカードイラストにしたいということが先行して、あとからアニメーションでどういう動きをさせるのかを考える、2種類のパターンがありますね。
――雲丹さんがアニメーションを含めて考えられたものの中で、とくに印象的なものを教えてください。
雲丹直近の自分が制作したものではなく、メンバーの案で自分がディレクションをしたものですが、【たそかれスワッグ】八宮めぐるのカードイラストはとくに印象的でした。
【シャニマス】『たそかれスワッグ』八宮 めぐる【アイドルマスター】
雲丹このカードイラストでは、いつも明るいイメージのめぐるがきりっと、しっかりとした表情をするところを見せたいという方針を最初に決め、“リフレッシュからの決意・切り替える瞬間”をテーマにしました。
そこから、めぐるが景色を眺める→冷たい飲み物をおでこにあてて夕日を見る→まぶしそう・満足そうに眼をつぶって一呼吸する、というアニメーションの流れをアートチームからラフを通じて提案しました。
カードのアニメーションは、アニメーションチームから絵コンテを起こしていただくことが多いのですが、こちらに関してはイラストから流れも込みで考えた構図やシチュエーションだったので、めぐるの心境をキメにつなげて表現するというところも含めて、がっちりはまった絵になったかなと思います。
――なるほど、要チェックの演出ですね。アニメーションを含めてカードイラストの構図を考えるというのはやはり難しいものなのですか?
雲丹私の場合、カードイラストを制作するときは、最後の決めるポーズ、イラストになるまでのアイドルたちの動きなどの過程も考えながら作っているので、そこにつながるアニメーションというのはとくに苦労しませんね。
――イラストにするのがシナリオで直接描かれていない場面だとしても、シナリオチームと密接にやり取りすることでご自身の中に明確なイメージができて、“物語”として印象的なシーンが想像できているからこそですね。
雲丹そうですね、プロデュースアイドルのカードイラストでは、アイドルの心情を踏まえて、「このシーンになる前はこういう行動をするんだろうな」ということは、シナリオチームとの打ち合わせのときに自然と考えることができています。
――先ほどお話いただいた部分もあるかとは思うのですが、改めて、アイドル個人にフォーカスするプロデュースアイドルと、複数名が描かれるサポートアイドルのカードイラストにおいての描きかたの違いを伺えればと思います。
雲丹サポートアイドルにおいては日常の風景を、人では見ることのできないような視点から俯瞰して描くことが多いですね。
プロデュースアイドルは、プロデューサーとの1対1のアイドルが見られるというところを差別化して考えて、アイドルのプロデューサーへの感情などを大事にデザインしています。
そうして、それぞれで異なる視点からアイドルを描くことで、彼女たちの魅力をたくさん表現するように心掛けています。
雲丹氏と高山氏が注目するイラストとは。高山氏が『アイマス』総合プロデューサー・坂上陽三氏から教わった、キャラクターデザインを見るポイントも明らかに
――明確に描き分けることでアイドルたちのさまざまな魅力を映し出しているのですね。ちなみに、雲丹さんのほうからプロデューサーさんにとくに見てほしいイラストはありますか?
雲丹【かきまぜたら*ミルク】園田智代子のカードイラストを改めてチェックしていただけたらなと思います。このイラストは、“ハロウィンパレードに参加する智代子”というテーマのもと、衣装デザインも構図も担当しました。
智代子が初めて髪を下したイラストにもなっていて、皆さんに衝撃を受けてもらえるようなイラストになるといいなと思い、いつもの智代子の雰囲気とはガラッと変えた衣装デザインにチャレンジしています。うしろに小宮果穂と杜野凛世もいますが、ふたりのデザインも考えながら、かなり細かなところまでこだわったので、改めてじっくり見ていただきたいなと思います。
それと、このイラストの智代子はフィギュア化もするので、そちらもチェックしていただけたらうれしいです。
――そういえば、このカードイラストで初めて智代子が髪を下したのですね。
雲丹そうなんです。特徴的なお団子を下ろしているのですが、『シャニマス』のアイドルは、目の形が各アイドルで特徴があるので、髪型をガラッと変えても誰なのかわかるのがいいところなのではないかと思います。
高山じつはこれ、坂上(※)がキャラクターを見るときにいつも言っている重要なポイントでもあるんです。坂上はキャラクターを見るとき、髪の毛と鼻から下を隠して、目だけを見てほかの子と似ていないかをチェックしていて。「目の印象だけでキャラクターが差別化できていなかったら、それは同じ顔になっているよ」ということを教わりました。
※坂上陽三氏。バンダイナムコエンターテインメント所属のゲームクリエイターで、『アイマス』シリーズの総合プロデューサーを務める。
ですので、僕もキャラクターデザインを固めるときは、坂上に倣って同じことをしています。新ユニットのキャラクターデザインを決めるときには「ほかの子と被っていないか」という視点でアートチームにデザインしていただいています。
――では、ストレイライトやノクチル、シーズが追加されるタイミングでは、目もとだけでわかるようにというところは気にしてチェックされたのですか?
高山僕は気にしてチェックしていましたね。真乃や甜花、雛菜はたれ目っぽいイメージですが、それがちゃんと似ていないかとかですね。それと、キャラクターデザインでいうと、雲丹さんは、わりと髪型のシルエットとかも似ている、似ていないとかは気にされていませんか?
髪が短めのショートの子、たとえば樹里の丸い髪型のラインと差別化して、透の髪型に少し動きを出したりなど、シルエットも気にしていただいているなという印象がありまして。
雲丹うーん、頭の形がアイドルごとに結構特徴があると言いますか、その子によってシルエットは違ったりするので、そこはあまり崩さないように髪型アレンジをしています。そこを変えてしまうと別の子に見えてしまうことがあるので。
毛先はアレンジするけど、頭頂部の形はその子の特徴を保ちながらデザインしています。あとは、透や千雪など、頭頂部から飛び出している毛は特徴としてはなくさないなどは気にしていますね。
高山なるほどです。アイドルの特徴的なシルエットは崩さずに髪型をアレンジして、魅力を引き出していただいているのですね。
――ちなみに、高山さん的に構図が素敵だなと思うカードイラストなどはありますか?
高山イルミネーションスターズのシナリオイベント“くもりガラスの銀曜日”のアイドル報酬【宝石色のしおり】風野灯織のカードイラストは印象的でした。談笑しているイルミネの3人を、上から見下ろしているような構図なのですが、この角度からの視点は、現実では再現できないなと感じまして。
高山この構図を現実で表現しようとすると、カメラなどの機材を天井にめり込ませないといけないので難しいです。絵的な表現の自由さを使った上で選択できる構図だなと。よく言われる、絵的な嘘が含まれたイラストだなと思いますが、それがこのイラストでは説得力を伴っていると感じます。
暗い前面と比較して、明るい光が差し込む中で穏やかなイルミネの3人が談笑するシーンを描くことで、あたたかな空気感が表現されていて。静と動でいうと、静の雰囲気を作るために手前に空調ファンがあったり。イルミネ3人の穏やかな瞬間を切り取りたいという意図での構図があって、それを実現するための絵的な嘘も含まれる描写を行っている。何枚も何枚も複雑に考えられたイラストになっていて、感銘を受けました。
――雲丹さんはこのカードイラストを見て、どのように感じましたか?
雲丹確かに、人じゃない目線で描いたイラストはサポートアイドルのカードイラストでは多くて、お話にあった天井にめり込んでいるみたいな目線や、最近追加された【こんなのホラーでしょ最悪】七草にちかのカードイラストのような、いまから食べられちゃうような目線のものですとか。
さまざまな構図にチャレンジして、プロデューサーさんに新しい体験をしていただけるようにということは意識してデザインしていますね。
共通衣装やCDジャケット制作時のこだわりポイント、冬優子のキャラクターデザインの誕生秘話の話題も飛び出す
――イラストを通じて、新鮮な体験も提供できるよう心掛けていらっしゃるのですね。ところで、クリスマス特別衣装“ホーリーナイトケープ”の原案も担当されていると伺ったのですが、共通衣装のような全員が似合う衣装の制作となると、アイドルの個別衣装をデザインするときとは違った苦労があるのかと思います。ホーリーナイトケープの衣装の制作時の思い出などはありますか?
雲丹ホーリーナイトケープの衣装では、使われている色は赤と白ですが、ここはかなり悩んだ部分でもあります。7パターンぐらい配色を考えたり、赤チェックのデザインを取り入れようとしたりもしました。ただ、“クリスマスソングに合う衣装”という要望があったので、クリスマスらしさというものが伝わるように、赤と白を基調にケープやファーなど冬らしい装飾を加えてデザインしました。
ほかにもこの衣装では、帽子や髪飾り、カチューシャを付けている子がいますが、各アイドルに似合うアクセサリーは何なのか時間を掛けてデザインしました。アクセサリー以外にもタイツやニーハイソックスなど細かい差分も用意して、共通衣装だけれど、その子らしい魅力も表現できるようにこだわりました。
「ショートの子はベレー帽が似合うかな?」とか、「アルストの3人はお揃いだったらかわいいかも?」ということで3人とも帽子にしました。そういったアイドルたちの関係性を踏まえて細部までこだわっているので、改めてチェックしていただけるとうれしいです。
――共通衣装ではありつつも、アイドルたちの個性も表現できるようにデザインされたのですね。CDジャケットのデザインもされていたとのことですが、雲丹さんがデザインされたものの中でとくにお気に入りのCDジャケットや、デザイン作業を通じて好きになった楽曲などはありますか?
雲丹好きなジャケットは、アルストロメリアのCD『GR@DATE WING 05』で、楽曲は『ダブル・イフェクト』ですね。学生っぽい軽やかな感じと天使の羽根をテーマに衣装や世界観をデザインしたのですが、そういった部分も楽曲の歌詞で拾っていただいて爽やかな楽曲にしていただけたので、楽曲も衣装もジャケットデザインも気に入っています。
――天使の羽根のアイデアは、どういったところから生まれたのですか?
雲丹衣装デザインを考えるときは、ひとつのテーマだけに縛られて広げるのではなく、あまりつながりのないふたつテーマを組み合わせたりすることが多くて。このときは、ベースが制服で、そこに天使の羽根を加えることで、「なんでこの組み合わせなんだろう」と感じていただけるようにテーマを組み合わせて考えるようにしました。
そこから、“現実世界の学生に擬態している天使”という発想でデザインを進めました。舞台は現代ですが、そこに少し浮いたような天使というファンタジー感のある発想で3人のカードイラストも描かせていただきました。このジャケットも背景は現代の都会の景色ですが、反転して描くことで宙に浮いている3人を表現して、ファンタジーっぽいデザインに仕上げました。
――CDジャケットのデザインも含めて、アイドルの表現にこだわっているのですね。
雲丹プロデュースアイドルのカードだと、ひとりずつメインで描かれます。ですが、CDジャケットだと、そこで初めて同じ衣装を着たメンバーたちのイラストを描くことができるので、衣装における世界観をしっかりと一枚で表現することを大事にしました。
――インタビューの冒頭に、冬優子のキャラクターデザインの原案も担当されていたというお話がありましたが、これにはどのように関わられたのですか?
雲丹ストレイライトのときは、コンペのような形で、デザインが募集されていまして。それに私も応募したものが採用された形になります。そのタイミングでは、まだ冬優子の性格などパーソナルな情報が決まっていなかったので、完全に私のイメージでデザインしました。
――こんな子が新しく登場したらうれしいな、というような?
雲丹そうです。黒髪で、いまで言うと“地雷系”な感じの子ですね。そこから性格を肉付けしていただいたという感じです。
――性格が決まった後に、デザインを直した部分などはありますか?
雲丹はい。随時修正しました。自分が最初に原案を描いたときは、もう少しツンとした釣り目な子でしたが、いまの彼女の性格になったということで、ふだんはたれ目でかわいらしくみえるけど、気持ちによって表情がいろいろ変わるというところを大事にして表情差分を作ったりして、いまの冬優子のデザインになりました。
――高山さんにお伺いできればと思うのですが、冬優子のキャラを決めるときに、雲丹さんのデザインをご覧になられたときの印象などは覚えていたりしますか?
高山初期の原案から、冬優子のコアな部分である「かわいらしいけどそれだけではない」雰囲気は感じましたね。ユニット衣装は初期案と比べてだいぶ変わりましたが、アートチームの皆さんが随時ブラッシュアップしてくださり、いまのデザインに落ち着いた記憶があります。
――それでは最後に制作サイドとしてイラストを見るうえで、とくに注目してほしいポイントや、さらに楽しむためのアドバイスなどがあれば教えてください。
雲丹先ほどの話と被る部分はありますが、意識して髪型アレンジをしているのと、表情やしぐさをアイドルごとに描きわけることにこだわっています。
アイドルによって同じ怒りの感情でも表情を露わにする子だったり、表に出さなくて控えめな子だったりと、その子なりの感情表現になるように気を付けています。指先のしぐさなども性格が出る部分かなと思うので細かなしぐさも表現しています。ですので、ちょっとした表情やしぐさなど、細かな表現も楽しんでいただけたらうれしいです。
高山基本的には、自由にプロデューサーさんそれぞれの楽しみかたで楽しんでいただくのがいちばんいいなと思っています。たとえば、自分の担当アイドルのかわいさをダイレクト楽しむという楽しみかたもよいなと思います。
一方でカードイラストは雲丹さんがおっしゃっていたように、背景や衣装の細かな部分までこだわって作ってくださっているので、そういった部分を細かく観察して新しい気づきを探してみるというのも楽しいと思います。
ほかにも、先ほど挙げた【宝石色のしおり】風野灯織のカードイラストや、霧子と咲耶が廃墟で座っている【我・思・君・思】幽谷霧子のカードイラストなど構図的に特殊だったりするイラストについて「なぜこんな構図を選択したんだろう」など、絵的な狙いを想像したりするのもおもしろいのかなと。
絵はすごく情報が多いので、プロデューサーさんそれぞれの目線によっていろいろな楽しみかたをしていただける制作物だと思います。ですので、ご自身の琴線に触れるようなスタイルで楽しんでいただけたらと思います。