現代日本に暮らす便利屋従業員が、ファンタジー世界で大活躍する異世界コメディー『便利屋斎藤さん、異世界に行く』。その緻密な世界設定はゲームファンをも魅了し、現在、テレビアニメ版も好評放送中だ。
こちらの大ヒットを記念して、同作を手掛けたスタッフ&キャスト陣へのインタビューが実現。桝田省治氏(監修)、一智和智氏(原作)、木村良平氏(声優:サイトウ役)らが集結し、異色の主人公の誕生秘話や、アニメ化に際してこだわったポイントなどを語った。
『便利屋斎藤さん、異世界に行く』とは?
原作は『ComicWalker』を中心に、ニコニコ静画などのweb漫画サイトにて連載中のコミック作品。冴えない便利屋の青年・サイトウは、ひょんなことから異世界に召喚されてしまう。特殊な能力を持たない彼だったが、便利屋として培った知識と経験は、鍵開けや罠解除、武器の修繕などで役立ち、いつしか冒険者パーティーのサポート要員として奮闘する日々を送るようになる。
2023年1月よりテレビアニメの放送がスタート。コミックスは現在、8巻まで発売中で、シリーズ累計発行部数は70万部を超えている。
原作『便利屋斎藤さん、異世界に行く 1』 (Amazon.co.jp) 原作『便利屋斎藤さん、異世界に行く 1』(BOOK☆WALKER)TVアニメ『便利屋斎藤さん、異世界に行く』PV第2弾|2023.1.8 ON AIR
桝田省治氏(ますだ しょうじ)
監修/本職はゲームデザイナー。代表作:『桃太郎電鉄』、『リンダキューブ』、『俺の屍を越えてゆけ』など。
一智和智氏(いちとも かずとも)
原作/代表作:『便利屋斎藤さん、異世界に行く』、『剥かせて!竜ケ崎さん』など。
木村良平氏(きむら りょうへい)
声優(サイトウ役)/代表作:『黒子のバスケ』(黄瀬涼太役)、『刀剣乱舞-ONLINE-』(和泉守兼定役)など。
主人公・斎藤さんは、原作者の自己投影により誕生
――桝田さんが『便利屋斎藤さん、異世界に行く』に監修として関わられることになった経緯を教えてください。というか監修って何をやっているんですか?
桝田今年で63歳になるんだけど、もうスマートフォンで漫画や小説を読むのが辛くて。おもしろい作品を見つけたら紙の媒体で、1話ずつではなくまとめて一気に読みたいなと。それでKADOKAWAさんに「ヒットする要因は山ほどある」ともっともらしく分析をして見せて、本作をまんまと書籍化。
そのさいに『ログ・ホライズン』(※)を例にアニメをはじめ二次著作物の、媒体ごとの情報の最適化についてもノウハウを提供したところ「面倒くさいこと言うなら監修しろ」となって、なんかいろいろ「監修」しているよ。でも売りやすいように体裁を整えているだけで、中身はあまり監修してない。もともとお気に入りの漫画を紙で読みたかっただけだから(笑)。
※橙乃ままれ氏原作のライトノベルおよびアニメ。こちらも桝田氏が監修している。
――斎藤さんは、いわゆる“俺TUEEE”系の主人公ではなく、戦力にならないことを気にしつつも、自分にできることを模索して。精いっぱいがんばろうとする姿が魅力的なキャラクターですね。木村さんは、そんな斎藤さんを演じるうえで、どのようなことを意識されているのでしょう?
木村サイトウはやっていることは地味だけど、意外と“主人公をしている”んですよね。まわりを支えていたり、いろんなところに気を配ったり、決めるところではバシッと決めたり。ピンポイントで拾っていくと、ちゃんと主人公をしているんです。
なので、ふだんはあまり、キャラクターの内面を意識して芝居をすることはないんですけど、彼に限っては「あまりカッコよくは見せたくなかった」というのがありますね。まわりの親しい人たちがそう思ってくれるのはいいけど、誰も彼もが「カッコいい!」と褒めたたえるような見せかたは違うと思ったので、そこは意識しました。
――一智さんは、木村さんの声でしゃべる斎藤さんをご覧になられて、どのように思われましたか?
一智短いセリフの中からも、切なさや儚さを感じ取ることができて。主人公だけとヒーロー然としていない、そんなサイトウの感情をしっかりと表現してくださっていたので、本当にありがたいです。まさにサイトウにぴったりのお芝居をしていただけました。
――個性的なキャラクターが多数登場する中、斎藤さんは主人公なのに“ふつうの人”というのがおもしろいですね。キャラの描き分けをするうえで苦労されたことはありますか?
一智それに関しては、あまり苦労はなかったですね。モーロックのとぼけた感じなど、各キャラクターの特徴はどんどんアイデアが浮かんできたので、自然とキャラ数が増えていった感じです。そんな中でとくに思い入れがあるのは、やはりサイトウですね。僕自身の自己投影の結果、あのような人物像になりました。
――一智さんのどのような部分が投影されたのか気になります!
一智自分で言うのも何ですが、僕自身も便利屋といいますか。「何でも描ける」ということで重宝してもらっていたんですけど、世の中で求められるのは、特定の分野に特化した“尖った人材”なんですよね。漫画業界だと「何でも描ける」というのは、意外と武器にならなくて……。
だったらそんな人間は、どうやって生きていけばいいのか? そんな人間がヒーローになるにはどうすればいいのか? そうした自分自身の葛藤や、もがいてきた過程を投影した結果、初めて認めてもらえたのが、こちらのサイトウというキャラクターだったんです。ここにたどり着くまでに20年以上かかりました。
桝田そんなサイトウを、あんなにも個性的なキャラクターだらけの世界で的確に表現している木村さんもすごいね。決して大きな声は出さず、感情のふり幅もそこまで広くないキャラだけど、間の取り方やため息ひとつで、内面をしっかり表現していて。あのパーティーメンバーだからこそ、そうしたサイトウの個性がより際立つのかもしれないね。
インパクトのある設定と緻密な人物描写を両立
――キャラクターのアイデアはどんどん浮かんできた……とのことですが、一智さんの発想の源泉はどのようなところにあるのでしょう?
一智RPGが好きなんですけど、『D&D』(テーブルトークRPG)や『ウィザードリィ』などのキャラクターメイキングの要素にハマりまして。このキャラクターはこんな性格で、この職業に就いて……など、あれこれ考えるのが楽しくて、夢中でやり込んだ経験が活かされているのかもしれないですね。
――見た目の厳つい魔法使いなど、意外性のあるキャラクターも多数登場しますが、そうした“ギャップのあるキャラ”を作り出すのはお得意ですか?
一智これは技術的な話になるんですけど、ネットで漫画を上げる場合、最初の2、3ページで「どれだけ読者をびっくりさせられるか?」が重要でして。バズるかどうかは、出だしでどれだけインパクトを与えられるかにかかっているので、意外性のあるキャラづくりは、そうした土壌での活動経験の賜物ですね。とはいえ連載となると、見た目のはったりだけでなく、そのキャラクターの存在理由もしっかり描き込んでいく必要があるので。内面や性格もきちんと考えて登場させるようにしています。
桝田そうしたパターンがあると、キャラクターも作りやすくなるのでいいね。最初に意外性を提示して、途中でそれをひっくり返せばひとつのエピソードになる。一智君はそうしたパターンを活用しながらも、その中にしっかりと王道のストーリーを重ねてきたり、さらにひねったりもしてくるので、油断できない。そこらへんがありきたりのネタでも手段を選ばずおもしろくできちゃうベテランのすごみだと思う。
木村それもあるからだと思うんですけど、原作を読んでいくと、どのキャラクターもすごく大切にされていることがわかるんですよ。誰ひとり使い捨てにしていなくて、それぞれに深みがあって。
一智好きな小説家の言葉に、「ドラマは事件ではなく、キャラクターの中にある」というものがありまして。ゲームを例にすると、「この戦士の筋力はこれだけあって、素早さはこうで……」というのはただの設定で、キャラクターの掘り下げではないんですね。
「この戦士は、どうしてこの剣を使うようになったのか? それはお父さんから譲り受けた思い出の品で……」というのがドラマなんです。どのキャラにも、そうした人間性や感情があることを忘れずに描くように心がけています。
――キャラクターのひとりひとりにドラマがあるというわけですね。ご自身でとくにお気に入りの設定を盛り込めたキャラクターは誰でしょう?
一智本作にはラファンパンというお金への執着が激しい妖精が出てきます。彼女は単なる守銭奴ではなく、“月に金貨を捧げ続けないと体が小さなっていき、やがて砂粒のようになってしまう”という理由があってお金に執着しているんですが、その理由付けがうまくできたと思っています。ラエルザやモーロックなどほかのキャラクターはすんなり設定が浮かんだのですが、ラファンパンはかなり試行錯誤しました。
テンポよくサクサク進む展開が心地いい
――現在放送中のテレビアニメ版について。まだ未視聴の方もいるかと思いますので、本作の見どころをお聞かせください。
一智前述のとおり、キャラクターがたくさん出てきますが、それぞれに個性があって。無駄な存在はひとりもいないので、各キャラの交流や活躍を楽しんでいただけますと幸いです。
――木村さんは初めて台本を読まれたとき、どのような印象を持たれましたか?
木村いちばん最初に原作絵を見させていただいて、魅力的な作品だなと思いました。キャラクターの表情の見せ方も印象的でしたが、それ以上に「ファンタジーの世界に作業着を着たサイトウがいる」というビジュアルが独特で、一気に引き込まれました。
見どころについてですが、本作は設定だけを聞くと、“まったりのんびり異世界ライフ”的な物語を想像すると思うんですけど、じつはテンポがめちゃくちゃ速くて。サクサク読み進められるところも魅力のひとつなんです。アニメ版では、そうした原作のテンポ感もしっかり再現されているので、気持ちよく物語を楽しんでいただけると思います。
――原作では個別だった話がつながり、ひとつのエピソードとして描かれる展開もおもしろいですね。
木村1話1話は短いものの、それらが積み重なって、つながって。連続性のある物語になるところが気持ちいいんですよ。「あの設定はここに活かされているな」みたいな気づきもあって。そうした伏線が徐々に明かされていくところにカタルシスがあり、「最後まで見届けたい!」という気持ちがかき立てられるんです。
――そもそも、便利屋を異世界に転生させようという発想は、どのようにして思いつかれたのでしょう?
一智これというきっかけはないんですけど、本作の連作を始める前、一般誌の仕事がぜんぜんない時期がありまして……。ネットに漫画を上げるしかなく、とにかく手あたり次第、新しいものを考えては発表していくしかなかったんです。そのころはまさに「ヘタな鉄砲も数撃ちゃ当たる」という考えでしたね。
そうしたなかで、もともと好きだったRPGを題材として扱うようになって。いろいろやったなかで、この手のジャンルがいちばん反応がよかったということもあり、そこを掘り下げて本作の原型を完成させました。
――RPGの世界観が先にあって、そこに便利屋という要素を組み込まれたと。
一智『ドラクエ』、『FF』は1作目、ゲームブックなどにハマっていた世代なので、若い人たちにウケるか心配だったんですけど、思いのほか反応がよくてびっくりしました。
――作中ではピッキングツールやワイヤーカッターといった、現実にある道具を使いこなす描写が多々ありますが、こちらに対するこだわりなどがありましたら、お聞かせください。
一智父が器用な人で、家にはさまざまな工具が揃っていまして。子どものころからそれらを使って自転車を組むなど、自分でいろいろなものを作っていたんです。そうした原体験が、作中で活かせているのかもしれないですね。
「時系列はそのままで」原作をリスペクトした監督の采配
――Teary Planetさんが歌うオープニングテーマ『kaleidoscope』と、konocoさんが歌うエンディングテーマ『ひだまりの彩度』は、それぞれ作品にピッタリのイメージですね。こちらの感想などもお聞きしたいです。
木村オープニングは歌い出しのハマリ感がすごくないですか? どこまで狙ったんだろう? 曲調もすごく前向きで作品とマッチしていて。とにかく第一声に驚きました。
一智オープニングは作品の全体像をイメージして作っていただいていて、逆にエンディングは女性キャラの心情に寄り添ってる感じで、対照的ですがどちらもすごくいいと思いました。
――エンディングは、アニメーションもかわいらしくて話題になっていますね。
桝田あれは窪岡俊之監督の方から「こんなアイデアがあるんですけど、やっていいですか?」と相談されたものなんだけど、発想がすごいよね。無難な演出ならいくらでもあるのに、あれをやるという。100%、窪岡監督のセンスだし、「俺、『斎藤さん』をこういう風に見ているよ」という主張も感じらえる。初めて見たときは、よく思いついたなと感心しました。
――『便利屋斎藤さん』を現在進行形で楽しんでいるファンの皆さんに向けて、ひと言ずつメッセージをお願いします。
木村先ほども触れましたが、原作コミックのテンポのよさがすごく生きているアニメになっています。キャスト陣にも魅力的なメンバーが揃っていて、軽快なやり取りも楽しめますので、本作をご視聴いただいて、サイトウたちが暮らしている世界のことを好きになっていただけるとうれしいです。
一智趣の異なる、ちょっと変わった異世界モノだと思っていただければ。まずは気負わず、軽い気持ちで覗いてみてください。ファンタジー好きの作者のこだわりが詰まっていますので、きっと楽しんでいただけると思います。
桝田せっかくなので、今回このインタビューに参加できなかった窪岡監督とのエピソードをお話しします。もともと彼と僕は、それぞれメガドライブとPCエンジンの全盛期に看板タイトルを担当していたライバル関係で……。いままでいっしょに仕事をすることはなかったんだけど、それでも同じ時代に同じ空気を吸って近しいところにいた。感覚が共有できているみたいな。
――平成初期にゲーム業界でライバルだったおふたりが、令和のアニメを共同で制作するという展開は熱いですね!
桝田『便利屋斎藤さん』の原作コミックの序盤は、もともと各エピソードがバラバラで、時系列もあちこちに飛んでるんだけど、「アニメでは時系列順に整理して、話の流れに沿ってキャラクターを出していったほうがわかりやすいよね?」と制作会議で監修の桝田さんは合理的な提案をしたわけ。一智くんもそのほうが安全だと思ってたようだし。その方向に待ったをかけやがったのが、ライバルキャラ(笑)の窪岡監督。
「この作品は原作通りにバラバラでやったほうがいい。そのほうがテンポもいいし、全員揃ったときの快感もすごいから」といって、ものすごい熱量で押し切られて。「そこまでいうのなら任せるけど…。3話までに片づけてよね。そこまでは宣伝でなんとかもたせるから」と、いうことになった。いやーさすがだよ。結果的に彼の判断は大正解だったね。パズルのピースを埋めるようにキャラクターが集結して。どんどん物語が展開していく感覚は非常に気持ちいいので、未見の方はこの機会に、ぜひ本作を追いかけていただけると幸いです。
Blu-ray/DVDも発売予定
TVアニメが絶賛放送中の本作は、Blu-ray/DVDも発売予定だ。見逃した回が気になる方や、手もとに保存しておきたい方はぜひチェックを。キャンペーンや店舗別特典などの詳細は公式サイトを確認してほしい。
『便利屋斎藤さん、異世界に行く』第1巻
発売日:2023年3月24日
収録話数:第1話~第4話
- 【Blu-ray】品番:ZMXZ-16401、価格:14,300円(税抜:13,000円)
- 【DVD】品番:ZMBZ-16411、価格:12,100円(税抜:11,000円)
『便利屋斎藤さん、異世界に行く』第2巻
発売日:2023年4月26日
収録話数:第5話~第8話
- 【Blu-ray】品番:ZMXZ-16402、価格:14,300円(税抜:13,000円)
- 【DVD】品番:ZMBZ-16412、価格:12,100円(税抜:11,000円)
『便利屋斎藤さん、異世界に行く』第3巻
発売日:2023年5月24日
収録話数:第9話~第12話
- 【Blu-ray】品番:ZMXZ-16403、価格:14,300円(税抜:13,000円)
- 【DVD】品番:ZMXZ-16413、価格:12,100円(税抜:11,000円)