2021年3月18日の発売から2周年を迎えたNintendo Switch・iOS/Android向けソフト『ジャックジャンヌ』。少年歌劇シミュレーションゲームである本作は、私にとって“人生をかけて推したいゲーム”のひとつです。

 2年前の発売日からかぶりつくように遊び、現在のプレイ時間は120時間以上(おそらくこれからも増えるでしょう)。私はこのゲームで、最高の推しに出会いました。それは主人公の立花希佐ちゃんです。

 立花希佐という演者がもし実在するのなら、絶対にファンクラブに入っているし、舞台は全通するし、そのためにきっと働きかたも変える。そのくらい希佐ちゃんの演技に惚れ込みました。

 そして4月8日は希佐ちゃんの誕生日という私にとって大切な日。推しの誕生日を祝うのはファンの定めですし、お祝いを兼ねて希佐ちゃんの魅力を多くの人に届けたい!

 本稿は、推しへの愛で担当編集を説得し、立花希佐と『ジャックジャンヌ』の魅力をひたすら語った記事です。愛が爆発してかなりの文量になってしまいましたが、ぜひお付き合いいただけると幸いです。

※この記事には一部『ジャックジャンヌ』のネタバレが含まれます。

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『ジャックジャンヌ』とは

 少年歌劇シミュレーション『ジャックジャンヌ』は、漫画『東京喰種』の作者として有名な石田スイ先生が、同作のノベライズを担当する十和田シン先生と共に手掛けられたゲームです。物語の根幹となるシナリオやイラストはもちろんのこと、作中で使用される楽曲の作詞なども石田スイ先生が担当されています。

 また、コンセプトアートは『ニーア』シリーズで有名な浪人(幸田和磨)氏、ミュージックビデオやリリックビデオは牛丼氏、楽曲には小瀬村晶氏、ダンスの振り付けはSeishiro氏らが担当。石田スイ先生がオファーした超豪華なクリエイターたちが携わった作品です。

あらすじ

 男性だけで構成され、男性が女役も演じる劇団・玉阪座。その玉阪座が所有する役者育成機関・ユニヴェール歌劇学校では、クォーツ、オニキス、ロードナイト、アンバーという4つのクラスが設けられ、狭き門を突破して入学した生徒たちはそれぞれのクラスで優勝を目指し稽古に励んでいます。

 女性でありながらユニヴェール歌劇学校に入学することになった立花希佐には、在学するために校長からある条件を設けられます。1年の最後に行われる最終公演で主役を勝ち取ること、そして、女性だと周囲にバレないこと。「ユニヴェールの舞台に立ちたい」という夢のため、少女は、少年を演じます。

『ジャックジャンヌ』の質感は『PUPPET』に詰まっている

 『ジャックジャンヌ』は、恋愛シミュレーションゲームの要素があるのは確かですが、冒頭ではこの文言をあえて使いませんでした。なぜなら、私がもっとも魅力的に感じたのは恋愛シミュレーションの要素ではなく、舞台という装置をさまざまな角度から描いた点だからです。

 「『ジャックジャンヌ』ってどういうゲームなの?」と聞かれた際に、「まずこれを読んでほしい」と渡すリンクがあります。それは2022年7月に“となりのヤングジャンプ”にて公開された、石田スイ氏自身が描いた読切マンガ作品『PUPPETです。これを読めば、『ジャックジャンヌ』というゲームの雰囲気を掴めます。

特別読切『PUPPET』(となりのヤングジャンプ)

 ゲーム本編が始まる1年ほど前を描いた作品で、アンバー所属の天才・田中右宙為を中心に描いています。この読切の主人公であるはずの少年には、名前すら与えられていません。彼がユニヴェール歌劇学校という舞台においてエキストラ――モブだからです。

 最初は自信に満ちあふれ、田中右の才能に疑念を抱いていた彼ですが、クラスで、学校で、世間で田中右が評価されていくに従い、現実を受け止め始めるのがものすごくリアル。『ジャックジャンヌ』をプレイしていると、こうした絶望的なシーンにちょくちょく出くわします。キャラクターが命を落とさずとも、ある種の“死”があるのは、“石田スイ節”だなと感じられました。

 また、余談ですが、ずっと見たいと思っていた根地黒門の瀧姫が『PUPPET』で見られたのは本当にうれしかったです。返り血を浴びて復讐の悦に浸る狂気のお姫さま……あの見開きの絵だけで、根地黒門がどのように演じたのか想像できる、想像できるようにしてくれている。石田スイ先生、ありがとうございます。

立花希佐ってどういう子?

 さて、いよいよ私の最推し・立花希佐ちゃんについて語っていきたいと思います。ピンク色のサラサラな髪。身長165センチ、体重は49キロ。服装やメイク、まとう雰囲気を変えるだけで少女にも、少年にもなれる15歳の女の子。それが立花希佐ちゃんです。ちなみに誕生日は4月8日の牡羊座。

 そんな希佐ちゃんの人間性や演技についてご紹介します。

意外と重い過去持ち

 希佐ちゃんには兄がひとりおり、父親がいる描写もあるのですが、母親については不明です。物語開始時点で彼女は中学校を卒業し、進学ではなく就職を希望していました。家に借金があるためです。

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借金取りが日常に組み込まれてるの、けっこう重い。

 本人があまり家のことを語らないし気丈に振る舞っているので忘れそうになりますが、校長にユニヴェール歌劇学校を勧められた際、公演でお給料が出ることに惹かれていました。また、質屋のことに詳しいなど、ところどころで家庭事情が明るみになるエピソードも見られます。

 そして、家の借金より希佐ちゃんの心に重くのしかかるのは、兄である立花継希の失踪でしょう。最愛の兄が突然消えてしまった喪失感は、そのまま希佐ちゃんの存在にも影を落としています。芯が強そうでいて、どこかふらっと消えてしまいそうな危うさを希佐ちゃんから感じるのは、兄の元へ行きたいという願いがにあるからなのかもしれません。

立花希佐のルーツである希代の天才・立花継希

 希佐ちゃんの兄・立花継希は、ユニヴェール歌劇学校の長い歴史の中でもトップレベルの演者でした。その希代の天才が、卒業と同時に失踪してしまったのです。誰にも、何も告げずに。

『ジャックジャンヌ』を生涯推したいライターが最推し・立花希佐について語る。透明なるクォーツの歯車が“ジャックジャンヌ”になるまで

 兄を“継希にぃ”と呼び、慕っていた希佐ちゃん。小さいころは幼なじみの世長創司郎と共に、3人で演劇ごっこをして遊んでいました。兄がユニヴェール歌劇学校に入学した後は、ユニヴェールの歌劇に夢中になり、「自分もいつかあの舞台に立ちたい」と願うようになります。つまり、希佐ちゃんのルーツは兄・立花継希にあるのです。

 ユニヴェール歌劇学校への入学を決意したのも、ユニヴェールの舞台に立ちたかったから。男の子になりたかったわけでも、役者になりたかったわけでもなく、ただひたすらに、兄が輝いていた舞台に立ってみたかったからなのです。

誰にでもやさしい性格の舞台ジャンキー

 希佐ちゃんは感情の起伏が穏やかで、物事を客観的に俯瞰して見ることが多く、困っている人がいれば手を差し伸べるやさしい性格の持ち主です。加えて、あの奇人・根地黒門も舌を巻く舞台ジャンキーでもあります。

 ユニヴェール歌劇学校に女生徒がいた、なんて世間に知られれば、社会的な破滅は免れません。そんなプレッシャーの中でも真摯に舞台へ打ち込み、また、物語の終盤ではその社会的な死すら覚悟した演技を見せます。そんな命がけの挑戦だとしても「ユニヴェールの舞台に立てて嬉しい」と言ってしまえるのが、立花希佐という演者なのです。

立花希佐はなぜ“透明なる歯車”なのか

 彼女は作中で透明な器と評され、さらにクォーツの中では歯車としての役割を担っています。

 なぜ彼女の透明性が評価されるのか。それはユニヴェールの歌劇が基本的に男と女の恋愛を描いた劇であり、主役はジャックエース(男役)とアルジャンヌ(女役)の2人が務めるという構造が関係していると思われます。

 片方が透明であるなら、もう片方は自分の色を全て出し切れます。自分の色を立花希佐という透明な器に全て注いでもいいし、彼女を透明な華として自分の器に飾っても構わない。立花希佐という演者は、組んだ相手役に無限の可能性を与える存在なのです。

『ジャックジャンヌ』を生涯推したいライターが最推し・立花希佐について語る。透明なるクォーツの歯車が“ジャックジャンヌ”になるまで
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立花希佐の役作りは仮面型

 舞台にしろ、テレビドラマにしろ、役作りの仕方は役者さんによって十人十色。では立花希佐の役作りはどういう風に行われるかというと、私は仮面型だと思っています。立花希佐という人間が役の仮面を被って演じているということです。

 希佐ちゃんは、まるで仮面をつけ替えるような気軽さで、さまざまな役を演じることができます。夏合宿の「おはよう」特訓や、公演前に周囲の状況に合わせ、土壇場で役作りをまるっと変えてしまうシーンなどが印象的です。ただ仮面をつけただけの薄っぺらい演技にならないのは、ひとえに希佐ちゃんの力量でしょう。その仮面をつけてしまえば手足の先まで役になりきることができるのです。

『ジャックジャンヌ』を生涯推したいライターが最推し・立花希佐について語る。透明なるクォーツの歯車が“ジャックジャンヌ”になるまで
もっと言ってやってください校長。

 仮面型の魅力はそれだけではありません。仮面以外は演者の特徴が色濃く出るので、「この人が演じるこの役が見たい」と観客に思わせることができます。そして、希佐ちゃんの色は無色透明。自身の色さえも役のノイズになりませんから、「Aさんの演じる役って、結局Aさんそのものなんだよね」などという評価にはならないわけです。私が権利を有するなら間違いなく彼女を人間国宝に指定しています。

アンバー・田中右宙為との関係

『ジャックジャンヌ』を生涯推したいライターが最推し・立花希佐について語る。透明なるクォーツの歯車が“ジャックジャンヌ”になるまで

 物語の中盤以降から、希佐ちゃんを自分のペアに引き抜こうと勧誘をかけてくるアンバー所属の天才・田中右宙為。ゲーム本編や特別読切『PUPPET』を見た方なら、この事態がいかに異例であるか分かると思います。田中右は基本的に自分の上がる舞台の完成度に関係するもの以外、興味を示しません。つまりは、立花希佐こそが自分の才能を受け止めるにふさわしい器だと判断したのです。

『ジャックジャンヌ』を生涯推したいライターが最推し・立花希佐について語る。透明なるクォーツの歯車が“ジャックジャンヌ”になるまで
考察がはかどります。

 「立花希佐と田中右宙為はおそらく惹かれ合う」という校長の意味深なセリフは的を射ており、実際ふたりは、互いにどうしようもなく惹きつけられる何かを感じています。これは推測の域を出ませんが、おそらくはふたりの血が関係していると思われます。

 初代・玉阪比女彦の本名は中座“月”彦で、希佐ちゃんの兄である立花継希(つき)と名前の一部が被ります。また、代々男性だけが襲名してきた“玉阪比女彦”の名ですが、早世したという12代目は女性でした。この12代目の女性の境遇に、希佐ちゃんは重なる部分があります。もしかすると立花家は中座家、玉阪家に深い関わりのある家なのかもしれません。

実はガチの霊感持ち?

 夏合宿の肝試し、驚いた方が多いのではないでしょうか。私も「こういうテイストの演出、あるんだ……」とびっくりしました。特に睦実介のルートは、こういった話が多かったように思えます。

『ジャックジャンヌ』を生涯推したいライターが最推し・立花希佐について語る。透明なるクォーツの歯車が“ジャックジャンヌ”になるまで
大伊達山を登るふたり。

 カイさんのルートは、そも、カイさんが大伊達山によく行くということもあってか、山関連のイベントが多かったと思います。山に呼ばれているんですよね、このふたり……。

 希佐ちゃんが山の中で気絶して倒れた状態で見つかったのをきっかけに、カイさんは山へ通うのをやめてしまいます。失踪した立花継希も在学中はよく山に行っていたので、彼のように希佐ちゃんが消えてしまうのではないかと思ったのかもしれませんし、何か良くないものを感じたのかもしれません。

立花希佐が“ジャックジャンヌ”になるまで

 『ジャックジャンヌ』には、大まかに分けて7つのルートが存在しています。クォーツの6人とそれぞれ恋愛関係になるルートと、誰とも恋愛関係にならなかったルートです。この“誰とも恋愛関係にならなかったルート”を“立花希佐ルート”と呼んでいるのですが、私がもっとも愛するルートはこの立花希佐ルート!

 1周目にこのルートを選んでしまい、少し後悔しています。この素晴らしすぎるルートは最後にやれば良かったなと。でもこのルートを最初に選んだからこそ、『ジャックジャンヌ』の素晴らしさを確信したというのもあるので、結局は良い選択だったとも思います。

 本作は新人公演、夏公演、秋公演、冬公演、最終公演という5つの公演が描かれており、ルート分岐後に配役、舞台内容が変わるのは最終公演です。そんな5つの公演を、希佐ちゃんの役をメインに振り返っていきたいと思います。

新人公演 不眠王

 希佐ちゃんたち新1年生にとって初めての公演『不眠王(ねむらずおう)』。ユニヴェール歌劇学校の新人公演は、その名の通り、主役などの名前のある役を1年生が務める舞台です。新人にも活躍の場を与えようという計らいと、この公演の出来で新人たちの資質を見ようという狙いがあります。

 希佐ちゃんが組分けされたクォーツの組長・根地黒門は、脚本に演出に作詞作曲に監督その他諸々を担当しており、本人も舞台に立つという奇才です。そんな根地先輩が1年生へ言い渡した配役は、ジャックエースに織巻寿々、アルジャンヌに立花希佐というもの

 1年生が主役を務めることが決まっているとはいえ、入学早々その座に抜擢されるとはさすが希佐ちゃんです。

『ジャックジャンヌ』を生涯推したいライターが最推し・立花希佐について語る。透明なるクォーツの歯車が“ジャックジャンヌ”になるまで
“娘”役の立花希佐と“王様”役の織巻寿々。

 “王様”の不眠を治そうとあれこれお節介を焼き、彼の孤独に寄り添おうとする“娘”は、わりと素の希佐ちゃんに近い役柄なような気がします。このとき根地先輩はまだ本格的な当て書き(配役を決めてからその役者に合わせて脚本を書くこと)はしていないはずですが、さすがの洞察力です。

 希佐ちゃんとスズくんのデュエット『鈴かけの木をこえて』を聞いてビビリ散らした思い出があります。あまりに美しすぎて。おそらく観客は「ふむふむ、これが今年のクォーツか。織巻と立花ペアで固定かな」と腕組みをして頷いていたことでしょう。

『ジャックジャンヌ』を生涯推したいライターが最推し・立花希佐について語る。透明なるクォーツの歯車が“ジャックジャンヌ”になるまで
みんな大好きな鳳京士のシーン。
『ジャックジャンヌ』を生涯推したいライターが最推し・立花希佐について語る。透明なるクォーツの歯車が“ジャックジャンヌ”になるまで
1年生は、初めて“舞台から見た観客席”の景色を堪能。

夏公演 ウィークエンドレッスン

 新人公演でアルジャンヌを務め、それが好評だった希佐ちゃん。周囲は「立花はこれからもジャンヌ固定だろうな」と思っていたところ、根地先輩が言い渡した希佐ちゃんの配役はジャックの“向井”という役。

 それを聞いたクォーツメンバーは驚き、他クラスのオニキスやロードナイトの面々まで希佐ちゃんの配役を巡って言い争いをする事態に。しかも根地先輩の提案で、希佐ちゃんが夏公演で個人賞を取れなければクォーツから転科する(クラスを移る)賭けが始まってしまいます。

『ジャックジャンヌ』を生涯推したいライターが最推し・立花希佐について語る。透明なるクォーツの歯車が“ジャックジャンヌ”になるまで
オニキスの海堂(右)とロードナイトの忍成(左)が希佐ちゃんの育成論をめぐって睨み合い。

 クォーツに残るため、希佐ちゃんは向井の役作りを始めますが、なかなかうまくいきません。というのも、向井はハセクラ(ジャックエース、睦実介の役)の部下でありながらハセクラよりも断然仕事ができる、クールな男という設定だったからです。いくらハセクラを務めるカイさんがうだつの上がらない男を演じていても、カイさんと並ぶと、体格や顔つきのせいで希佐ちゃん演じる向井は“上”に立てません。

 試行錯誤しながら向井の役作りをつかんだ希佐ちゃんですが、公演日前日にガラッと演じ方を変える決意をします。向井を、カイさん演じるハセクラの“器”にするためです。

 ユニヴェールの歌劇は主役をふたり選び、それぞれが華と器の役割を担うのが定石。今回もカイさんはいつも通り、アルジャンヌの高科更文が演じる“アンドウ”の器になる演技をする予定でした。それに加え、希佐ちゃんの転科が懸かっていることから、希佐ちゃん演じる向井の器にもなろうとしていたのです。カイさんがハセクラを無能な男にすればするほど、仕事ができて自分の意見をハッキリ言える向井が輝くため、賞が取りやすいと考えたのでしょう。

 しかし希佐ちゃんは、本番当日、向井を“ハセクラを思って世話を焼き、親身にアドバイスをする仕事のできる部下”から、“上司の無能さにほとほと呆れ、愚痴を垂れ流すイヤミな部下”へと変身させてしまいました。これで観客はハセクラのうだつの上がらなさに呆れるのではなく、仕事もプライベートもうまくいかなくてかわいそうな人、と同情するようになります。つまり、向井よりハセクラに視線が集まるのです。

『ジャックジャンヌ』を生涯推したいライターが最推し・立花希佐について語る。透明なるクォーツの歯車が“ジャックジャンヌ”になるまで

 この変更に気づいたカイさんは舞台袖に引っ込むやいなや、根地先輩に突っかかります。希佐ちゃんの演技は根地黒門の指示で変更されたのだと思ったのです。普段は感情を表に出さないことが多いカイさんですが、こうして希佐ちゃんのために怒りをあらわにするところを見るとニマニマしてしまいますね。

 結果、カイさんは個人で初めて銀賞を獲得し、希佐ちゃんも無事個人賞入りを果たします。

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 セリフはいっさい変えていないのに、ちょっとしたニュアンスや表情、仕草を変えるだけで、向井を全くの別人に仕上げてしまった希佐ちゃんの技術に脱帽しました。劇中歌の『我らグレートガリオン』も希佐ちゃんの高音がアクセントになっていてクセになる仕上がりでしたし、『Ms.Robin』のハーモニーは圧巻の美しさでしたね。

秋公演 メアリー・ジェーン

 秋公演と言えば世長創司郎。異論は認めぬ。

 希佐ちゃんの幼なじみで、入学前から希佐ちゃんが女性だと知っているため、さまざまなサポートをしてきた創ちゃん。ユニヴェールに一緒に入学できて、クラスも同じで、順風満帆な演劇生活が始まるかと思いきや、最初の新人公演では希佐ちゃんの相手役をスズくんに奪われ(?)、夏公演では希佐ちゃんの向井と特に絡みのないジャンヌ“カンナ”の役を与えられ、秋公演では役すら与えてもらえずエキストラに。しかも、秋公演ではまたスズくんが希佐ちゃんの相手役です。

 世長創司郎の世界では立花希佐がすべて。そんな創ちゃんの精神はほとんど限界に到達します。

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世長創司郎のルートはだいたいこんな感じです。嘘じゃありません信じてください。

 しかしここでスズくんにアクシデントが発生。昔の怪我が再発して痛みだし、稽古すら難しい状況となってしまったのです。

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 スズくんの役はアクションが多かったことから、役を断念。そして新たな希佐ちゃんのパートナーとして抜擢されたのが創ちゃんです。ここからゴーストを狩る“かりうど”の双子・フィガロ(世長創司郎)とシャルル(立花希佐)の雛型が出来上がります。

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軍服最高!双子最高!!
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頭脳のフィガロ、激情のシャルル最高。

 綿密に重ねられた役作りが生きて、双子のふたりが舞台上で暴れます。見てください、このふたりの悪そうなお顔。普段のふたりからは想像もできない演技でした。

 立花継希と組んでいた頃のように、「フミさんを自由にしたい」と、希佐ちゃんが役作りに“立花継希”を取り入れたのを見て泣きました。フミさんにとっても、希佐ちゃんにとっても、立花継希は特別な存在でしたから。

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めちゃくちゃ物騒なシーンなのに感動して泣いてしまいました。

 この秋公演で、創ちゃんは完全に覚醒したと言ってよいでしょう。相手役が希佐ちゃんでなかったら、きっとこうはならなかったはずです。なぜなら世長創司郎の世界は立花希佐で成り立っているので。

 希佐ちゃんと創ちゃん、それからフミさんの3人で歌う『ハレル・ア~友よ、わが神の名をさけべ~』はゴシックで厳かな雰囲気漂う最高の曲でした。あと、スズくんの足を気遣ってか、ゴースト組が台上であまり動かないダンスの振りをしていたのも気に入っています。おそらく振りを考えているのはフミさんなので、「さすがスパダリ、ケアばっちりだな」と勝手に頷いていました。

冬公演 オー・ラマ・ハヴェンナ

 みんな大好き、つらくて苦しい冬公演の時間がやってまいりました。

 「冬は捨てる」という根地先輩の宣言から始まった冬公演の稽古。配役はダブルアルジャンヌ体制で、抜擢されたのは希佐ちゃんと、2年でトレゾール(ユニヴェール歌劇における歌姫のこと)の白田美ツ騎です。根地先輩は優勝を狙うのではなく、3年生が卒業した後の来期に向けて、冬公演を経験値にすることを選んだのです。

 よって、それぞれにかなりの難題が課せられた役が与えられました。スズくんは自分の良い部分が全て消えるような役を、創ちゃんは希代のモテ男を、白田先輩はアルジャンヌと来期を背負うというプレッシャーを。そして、希佐ちゃんは“女”を演じることを求められました。

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 もし、希佐ちゃんが女を演じ、女性だとバレてしまえば、ユニヴェールにはいられなくなります。ユニヴェールの舞台が全てである希佐ちゃんにとって、それは“死”と同じ。まだユニヴェールにいたいという願いと、本気で舞台に取り組みたいという葛藤で、希佐ちゃんは苦しみます。冬公演の稽古は地獄のような毎日で、苦しむ希佐ちゃんを見て私も苦しくなり、脚本を書いた根地先輩を恨みました。

 しかし、希佐ちゃんは周囲の後押しもあって、女を演じると決意します。

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舞台ジャンキー立花希佐に“妥協の”2文字はない。

 ここの演出が本当に好きです。選択肢がひとつしかないのにプレイヤーにボタンを押させるところが。「お前も立花希佐といっしょに泥船に乗ってハヴェンナに行け」と言われているようでした。私も希佐ちゃんといっしょに破滅する覚悟で冬公演に挑みました。

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あ……あぁ…………。

 ぼろぼろに泣きました。真面目な話、白田先輩がいなければ『ジャックジャンヌ』の物語はここで終わっていたと思います。これ、マジです。

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シャルルとはまた違う、“女”の悪い顔ですね。
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フギオーの好みの女を演じていたのでしょうか。ミゲルの前と違って愛らしい雰囲気。

 これが立花希佐が全力で演じる“女”……。快楽の街・ハヴェンナでも、もっとも卑しいとされるヨモギ売りの女……。この舞台を見た人の性癖が歪むのではないかと密かに心配しています。あと白田先輩と希佐ちゃんの『淡色』を聞いて、箱ティッシュのストックが尽きるんじゃないとも心配しています。

最終公演 央國のシシア

 苦しい冬公演を乗り越え、迎えた最終公演。ここで主役を勝ち取ることができなければ、希佐ちゃんは校長との約束で退学することになります。

 配役で紆余曲折あり、アンバーの田中右宙為が本格的に希佐ちゃんへ執着し始めたのもあって、稽古は序盤から難航。そしてついに、根地先輩から希佐ちゃんの役が言い渡されます。

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 その名も“ジャックジャンヌ”・シシア。ジャックでもジャンヌでもない、無性別の、ただひとりの主役。ここでのタイトル回収が熱すぎて、しばらくのたうちまわった思い出があります。

 ここからは怒濤の稽古が始まり、いよいよ終幕なんだなと思わせるシナリオが続きました。まさに最終決戦です。

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田中右宙為さん、全力で立花希佐をかっさらいにきてます。
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“ジャックジャンヌ”となった希佐ちゃん。神々しい……。

 この最終公演の演目『央國のシシア』は、田中右宙為の『我死也』に勝つためか、ちょこちょこ対になっている部分があるのがまたすごい。希佐ちゃんも田中右宙為も、ただひとりの主役として舞台に立ちます。また、シシアは夢のために命を懸けたのに対し、瀧姫は復讐のために命を懸けています。両者とも最後は散りますが、観客の心に残るものは確かに違うのです。でもこれ、脚本書いた人は同じなんですよね……。

 開演するとき、クラスの代表が演目を読み上げる瞬間がたまらなく好きです。物語の幕開けを肌で感じるというか。田中右宙為の『我死也』コールなんて、何か分からないけど巨大な化け物が迫ってくる感覚がして、鳥肌が止まらなかったのを覚えています。

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夢のため、身分を隠して命がけで壁の向こうからやってきたシシア。希佐ちゃんと重なるものがあります。
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シシアが、“央國のシシア”となった瞬間。

 役を発表したときに根地先輩が「シシアは天使のような役」と言っていましたが、希佐ちゃんの演じるシシアは本当に人間界に迷い込んだ天使そのものでした。男性でも女性でもない、浮世離れしているのに確かに存在する、そんな役です。

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立花希佐評論家・田中右宙為さんのお言葉です。

 劇中歌もシナリオ内でもっとも多く4曲あるのですが、どれもすばらしくて、リズムアクションが地獄だったような覚えがあります。きちんとクリアーしないと賞に影響するから手は抜けないし、でも曲が聞きたいし、ムービーも見たい、そして涙で画面がよく見えない。情緒がぐちゃぐちゃでした。最高のシナリオをありがとうございます。

舞台の脚本にも目を通すとより楽しい

 タイトル画面から飛べるギャラリーに舞台脚本が閲覧できる機能があります。

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 実は、ゲーム本編ではカットされているシーンも載っています。「このシーンとこのシーンのあいだにこんなカットが……」という楽しみ方ができるのでおすすめです。

 ちなみにですが、立花希佐ルートの『央國のシシア』の脚本は最後まで読むことを強く推奨します。私は「そんなこと本編ではひとことも言及されてなかったじゃん!」と叫びました。ひどい(褒め言葉)。

すべての創作へ携わる人へ捧ぐ、友情と努力、そして才能の物語

 私の推し・立花希佐ちゃんの魅力は伝わりましたでしょうか。プレイヤー名は変更してプレイもできますが、ここではただひとりの演者・立花希佐として彼女を語らせてもらいました。個人的には“希佐”のままでプレイするのがおすすめです。他のキャラクターがボイス付きで呼んでくれます。ぜひ高科更文の「希佐」を聞いてください。とんでもなく甘いので。

 発売から2年経っても、色褪せることなく『ジャックジャンヌ』をプレイした記憶が残っています。立花希佐ちゃん含むクォーツメンバーはもちろんのこと、サブキャラクターたちも非常に魅力的で、登場キャラクター全員にそれぞれ違った魅力を感じていただけるかと思います。(御法川基絃や鳳京士のルートが追加されないかなと日々願っております)。

 本作は舞台、ミュージカル好きの方にはもちろんのこと、創作へ携わるすべての人にぶっ刺さる内容だと思っています。小説家や漫画家などの物語を作る人には根地黒門のアレコレが刺さるでしょうし、伝統芸能が好きな方は高科更文の生い立ちや玉阪の歴史が刺さりそう。美大・音大出身者は暴力的なまでの才能と出会ったときの絶望感を、田中右宙為を見て思い出してしまうんじゃないかと思ったり。『ジャックジャンヌ』は、石田スイ先生が我々に叩きつけてきた“創作”の挑戦状のように思えます。

 『ジャックジャンヌ』は発売から2周年を迎え、スマホ版の配信も発表されました。これからもユーザーが増えるのではないかとワクワクしております。よろしければ、下記の記事もチェックよろしくお願い致します。

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