スクウェア・エニックスの人気RPG『ファイナルファンタジー』シリーズから、ドットのグラフィックやサウンドを新たに作り直し、“究極の2Dリマスター”版としてシリーズ初期の作品を蘇らせる『ファイナルファンタジーI-VI ピクセルリマスター』シリーズ(以下、『FF ピクセルリマスター』)。

 すでに配信中のスマホ、PC(Steam)向けに加え、2023年4月20日には『FF ピクセルリマスター』のNintendo Switch版(以下、Switch)、プレイステーション4版(以下、PS4)が発売される。SwitchとPS4の家庭用ゲーム機版『FF ピクセルリマスター』には、新たにピクセルフォントへの切り替え機能や、ゲームブースト機能などが加えられているのが特徴。

 しかし、家庭用ゲーム機にはそれ以外にも驚くほど細やかな調整や改良が加えられているという……。本記事では、家庭用ゲーム機版『FF ピクセルリマスター』のプロデューサーを務める琢磨尚文氏に、新たに加えられた調整内容の詳細や、その意図などについて詳しくおうかがいしたインタビューをお届けする。

琢磨尚文 氏(たくま なおふみ)

『ミリオンアーサーアルカナブラッド』を手掛けたのち、『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』ではCo.プロデューサーとして、おもにバトル全体を統括。『ハーヴェステラ』もサポートとして参加。『FF ピクセルリマスター』はSwitch、PS4版のプロデューサーを務める。(文中は琢磨)

Switch/PS4版『FF ピクセルリマスター』8000文字の日本語ピクセルフォント作成に、経験値0倍などのやり込み配慮、BGMの演出微調整など、細かすぎる調整内容に溢れる琢磨Pのこだわり
Switch/PS4版『FF ピクセルリマスター』8000文字の日本語ピクセルフォント作成に、経験値0倍などのやり込み配慮、BGMの演出微調整など、細かすぎる調整内容に溢れる琢磨Pのこだわり

家庭用ゲーム機版に膨大な修正が反映されるようになった理由

――家庭用ゲーム機版『FF ピクセルリマスター』で琢磨さんがプロデューサーを務めることになった経緯から教えていただけますか?

琢磨『FF ピクセルリマスター』は、先行でスマホ版、PC版が配信されていますが、その開発の中盤ごろから開発に関わらせていただいています。その流れで、Switch、PS4版のプロデューサーを務めることになりました。

――琢磨さんは、『FF』シリーズはユーザーとしても遊ばれてきましたか?

琢磨『FF』シリーズの初期が直撃世代で、小学校でみんな話題にしているタイトルでした。小学生ながらに「ゲームってものすごい力を持っているな」と思っていたほどに、人生に影響を与えたタイトルだと思います。最初に遊んだのは、『FFII』でした。5、6歳くらいのころ、兄が遊んでいた流れで遊んだという感じですね。どのタイトルも大好きですが、初めて遊んだというところで『FFII』には思い入れがあります。

――最初に遊んだのが『FFII』で、しかも5、6歳ぐらいとなるとクリアーは難しそうな……。

琢磨無理でした。シリーズでも異色の『FFII』ですし(笑)。その後、何度も「そろそろ自分でもクリアーできるかも」と思ってはチャレンジしてやっぱり無理で、というのを何度かくり返してからクリアーしました。

――改めて『FF ピクセルリマスター』の内容についてお伺いしようと思いますが、家庭用ゲーム機版より先行して配信されたスマホ版、PC版については、ユーザーからの反応などはご覧になっていましたか?

琢磨はい。伝説的なシリーズタイトルですし、ひとつひとつの要素に賛否両論があるなと、素直に感じました。また、プレイしている人たちの層でも意見が分かれているように思います。当時のオリジナル版をプレイして以来にピクセルリマスター版を遊んだ方、またはオリジナル版が発売されてしばらく経ってから遊んだ方、そしていまなおくり返し遊び続けている根強いファンの方々もいます。

 当時遊んだ、という人たちからは概ね好評を得ることができました。ただ、いまも遊んでいる人たちからは、リマスターというところで原作との違いがあると、そこが気になってしまうと、厳しいお声をいただくことがありました。僕も思い入れのある6タイトルですので、皆さんの意見もすごくわかります。

――変化と変わらないよさのバランスというのは、難しいところですよね。

琢磨変わらないことを求めている人もいますし、そこは変えてくれてよかったと喜んでくれる人もいます。どの意見も間違いではないと思いますし、すべての人を満足させるのはとても難しいものだと、改めて実感しました。

――そして今回、SwitchとPS4の家庭用ゲーム機での発売となります。これは当初から発売は予定されていたのでしょうか?

琢磨企画当初のころは私は関わっていなかったのですが、可能性としては家庭用ゲーム機での発売も考えていたようです。ただ最初からスマホ、PC、家庭用ゲーム機を並行して開発することは難しく、スマホ版、PC版の評判と、家庭用ゲーム機版が欲しい、という多くのご意見を受けて実現に動いた、という状況でした。

――また、今回は単なる移植ではなく、さまざま追加要素が用意されていますね。

琢磨じつは、スマホ版、PC版の開発に途中参加したときから、“もし僕が『FF ピクセルリマスター』を作るのであれば、ここはこうしたい”という細かいメモを取っていたんですよね。また、並行してオリジナル版の『FF』シリーズも再度遊び直して、「いま遊ぶとここが不便だな」みたいに感じた部分もメモしていって。

 スマホ版、PC版ではスケジュールの都合もあって全部を修正することはできませんでしたが、その後にいよいよ家庭用ゲーム機版の制作が決まって、僕にプロデューサーの話が来たときに、「ただ移植するのではなく、僕が作るのならばここは直したい」と、修正リストとそれに必要なスケジュール、予算を提案して、それを会社に承認してもらって、いろいろな修正を盛り込むことにしたんです。

――琢磨さんのリストアップしたもののほか、スマホ版、PC版で出ていたユーザーの意見も取り入れたのでしょうか?

琢磨そうですね。書き溜めていたメモのほかに、リリースしたあとにユーザーの方々からいただいた意見もピックアップして、修正項目を決めていきました。

――プロデューサーでありながら、担当されているお仕事はディレクターなどの現場側のように感じます。

琢磨プロデューサーって、そのゲームを売るのに必要なことはなんでもやる立場なので、今回の『FF ピクセルリマスター』であれば、それが修正点のリストアップが必要な仕事のひとつだった、ということですね。

 いつもそうなんですが、僕はただただ、ゲームが大好きなんですよ(笑)。ここまで修正をすると工数や予算がかかるというのは承知のうえで、それで会社に承認ももらいましたので、いろいろと盛り込むことができました。ただもちろん、すべての要望を取り入れてしまうと、もはやもう1本リマスタータイトルを作るレベルになってしまうので、あくまでできる範囲ではありますが。

 一方で僕だけでなく、スタッフからも「ここを直すのなら、こっちも直したほうがいいのでは?」という意見も挙がってくることがあり、スタッフ全員のモチベーションはとても高かったですね。

Switch/PS4版『FF ピクセルリマスター』8000文字の日本語ピクセルフォント作成に、経験値0倍などのやり込み配慮、BGMの演出微調整など、細かすぎる調整内容に溢れる琢磨Pのこだわり

家庭用ゲーム機版の大きな変更点

――家庭用ゲーム機の大きな追加変更要素としては、BGMとフォントの切り換え機能があると思います。まずBGMがアレンジ版とオリジナル版で変更できる要素ですが、この要素を取り入れた意図からお聞きできますか?

琢磨スマホ版、PC版『FF ピクセルリマスター』のBGMは、アレンジ版のみを収録して発売したタイトルでした。BGMは『FF ピクセルリマスター』のために作ったのだからこそ、それをそのまま楽しんでもらうのが筋である、というのが狙いです。その意見も、僕は合っていると思います。

 ただ、このタイトルは初めて遊ぶ人から当時オリジナル版を遊んだ人まで、幅広い層に遊んでもらえる作品です。それだけの幅広いターゲットに対してひとつのやりかたでは、いろいろな人の気持ちを汲み取れないと考えました。アレンジ版の曲もすごくいいですが、オリジナル音源というのも『FF』シリーズを構成するピースのひとつだと思うんです。これは優劣の話ではありません。

 お店で食べる料理と、実家で食べるごはん。どちらもおいしいじゃないですか。それは比較すべきじゃないですし、どちらも尊い存在だと思います。という話を関係者にもして、BGMは選択式のほうがいいだろうと判断しました。また、「オリジナル版の楽曲で遊びたい」というユーザーの方からの意見も実際多かったですし、後ろ盾にさせていただきました。

Switch/PS4版『FF ピクセルリマスター』8000文字の日本語ピクセルフォント作成に、経験値0倍などのやり込み配慮、BGMの演出微調整など、細かすぎる調整内容に溢れる琢磨Pのこだわり

――続いて、もうひとつの大きな変更点であるフォントですが、家庭用ゲーム機版ではピクセルフォントにも切り換えられるようになりましたね。

琢磨デフォルトのフォントは、フォントベンダーさんのフォントを導入しています。やはりすごく視認性がいいですし、読みやすいです。ただフォントがドットであれば、よりオリジナル版のイメージに近いゲーム画面で遊べます。

 僕はもとからあったほうがいいかなと思っていたのですが、スタッフやユーザーの方からの意見でも、フォントについては意見が分かれていました。僕としては気になるところでしたが、読みやすいフォントがいいという方もいらっしゃいましたし、案外フォントについては気にされていない人も多かったです。ただここも優劣の問題ではなく、オリジナル版の雰囲気を味わえるようにするのも大事な要素だと考え、選択式で入れようと決めました。

――そして実際に導入されたピクセルフォントですが、これは今回のためにイチから制作されたのでしょうか?

琢磨はい。本作に使用できるような商用ライセンスのピクセルフォントを探したんですが、見つからなかったんです。それならもう自分たちで作るしかない、と。ゲーム業界で長く働いてきましたが、今回初めてフォントデータを作る作業をしました(笑)。

――フォントの制作方法というのは、どのように行ったのでしょうか?

琢磨フォントを制作してくれる会社さんを探して、その制作会社さんと相談しながら、どんなフォントにするのかを決めていきました。その中で、『FF ピクセルリマスター』としてオリジナル版のような雰囲気を持ちつつ、読みやすさなども考えたフォントとして『FFV』あたりの文字がイメージに近いと考えて、『FFV』を中心にフォントを研究してもらって、そこから1文字ずつ作ってもらったんです。とくに漢字は密度が高いので見た目がさほど変わらないのですが、ひらがなはデザインの違いがわかりやすいので、そこを『FF』シリーズに近づけていくのがたいへんでしたね。

――お聞きしているだけでたいへんそうな……。ちなみに漢字などはゲーム内に使用されているものだけ、新しくピクセルフォントを制作したのでしょうか?

琢磨いえ、常用漢字+JIS規格・第二水準までの漢字もすべて制作しました。というのも、たとえばプレイヤーキャラクターの名前入力もあるので、セリフなどで使う漢字だけだと足らないんですよね。ゲーム内に使用されている漢字は、おそらく1タイトル1000文字くらいだと思いますが、結果的に、約8000文字くらいを新たにピクセルフォントとして制作して。英語だと250文字程度だったので、「日本語、文字多すぎる!」と思いましたね(苦笑)。でも結果的に、それだけの漢字を作ったおかげで『FFVI』のカイエンの必殺剣に名前を付けるときにも豊富な漢字が使えるようになったのでよかったなと思います。

――日本語はひらがな、カタカナ、漢字がありますしね……。では今回のフォントは、『FF ピクセルリマスター』専用に作ったものになるのでしょうか?

琢磨そうなのですが、『FFV』あたりのフォントって、そこまでクセがあるわけではありません。今後もしスクウェア・エニックスが過去のタイトルを移植・リマスターしてドット風のフォントを入れたいとなったときにも使えますし、自社製品のひとつですからそれをアレンジして使ってもらったりもできるのかなと。今後使ってもらえるとありがたいのですが、現状とくに予定はありません(笑)。

Switch/PS4版『FF ピクセルリマスター』8000文字の日本語ピクセルフォント作成に、経験値0倍などのやり込み配慮、BGMの演出微調整など、細かすぎる調整内容に溢れる琢磨Pのこだわり

――また、ゲームを進めやすくするブースト機能も搭載されましたが、これを追加した意図をお聞かせください。

琢磨たとえば『FFVII』などの、3D時代の移植シリーズタイトルは、ゲームスピードを上げたり、快適に遊べるようになっています。3D時代の移植・リマスターにこういった要素を加えたのは、移動のテンポなどを上げるためでした。一方、『FFI』~『FFVI』までならもともとテンポは早いほうですし、僕としてはただ倍速などを加えるよりももう少しいろいろできるようにしたいなと思っていたので、経験値を何倍にする、得られるギルを何倍にするなどの要素を中心に加えたんです。また、エンカウントのオンオフも変更できます。

 ほかにも、ゲームによっていろいろ変えていて、たとえば『FFII』はレベルがないので熟練度が上がりやすくなったり、『FFV』ならばアビリティポイントを倍にするといったブーストが可能です。

――『FF』の場合、タイトルごとにシステムが異なるので、ブースト機能もいろいろと細かい仕様変更が必要になるわけですね。

琢磨はい。そのひとつが、『FFII』の自動HPアップシステムです。以前までの移植版『FFII』はバトルを一定回数行うと自動でHPがアップするシステムがあります。ですが『FFII』をやり込んでいる人は、おそらくその仕様がジャマに感じる人もいると思うんですよね。

 というのも、HPを上がりやすくすることで『FFII』の難度を下げるという意図で入れられたシステムだと思うのですが、『FFII』の一部の敵は最大HPの割合でダメージを与えてくるので、この自動HPアップのせいで逆に難度が上がってしまうシーンが生まれてしまって。ですので、このシステムをオフに設定できるようにもしました。

――オフにするブースト機能! もはやブーストと言えるのか、というくらいの充実ぶりですね(笑)。

琢磨そうですね(笑)。経験値やゴールドもただ倍にするだけでなく、0倍、0.5倍も可能です。これはあえて僕からオーダーした要素ですが、いわゆる縛りプレイなどができます。この手のブースト機能は、サクッと遊べるようにしたり、新規プレイヤーが遊びやすいように難度を下げる目的で入れることが多いのですが、どうせ入れるのであれば難度を下げるだけでなく、遊びの幅を広げられると思ったんですね。

 昔から低レベル攻略という遊びかたがあります。僕もチャレンジしてみて、たしかに達成感が味わえるのですが、自分なりのチャートを組まないといけなかったりと、すごくハードルが高いんですよ。でも一度クリアーした方々が、「経験値0倍でどこまでいけるのか試そう!」などと、気軽にやってみてほしくて。倍率調整の項目を設けることは決して難しいことではないので、今回取り入れました。

――設定項目を増やすことで、遊びの幅を広げたと。

琢磨はい。無敵になるみたいな、すごくわかりやすいブーストは取り入れていなくて、あくまで経験値などが得やすくなるだけです。ただ『FFIII』だけ遊んだことがない人が「ちょっとやってみようかな」と経験値を得やすくして遊ぶだけでも、雰囲気を味わいながらサクっとクリアーできるはずですので、ブーストで気軽に遊びつつ、各タイトルの楽しさを味わってほしいですね。

Switch/PS4版『FF ピクセルリマスター』8000文字の日本語ピクセルフォント作成に、経験値0倍などのやり込み配慮、BGMの演出微調整など、細かすぎる調整内容に溢れる琢磨Pのこだわり

ピックアップこだわりポイント

――さらに各タイトルで、とても細かい調整が加えられているとお聞きしています。

琢磨本当に細かい変更が膨大にありますが、リストとして公開する予定はなくて。その修正のリストを見てほしいわけではなく、違和感なく遊んでもらえることが目的ですので、皆さんに遊んで感じ取ってほしいですね。ただ今回インタビューでお話させていただく機会をいただきましたので、いくつかこだわって変更した部分については、ピックアップしてご紹介させてください。

――ぜひお願いします!

共通:ダッシュのオンオフ

琢磨『FF ピクセルリマスター』は、ボタンを押しながらダッシュするのですが、デフォルトの移動自体をダッシュか歩くか、選択できるようにしました。どうせダッシュしないシーンのほうが少ないでしょうし、だったらデフォルトでダッシュできたほうがいいだろうと。

共通:バトル中にタイトル画面へ

琢磨バトル中、ポーズメニューからタイトル画面にすぐ戻れるようにしました。たとえば『FFV』や『FFVI』では敵から盗めるアイテムに通常枠とレア枠が設定されていて、レアアイテムを盗もうとして通常枠のアイテムを盗んでしまうとレア枠のアイテムが盗めなくなるので、ロードしてやり直す必要が出てくる。でもそのためにイチイチゲームを終了させたり、わざと全滅させたりして戦闘を終わらせるのは、ちょっと煩わしいですよね。だったらゲーム内からすぐロードできるようにしたいと、タイトル画面に戻る機能を入れました。

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共通:セーブの効果音

琢磨やらなくてもよかった要素なのですが、セーブの効果音を変えました。ユーザーの方から「セーブの効果音が『FFXIV』の“Tell(個別チャット)”の着信音が使われている?」という意見が出ていまして。たしかによくよく聞いてみると、すごくそっくりだったんです。同じスクウェア・エニックスですし、同じ『FF』シリーズですから、同じサウンドでもとくに問題があるわけではないんですが、サウンドチームに聞くと偶然似てしまったそうで。サウンドチームも変えたいということで、セーブ効果音を変えています。

共通:モンスター図鑑でバトル

琢磨スマホ版にはモンスター図鑑を使ったARバトルというAR機能を使いながらバトルをする要素がありました。家庭用ゲーム機版ではARは使えませんが、バトルはできたらいいんじゃないかなと思いまして、モンスター図鑑から最新のセーブデータを読み込んで任意の敵と戦えるバトルシミュレーターのような要素を追加しました。やろうと思えば、本来ありえないパーティでありえない敵に挑んだりもできます。図鑑なのであくまで観賞用ですが、攻略に使えなくもないです。

『FFII』:魔法干渉値の表示

琢磨『FFII』は、重い防具を装備していると、魔法の効果が下がるという隠しパラメータ“魔法干渉値”があります。その効果が本当にすさまじいのですが、ゲーム内に説明は一切なく、人によってはまったく気づかない要素です。ですので、ステータス画面で魔法干渉値が表示されるようにしました。

 ちょっと補正が掛かるくらいなら隠れていてもいいかなと思いましたが、効果の違いがとても大きいですし、ネットで調べたりしないと出てこないくらいなら、表示してもいいだろうと。「あえて隠していたんだから、ないほうがいい」という方もいるかもしれませんが、オリジナル版から30年以上経っていますし、遊びやすさの向上や、“重い鎧が魔力に干渉する”ような世界観の広がりも直感的に感じてほしく、導入しました。

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『FFIII』:暗闇の雲戦の演出

琢磨当時、ユーザーとしてプレイして、暗闇の雲を倒したときの思い出がすごく残っているんですが……。ギリギリの「やれるか、やられるか」くらいの状況で最後の一撃を決めたとき、BGMが止まって無音になり「やったか!?」と思った瞬間に、暗闇の雲の撃破演出が入るんです。スマホ、PC版の『FF ピクセルリマスター』版では、それがなかったのでBGMが無音になるタイミングをつけました。

 この1点だけだったら気にならないと思いますが、こういうのがたくさんあれば気づいてもらえるかもしれないと思って、演出面でも細かい調整を加えています。

『FFIV』:イベントのタイミング調整

琢磨これはいくつかのタイトルに入っている要素ですが、イベントシーンの調整も加えています。たとえば『FFIV』でルビカンテと戦うエッジのセリフまわりです。エッジが「怒りってモンを‥‥見せてやるぜえ!」というのですが、ボタンを押してセリフを送ると「見せてやるぜえ!」のタイミングでBGM『ゴルベーザ四天王とのバトル』が始まるんですよ。

 スマホ版、PC版ではそこが少しパワーアップしていて、エッジにオーラのようなエフェクトが表示される演出が追加されています。ただそれによって、エッジがパワーアップした状態で『ゴルベーザ四天王とのバトル』が流れるようになってしまって。オリジナル版の意図を考えるならばパワーアップと曲の切り換えは同時に行われるべきだと思うんですよね。ですので、そのタイミングを少しだけ調整しています。

『FFIV』:カインのジャンプ

琢磨『FF ピクセルリマスター』は、基本的には『FFV』のクオリティを基準に『FFI』~『FFV』をリマスターし、『FFVI』は『FFVI』で、という作りかたにしています。その中で、基準となるクオリティの『FFV』に合わせた結果、合わせなくてもいいところまで同じになってしまったものもあったんです。

 その中のひとつが、カインのアビリティ“ジャンプ”でした。カインのジャンプは、オリジナル版では特殊なモーションで、敵の後方から鋭角に落ちてくるようなもので、それがすごく印象的だったんですが、スマホ版、PC版ではほかの竜騎士のジャンプと同じモーションに統一されていたんですよね。でもカインについてはジャンプの動きを独立させたほうがいいだろうと思い、カインのジャンプだけ調整しました。

Switch/PS4版『FF ピクセルリマスター』8000文字の日本語ピクセルフォント作成に、経験値0倍などのやり込み配慮、BGMの演出微調整など、細かすぎる調整内容に溢れる琢磨Pのこだわり

『FFIII』、『FFV』:ジョブ名

琢磨ジョブの選択画面で、ジョブの下に小さくジョブ名が表示されるようにしました。もちろん遊び込んでいる人ならすぐわかりますし、ないほうが美しいという人もいると思います。そもそもカーソルを合わせれば名前が表示されるのでわかるんですが、やったことがない人にとっては、パッと見て「これが何のジョブなのか?」ということがわかりづらいんですよね。とくに『FFV』はキャラクターごとにデザインが違うので、望みのジョブに変えたいときにも「どれだろう?」と迷う人が出ることを考え、追加することにしました。

『FFIV』、『FFV』、『FFVI』:ぼうぎょとチェンジ

琢磨細かすぎる話ですが、ATB(アクティブタイムバトル)を採用しているタイトルは、オリジナル版では方向キーの右でぼうぎょ、左でチェンジが表示されました。『FF ピクセルリマスター』のスマホ版、PC版では右を押すとぼうぎょとチェンジが縦に表示され、そこから選択するシステムでした。

 おそらく、ふたつの追加コマンドが並んでいたほうがわかりやすいだろうと、そういう仕様にしたんだと思います。ただ、操作の面で言うと、オリジナル版よりも操作が1手多くなってしまいます。ATBはリアルタイム性のあるゲームです。しかもぼうぎょとチェンジは緊急性の高いときに使うコマンドで、オリジナル版はその点を考慮して操作数を少なくしたんだろうと意図を読んで、原作通りに方向キーの右でぼうぎょ、左でチェンジが表示されるようにしました。

 普通に遊ぶならそんなに使うコマンドでもないので、わかりやすさよりこちらのほうがいいのではと判断しました。よく使う人たちは、スピードクリアーですとか、縛りプレイをされている方のほうが多いと思うので、だったら操作数を減らしたほうがいいよねと考えた部分もあります。

『FFVI』:アルテマウェポンとアルテマバスター

琢磨ボスのアルテマウェポンとアルテマバスターは、色違いの存在です。ただ、フィールド中だとアルテマウェポンとアルテマバスターの敵シンボルは、まったく同じなんです。これはオリジナル版でもそうでした。ですが今回は、フィールドもアルテマウェポンとアルテマバスターの色を個別のものに変更しました。

Switch/PS4版『FF ピクセルリマスター』8000文字の日本語ピクセルフォント作成に、経験値0倍などのやり込み配慮、BGMの演出微調整など、細かすぎる調整内容に溢れる琢磨Pのこだわり
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『FFVI』:ケフカ戦のBGM

琢磨ケフカ戦のBGMは、オリジナル版では内部で切り換えポイントが用意されていて、たとえば第1形態をそのポイントに行く前に倒すと、そのポイントでシームレスにつぎの段階にBGMが切り替えられる、という仕様でした。じつはオリジナル版以外の移植版は、すべて“第1形態が終わったら、強制的にBGMをつぎに移行させる”という仕様になっていて。

 そこはオリジナル版の仕様のほうがいいだろうと思い、今回移植版では初めてオリジナル版の曲の移り変わりを踏襲しました。

『FFVI』:オープニングスタッフロール

琢磨『FFVI』のオープニングで、ティナたちが魔導アーマーで雪原を歩くシーンがありますよね。あのシーン、オリジナル版ではスタッフクレジットが流れていました。ですが、スマホ版、PC版の『FF ピクセルリマスター』版ではありませんでした。

 当時のスタッフのスタッフロールを流すとなると、ご本人への確認にあたってNGが出た場合、その人を除外してスタッフロールを流すことになり、ユーザーの方からは「なぜあのスタッフが消えているんだ?」という反応が出てしまったりと、なかなかたいへんなんです。「だったらリマスター版のスタッフロールを流せばいいのでは?」という意見もあったのですが、それはオリジナル版のスタッフに申し訳ないですし、ユーザーの方にとっては「誰だよ」という反応になってしまうのではないかとなり、スタッフロールを流さない方向にしたそうです。

 ただ、今回は家庭用ゲーム機版のリマスタースタッフのスタッフロールを流すことにしました。とてもとても迷ったのですが、あのスタッフロールは『FFVI』を映画的に魅せる手法と言いますか、ゲーム内で「これから物語が始まるぞ」というような演出をスタッフロールで表現しているシーンだと思うんです。

 雪原を歩く演出だけでもその役割は果たしていると思うんですが、よりオリジナル版の意図を汲み取るにはスタッフロールは必要だと考え、流すことにしました。植松伸夫さんを始め、オリジナル版からも関わっているスタッフ陣のほうから表示されます。ですので、スタッフ名はあくまで演出のための飾りというように見ていただきたいです。

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スマホ&PC版への追加は?

――いろいろと変更点をお聞きしましたが、これでも一部なんですよね……? 一般的なプロデューサーという立場ですと変更点を削る側になるのではないかと思いますし、むしろ、スタッフから断られそうなほど、細かい調整内容で驚きました。

琢磨『FF』シリーズへの思い入れの強いファンの方はとても多くいらっしゃって、そういった方からはまだまだ修正点が足りないと感じる部分があるのではないかと思います。ですが、自分にとっても思い入れの強いタイトルですし、少しでも皆さんによりよいものをお届けしたく、いろいろと提案させていただきました。

 今回いろいろと変更できることになったのは、実際に皆さんからの要望がたくさんあったことも、会社を説得できた要因のひとつだと思っています。ですので、今回のインタビューを始め、家庭用ゲーム機版『FF ピクセルリマスター』に反響や意見などをいただけたら、今後もこういったことがしやすくなりますので、ぜひ今後も声を挙げていただければと思います。

――ユーザーの声がとても大事ということですね。ちなみに今回は家庭用ゲーム機版のお話でしたが、すでに配信済みのスマホ版、PC版にもこれらの要素は追加・反映されるのでしょうか?

琢磨もちろん先に遊ばれた方は「えっ、完全版が出るの?」と思うでしょう。現時点で断言はできないのですが、当然検討はしています……というかすでに調整に入っています。ただ、家庭用ゲーム機版を作るのと、スマホ版、PC版のゲームを作るのはじつは別モノなので、完全に同じ要素を全部反映できるのかがわからない、という状況です。

 とくにスマートフォンは機種によってスペックがかなり違うので、今回の要素をすべて取り入れられるかどうかは、機種ごとにより詳しい検証が必要なんです。また、BGM変更機能は、単純にもうひとつのサウンドトラックを追加するので、容量も増えます。低スペックのスマホだと、すでにメモリがカツカツの状態で動いていて、追加が厳しかったりしますし。一方、たとえばブースト機能は数値をいじるだけなので、比較的入れやすいのではないかと思っています。

 といった状況ではっきりしたことが言えずにとても心苦しいのですが、現状では「調整中で、がんばります」という回答になります。申し訳ありませんが、詳しい回答はもうしばらくお待ちください。

――昨今は開発エンジンの充実で移植もしやすくなったと聞きますし、「ひとつのゲームを作って移植するだけ」とまでは言いませんが、移植を簡単なものと考えてしまっていました。

琢磨以前よりは簡単になった部分はあると思いますが、家庭用ゲーム機とPC、スマホで、それぞれプラットフォームが違いますし、しかもそれぞれ最適化をしなくてはならないので、やはり時間が掛かります。とくにスマホとPCは大きくスペックが違うので。

 あとは『FF ピクセルリマスター』は、6作品がひとつになったものではなく単体で動くように設計されているので、6本を同時に開発している状況なんです。これが1本のゲームの中で6タイトルを選択するものだと商品としてはひとつになるのですが、6商品を並行して動かすのはとてもたいへんでしたね(苦笑)。

――そういう扱いになるんですね。プラットフォーム、各ハードへの対応と、そして6作品同時と、なかなかの苦労がうかがえます……。

琢磨6作品のマスターアップを同時に行うことはできないので、それぞれちょっとずつ時期を変えて、昨年(2022年)の夏くらいから順々にマスターアップをさせていって、今回同時に発売を迎えられるようにしているんです。しかもSwitch版とPS4版で、6本×2プラットフォームでもはや12作品作っているくらいの感覚でした(苦笑)。

 さらに限定版もあると、それもまた別作品の扱いになり……。いやもう、僕はゲームを遊んだり作ったりするのは好きですが、この書類回りの作業はもう遠慮したいですね(笑)。という愚痴はこぼしつつも、スタッフのがんばりもあって、発売延期などもなく無事に2023年4月20日に発売を迎えられます。いろいろと細かい点まで調整しましたので、ぜひ遊んでください!

Switch/PS4版『FF ピクセルリマスター』8000文字の日本語ピクセルフォント作成に、経験値0倍などのやり込み配慮、BGMの演出微調整など、細かすぎる調整内容に溢れる琢磨Pのこだわり