ファミ通.comの編集者&ライターがゴールデンウィークのおすすめゲームを語る連載企画。今回紹介するゲームは『Mortal Sin』。
【こういう人におすすめ】
- 緊張感のある剣戟が楽しみたい
- シビアなダンジョン攻略が好き
- ハードコアゲーマーの自信がある
NeverAwakeManのおすすめゲーム
『Mortal Sin』
- プラットフォーム: PC(Steam)
- 発売日:2023年3月16日(アーリーアクセス版。正式リリースはおよそ6ヵ月後を予定)
- 発売元:Nikola Todorovic
- 開発元:Nikola Todorovic
- 価格:2300円[税込]
- 対象年齢:――
いまやFPSは押しも押されもしない人気ジャンルになった。バトロワ系、爆破系、ゾンビ系など細分化され、一人称ゆえの高い臨場感で幅広いプレイヤーを楽しませている。
けれど、なんでもかんでもFPSでやればいいというわけでもない。とくに、剣を振るったり拳で殴ったりするような近接戦闘アクションは一人称視点のゲームにおける鬼門といっていい。アクションに伴って視点が激しく動くせいで酔いやすかったり、一人称視点だとリーチがわかりにくくて攻撃を当てづらかったり、剣をブンブンするだけの単調なアクションが駆け引きのおもしろさを損なってしまったりする。
ファーストパーソンシューティングという名前のとおり、シューティングだけしていればいい。俺はそう思いこんでいた。
……『Mortal Sin』を遊ぶまでは。
このゲームに射撃ができる武器はほとんど存在しない。そもそも画面にクロスヘアは表示されない。使えるのはおもに剣、槍、斧、そのほかもろもろのの近接武器。そして、例外的に遠隔攻撃ができる魔法の杖。『Mortal Sin』は近接戦闘に徹底的にフォーカスしたFPSであり、ついにそれを十分に楽しめるものへと進化させた意欲作だ。
2023年3月にリリースされた本作はまだアーリーアクセス中であり、日本語へのローカライズもまだ行われていない。とはいえ、これはチマチマ英語を見ている時間よりも悪魔の四肢がちぎれ飛ぶ様子を見ている時間のほうがずっと長いゲームだ。そのため、キャラクターのステータスに関わる単語さえ理解できればクリアーには差し支えない。また、あからさまに未完成な部分などもなく、すでにスタートからラスボスまで10時間は優に遊べる完成度となっている。
シビアでミニマルなダンジョン攻略
点描画のようなゴシック風ビジュアルがインパクト抜群な『Mortal Sin』だが、実際に遊んでみるとこの見てくれからは想像できないほど遊びやすい。敵やトラップといった情報ごとにしっかり色分けされているので、視覚的な判断を妨げないようになっているのだ。ゲームの流れ自体もシンプルなダンジョン攻略型ローグライクであり、割ととっつきやすい部類に入る。
迷宮、洞窟、森の3つのダンジョンを好きな順番で攻略しながら装備やスキルを揃え、最終ステージである大罪の淵(原文では”Maw of Sin”)に挑戦しラスボスと対峙するというのが全体的な流れだ。ローグライクらしく、一度でも死ぬと装備やスキルをすべて失い、最初のダンジョンからやり直しとなる。ちなみに、本作ではクリアーするダンジョンの順番によって新しいコンボや武器といった要素がアンロックされる。当然だがアンロックしたほうがクリアーは楽になるので、ムキになって同じダンジョンばかり攻略しようとしないほうがいい。
ダンジョンは入るたびに構造の変わる5つの階層からなる。フロア内の通路は基本的にどこも狭く、見通しが悪い。その上に悪魔とトラップがひしめいていて、息が詰まりそうな最悪の空間だ。
中でも、足元に魔法陣が現れてプレイヤーを閉じ込めるトラップである“スケア”は思わず悪態をついてしまいそうなほどいやらしい。これにひっかかると、効果音と同時におどろおどろしい顔や死体がドーンとアップになってこちらを驚かせてくるのだ。お化け屋敷じみた小ネタのように思えるかもしれないが、ダンジョン攻略中で気が立っているときに引っかかるとかなり精神にクるものがある。しかも、HPと装備耐久値をゴリッと減らすオマケ付きだ。
『Mortal Sin』はダンジョンローグライクらしい理不尽一歩手前のシビアさが持ち味だが、しかし、不親切でもなければ煩雑でもないゲームだ。
ダンジョンにつきものの迷子問題について、本作は地面に浮かぶ赤い線でつぎのフロアまで案内するという方法で解決している。このやりかたはいささか豪快すぎるように見えるかもしれないが、先に述べたように道中が最悪なので甘やかされているような気もしない。というより、これがなければつまらないトラップ死が増えすぎて心が折られるプレイヤーが続出していただろう。
また、本作は生死にかかわらず1回のプレイがおおよそ1時間以内で終わる。このコンパクトさのおかげで、ローグライクにありがちな“積み上げたものがちょっとしたプレイミスや運の下振れにブッ壊されてやり直しになる”ストレスがずいぶん緩和されているのだ。途中で失敗してもそれほど時間をかけずに進捗状況を取り戻せるという安心感は、リトライのモチベーションを保たせてくれる。
エッジの利いた見かけとは裏腹に、『Mortal Sin』はプレイヤーの精神を摩耗させないギリギリのラインをわきまえたゲームだ。
ヒットストップに酔いしれる
ここまで書いたのは『Mortal Sin』のローグライクやダンジョン攻略としてのおもしろさだが、それよりもダイレクトにプレイヤーの快楽神経を刺激するのは、やはり近接武器を軸にした激しい戦闘だ。
最初に気づくのは、攻撃が当たった瞬間の硬直演出、すなわちヒットストップがかなり大きいことだろう。自分の振るった刃が悪魔の肉にめり込み、バッサリと切り裂いていく感覚が生々しく伝わってくる。とくに、大剣やハルバードのような大型武器で複数の敵を巻き込んで攻撃するのはこのゲームで最高の瞬間のひとつだ。ドッスドッスドッスと重たいヒットストップが連続し、悪魔の首や四肢があっちこっちに散らばっていく。これがもう、ニヤけてしまうほど気持ちがいい。
興味深いのは、このヒットストップの大きさがただの演出にとどまっていないところだ。多数の敵に囲まれながら戦うと必然的にヒットストップが長く多く発生するわけだが、そのおかげで防御に移るかどうかといった状況判断がしやすくなっているのだ。これはいわば、アドレナリンが脳を駆け巡って時間がゆっくりに感じられる現象がヒットストップで再現されているようなものであり、結果的に本作の遊びやすさを大きく向上させている。
また、さきほどからちょくちょく触れている四肢切断もただの演出ではない。本作に登場する悪魔は胴体へのダメージが通りにくく、また首を切っても即死しないようになっている。そのため、効率よくダメージを与えるにはしっかりエイミングして首と四肢を切っていかなくてはならないのだ。敵の首を切ると視覚を失い、足を切ると動きが鈍くなるといった具合に、異なるデバフ効果も存在するので、どの部位から先に破壊するかも戦略のうちとなる。
瞬時の判断で生き残れ
『Mortal Sin』の戦闘のメカニズムはシンプルだが、奥深い。
左クリックで装備している武器で攻撃し、右クリックでガード。また、雑魚敵をスタンさせて行動に割り込む技として、素早く体当たりを仕掛けるバッシュと目の前に脚を突き出すキックが存在する。武器の振りとバッシュの速さは装備している武器に依存するので、大包丁のような軽めの武器を使って身軽に戦ったり大剣のような重い武器でずっしり重厚に立ち回ったりと、同じ操作でも武器によって大きく異なるプレイ感覚になるのがおもしろい。
特徴的なのは、武器、バッシュ、キックの3つの攻撃をそれぞれ組み合わせることで、格闘ゲームのように隙をキャンセルしてコンボをくり出すことができる点だ。たとえば、キック、バッシュ、武器の順で攻撃を当てると、最後の武器攻撃が回転斬りとなり、全方位に高火力の攻撃(しかも多段ヒットする!)をくり出せる。悪魔の群れを回転斬りでなぎはらう爽快感をひとたび知ってしまうと、通常攻撃をチマチマ振るのがバカらしくなってくるほどだ。
回転斬りは戦闘の要となる強力な技だが、それだけですべてを解決できると思っているプレイヤーはきっとラスボスまでたどりつけない。なぜなら、悪魔は時折オーラをまとい、ひるみ無効のスーパーアーマー状態で攻撃してくるからだ。回転斬りの気持ちよさに浸っているときにスーパーアーマー攻撃を差し込まれるというダサい死因が本当に多いので、防御にもしっかり気を使わなければ生き残れない。
『Mortal Sin』では、ガードに成功すると衝撃波を起こしてまわりの敵をひるませることができる。これは防御に成功すると反撃に転じてもいいということをゲーム側が保証してくれるシステムであり、混戦模様になるとひたすらガードを強いられて追い詰められるというアクションゲームにありがちな不快感を取り除いてくれている。
このゲームでは敵の一撃は重く、回復の手段も限られているが、そのかわり攻撃も防御も非常に強力になっている。攻めと守りを瞬時に判断して戦いを制する楽しさが、剣戟をしているという強い実感につながっているのだ。
悩ましいほど幅広いビルド
このゲームを開始する前に、プレイヤーは自分のクラスを選択する。初期のクラスである”Struggler”はいわゆるすっぴんで、とがったステータスは持たない。どんな武器でも平均的に扱えるオールラウンダーだ。
その一方で、プレイを重ねるにつれてアンロックされるほかのクラスは、それぞれ異なる初期武器とステータス、そして装備に依存しない固有のスキルを持っている。クラスによってドロップする武器も変わるので、大まかなプレイスタイルはクラスによって決められると言える。
たとえば、“Duelist”は二刀流の武器しかドロップしなくなるクラスだ。このクラスは、クリティカルが発生したときつぎの攻撃もクリティカルとなる固有スキルとクリティカル攻撃のダメージ倍率が上昇する固有スキルのふたつを持ち、どちらも二刀流の手数の多さとうまく噛み合っている。攻撃を一定数ヒットさせると爆発を起こすスキルなどとも相性がいい。目立ったデメリットも持たないので、初心者にもオススメのクラスだ。
それとは逆に“Berserker”は手数ではなく一撃の重さを重視したクラスで、これを選ぶとドラゴンすら殺せそうな大剣しかドロップしなくなる。Berserkerは回転斬り中に無敵になるというかなり強力な固有スキルを持つ代わりに、敵から回復アイテムがドロップしなくなるというデメリットもある。敵をキルするたびに回復するスキルなどを優先的に取得することで、デメリットをうまくカバーしていきたい。
回転斬りばかりするのに飽きたなら、“Hunter”のクラスを選んでみるといい。このクラスは槍しかドロップせず、悪魔の首を切断すると即座に殺すスキルを持っている。槍は攻撃の初段が強力な突きとなっていて、一度に攻撃できる範囲は狭いものの圧倒的なリーチの長さが持ち味だ。敵を寄せつけず一撃で仕留めたい技巧派にはうってつけのクラスとなるだろう。
どのクラスが自分に合っているか。装備のステータスを優先するか、スキルを優先するか。スキルと武器のシナジーをどうやって発揮するか。そういった心地よい悩ましさを感じながら、オンリーワンのビルドを作り上げていく。そういったマクロ的なビルド構成のおもしろさにミクロなプレイスキルがモノをいう戦闘とローグライクのランダム性がかけ合わさった『Mortal Sin』は、ハードコアゲーマーを名乗るあなたにこそ遊んでほしい三位一体の逸品だ。