ファミ通.comの編集者&ライターが夏休みのおすすめゲームをひたすら紹介する連載企画。今回取り扱う作品は、PC用ソフト『BattleBit Remastered』です。
【こういう人におすすめ】
- eスポーツに疲れてきた
- 命の軽いFPSがしたい
- ハイスペックでないPCでも楽しみたい
NeverAwakeManのおすすめゲーム
『BattleBit Remastered』
- プラットフォーム: PC(Steam)
- 発売日:2023年6月15日配信
- 発売元:SgtOkiDoki
- 開発元:SgtOkiDoki, Vilaskis, TheLiquidHorse
- 価格:2100円[税込]
- 対象年齢:――
- 備考:アーリーアクセスにて配信中
バイを合わせる。スキルを合わせる。エントリーを合わせる。射線を合わせる。
具体的な名前は出さないけれど、いま一番人気の某FPSはこんな感じだ。一から十まで息を合わせることが求められる。チームはごく少人数で構成され、ロールも各々決まっているので、自分勝手なムーブは許されない。もしやらかしたら? 怒りのボイスチャットで激詰めされる……かもしれない。
もちろん、連携がうまくいって勝利を収めたときのうれしさは格別だ。けれど、それはいつも息苦しさと表裏一体。フレンドと楽しむためにやっていたはずのゲームが次第に辛くなり、不和のもとになることすらある。eスポーツは修羅の道だ。
息苦しさが高じると、気楽なゲームが恋しくなる。フレンドと世間話をしながら遊べる、命と責任が軽いFPSがやりたくなる。思えば、一昔前はそういうゲームが主流だった。爆弾をくっつけたバギーで敵の戦車に突っ込んで自爆してゲラゲラ笑ったり、バタバタ倒れていく味方をAEDで蘇生しまくったり。勝ち負けは二の次で、刹那的なドラマがあればそれでおもしろい時代だった。
いま、この文章を読んで思い出に目を細めているあなたへ。『BattleBit Remastered』を遊べば、在りし日の輝きを取り戻せるかもしれない。
なにもかも軽い
『BattleBit Remastered』(以下『BattleBit』)は、戦車やヘリといった多様なビークルを交えて戦う大規模FPSだ。基本的なルールは“コンクエスト”、いわゆる陣取り合戦で、ビークルなしの“ドミネーション”というルールもある。最大で254人のプレイヤーが2チームに分かれて入り乱れるので、前線はすさまじくカオスなお祭り騒ぎだ。蘇生やリスポーンもあるため、命の軽さは折り紙つきといっていい。また、破壊描写も充実しており、ほとんどの建物は更地になるまで壊し尽くすことができる。
なに?「それ『バトルフィールド』じゃん」だって?
……まあ、そのとおり。しかし、伝統的にフォトリアル・ハイスペック路線の『バトルフィールド』シリーズとは決定的に異なり、『マインクラフト』のようなのっぺりとしたグラフィックの『BattleBit』は、その見た目に違わず非常に軽く動作する。いま一番人気の某FPSこと『VALORANT』が快適に遊べるPCなら、必要なスペックはだいたい満たしているといっていいだろう。
付け加えると、『BattleBit』はかなり安い。『バトルフィールド』の最新作が10000円近くで発売していたのを考えると、グラフィック面以外で同じかそれ以上の体験ができる『BattleBit』が2100円で遊べるのは破格ではないだろうか。
命が軽く、動作が軽く、財布の負担も軽い。『BattleBit』はなにもかも軽いゲームだ。
軽いけれどチープじゃない
いろいろと軽い本作だが、もとは『Arma』シリーズのようなガチガチのリアル系ミリタリーシミュレーターとして作られた経緯を持つ。なので、ローポリな見た目とは裏腹にリアルなところはとことんリアルだ。
先ほども述べたとおり、『BattleBit』は死にやすいゲームだ。弾丸の威力に対して体力は低めで、時間経過で自然回復したりしない。その上、このゲームには出血≒スリップダメージの概念がある。当然といえば当然だが、包帯を巻いて止血しているあいだは攻撃もできず完全に無防備な状態となる。
また、本作は銃の取り回しもかなり重たい。とくにそれを実感するのはリロードで、『Call of Duty』のカチャカチャスッ……という小気味いいリロードに比べるとものすごく遅く感じる。このゲームでは、リロードしたマガジンを手元に置いて再利用する“タクティカルリロード”とその場にマガジンを捨てる“クイックリロード”のふた通りを選べるが、クイックリロードでさえモタついて見えてしまうほどだ。
本家『バトルフィールド』さえ再現しようとしないこれらのリアルさは、ぶっちゃけ窮屈で面倒くさい。しかし、包帯を巻いたりリロードしているときの数秒の無防備さがなんともいえない緊張感を生んでいるのもまた事実だ。その安いグラフィックに反して『BattleBit』のプレイ体験そのものがチープにならないのは、こうした窮屈さや面倒くささをあえて硬派に作り込んでいるからだろう。
もうひとつ重要な点として、これらの硬派仕様はプレイヤーどうしの力量差を縮める役割も果たしている。
止血やリロードで無防備になる時間が多いので、多勢に無勢で勝つのは必然的に難しくなり、単独行動するやつは長生きできない。そのおかげでスタンドプレイが自然と抑止され、集団行動が促されるというわけだ。そうして、敵味方が大人数で入り乱れるハチャメチャな前線が形作られていく。
決死の蘇生がドラマを生む
何度でも言うが、『BattleBit』は死にやすいゲームだ。しかし同時に、生き返りやすいゲームでもある。
この手のゲームは衛生兵しかチームメイトを蘇生できないことがほとんどだが、本作では同じチームであれば兵科を問わず誰でも蘇生可能となっている。しかも蘇生で得られる経験値がキルより二倍多いので、わざわざボイスチャットで蘇生を求めたりしなくても経験値を求めて味方が殺到してきたりする。
誰でも味方を蘇生できるなら衛生兵を選ぶ意味はどこに? と思うかもしれないが、その点も抜かりない。衛生兵はほかの兵科よりも蘇生にかかる時間がずっと短く、しかも自他のHPを回復できる唯一の兵科となっているからだ。前線で戦うにあたってこれらの長所はなにより頼もしいので、このゲームでは衛生兵こそが戦場の花形、ダントツのTier1兵科といっても過言ではない。
あくまで個人的な意見だが、この手のFPSで一、二を争うドラマチックな瞬間は蘇生にある。
誰かが危険を承知で自分を助けてくれるというのはそれだけで興奮を生むものだ。その興奮は連続キルを決めたときのそれとはまったく異質で、連帯感を高めてくれる。また、倒れた味方の身体を引きずって運べるという本作のユニークな機能はすばらしく便利であると同時に、まるで戦争映画のような決死の救出劇をしばしば演出してくれる。見た目は『マイクラ』でも、プレイヤーにとっては『プライベート・ライアン』なのだ。
このドラマこそが、このうえなく命の軽い戦場に戦う意味をもたらす。たとえ勝敗が半ば決着していたとしても、自分を助けてくれるチームのために最後まで戦い抜こうという気にさせてくれる。この気持ちは、勝ち負けを超えた満足感へつながるものだ。
かくして、最前線ではキル合戦と蘇生合戦が並行してくり広げられる。
死体の山に埋もれながら死ぬ気で蘇生をくり返し、ついには自分も死んでしまうような、すさまじい光景。たまたま足元に転がってきたグレネードで不可避の死を迎えることも日常茶飯事。しかし、こういう戦場のカオスで生まれるドラマこそ、かつて多くのFPSゲーマーを夢中にした魔法である。その魔法をより洗練された形で現代に蘇らせたという点で、『BattleBit』は温故知新の傑作といえるかもしれない。
動作は軽く、値段もお手頃。eスポーツに疲れたときの箸休めとして、この夏は『BattleBit』を手にとってみてはいかがだろうか。爆弾バギーのおもしろさは、いまなお健在だ!