2023年8月23日から25日にかけて、3日間にわたって開催している日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC2023”。本記事では初日に行われたセッション“レベルアップ必須!ゲーム業界で求められる今と未来のテクノロジー”の模様をお届け。
登壇したのは、
- 東陽テクニカ ソフトウェア・ソリューション 課長・岩崎健太郎氏
- セガ 開発技術部 シニアクオリティエンジニア・粉川貴至氏
- バンダイナムコスタジオ コーポレート本部 ITサービス部 ITサービス企画課 ITサービス企画チーム・吉田卓哉氏
- サイバーコネクトツー 代表取締役・松山洋氏
以上の4名。岩崎氏が進行を務める形でパネルディスカッションが行われた。
岩崎健太郎 氏(いわさき けんたろう)
東陽テクニカ ソフトウェア・ソリューション 課長
粉川貴至 氏(こかわ たかし)
セガ 開発技術部 シニアクオリティエンジニア
吉田卓哉 氏(よしだ たくや)
バンダイナムコスタジオ コーポレート本部 ITサービス部 ITサービス企画課 ITサービス企画チーム
松山洋 氏(まつやま ひろし)
サイバーコネクトツー 代表取締役
各分野のエキスパートが考える、重要度の高いツールとは?
ゲーム業界はつねに、ほかの業界に先んじて新しい技術を積極的に取り入れてきた。
このセッションでは、ゲーム開発に携わるインフラ管理者、ビルドエンジニア、プログラマー、そして経営者といった面々が集まり、いま求められている最先端の技術とスキルについて議論。急速な技術の進化に伴う人材ニーズの変化についても、深く掘り下げる企画となっている。
まずは“ツール・技術編”という切り口で、以下の3つの質問について議論が飛び交った。
議題「現在のゲーム開発で重要な必要なツールとは?」
粉川自身の仕事としては自動テストに関わるところをメインでやっています。ゲーム開発が大規模化して自動テストは必要不可欠なものになってきている。とはいえ、必要だからすぐに導入したい……となっても、即座に用意できるツールセットがなかなかないので、いまはそうした技術にいちばん注目しています。
岩崎そういったお話を伺い調べたこともあるのですが、ゲーム業界の自動テストは独特ですね。
粉川ウェブ業界では自動テストを行うことが当たり前になっていますが、それをそのまま(ゲーム業界に)持ってくるというわけにはいかないですからね。
吉田私はゲーム開発の人間ではないので、バックエンドから見てきて感じたことをお話ししますが、開発支援ツールを用いるにしても、まずはゲームエンジンありきだなと思っています。最初にエンジンが決まって、そこからツールチェーンが決まっていって、どんどん派生していくイメージがあるので。まずはエンジンありきで、そこから何が必要かを考えていくという流れが自然かなと思っています。
松山サイバーコネクトツーでいちばん使っているツールは何かと考えると、地味な答えになりますが、やっぱりチャットツールなんですよ。
これも各社でバラバラじゃないですか。うちはMicrosoft Teamsなんですよ。そこに落ち着くまでにいろいろ使ってきたけど、けっきょく各社ごとにローカルルールがあって……。その辺りの情報を持ち寄ってゲーム業界全体で最適化できたらいいなと思うんです。
吉田弊社では、Microsoft TeamsとSlackを両方使っていますね。
松山そうなると煩雑になるじゃないですか。ゲーム業界全体で、統一したツールを使うようにしたら、もっとやり取りが楽になると思うんだけどなぁ。
議題「今後のゲーム開発で重要な必要になるツールとは?」
吉田やはり、ゲームエンジンじゃないですかね。
松山うちは3つあって。クラウドとAI、Live Linkは、今後ますます重要になってくると思います。
粉川自分の立ち位置でいうと、自動テストのためにつながっているいろんなツールは触るんですけど、それぞれに重要な役割があるので。バージョン管理ツールも違ったり、チケット管理システムも違ったり、チャットツールも違ったりするため、自動テストのたびにそれらをつないでいつもフル活用しています。
岩崎それってかなりたいへんそうですが……。
粉川逆にやりがいがあります(笑)。それ以外のツールとなると、私も松山さんがお話になられたAIツールには注目しています。皆さん興味もあるでしょうし、今後、いちばん重要になってくるのではないかと。
AIツールの活用方法って、いま流行りのチャットGPTだったり、生成AI以外にもあると思うんですよ。そのふたつは今後も盛り上がるでしょうし、自動テストの開発効率化という面でも、AIはいまの時点では想像もできないようなことをこなしてくれるんじゃないかなと期待しています。
議題「近年のゲーム開発における技術変化や進歩をどう思いますか?」
粉川ちょっと前まではモバイルのプラットフォームが盛り上がっていましたが、いまはちょっと落ち着いているように感じます。
逆にいま進歩しているのは、AAAタイトルなど大規模な作品の開発現場ではないでしょうか。家庭用ゲームやPCゲーム、それらの開発技術がいちばん進んでいるように感じています。そして、その規模感で新規タイトルを手掛つつ、運営タイトルも並行して展開している現場がゲーム開発における最先端なんじゃないかなと思っています。
吉田私も自分なりにここ数年のゲーム業界を振り返ってみたのですが、コンソール系のゲームを前提とすると、これまでのゲーム開発って基本的には社内で完結していたんです。ゲーム開発はスピードが重要で、1秒でも早いほうがうれしいというところがあって。
なのでクラウドを利用するとなると、それだけで時間がかかってしまって、「だったらいいです」みたいな判断が昔はありました。
岩崎開発インフラのお話ですね。
吉田そうです。でも、クラウドを利用しないで開発を進めることがだんだん難しくなってきて。その理由は、いろんな委託先と協業でゲームを作る機会が増えてきたからなんですけど、それと同時に、コロナ禍の影響で自宅作業の割合も急速に増え、社内だけですべての作業をこなすことが難しくなってしまって……。
会社全体で「早さは諦めよう」と決断したときから、クラウドを積極的に使うようになりました。
AIの発展がゲーム業界にもたらす恩恵とは?
続いては“スキル編”という切り口で、個々の開発者に求められる能力について話してもらうことに。ここではAIがゲーム開発にもたらす影響について、さまざまな意見が飛び交った。
議題「技術の進歩が人材ニーズにどのように影響を与えていますか?」
松山インタビュー取材などでもよく聞かれるんですけど、AIによる画像生成や着色、なんならネームから漫画を仕上げるところまで、いろいろやれるようになってきている中で、これが今後、さらに進化すると、それらを担当していたスタッフはいらなくなるのか? みたいなことを言われるんですよね。
でもこれって、「アホか!」って話なんですよ。
けっきょく、いまいる人材がAIを駆使して、さらなる生産向上を図るだけなんですよ。モノを作るのはけっきょく人間だし、AIは考えてモノを作ってくれないので、「その道具をどう活かして、回していくか?」だけだと思うので。技術が進化したからと言って、スタッフがお払い箱になるなんてことは私はゼロだと思います。
岩崎それは、現場のスタッフにとってはうれしい言葉ですね。
松山その代わりいままで以上に多くのことを求められるようになると思います。これまではイメージボードを描くにしても、数週間かけて何枚できるか……といった感じでしたが、AIを駆使すればわずか数秒で数百点も出力できるわけですから。
とはいえ、そうした技術の活用方法についても、いまは会社ごとにバラバラなんですよ。いろんな会社の方と情報交換会を開きたいですね、という話をよくしています。
吉田弊社(バンダイナムコスタジオ)の場合、バンダイナムコ研究所のほうでかなり力を入れてAIの研究をしています。詳しくは言えないんですけど、どんどんいろんな研究がされていて、じょじょに成果が実を結びつつあります。確かにそれを共有できたら、もっといろいろなことができそうですね。
松山年間で計算すると、バンダイナムコグループから発売されるソフトって30~40本はあるじゃないですか。バンダイナムコスタジオだけでなく、協業しているデベロッパーにも技術を共有することでもっと作業は効率よく進むので、ぜひそうしてほしいと伝えておいてください(笑)。
ゲーム業界のさらなる活性化のために……
ディスカッションの後半では“開発環境編”というテーマのもと、3つの議題が打ち出された。これらに対する登壇者たちの議論は熱を帯び、ゲーム業界の今後についても、さまざまな意見が飛び出した。
議題「他部門連携やコラボレーションはどのように行っていますか?」
岩崎3社とも、社内での情報の共有にはMicrosoft Teamsを使われることが多いとのお話がありましたが、ほかにも他部門と連携を取るうえで活用しているツールはありますか?
吉田バンダイナムコスタジオの場合、各種コミュニケーションツールに加えて、物理的な交流の手段になるのですが、オフィスの3階が誰でも座れるオープンエリアになっています。会議用のスペースや集中して作業ができる個室風のスペースもあったりして、そこで他部署のスタッフとも交流できるんです。
うちの課だと、週に1回そこに集まって、話し合う時間があり、それがい意外とよかったりします。チャットだと話しにくいけど物理的に会うことで会話が弾むこともあるので。そういった意味でも、うまく活用できているんじゃないかなと思っています。
松山うちは福岡本社と東京スタジオと、来春に向けて大阪スタジオを準備中なので、拠点が3ヵ所に分かれていることが大前提になります。
なので、スタジオごとにバラバラのものを作らないように徹底しているんです。それぞれに各分野の担当がいて、連携せざるをえない環境を作っているので、とにかくルールの統一がいちばん大事なんですよ。
けっきょく、勘違いから生じる失敗を回避するにはルールを簡単にするしかなくて。それとくり返しの教育ですね。サイバーコネクトツーの場合、モノづくりには長けているけどそうしたことが覚えられないスタッフがとにかく多いので、そこは徹底しています。
吉田ちょっとお聞きしたいのですが、ツールを管理していると、「それよりもこっちのほうが使いやすいよ」とか、「こっちのツールのほうが機能が充実しているよ」みたいな意見がしょっちゅう届くんですね。そうしたとき、どうやってルールを定めて対応すればいいのか、ご意見をお伺いしたいです。
松山サイバーコネクトツーの場合はMicrosoft Teamsに絞って、その使いかたを徹底的に教えるようにしているんですよ。ルールと違う使いかたをしていると怒られる……みたいな。
プラグインに関しては、プロジェクトごとにマチマチといった感じですね。プラグインも、それを使ったほうが早いし、仕上がりもよくなるよ……と伝えても、自分からは使おうとしないスタッフがけっこういるので。そういうときは無理やりにでも使わせて、使い心地を体験させるようにしていますね。
そうすると、最初は「そんなのいいです」といっていたスタッフも、2ヵ月もすれば「もう、これなしでは仕事になりません」と言ってくるので、とにかく一回やらせてみるのは大事だと思いますよ。
議題「次世代のゲーム開発インフラでは、何を最重要視していますか?」
岩崎通信のデータサイズがいちばん重要な問題だとは思いますが、ゲームのデータは今後ますます肥大化していきますよね? 最近、よくダウンロードでゲームを買うんですけど、けっこう待ち時間が長くて。完成品でもそれくらい時間がかかるということは、開発中のデータのやり取りには途方もない時間がかかるのではないですか?
松山たとえばプレイステーション5で、ものすごい容量のデータを扱えるようになっていますよね。ここから先、データ容量の都合とか、描画性能で苦労したり、処理負荷でどうのこうのという問題はよりなくなっていくでしょう。「だから好きにクリエイティブを発揮していい!」みたいな空気があるけど、僕、あれ大嫌いなんですよ。
けっきょく、ローディング時間は短いに越したことはないので、必要なものは作っていいとは思うんですけど、無駄なものを入れて容量を重くする必要はまったくなくて。サイバーコネクトツーでも実際にあった話なんですけど、Nintendo Switch版の『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』で、背景にぶら下がっている提灯に15万ポリゴンも使っているスタッフがいたんです。
うちには無駄ポリゴンを計算する担当がいてその担当が定期的にデータを調べているんですけど、たまにそういう無駄に重いデータが見つかるんですね。そういうことを今後はAIに任せて、より詳しく調べさせることで、データのやり取りをスムーズに行えるようにしていければと考えています。
議題「5年以内に直面しそうな技術的課題は何だと思いますか?」
粉川開発が大規模化してマルチプラットフォーム化していく際、扱うデータが大きくなっていくのをどう効率的に扱うかが課題だと思っています。ネットワークインフラやディスクの性能がアップすることで対応できるとは思うんですけど、それ以上に仮想ファイルシステムだったり、AIによる自動化の技術で解決できるところが今後はさらに大きくなると思っています。
吉田若干被りますが、私もデータ容量の肥大化が気になりますね。
それと最近は運営型のゲームが多くて5年以上続いているタイトルも多数あります。そのうえ1作品ごとの開発も長期化しているので、溜まっているデータの量はものすごいことになってきています。インフラを管理する側にとってはそれもかなり頭の痛い問題なんですけど、いまはストレージやクラウドを効率的に使いこなすことで対応するしかないと思っています。
あと、スピードに関しては、最適な箇所にキャッシュを置くなど、そういったところに注力していくしかないといまの時点では考えています。
松山大容量かつ大規模開発になると、今後は間違いなくスピードが求められるようになります。そうなるとAIは必須でしょう。大規模開発、スピート、そのためのAI技術、これらはワンセットとして認知されるでしょうね。
あと、先ほどもいいましたが、AIの実用例について情報を持ち寄って、ゲーム業界全体で最適化に向けて取り組んでいかないと「いろいろ試して導入したけど、けっきょく楽になっていないよね……」みたいなことも起こりえるので。ちゃんと成果のある使いかたを導き出さないといけないと思っています。
岩崎非競争領域においては情報は共有するべきですね。今回、皆様からは先見性のあるご意見を多数いただきましたが、実際のところ、ゲーム業界全体としては、AIの導入についてどのように思われているのでしょう?
粉川CEDECの場では、どのクリエイターさんも情報を開示して、共有されていますが、今日の話でいいなと思ったのは、その手前といいますか。試行錯誤している段階を見てもらって、そのうえで話し合いましょうみたいなことができたら、AIの導入に関してももっとざっくばらんに話ができてよりよい情報交換ができるんじゃないかなと思っています。
松山成果が出きってからいきなり大発表をするのではなく、いちばん大事なのはそこに行きつくまでの道なので。誰かがした苦労を、ほかの誰かがする必要はないので、2~3社でもいいので集まって、お互いに失敗事例を共有し合うだけでずいぶん環境は変わると思います。
そして、「あの会社はそういう活動もしているらしいよ」という情報が広まればさらに交流の輪は大きくなるので、やる価値はあると思います。
このようにして、今後のゲーム業界の在り方についても、新たな可能性を示す議論がなされ、パネルディスカッションは大盛況のうちに終了した。