2023年8月27日、横浜デジタルアーツ専門学校にて開催されたインディーゲームイベント“横浜ゲームダンジョン”。ここに出展されていた『スプーキーサルベージ』(Spooky Salvage)に妙に心惹かれてしまった。
本作は『触手を売る店』を手掛けたAchamoth氏の新作。1980年のロンドンが舞台のアドベンチャーゲームで、イラストのタッチがとにかく印象的。幽霊屋敷で目覚めた記憶喪失の少年と不動産屋、フランケンシュタインという異色の3人組が、屋敷に漂う幽霊たちの正体を突き止め除霊していく様子が描かれる。
今回試遊できた序盤5分ほどの中から、興味深かったポイントを紹介していく。
かわいくて、そしてオシャレ
冒頭でもふれたが、本作をプレイして真っ先に感じるのは世界観を彩るイラスト&グラフィックのよさだろう。陰影のはっきりした油絵のようなマップ。絵がそのまま動いているようで、キャラクターは紙人形風。パタパタと歩く姿は一見おどろおどろしくありながらも、どこかかわいらしい。
主人公で記憶喪失のシャーロック(あだ名はシャール)。どことなく胡散臭くて坊ちゃん感があるが、憎めない不動産屋・ジギー。地下室にいたフランケンシュタインのフューリー。3人の主要キャラクターのそれぞれにきちんと物語上での役割や個性が出ており、デザインやキャラクター設定もいい。
なかでもフューリーは個人的に推しのナイスデザイン。中世的で端正な顔立ち、麗しい長髪、そして少しアンバランスな手足の長さ。極端なまでに長い手足が重要で、彼がただのイケメンではなくフランケンシュタインであることをきちんとプレイヤーに印象付けてくれる。
時代設定は産業革命後のロンドン。レンガ作りの建造物と荒廃した雰囲気のスラム街の描かれ方にも非常に心惹かれる。街灯温かみのある光の加減から石畳の冷たさまで丁寧に描かれていて、この世界にぐっと引き込まれるのだ。
また、個人的に印象的だったのが登場アイテム類。たとえば、自分の名前すら記憶にない主人公の命名に使われたのが“シャーロックホームズの本”なのだ。ロンドンといえば! というチョイスが定番ながらなかなかにすてきで、こういうところから世界の広がりが見えてくる。
除霊をするためには幽霊の声を集める必要があり、そのために使われる録音機は“ウィジャボード”。本来ならウィジャボードは降霊術に使われる文字盤のことで、日本だと“こっくりさん”をイメージしてもらえればわかりやすい。幽霊にかかわりの深いワードを機械的な録音機の名称として使うアレンジも、個人的にナイスと感じたポイントだ。
幽霊の記憶から正体を突き止めろ! 推理パズル的な味をもつ“除霊”
と、ここまでイラストや世界観ばかりに注目していたので、物語の目的である除霊についても見ていこう。本作の除霊の手順は大まかに3ステップ。
- 対象となる幽霊の声を集める。
- その幽霊に関わりの深い“家具”を用意する。
- 家具を使ったアクションで、不安定な状態の幽霊を安定状態にする。
という感じ。ステップ1で集める幽霊の声には関係のないセリフが混ざり込んでおり、ここから除霊に使うワードを取捨選択していく。
ステップ2の家具設置については、出展までに準備が間に合わなかったとのことで未体験。公式サイトではさまざまな家具で彩られた部屋の模様を確認できる。家具の入れ替えも可能なようで、ハウジング的な模様替えも楽しめるようだ(というか、そもそものジャンルは“幽霊屋敷もようがえアドベンチャー”である)。続報に注目したい。
ステップ3では、実際に家具を使ったアクションを実行。“どの家具でどのアクションをするか”のヒントは、ステップ1で集めた幽霊のセリフの中に隠れている。手持ちのヒントから的確なアクションを起こしていく推理パズル的な要素がある。
上の画像とチェスという手持ちの情報から、セリフの通りの位置にナイトを動かすと幽霊の回想を見ることができた。その記憶によると、少女が父に犬をねだるためにチェスを遊んでいたらしく、なんとも微笑ましいワンシーンである。
今回の試遊ではしごく簡単な推理で解けた。複数証言を集める工程があったり、幽霊たちの証言を組み合わせながらアクションを起こしたりといった展開があるとおもしろそうなので、今後の開発に期待という感じだ。
コンセプトがユニークなので、除霊のプレイフィールをひと言で表すと“わくわく”といった感じである。
イラストのタッチが印象的な本作だが、キャラクターの設定やゲーム性もしっかり作り込まれていて、プレイしてみると特徴は絵だけではないとすぐに実感できる。自分の考えがうまくハマったときは何とも気持ちいい。
全体を通しての雰囲気は言わずもがな秀逸なので、退廃的などのワードにひかれる人は続報に要注目。そして、いっしょにフューリーを推していこう。