「スナフキンみたいになりたい」。
スナフキンのようになりたいと、誰しも考えたことがあると思う。
……え? ない? 嘘でしょ? またまた、ご冗談を!
よろしい、ではまず、スナフキンがいかなる人物かご紹介しよう。彼の人となりを知れば、きっとそう思うはずだから。
身軽に生きる旅人であるスナフキンの荷物は、リュックサックひとつ。濃い緑色の古ぼけた帽子と着古した服を身にまとい、パイプをくわえ、帽子にはハゲワシの落していった羽根を挿しています。愛用のハーモニカを吹いて、詩と曲を作り、釣りをし、あちこち旅してまわります。
出典:ムーミン公式サイト
……ね!?
ね!!!???
ね!!!!!!??????(圧)
スナフキンはトーベ・ヤンソン作の小説・絵本・コミック『ムーミン』シリーズに登場する男の子。
自由な旅人。自然を愛する詩人。テントとリュックを背負ってひとりゆく。
発言はぶっきらぼうなようでさらりと核心を突く。
人間は自分のやりたいようにするべきで、生きたいように生きるべきで、他人から強制されない。そういう生きかたを自分で体現している。
孤独を愛している。
冬になるとムーミン谷から去っていく。そのときムーミンが「いっしょに行きたい」と言っても「僕は孤独になりたいんだ」と断ってしまう。
寂しさを感じないわけではないのだろう。だけど、その寂しさも含めて孤独と自由を愛しているのだろう。
そしてムーミン谷の住人たちを愛している。
だから、春になるとムーミン谷へとまた帰ってくる。だけど誰かの家に泊まったり居候したりはせず、テントを張ってひとりで寝ている……。
自由であり、孤独であり、無頼であり、でもロマンチシストである。
そういう風に生きられたら……。
スナフキンみたいに旅をしたり、美しいムーミン谷に行ったりできたら……。
いっそ、スナフキンになれたら……。
なれました。
というわけで、そんなゲーム『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』を紹介します。
俺が、俺こそがスナフキンだ!(スナフキンはそんなこと言わない)。
Switch『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』の購入はこちら(Amazon.co.jp)※本稿にはちょっとだけ謎解きのネタバレなどが含まれますが、序盤なのでネタバレというよりも「こういう方向性の謎解きが出るのね」と理解の助けにしていただければ。何より本作の魅力は謎解きよりも世界の美しさにあると思うのでスクリーンショットとプレイ動画だけでも見て行って!
景色がいい
2023年9月21日~9月24日に開催された東京ゲームショウ2023(TGS2023/21日、22日はビジネスデイ)のインディーブースに出展されていた本作。
水彩画の絵本を思わせるような絵柄が特徴的で、じつに牧歌的かつ幻想的な雰囲気となっている。
プレイヤーはスナフキンを操作して物語を進行する。その途中にちょっとした謎解きが用意されていて、プレイヤーはなんとかヒントを見つけてクリアーしていくという流れ。
謎解きというのはたとえば、流れている川を渡るために岩を沈めて足場にしたり、丸太を動かして橋にしたりといった具合だ(力持ちだなあ)。
また、本作は“楽器”がゲームの重要なキーでもある。最初はハーモニカを吹くことができ、それにより進行するというシーンも。
そのほか、横笛や太鼓も出てくるというから、楽器は物語が進むにつれて増えていき、きっとその効果もちょっとずつ違ったりするのだろう。
ゲーム的には、開始10分のチュートリアル的な内容にも関わらず、謎解きはそこそこ難しく、ちょっと詰まりそうな箇所もチラホラあった(ハーモニカを吹いていると鳥が丸く飛び吹くのをやめると直線状に飛んでいくので、それをガサガサ動いている茂みに当てるなんて、すぐ思いつくかい)。
このちょっと難し目の謎解きは、制作者の「解法がひらめいたときの気持ちよさを味わってほしい」という思いが設定の理由としてあると思う。歯ごたえがあるぶん、わかったときには「ああ、これか。そういうことか」という感覚が味わえる。完全なる子ども向け、幼児向けゲームとはちょっと違うぞ、という感じもある。
しかし、チュートリアルも兼ねているはずのゲーム序盤、プレイ開始から10分でそこそこわからない謎があったというのは、この様子では製品版でゲームを進めていくと、進行に詰まるところがもっとあるかもしれない。ムーミン谷からの挑戦にいまから若干ビビっている筆者である。
なお、製品版のボリュームとしては、サブクエストなどもクリアーすると全体で10時間弱を見込んでいるとのこと。
最大の魅力は世界の美しさ、アニメーションのかわいさ
本作の何よりの魅力は、絵の具の感じも残っている、素朴に表現されたビジュアル。
何よりも原作『ムーミン』の雰囲気を大事にして作られているというのがその見た目から即座に伝わってくる。どこを切り取っても一枚のポストカードにしたいようなステキな風合いだ。
風景などは原作小説の挿絵や絵本、キャラクターの動きかたはこれまでに制作されたアニメ作品なども参考にされているという。
ビジュアルについて言葉を重ねるよりも、百聞は一見にしかずということでスクリーンショットやプレイ動画をご覧になっていただければと思う。
『スナフキン ムーミン谷のメロディ』スナフキンになって美しすぎるムーミン谷を探索。調和を乱す公園を破壊せよ。最新バージョンが東京ゲームショウで初公開!
日本語へのきちんとした翻訳が行われているのもうれしいポイント。ローカライズは架け橋ゲームズが行っている。原作小説や絵本の文章のテイストをしっかりと活かしているようだ。
原作へ最大限のリスペクト
ゲームにはスナフキン以外にも冒頭で仲間になる小さな生き物や、海坊主のような謎の生物(妖精?)などさまざまなキャラクターが登場する。
それらは『ムーミン』小説や絵本、コミックなど原作から登場しているものをゲームに活かしているものが多いのだという。それらはどれも独特の雰囲気で、ほのぼのとした味わいがある。
僕は『ムーミン』シリーズについては、せいぜい1990年代のアニメ『楽しいムーミン一家』を観ていた記憶が薄ぼんやりとあるくらいだけど(調べたらこのときのスナフキンの声は子安武人さんだった)、そんな浅めのムーミン知識しか持たない僕でも、本作の雰囲気はたまらなく好きだ。
かわいいけどほんのりと寂しさもあって、空模様で言えば薄曇りのような、北欧の空気を思わせるような、原作にも通じるそういう雰囲気が生み出されている。
キャラクターの名前や詳しい設定などを知っている原作ファンの人ならなおさら楽しめるんじゃないかな。
開発時には「もしもトーベ・ヤンソンが生きていて、『ムーミン』をゲームにするならどんなものにするだろうか」という発想があったのだという。
そうして生まれたのが、原作の風合いを最大限大切にした、音楽もカギになる、子どもから大人まで誰でも遊べる“ひらめき”が大切なゲームだということだ。
スナフキンらしさ、自分らしさ。大切なのは自分のしたいことを自分で知ってるってことだよ
スナフキンという男がどうしてこんなにも魅力的に見えるのだろう。
財産も何も持たず、身にまとうのは見すぼらしい着古した服、趣味といえばハーモニカを吹いたり釣りをしたりするくらいのものだ。
だけどやっぱり彼は何か、人生の本質のようなものをわかっているように見える。それは彼自身が彼自身のことをよく知っていて、その通りに生きているからそう見えるのだろう。
よく言う、わかりやすい言葉を使えば“自分らしく生きる”っていうやつだ。
けれど彼は自分が自分らしくあるために力を込めているようには見えない。肩に力が入ってなくて、ひょうひょうとして見える。
やりたいようにやっているだけ、したいようにしているだけ。軽くやっているようだけどそれは非常に重要で、自分の芯を曲げない。
大事なことを大事にする。自分だけの自由と孤独を大切にする。愛するものを守るためには看板や柵を抜いたりすることだって躊躇しない。
いいなあ。
やってしまえ やってしまえ。
まとめ
本作はスナフキンと『ムーミン』世界の魅力をたっぷりと味わえるゲーム。謎解きがちょっと難しかったり、公式の作品解説には「かくれんぼを駆使して」と書いてあるのでひょっとするとこの後(僕の苦手な)スニーキング的なステージが待ち受けていたりして、見た目ほどには簡単ではないのかもしれない。
だけど本作の魅力は何よりその美しいビジュアルだし、原作が丁寧に表現されている雰囲気だし、プレイしていて癒やされる極上の空気感そのものだ。
2D画面での構成だから“オープンワールド”と表現するにはいささか違和感がないでもないけど、絵本のように表現されたこのムーミン谷を歩き回れるのはファンにとっては感涙物ではないかな。
“ちょっとシニカルでクールな男の子”くらいに思っていた人はびっくりするかもしれないけど、スナフキンは思った以上に実力行使もいとわないアナーキスト。誰かに規制されたり強制されたりするのは大きらいで、我慢がならないのだ。
やっぱり、いいなあ。
そんなスナフキン気分にちょっとだけ浸れる本作。配信は2024年第1四半期(2024年3月末まで)を予定しているとのこと。楽しみに待つぞ。
スナフキンはスナフキンらしくする。僕は僕らしくしよう。
社長のアーレ・スンネス氏に直撃
会場ブースには、Hyper Games(ハイパーゲームズ)のスタッフを始めCEO 代表取締役のアーレ・スンネス氏の姿が。
せっかくなので直撃したプチインタビューをお届けする。
ARE SUNDENES氏(アーレ スンネス)
Hyper Games CEO 代表取締役
――アーレさんと『ムーミン』の出会いというのは?
アーレ原作者のトーベ・ヤンソン氏はそもそもフィンランド、北欧の出身ですから。小説だったりコミックだったりグッズだったり、本当に子どものころから生活の一部で、北欧の子どもたちは全員『ムーミン』で育つというような環境ですから、私も類に漏れずそのころから知っています。
ただ、『ムーミン』人気は、北欧が世界でいちばんだとしても、日本がトップツーくらい知名度や人気が高いんです。本作の開発を始めるまで、日本でもこんなに『ムーミン』が人気があるとは知らなかったんです。だから日本でのムーミン人気の高さは2022年1月(本作の発表)まで知りませんでした。
――日本の『ムーミン』ファンに向けてひと言お願いします!
アーレ初めまして、アーレ・スンネスといいます。ノルウェーからやってきました。日本のファンの方々が僕たちの作ったゲームを通して『ムーミン』への愛であったり、トーベ・ヤンソンさんへの愛とリスペクトを感じ取っていただければと思います。配信開始を、ぜひお楽しみに!
『スナフキン ムーミン谷のメロディー』ブースの様子
会場にはゲーム中に登場するキャラクターの看板や『ムーミン』の飾り付けが。試遊するとシールがもらえました。
『スナフキン ムーミン谷のメロディ』概要
- タイトル:『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』
- 開発:Hyper Games(ハイパーゲームズ)
- 販売:Raw Fury(ローフューリー)
- リリース予定日:ダウンロード版2024年3月7日、Switchパッケージ版2024年6月13日
- 対応ハード:Nintendo Switch、PC(Steam)
[2023年9月29日追記]
Steam体験版が配信開始になりました。
[2023年11月9日追記]
Nintendo Switch向けにも発売になることが明らかになりました。
[2024年2月22日追記]
Steam版、Switchダウンロード版の発売日が2024年3月7日に決定しました。また、Switchパッケージ版の発売が決定、発売日が2024年6月13日に決定しました。なお、パッケージ限定版には100ページ超のアートブックやサントラCD、ピンバッジが付属します。