“ポケモン”と“初音ミク”によるコラボプロジェクト“ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE(ポケミク)”

 2024年1月25日号(2024年1月11日発売)では、“ポケミク”の特集を表紙+64ページにわたって大々的に行った。特集では、企画に参加しているボカロPたちへのインタビューも掲載中。

 そんなインタビューの中から、『ボルテッカー』を制作したDECO*27さん、『JUVENILE』を制作したじんさん、『ミライどんなだろう』を制作したMitchie Mさん&動画チームへのインタビューを、ファミ通.comにて全文を公開していく。

 今回は、『JUVENILE』を制作したじんさんへのインタビューをお届け。

じん

 作曲家、作詞家、小説家、脚本家など、アーティスト・クリエイターとして幅広く活動。巧みなメロディセンスに、世界観・ストーリーを盛り込んだノスタルジーな歌詞感が多くの反響を呼び、おもに若年層から絶大な支持を得ている。

 2011年2月からニコニコ動画にて、自身がすべての音楽・ストーリーを手掛けるマルチメディアコンテンツ“カゲロウプロジェクト”を始動。音楽と物語によって彩られた緻密な世界観が大きなムーブメントを起こす。同シリーズ関連書籍は累計900万部、音楽パッケージの累計は70万枚に上る。アニメ化の際は脚本を務め、OP主題歌『daze』のMVはYouTubeにて4000万再生を突破している。

じんさんXアカウント

自身の冒険の軌跡を旋律に変えて届けたい

――まずは、今回の“ポケミク”の依頼を受けたときの率直な感想を教えてください。

じんポケットモンスター』シリーズは昔から大好きで、影響を受けた作品でもあるので、シンプルにワクワクしました。ただ、プレイヤーではなくクリエイターとして関わることについては、すこし怖さも感じていました。大好きなコンテンツの一部分を自分が担うということにはとても緊張して、たとえると試合前のようにドキドキしていました。

――ポケモンと初音ミクの組み合わせについてはどのような印象でしたか?

じん僕が作詞作曲、小説の執筆なども手掛けている『カゲロウプロジェクト』というものがありまして、そこでは初音ミクさんをボーカルとした楽曲をたくさん作ってきました。初音ミクさんのいいところは、そこに人間特有のジレンマやしがらみが生まれないことだと思っています。ポケモンの世界を表現するボーカリストとして、これ以上ないほど相性のいい存在なのではないかと感じました。

――『JUVENILE』の制作は、どのように始まったのでしょうか。

じんこれまで長年『ポケモン』を体験してきたプレイヤーとしての視点から、自然と生まれる作品を届けたいと思ったんです。そこで、改めて記憶を呼び起こしてみると、初めての相棒との旅の想い出が浮かんできました。そのとき、今回は『ポケットモンスター』シリーズの街や道路で流れるBGMをメインに楽曲を作ろうと決めたんです。

――『ポケットモンスター』での旅の想い出って、すごく鮮明に思い出せますよね。

じんそうなんですよ。とくに、BGMを聴いたときにその街の景色が眼前に広がるんです。そこがポケモン音楽のすばらしいところだと思います。何気なく通り過ぎただけの道や街だったとしても、その景色や雰囲気、そこで何をしていたかの記憶が音楽といっしょに自分の中に残っているんですよね。

【ポケミク】『JUVENILE』じんさんインタビュー。初音ミクにしか歌えない、トレーナーたちの旅の想い出を共有する楽曲。街や道路のBGMで旅路を振り返る。

――『JUVENILE』は、『ポケットモンスター 赤・緑』の“24、25番どうろ”で流れるほか、ゲームの最初にオーキド博士がポケモンについて説明しているシーンでも聴くことのできる『マサキのもとへ-ハナダより』のアレンジから始まりますよね。このBGMをスタートに選んだ理由をお教えください。

じんふだんの楽曲制作では、サビから作ったりAメロから作ったりと、順番はいろいろあるのですが、『JUVENILE』はイントロから最後まで流れで作ったんですよ。意識してこの曲を使おうという意図があったわけではなく、旅のことを思い出しながらギターを弾こうとしたときに、あのメロディーが自然と流れたんです。旅の始まりと言えばこの曲だと、強く印象に残っていたんでしょうね。

 ゲームの最初の音楽ってとても重大な意味を持っているのだと思うのですが、そこで普通の道路のBGMである『マサキのもとへ-ハナダより』へを流すことは、『ポケットモンスター』シリーズにおいて、“なんの変哲もない道”が主題に据えられているのではないか、と感じました。

――ゲーム音楽を引用するという点で、ふだんの楽曲制作とは異なるものだったと思います。今回のコラボならではの体験はありましたか?

じん純粋に、ポケモン音楽と真剣に向き合うのがおもしろかったです。ゲームを遊んでいるときには意識しないようなところまで細かく曲を解析していくと、当時は気付いていなかった意味性を見つけられることがあります。そうして、街や道路のBGMと向き合っていると、その場所についても細かな発見があって。なんだか旅の追想をしているようで楽しかったです。

――どんなところに発見があったのでしょうか。

じんたとえば『ターフタウン』(『ポケットモンスター ソード・シールド』)のBGM。『JUVENILE』の2番で『ホドモエシティ』(『ポケットモンスターブラック・ホワイト』)のフレーズが流れた後、ミクさんが海を見ているシーンで一瞬静かになるところが『ターフタウン』のイントロのBGMなのですが、この曲のアルペジオがめちゃくちゃ気持ちよくて。アルペジオから、風が吹き抜ける中、牧草や土のにおいがしたり、肌が湿るような感覚が音楽を通して実感できる。曲の力はもちろん、ゲーム体験で見た景色によって、よりリアルに引き出されるんです。

――そうした街ごとの特徴をBGMから強く感じられるのは、どういった理由があると思いますか?

じんメロディーのクオリティが高いのは間違いなくあると思うのですが、街をいろいろな角度から表現しようとされていると思います。楽器には、ピアノやギターのように幅広い音を出せるものだけでなく、オーボエやバグパイプのように特定の音しか出せないものもたくさんあります。街ごとのメロディーをよく聴いてみると、後者の楽器による節回しを感じるんです。だからこそキャッチーで、それでいてごく自然的だと感じるのだと思います。かっこつけていないというか、まさしくその街から生まれた音だと感じられます。

――『JUVENILE』にはそんな街のメロディーがたくさん使われています。とくに気に入っている部分はありますか?

じん個人的な好みで言うと、1番のサビが終わった後のインターと呼ばれるところで、『ヒワダタウン』(『ポケットモンスター 金・銀』)に入り、ミクさんが歌うAメロのメロディーが『ヒオウギシティ』(『ポケットモンスターブラック2・ホワイト2』)になって、そこからさらに『ヒヨクシティ』(『ポケットモンスター X・Y』)、そして『209ばんどうろ』(『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』)へと繋がっていきます。この一連の繋がりかたがとても気に入っていて、自分でも何度も聴き直しています。

――まさに街から街へ旅をしているかのようですが、それぞれ別地方の街どうしですよね。繋ぎ合わせる際にはなにか工夫されたのでしょうか。

じん特別工夫した点はないかもしれないですね。たしかに作品自体は別のものかもしれませんが、僕自身はすべてプレイしてきているので、僕の旅路の中ではすべて繋がっているんです。だから、楽曲としてもなぜか自然と繋がるはずだという確信がありました。記憶って、システマチックに思い出すものではなくて、感覚的にグラデーションで繋がっていくものだと思います。その感覚を信じた結果が、この曲です。「俺、こんなに旅のことを覚えているんだな」ってうれしくなりました(笑)。

――ちなみに、『JUVENILE』というタイトルはどのように決められたのでしょうか。

じんじつはタイトルをどうするかめちゃくちゃ悩んでしまって、かなりギリギリまで決まらなかったんです。意図して作り出したというより、自分の中から自然と湧き出してきたような楽曲だったので、そこに銘を打つのが難しく感じていました。そんなあるとき、ふと他人事のように感じられる瞬間がありました。もうひとりの僕が楽曲を聴いて、「この作品は『JUVENILE』を名乗ればいいんじゃないか」と語りかけてきたような感じで。僕はそのままそれをタイトルにしました。

【ポケミク】『JUVENILE』じんさんインタビュー。初音ミクにしか歌えない、トレーナーたちの旅の想い出を共有する楽曲。街や道路のBGMで旅路を振り返る。

大自然の中を冒険する“リアル『ポケットモンスター』”生活

――これまでのお話から、ご自身の体験が楽曲のベースになっていると感じました。改めて、『ポケットモンスター』シリーズとの出会いについて教えてください。

じん僕は北海道の利尻島出身でして、子どもがすごく少ないし、おもちゃもなかなか手に入りませんでした。そんな中で、おばあちゃんがたまたま買ってくれた『ポケットモンスター 赤・緑』が最初の出会いでした。それも、じつは僕にというより母へのプレゼントだったんですよ(笑)。

――お母さんへの!

じん母が先に遊んで、その後僕の分も買ってくれて、対戦や交換もして遊びました。母といっしょにゲームで遊ぶのも初めての体験でした。対戦するときも、僕は見た目がカッコイイポケモンとかを育てていたんですけど、母はラプラスとかカビゴンとかをしっかり育成していて、めちゃくちゃ強かったんですよ。

――親子での素敵な思い出ですね。ポケモンと出会うまではどんなことをして遊ばれていたんですか?

じん基本は外で遊ぶんですが、あまり整備もされていない場所ばかりで、草むらをかき分けて進んだり、家の近くにある森を探検したり、いま思えば“リアル『ポケットモンスター』”みたいな遊びかたをしていましたね(笑)。だから、ゲームをプレイしていて親近感を覚えるというか、トキワの森に入っていくときの恐怖とワクワクが入り混じった感じとかを、リアルに共感できるんです。

――『ポケットモンスター』の原点は、そういった自然の中での昆虫採集だったという話もありますし、“リアル『ポケットモンスター』”というのはまさにその通りですね。これまでにプレイしたシリーズ作品のなかでいちばん好きなタイトルは何ですか?

じんうわ、めちゃくちゃ難しいですね……。ふたつあって、ひとつは『ポケットモンスター ピカチュウ』です。手持ちのポケモンはチームメンバーとして認識していたけど、後ろから歩いてついてきてくれるピカチュウは、まさに相棒でした。すごく愛おしくなって、ゲームをクリアーしてしまうのが寂しくなるくらいでした。もうひとつは、『ポケットモンスター サン・ムーン』です。アローラ地方の世界観がすごく好きで、本当にずっとプレイしていましたね。とくにウルトラビーストとの出会いは強烈な体験でした。未来というものは自分の想像の範囲に収まらないものなんだなと思わされました。

――好きなポケモンも教えてください。

じんこれも難しいですけど、エンブオーですかね。

――どんなところがお好きなのでしょうか?

じんえ、もうバチバチにかっこいいでしょう? パッと見は怖いけれど、強くてやさしいっていう僕のあこがれるポケモン像そのものなんですよね。以前『ポケモンカードゲーム』のカードで、ポカブからエンブオーまでの進化の過程を人といっしょに成長していく様子が描かれていたものがあって、すごく感動しました。

初音ミクにしかできないこと「初音ミクさんが歌うことで、聴く人それぞれの旅になる」

――『JUVENILE』のMVは、とてもストーリー性があって感動的でした。制作にあたってこだわった部分を教えてください。

じんMVに関しては、僕から細かく指示をしたり要望を伝えたりはしていません。「この曲でこういうことを歌いたいんです」ということはお伝えしたのですが、そのうえで「どんな想いを込めたいか、考えてください」と、宿題みたいな投げかたをしてしまって(笑)。楽曲に参加してくれたミュージシャンも含め、制作陣もみんなポケモンが大好きでしたので。

――そうして考えてきた制作チームの皆さんの想いが詰まっているんですね。

じんひとつだけ、MVでは初音ミクさんを初音ミクさんとして描かない方がいいと思うということは提案しました。実際に最初は初音ミクさんらしくない姿で、最後の方でようやくツインテールになって初音ミクさんらしくなっていきます。

【ポケミク】『JUVENILE』じんさんインタビュー。初音ミクにしか歌えない、トレーナーたちの旅の想い出を共有する楽曲。街や道路のBGMで旅路を振り返る。
【ポケミク】『JUVENILE』じんさんインタビュー。初音ミクにしか歌えない、トレーナーたちの旅の想い出を共有する楽曲。街や道路のBGMで旅路を振り返る。

――相棒のポケモンとしてイーブイが登場しますが、これは指定されたわけではなかったんですね。

じんはい。最初はポカブでお願いしようかとも思ったんですけど、そうすると僕がエンブオーを布教したいだけの何かになってしまいそうな気がしたのでやめました。僕の旅の想い出をもとにして作った曲ですが、聴く人たちにはそれぞれの想い出を浮かべてほしいので、そういうところには自我を出さないようにしました。最後にイーブイが進化するシーンで進化形をあえて明示しなかったのも、同じ理由からです。

――あくまでも、聴いた人自身の想い出を呼び起こすことを重視されているんですね。

じんやっぱりそれこそが、初音ミクさんが歌う意味だと思いますし、初音ミクさんにしかできないことだと思うんです。仮に僕が歌ったとしたら、それはもう僕の旅でしかなくなるだろうと思います。でも初音ミクさんが歌うことで、聴く人それぞれの旅になる。その確信は最初からありました。

――いい意味で属人性がないからこそ、聴いた人が自分を投影しやすいわけですね。じんさんはこれまでに多くの初音ミクの楽曲を制作されていますが、ポケモンと組み合わせることで苦戦したところはありましたか?

じんポケモンはものすごく幅広いテーマを含んだ巨大なコンテンツですし、初音ミクさんもさまざまな側面を持つ存在です。その組み合わせということで自由度がものすごく高いので、そういう意味では難しかったですね。この先もいろいろな方の楽曲が公開されていきますが、きっとみんないつも自分の曲を作っているときとは違ったんだろうなと思います。

――具体的に、ふだんとどんなところが違いましたか?

じん今回は超自然的に生まれてきたのですが、ふだんはもうすこしシステマチックに作りあげているかもしれません。たとえば、“生きることの辛さ”のような、テーマを設けて、それを伝えるためにどんな表現が必要かを考えます。ただ、今回は自分の旅の思い出を伝えることに意味はないんです。何となく話しておきたかっただけ。でも、そのように理由や意味なんてものがなかったとしても、そこに価値を見出せるのが人間だとも思っていて。たとえ無意味であったとしても、きっと価値のあるものが今回、作れたんじゃないかなと思っています。

――間違いなく聴く価値のある楽曲だと感じましたし、多くの方に聴いてほしいと心から思うすばらしい作品でした。最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

じん先ほど伝える意味はよく分からないと言いましたが、『ポケットモンスター』をプレイしたことがある人なら、旅の話をしたくなる気持ちは理解してもらえると思います。もしプレイしたことのない人がいるのであれば、本当に楽しいから絶対にやってほしいです。ポケモンはいいぞ。

 最後に、『JUVENILE』は手紙を送るような気持ちで作りました。それを受け取って、何かを感じてくれた人がいれば、返信として感想をもらえたらうれしいです。どうぞよろしくお願いします。

じんさんが語る『JUVENILE』MVのこだわりポイント4選!

●想い出に残る旅の景色

じん音楽として楽しんでもらうことは前提としてありつつ、それに加えてみんながそれぞれに経験してきた旅の景色を思い浮かべてもらえるくらい、鮮烈に描こうとしたというのがこだわったポイントのひとつです。

【ポケミク】『JUVENILE』じんさんインタビュー。初音ミクにしか歌えない、トレーナーたちの旅の想い出を共有する楽曲。街や道路のBGMで旅路を振り返る。

●旅をともにした大切な友との絆

じん『JUVENILE』は、ともに旅をした友を想った曲です。旅の景色を背景に、真ん中に浮かんだのは友の姿でした。2番の歌詞で、「酸いも、甘い苦いも、知って」というものがあります。僕にとってはきのみの味の話ですが、彼にとっては性格の話でもあります。彼の文法で性格を知ろうとしたことは、僕にとって大事な想い出なんです。言葉は通じないけど、彼とのコミュニケーションは確実に旅の中にありました。MVでも、それを表現しています。

【ポケミク】『JUVENILE』じんさんインタビュー。初音ミクにしか歌えない、トレーナーたちの旅の想い出を共有する楽曲。街や道路のBGMで旅路を振り返る。

●参加者全員とひとりずつ語り合った

じん演奏を担当してくれたミュージシャンたちとは、ひとりひとりとポケモンの想い出話をしました。ヤドンへの熱烈な愛を語ってくれる人がいたり、兄弟でポケモンを遊んだ想い出を話してくれる人がいたり。この曲は真剣な思いで聴いてくれる人がたくさんいると思うから、作る側も本音でぶつかってほしかったんです。嘘のない、作り手の感情が全面に出た作品になったと思うので、それも感じながら聴いてもらえたらと思います。

【ポケミク】『JUVENILE』じんさんインタビュー。初音ミクにしか歌えない、トレーナーたちの旅の想い出を共有する楽曲。街や道路のBGMで旅路を振り返る。

●私情を詰め込んだからこそ、自己満足で終わらない楽曲に

じんポケモンも初音ミクさんも関係なく、ひとつの曲としていいものを作ったつもりです。僕の個人的な感情は大いに持ち込んでいるんですけど、それはそれとして自己満足で終わる作品にはしたくありませんでした。何も知らない人が聴いても、いい曲だと思ってもらえるように。むしろそこがいちばんこだわったところかもしれません。万人受けするように作りあげたからこそ、たくさん聴き込んで、僕たちが詰め込んだいろいろな感情にまで気づいてくれる人がいるとうれしいなと思います。

【ポケミク】『JUVENILE』じんさんインタビュー。初音ミクにしか歌えない、トレーナーたちの旅の想い出を共有する楽曲。街や道路のBGMで旅路を振り返る。