「人間の記憶は当てにならない」とはよく言ったもの。友だちと思い出話をしていると、いっしょに同じ場所にいたはずなのに、記憶が食い違っていたという経験はないでしょうか?
そんなとき、誰しもが「自分の記憶のほうが正しいに違いない」と思うものですが、よくよく調べてみたら、どちらの記憶も微妙に間違っていたりして……。人間は、自分で思っている以上に、“記憶を自分勝手に作り替えてしまう”生き物なのです。
2024年1月18日、Steam向けに発売された『未解決事件は終わらせないといけないから』は、そんな“作り替えられてしまった記憶”を正しく整理することによって、12年前、未解決のまま捜査が打ち切られた“児童失踪事件”の真実を明らかにする推理アドベンチャーゲームです。
クリアータイムの目安は3時間程度。短編ながら、このボリュームだからこそ最初から最後まで夢中でプレイできる、見事に調和したゲームデザインと物語を備えています。これらに導かれて徐々に明かされていく事件の全体像は、想像とはまったく異なるもの……真相を知ったとき、きっと多くのプレイヤーにとって忘れられないゲームになることでしょう。
開発したのは『REPLICA(レプリカ)』、『リーガルダンジョン』などを手掛けた韓国の個人開発者SOMI氏。過去作と同様、今作もきめ細やかな日本語ローカライズが行われていて、テキスト主体のゲーム体験に違和感なく没入できるものになっています(なお、これを書いている筆者自身は、SOMI氏が手掛けたゲームを自分でプレイするのは本作が初めてです)。
この『未解決事件は終わらせないといけないから』のレビューをお届けするうえで、もちろんストーリーの直接的なネタバレは避けます。しかし、余すところなく魅力をお伝えするには、「どういう感情をもたらしてくれるストーリーなのか?」という点はある程度明記しなければいけません。
ゲームシステムを把握していく過程もおもしろく、この点でもできる限りまっさらな状態でプレイしてほしいゲームです。未プレイの状態でこの記事を読んでいる方は、「ここまでわかれば十分」と感じた時点で読むのをやめ、すぐにSteamにアクセスして、自分の手で真実を確かめることをおすすめします。
『未解決事件は終わらせないといけないから』Steamページ PCゲームストアを見る(Amazon.co.jp)未解決事件の記憶に苦しむ元警官が知らなければならない“真実”とは?
物語は、警官と老婆との対話から始まります。老婆の名前は“清崎 蒼”。蒼もかつては警官でしたが、担当した“犀華ちゃん行方不明事件”が未解決のまま終わったのを最後に退職。このとき事件を解決できなかったという記憶に苦しんでいる様子です。
しかし、警官は蒼に「あなたはぜんぜんわかってない」と告げます。果たして、警官が蒼に伝えようとしている“未解決事件の真実”とは、どのようなものなのでしょう?
メインパートは、SMS(ショートメッセージサービス)やLINEでのやりとりのようなインターフェースで進行します。事件当時、捜査を通して接してきた事件関係者たちとのやりとりが、テキスト化され、証言として出力されているようなイメージです。
最初に登場するのは、犀華の父親。続いて犀華の母親、その後も新たな事件関係者が明らかになるたびに、SMS風のインターフェースに横軸が追加されていくことになります。
重要なのは、これらのテキストが蒼の記憶をもとに出力されているという点。蒼の記憶は証言の時系列がバラバラで、ときには発言者を勘違いしている場合も。また、思い出すのが困難な証言は、ゲームとしても記憶にロックが掛かっている表現になっており、それぞれに対応した条件を満たさなければ解放できません。
さまざまな証言を引き出し、正しく並び替え、蒼に事件の真実を知ってもらうのが『未解決事件は終わらせないといけないから』のゲームプレイで目指すべき目的なのです。
証言の順番や語り手を並び替え、パズルを解くように解き明かしていく
ゲームを進行させるには、テキストメッセージの中にときどき存在する色分けされた単語がポイント。ハッシュタグが付いた青いキーワードをクリックすると、同じキーワードが含まれる証言のピース(記憶のかけら)を解放できます。同じ単語から連想ゲーム的に別の場面が明かされるシステムは、インディーゲームのファンならば『Her Story』を思い出すかもしれません。
“@(アットマーク)”付きで赤く表記されるのは人名。まだ登場していない人物ならば、これをクリックすることで初めて、この人物からも証言を引き出せるようになります。場合によってはフルネームや肩書きなど一部の情報が欠落した状態での登場となり、こういった部分はこの人物に関する新たな証言を見付けることで徐々に明らかに。
ある程度の証言が集まってきたら、会話の内容や文脈から「この証言が行われたのはこっちの証言より後なんじゃないか?」、「この証言は本来、こちらの人物が言ったことなのでは?」といった判断を行い、証言のピースを入れ替えていくことになります。この過程で、プレイヤーはひとつひとつのテキストを丹念に読み込もうとすることでしょう。
“テキストを読み込む”ということは、ロックが掛かっている証言を解放する上でも非常に重要になります。赤や紫で表示されるロックは、“◯◯の証拠となる部分のテキストをクリックする”、“◯◯の日付を4桁で入力する”など、証言の細部をよく理解していないと解除が困難だからです(総当たりで解除するのも可能ではありますが、それ以降のことを考えても、テキストを熟読して内容を理解したほうがよいのは明らかですよね)。
時系列的に直前・直後にあたる証言のピースを、正しい発言者のもと、正しい順番で並べると、ピース同士が結合され、ひとつのピースに変化。これが“着実に事件の真相へと近づいている手応え”となります。
また、ピースを6回結合するたびに、画面右上に黄色い“鍵”がひとつ生まれます。黄色のロックが掛かった証言は、これを消費することで解除が可能に。
これらの行程をくり返して、まるでパズルを解くような小気味よい達成感を味わいながら、真実を解き明かしていくことになるのです。
想像さえしなかった真相へと導かれていく、好奇心と興奮で胸がザワつく物語体験
少しずつ事件の全貌が明らかになっていく本作。ここまでに書いてきたゲームシステムも踏まえると、淡々とした地味な内容に感じられるかもしれません。しかし、実際にプレイしている最中の筆者の胸の内は、あるときを境に好奇心と興奮がザワザワと波打つような状態が続くことになりました。
その予兆はかすかな“違和感”。それが「この証言がもしこの人物のものならば、話がぜんぜん変わってくるんじゃないか!?」という疑念となり、やがて確信へと変わっていきます。
「じゃあ、いままでこの人のものだと思っていたこっちの証言は、ひょっとしてあっちの人のものなんじゃないか?」
「この人とあの人の関係って、実は“そういうこと”だったんじゃないか?」
仮説をひとつひとつ検証するように証言者と時系列を入れ替えていく中で、当初は想像さえしなかった事件の真相へと導かれていく過程は、アドベンチャーゲームという媒体で描かれる物語でしか味わえない体験に満ちていました。
難易度もあまり高くはなく、多くのプレイヤーが結末へとたどり着けるはず。ラストの温かな余韻と、SOMI氏が本作に込めたメッセージを、ぜひ多くの方に受け取っていただきたいです。
『未解決事件は終わらせないといけないから』Steamページ PCゲームストアを見る(Amazon.co.jp)