“RAGE”と言えば、CyberZ、エイベックス・エンタテインメント、テレビ朝日の3社が運営する国内最大級のeスポーツイベントだ。そのRAGEの名を冠したeスポーツ施設『Café&Bar RAGE ST』が1月28日にグランドオープンを迎えた。
場所はJR池袋駅東口。いけふくろうのすぐそばだ。“もとはBecker's(ベッカーズ)があったところ”といえばわかる人も多いだろうか。
運営するのは、JR東日本クロスステーションフーズカンパニー、ジェイアール東日本企画、JR東日本スポーツと、JR東日本グループ3社が共同出資して設立したJR東日本グループeスポーツカフェ有限責任事業組合(LLP)。RAGEはこの同LLPのコンテンツパートナー、つまりeスポーツに関わるソフトウェア的な部分でのパートナーということになる。
同店は1階、2階の2フロア構成で、以下の3エリアに分けられる。1~2階のフロア間は店内の階段で移動可能だ。
- 1階:カフェ&バーエリア
- 1階:グッズエリア(RAGE e-sports Official Shop)
- 2階:PCプレイエリア(Jexer e-sports station)
グランドオープンに先立ち、1月26日には同店舗を会場に、メディア向けイベント“Café&Bar RAGE STオープニングセレモニー”が開催された。同イベントは第1部はオープニングセレモニー、第2部はパネルディスカッション/質疑応答、第3部が内覧会/個別取材という3部構成。
オープニングセレモニーで最初にあいさつを述べたのは、JR東日本クロスステーション フーズカンパニー長の深谷光浩氏だ。
同氏は駅や駅周辺で展開する同社の事業に対する期待やニーズがコロナ禍とそれ以降の行動変容によって変わってきていると指摘。駅の店舗や施設と言えばその駅を利用する人、通過する人が利用するものだったが、これからはその駅を訪れる目的となるような店舗を開発し、新規の顧客を開拓する必要があると述べた。今回オープンする『Café&Bar RAGE ST』は、その具体的な取り組みのひとつであるという。
『Café&Bar RAGE ST』はZ世代をターゲットに、近年急速に市場を拡大しているeスポーツを取り入れた新しいカフェ&バーとして、前述のLLPが準備を進めてきたもの。RAGEの協力を得ることで、おいしいドリンクやハンバーガーを楽しみつつ、さまざまなイベントが体験できる“これまでにない新たなスポーツカフェ”になったという。
深谷氏は「eスポーツの新たなムーブメント、カルチャーを発信していくことができるのではないか」と期待を語った。
JR東日本グループ3社が運営する新たなカフェ&バー
続いて登壇したのは、CyberZのRAGEゼネラルマネージャー・大崎章功氏だ。同氏はこれまで開催してきたRAGEがeスポーツ観戦の文化を育て、さらにオンラインで出会った友人たちとリアルで交流できる場となっていると感じていたという。
JR東日本グループのLLPからコンタクトがあったのは、コロナ禍の行動制限が解除され、リアルにおけるeスポーツの新たなムーブメントをどう作るかを模索していたときだそうで、立地などの好条件から快諾。そこから準備を重ね、2024年初頭のオープンに至る。
店内ではeスポーツイベントの開催やライブ中継はもちろん実施予定。立地的な訪れやすさ、RAGEでおなじみのeスポーツチームのアパレルやグッズ販売、カフェでの飲食などを通じ、eスポーツに興味を持つきっかけになることを望んでいると、大崎氏。大崎氏は重ねて「コアユーザーからカジュアルユーザーまでが気軽に立ち寄り、この店をいっしょに盛り立てていただけたらありがたい」と、あいさつを終えた。
同店1階のカフェ&バーエリアとグッズエリアを紹介したのは、JR東日本クロスステーション フーズカンパニーの外食事業部長 坂下佳久氏だ。
カフェ&バーエリアにはさまざまな向きに全部で7台の液晶モニターを設置。これを活用し、eスポーツの試合を観戦したり、あるいはRAGEの開催日にはパブリックビューイング会場としての活用を計画しているとのこと。このエリアには全部で81席を設えるキャパシティがあり、スタンディングを含めれば100名超のイベントにも対応可能だそうだ。
駅ナカで飲食事業を展開している同社。メニュー開発にもそのノウハウが活かされているそうで、アボカド、ベーコン、チーズを組み合わせた“RAGEバーガー”や、スパイスの利いた“RAGEカツカレー”のほか、16時以降の時間帯はよりボリュームのある“ウルトラBBQチーズバーガー”などを用意しているという。
また、ドリンクに関してはコーヒーをはじめとするソフトドリンクはもちろん、カフェ&バーの名前通りにアルコールドリンクも約20種類以上が楽しめるそうだ。
さらにグッズエリアでは国内外のプロeスポーツチームのアパレルやキャラクターグッズを多数取り揃える。こうした情報をX(Twitter)で事前に公開したところ、大きな反響を得ることができているという。
最後にあいさつを述べたのは、首都圏を中心にスポーツジム約50店舗、マッサージ店23店舗を展開するJR東日本スポーツの代表取締役社長 穴吹昌弘氏だ。
同社は2021年から昨年10月31日までJR松戸駅の駅ナカで“ジェクサー・eスポーツ ステーション JR松戸駅店”を運営していたが、駅の改良工事によって閉店を余儀なくされてしまった。つぎの店舗を探すなかで、この『Café&Bar RAGE ST』の計画が立ち上がったのだそうだ。穴吹氏はJR松戸店における3年間の営業実績を根拠に、店舗運営に自信を覗かせた。
第2部ではパネルディスカッションを開催
第2部ではRAGEの大崎氏、エレクトロニック・アーツのJapan Marketing and Communications Managerである徳永大地氏、Cygamesのマーケティング本部副本部長兼eスポーツ室室長の川上尚樹氏、それに第1部でMCを務めていたOooDa氏がパネラーとして登壇。以下のテーマについてパネルディスカッションが行われた。
- 直近のe-sports市場
- リアルイベント開催における熱狂
- eスポーツの未来
なお、本来はライアットゲームズからCommercial Partnership Japan Leadの進浩一郎氏も登壇する予定だったが業務のために欠席。OooDa氏はそのピンチヒッターとして登壇した形だ。
ひとつ目の話題について、大崎氏は近年のeスポーツ市場にもっとも影響を与えたのは「コロナ禍だった」と指摘。オンラインでイベントが継続される一方、コロナ禍で激増したゲーム配信を見始めたのをきっかけにゲーム自体に関心を持つ人も増えた。オフラインイベントが解禁になると、そうした熱量が一気に爆発。いまの盛り上がりにつながっていると述べ、この指摘には徳永氏も同意した。
2016年からRAGEとともにeスポーツに取り組むCygamesの川上氏によれば、当初は“参加するもの”という意識が強く感じられたが、コロナ禍を経て観戦の楽しさが知られるようになり、出場チームを応援するといった意識を持つ人が増えたとのこと。OooDa氏もまた、外出規制がなされていた時期に配信を通じてeスポーツに興味を持った人たちが増えたと実感を語った。
ここでMCの平岩康佑氏が2022年6月にさいたまスーパーアリーナで開催された『VALORANT』の国内大会“2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2”Playoff Finalsにおいて2日間で約26000人の観客動員数を記録したことに言及。大崎氏は行動規制が解除されてから開催までの準備期間が短い中、国内eスポーツの歴史に非常にいいニュースを作れたと振り返った。
徳永氏によると、こうした国内のeスポーツにおける動きは、グローバルと比べると、プロシーンに限らずカジュアル層も含めて「オフラインイベントに積極的」と映るようだ。
つぎの話題はまさにその“リアルイベントの熱狂”について。
2009年頃からeスポーツイベントに携わってきたOooDa氏は、前述のさいたまスーパーアリーナをはじめ、横浜アリーナやKアリーナ横浜、両国国技館と、当時からは考えられなかったほど大きな会場が大会になっている現状を「夢のような世界」と表現。万単位の観客が熱狂している様に驚いているという。
また、自身がプロeスポーツチームのファンミーティングでMCを務めた際に、過半数がゲームをプレイせず、見て楽しむ、あるいは選手のファンであったと報告。「見て楽しむ文化」が定着していることにも言及した。
川上氏は以前のeスポーツイベントではゲーマーが自分のプレイの参考にしたりモチベーションへつなげるための観客が多かったと感じていたという。しかし現在はイベントへ出かけた好きな選手やチームを応援し、感情移入するファンが増加。さらに熱心にイベントに参加するようになる好循環が生まれていると述べた。
一方で大崎氏は、「これからは“つぎはオンラインの視聴でもいいかな”と考える人がどうしても増えてしまうかなと思う」と危惧を抱く。今後も観客数を伸ばすためにはオフラインイベントの体験の価値や幅を広げていく必要があるとした。また、この『Café&Bar RAGE ST』での体験により、RAGEのような大規模なeスポーツイベントへ行こうと思う人がひとりでも増えることを願っているという。
eスポーツがさらなる身近なものへと変わる未来
そして話題は最後のテーマ“eスポーツの未来へ”と移って行った。
平岩氏にいちばんに話題を振られた川上氏は、eスポーツがオリンピックの競技になる可能性や市場拡大のニュースに触れ、そのうえで国内に留まらず、世界全体でさらに盛り上がってほしいと熱望する。eスポーツ観戦の文化は野球やサッカーに比べればまだまだ浅く、狭い。もっと拡大の余地はあり、ゲームメーカーも貢献できるはずと述べた。
徳永氏もそれを受けて野球やサッカーのレベルには達していないことを指摘。日常会話のなかでそれらの球技と同じくらい話題に上るようになれば、状況は変わってくるはずと続けた。
大崎氏はJeSUが昨年末に公表した“日本eスポーツ白書2023”の要旨においてeスポーツファンの数が2025年には1000万人に達する見込みであるとされていること、また、世界的なeスポーツの市場規模も拡大を拡大しているとしたうえで、これらの伸びを支えているのが若年層であり、「伸びが止まることは当分ない」と予想する。
大人からすればそれはビジネスチャンスであり、若年層とのコンタクトポイントを探る企業にとってはポテンシャルが感じられるはずだと続けた大崎氏。そうした企業に向け、「我々といっしょにお取り組みができたらもっと明るい未来が作れるんじゃないかと思います」とビジネス面でのアピールも忘れてはいなかった。
OooDa氏は、地方でタクシーに乗ったときなどに“eスポーツ”という言葉がより通じるようになってきていることからeスポーツが多くの人にとってより身近なものになってきていることを実感しているという。
しかし、30代の韓国人ヘアメイクさんから聞いた韓国のeスポーツ事情は遙か先を行っていたそうだ。ヘアメイクさんの学生時代は男女関係なく、9割の人が学校帰りにeスポーツに興じていて、有名選手の配信は欠かさず見るのは当たり前といった具合。「日本もそれぐらいになってくれたら嬉しいと思っている」と、未来を夢見る。
また、大崎氏は昨年に『VALORANT』の世界大会“VALORANT Champions Tour Masters Tokyo”が開催されたことにも触れた。今後はこの大会のように、観戦のために海外から観光客が訪れるようなeスポーツ大会がもっと開催されるようになってほしいこと、逆にRAGEも海外進出にチャレンジしたいと意欲も見せる。
これを受けて平岩氏は『Apex Legends』世界大会の衝撃を語った。バーで試合観戦に熱中するファンがいて、その様子はプレミアリーグ観戦で盛り上がるイギリスのパブに匹敵する興奮度だったという。
これなどは先に徳永氏が指摘していた部分。徳永氏は大会観戦のために現地を訪れていたそうで、いいプレイが出たときの盛り上がりなどはサッカーと比較しても遜色のないレベルと述べた。eスポーツ観戦がエンターテインメントとしてフィジカルなスポーツと同様に定着していることを実感したそうで、先の意見もこのときの体験から来たものだったことをうかがわせた。
本当の成功は今後の企画次第?
通常のカフェ&バーとしての役割に加え、17台のゲーミングPCに配信ブースまで店内に備えた『Café&Bar RAGE ST』は、パネリストたちが指摘したような、eスポーツ観戦文化の底上げに大きく寄与できる可能性を秘めている。
とはいえ、その成否は今後の同店における企画次第であるようにも思う。そのままいけば、グッズ販売コーナーとPCルームのある、ちょっと経路の違うカフェ&バーでしかないわけで、それぞれの施設が存在感を高め合うような独自の企画や、RAGEの名前を活かした企画の開催は必要不可欠だろう。
また、企画があまりマニアックに走ってしまうと来店客への間口を狭めることにもなりかねない難しさも感じる。せっかくの立地のよさを活かすためにも、誰もが気軽に利用できる店であってほしいと個人的には思う。
なお、1月28日にオープンした同店の滑り出しは順調なようだ。X(Twitter)にも好意的なポストが並んでいる。池袋のこの店が成功すれば、JRの駅に第2、第3の店舗が生まれるかもしれずない。以前のメーカー直営ゲームセンターチェーンのように、あちこちに『Café&Bar RAGE ST』がある。そんな未来もちょっと期待してみたくなる。