現地時間2024年3月18日~3月22日、アメリカ・サンフランシスコで開催されたGDC(Game Developers Conference)2024にて『デイヴ・ザ・ダイバー』についての講演が行われた。その内容をリポートする。
『デイヴ・ザ・ダイバー』はSteamにて2023年6月に正式リリースされた作品。昼は海にダイブして魚を獲り、夜は海辺の寿司レストランで新鮮な寿司を提供するハイブリッド・海洋アドベンチャーだ。
講演を行ったのは本作のディレクターであるファン・ジェホ氏。多数の要素が盛り込まれた複雑なゲームメカニクスを、わかりやすくプレイヤーに届けるために工夫したことが語られた。
なお同氏は昨年のThe Game Awardsで本作が「インディーゲームか否か」で物議を醸した件について認識しており、声をあげたゲーマーたちの気持ちも理解しているとのこと。インディゲームの定義はひとつではなく本作に投票した審査員にはとても感謝しているが、より厳しい状況で開発しているインディーゲーム・デベロッパーには敬意を持っているとコメントした。
『デイヴ・ザ・ダイバー ANNIVERSARY EDITION』阿々久商店限定特典付き(Switch)の購入はこちら (エビテン)単純なゲームサイクルゆえ、飽きさせないために多数のサイドコンテンツを搭載
これまでに300万本を販売し、Steamでは8万8000弱もの“圧倒的に好評”のレビューを獲得、主要なアワードのいくつかにもノミネートされた本作。しかし、もちろんすべてが好評ではなく、少なくない数の否定的な意見も存在する。
ネガティブな意見としては「ゲームメカニクスが浅い」「要素が多すぎる」「質より量」といったものが多いという。ファン氏はこれらを見て傷つくが反論はできないと語る。
しかし、これらはすべてゲームデザイン上の選択によるもの。「自分たちは特定のジャンルの専門家ではない」という思いから、ひとつに絞るのではなく要素をミックスすることに。それによって新しい楽しさが作れると思ったという。
多数の要素が盛り込まれることになった経緯は2017年まで遡る。当初はダイビングとフィッシングのゲームを考えていたが、ただ魚を獲るのでは単純すぎると思い寿司屋を経営することに。リソースを管理するという側面を加えた。
イマジネーションも豊富でワイルドな海洋生物のアイデアもあったが、このときはおもしろいゲームにできるのか不安だったという。
さらに設定面でも課題があった。
海の生物は一部を除いてほとんどが突進するか、噛みつくかしかできない。そして水中ではキャラクターの動きが制限され、ジャンプ、スピン、揺れなどが使えない。
動きを遅くしたり制限を設けたりするのは、そうしなければ水中にいると感じてもらえないから。プレイ時の体験というのはアドベンチャーやアクションゲームではかなり重要なことだ。
また、ゲームサイクルがダイビングと料理の繰り返しになるため、いくつラウンドを続けてもらえるかという心配もあったという。
そこで思いついたのがサイドコンテンツを加えることだった。『龍が如く』シリーズのようにゴルフ、野球、釣り、カラオケなどのさまざまなミニゲームを導入すれば、“コアループ”が退屈になることを回避できる。
コアループはそれ自体がおもしろくなければいけないが、こうしたミニゲームがそれを強化してくれると考えた。
以下が新しいゲームプレイ・ループの構造例となる。
- 柱はダイビングと寿司屋経営
- ゲームプレイの進行に従って新しいメカニックを導入
- 海中で材料を入手し陸上のNPCに渡しトラップを作る
- これによって海中でロブスターを獲ることができるように
ダイビング、レストランの側面から興味をつなぐことができるようになった。
要素を増やした結果、それぞれのチュートリアルが新たな課題に
多くのサイドコンテンツを加えて退屈さを回避するとして、これらをうまく説明することが新しい課題となった。覚えることが多いほど、ユーザーがうんざりしてプレイを止めてしまう可能性がある。
ファン氏は当初、チュートリアルを用意せずひとつひとつをプレイしながら理解してもらうようにしたという。
するとテスターたちは誰も食べ物を出さず、お茶も注がないカオスな状態になってしまったそうだ。そこでポップアップのチュートリアルを作ったところ、今度はそれを一切読まず、スキップして先に進んでしまう人が続出したという。
チュートリアルを入れないとプレイヤーがどうしてよいかわからず、チュートリアルを入れるとやってもらえない。そんなジレンマに苦しむことになってしまった。
効果的にシステムを説明できるキャラクターを用意して解決へ
ファン氏が選択したのは、キャラクターの力を借りることだった。
チュートリアルのポップアップの代わりにキャラクターが話し、うまくストーリーに繋げることでプレイヤーの中で「理解しよう」という意欲がわく。以下がキャラクターを活用したチュートリアルの例だ。
- デイヴが言いくるめられバンチョを助けるために仕事をすることに。
- デイヴはマネージャー兼ウエイターとして働く。
- バンチョは開店前にデイヴにメニューを決めるように言う。プレイヤーはここでメニューの決め方を学ぶ。
- メインキャラクターのコブラはお腹が空き喉も乾いているので、プレイヤーはお茶や食事の出し方を学ぶ。
- 提供する人がいない場合は食べ物の破棄について学ぶ。
コブラは電話で話すために席を離れるので食べ残しを破棄しなくてはいけない。
このように、プレイヤーは物語の中で段階的にシステムを理解していくことになる。ゲームにはガイドのポップアップが出てくるが、それらはすでに学んだことであり、ストーリーではないことを示すものだ。
テストを進めると、プレイヤーはリスクが小さく効率がよい浅瀬で魚を獲るということがわかった。深いところへ行ってもらうには何かご褒美が必要となる。
そこでカード集めのシステムを導入することに。そのシステムを説明するためにサトーが生まれたという。
システム部分のまとめは以下の通りだ。
- ゲームプレイをより興味深いものにするシステムをデザインすることが大事。
- ゲームプレイによってその作品が好かれたり嫌われたりするが、どのように伝えるかはまた別の課題。
- 効果的にシステムを伝えられるキャラクターをデザインして説明させ、システムを稼働させる。
- これらのキャラクターをストーリーに取り入れて、プレイヤーがシステムに慣れるようにする。
キャラクターにはユーモアが必要不可欠
システムを説明するために新しいキャラクターを置くことで十分なのだろうか。ファン氏はキャラクターをより魅力的にする材料が必要であり、それがユーモアであると語る。
そこで日本のお笑いの“ボケとツッコミ”から生まれるコメディのダイナミクスに着目。これを本作用に調整し、NPCをボケ、デイヴをツッコミとしてキャラクターの掛け合いを作成した。
これがうまくいき、ユーザーはよりキャラクターに近づいていったという。このキャラクターに何が起きたのかもっと知りたい、あるいはすごい食べ物を出して黙らせたい、などと思えばミッションを達成する動機づけができる。
ファン氏は本作の「やり出したら止まらなくなる」という評価のひとつがここにあるのではないかと考察した。
多くのカットシーンを導入したのも、ユーザーをさらにゲームに引き込むため。
ピクセルキャラクターでは細かい感情を表現するのは容易ではない。カットシーンはそれぞれのキャラクターの魅力を伝えるとてもよい方法だったとファン氏は振り返る。
キャラクターが特別な料理を食べて反応するシーンとプレイヤーにストーリーを説明するシーンは、ファン氏らが予期した以上に効果的だったそうだ。
本作は“Steam アワード 2023”にて“ゆったり座ってリラックス賞”を受賞している。
ファン氏は以下の要素を挙げ、『デイヴ・ザ・ダイバー』をリラックスできる居心地がよいゲームとは思わないと否定。フィッシングゲームの『ダークソウル』とまでは言わないが、タフなところもあると語る。
- 昼間はサメと戦い、夜は寿司を出すのに忙しい。
- 酸素は毎秒減り、サメやクラゲに殺されるかもしれない。
- 水中で死ねばアイテムはひとつしか持ち帰れない。
- 寿司屋ではとても忙しいし、客に海から何かを見つけるように言われるかもしれない。
居心地がよいと感じるのは、難しいシステムがフレンドリーな形で提供されているからであると分析し、本講演をまとめた。
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