2024年2月21日に配信された、任天堂の新作情報番組“Nintendo Direct ソフトメーカーラインナップ 2024.2.21”(ニンテンドーダイレクト/ニンダイ)で、ホリが隠し玉を披露して話題になった。

 それはギター型のコントローラーを使ってギターを練習するソフト『GUITAR LIFE -LESSON1-(ギターライフ レッスン1)』。周辺機器で有名なホリだけに、ギター型コントローラーを開発するのは腑に落ちるが、このコントローラーにはソフトが同梱されている。

 ホリが自社でゲームを開発するのは、じつに約25年ぶりとのこと。周辺機器に力を入れていたホリが、なぜコントローラーといっしょにゲームを開発することになったのか。本プロジェクトの中心メンバーにインタビューを実施した。

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ゲーム概要:ギターコードやストローク(弾きかた)を覚えるゲーム

 本作にはギターのコードやストロークの練習が段階ごとにできるようにレッスンが設定されており、これらをくり返しプレイすることで演奏を習熟していく。『ハルノヒ』(あいみょん)や『さよならエレジー』(菅田将暉)といった有名楽曲のコードを練習することも可能だ。

ゲーム業界に対する提案をするためにギター型コントローラーとゲームを開発

村松洋明氏

ホリ 第一開発部 部長。本プロジェクトの責任者。

遠藤将城氏

ホリ 第一開発部 主任。本プロジェクトのメイン担当者。

――Nintendo Directをご覧になったゲームファンは、「ホリがゲームを出すんだ」とビックリしたと思います。

村松そうですね。ただ、当社が考えていた以上に好意的に受け止めてくれた方が多く、想像以上の受注が来ていて、我々もビックリしています(苦笑)。

――――それはうれしい悲鳴ですね(笑)。本作が発売された後、お店にはどこに並ぶんでしょう? ゲームが陳列されているふつうの棚にはサイズ的に置けないですよね……。

村松現在、営業の担当者が各ショップと相談してくれているようですが、プレイできる環境と合わせて、設置してもらえるように交渉を進めているところです。

――店頭で手に取って体験できるのはいいですね。ホリさんは以前、ゲームソフトを出していたと記憶していますが、今回は何年ぶりになりますか?

村松スーパーファミコンやプレイステーションのころにゲームを開発していました。新作を出すのは25年ぶりぐらいになりますね。

――そんなに年月を経ているにも関わらず、ゲームを開発することになった経緯を教えてください。

村松我々は「ゲームをもっと楽しく」というコンセプトを掲げて、周辺機器の開発を長年続けてきました。これまでは何か新しいコンテンツが出て、それに対して新しい周辺機器を作るという流れだったのですが、コンセプトの「ゲームをもっと楽しく」をさらに推し進めるためには、新しいチャレンジも必要だと考えました。

 どうすればいいのかを社内で検討したときに、我々からこんなデバイスがあれば、おもしろいゲームができるんじゃないですかと、ゲーム業界に対する提案をするのがいいのではないかという話になり、『ギターライフ レッスン1』を開発することになりました。

 発売後にほかのメーカーさんがこのギター型コントローラーを使ったゲームを開発していただけたりすると本当にありがたいですね。

『ギターライフ』でギターが弾けるようになった社員が続出。約25年ぶりのゲーム開発に取り組んだゲーム周辺機器メーカー・ホリのキーマンにインタビュー
バンド経験者の村松氏。素人目には、やはりフォームがしっかりしていると感じた。

――『ギターライフ レッスン1』は、ふだんほかのメーカーの周辺機器を作っているホリさんからの、逆提案というわけなんですね。いろいろなアイデアがあったと思いますが、ギターレッスンを題材に選んだ理由は?

遠藤何を作ろうか考えたときに、楽器は相性がいいかなと思いました。それで楽器についていろいろ調べてみたところ、いちばん人気が高いのはピアノで、そのつぎがギターでした。

 ただ、ピアノは教室も多いですし、鍵盤を押せば音が鳴るので、ゲームにしなくても練習しやすいのかなと。一方、ギターは教室の数がピアノと比べて6分の1程度しかないですし、きちんとコードを押さえて弾かないと音が出ません。

――ギターってじつは難しいですよね。僕もギターを2回挫折しました(苦笑)。

村松あくまでも当社の調べですが、ギターは9割の方が挫折するみたいですね。

遠藤そこでギターを弾いてみたいけどレッスンに行けない人や、過去に挫折した人を救済できればと考えて、ギターを練習できるゲームを開発することに決めました。ギターの中でも、今回はアコースティックギターを選びましたが、ギターに詳しい人間が社内に少なかったので、まずは市場調査を行うところから始めました。

遠藤一応、私が30年ほど前の学生時代にバンド活動をしていまして、ある程度ギターを弾くことができましたが、このプロジェクトで20数年ぶりにギターにチャレンジしました。

――村松さんはギターに詳しかったんですね。ゲームの開発は外注ですか? それとも内製?

遠藤外注です。私はプロデューサーとして外部の開発スタッフたちとのやり取りをしていました。

『ギターライフ』でギターが弾けるようになった社員が続出。約25年ぶりのゲーム開発に取り組んだゲーム周辺機器メーカー・ホリのキーマンにインタビュー
制作に際し、いちからギターを練習したという遠藤氏。

――個人的な印象なのですが、ホリさんの出す商品は、以前と比べてデザインがかわいいものが増えてきた気がします。ギター型コントローラーも見た目がオシャレだなと思いましたが、会社の風土や社員の方たちの意識に変化はあったのですか?

村松「失敗してもいいからチャレンジしろ」という考えかたは昔から変わりません。ただ、デザインに関してお話しますと、確かに7、8年前まではデザインよりも機能性やおもしろさにこだわって開発していました。

 近年になってデザインにも力を入れることになり、デザイナーを多く採用して新入社員が研鑽を重ねてきました。デザインがよくなったと感じられたいちばんの要因は、そうした意識の変化によるものだと思います。

――なるほど。

村松デザイナーが活躍する前は、メカの図面を描くスタッフがデザインを作っていたんですよ。なので、できあがってくるものが基本的に真四角なんです。そのほうがデザインを描きやすいから(苦笑)。

――無骨になりがちだったんですね(笑)。

村松ギター型コントローラーも、最初に機能を確認するために3Dプリンターで作ったものは、なかなかでした。

遠藤これがギター型コントローラーのモックになります。

『ギターライフ』でギターが弾けるようになった社員が続出。約25年ぶりのゲーム開発に取り組んだゲーム周辺機器メーカー・ホリのキーマンにインタビュー
めちゃくちゃ四角い。
『ギターライフ』でギターが弾けるようになった社員が続出。約25年ぶりのゲーム開発に取り組んだゲーム周辺機器メーカー・ホリのキーマンにインタビュー
完成形がこれ。ギターっぽくなった。

――完成したものと比べると、ぜんぜん違いますね。

遠藤最初はこのモックで動作をチェックしていて、ギター講師の方にも実際に弾いてもらったのですが、ボディーが四角いとギターを固定できずにストロークがブレてしまうという指摘を受けました。ギターを弾くときは、とにかくフォームが大事とも言われていたので、ボディーにカーブやへこみを作り、腕や足でしっかり固定できるように改良しました。

村松ほかにこだわったのは、弦の再現度です。子どもが遊んでも安全なように、弦ではなく突起が出ているような構造になっているのですが、モックの段階では弦をリアルに再現しようとするあまり、突起を固くしすぎてすぐに手が痛くなりました。担当者の席が近かったので、指を痛めるたびに愚痴を言ったりもして(苦笑)。

 このままでは押さえづらいですし、長時間プレイできないので、そこまで再現しなくてもいいんじゃないかということになり、強度に優れていて弾性のあるTPU(熱可塑性ポリウレタン)を採用しました。

遠藤カラーはベーシックな黒を選んでいますが、ネックのところは木目調にデザインしていて、ギターっぽい雰囲気を出しています。

ギター講師の意見を取り入れて初心者がスキルアップできるレッスンを実現

――どのようにプレイするのか教えてほしいのですが、(実物を見ながら)ギター型コントローラーに、Joy-Conをセットするんですね。

村松はい。Nintendo Directで発表したときは、SNSなどで「どういう仕組みで動いているのかわからない」というコメントも見ましたが、仕組みとしては『リングフィット アドベンチャー』や『スターリンク バトル・フォー・アトラス』と同じく、Joy-Conの拡張機能を利用しています。といっても、拡張機能を利用したソフトはこの2本しか出ていなのですが……。

――『ギターライフ レッスン1』が3本目のタイトルになったと(笑)。

村松光栄なことに(笑)。

――仕組みはわかりましたが、どのように操作すると音が鳴るのかまだイメージができなくて……。実際にプレイしていただいてもいいですか?

遠藤わかりました。このギター型コントローラーでは、ネック部分を6弦の5フレックで再現しています。弾きたいコードで弦を模したボタンを抑えて、ピックを使って弾くことで音が鳴ります。画面の指示通りに弦を押さえて弾くことで、コードなどが覚えられるようになっています。

――『ギターライフ レッスン1』には、どのようなレッスンが収録されているのですか?

遠藤レッスンは初級、中級、上級、特級ごとに用意していて、それぞれ複数のカリキュラムを収録しています。ギターを始めるときは、この曲を弾いてみたいという憧れがきっかけになることが多いのですが、いきなり曲の練習をするのはハードルが高いですよね。

 そこで本作では、コードをひとつずつ覚えていくようなレッスン内容にしていて、難度が上がるとコードが難しくなったり、ストロークが増えたりします。

――カリキュラムは、ギター講師と相談して決めたのですか?

遠藤はい。監修はギター講師の瀧澤克成さんにお願いしました。あとは私が初心者としてギター教室に通い、講師の方につまずきやすいポイントをヒアリングするなどしてカリキュラムに反映しています。

『ギターライフ』でギターが弾けるようになった社員が続出。約25年ぶりのゲーム開発に取り組んだゲーム周辺機器メーカー・ホリのキーマンにインタビュー

――ちなみに、とくにつまずきやすいポイントは?

遠藤やはりコードを覚えて正しく押さえることと、なめらかなコードチェンジができるようになることが、初心者にとってハードルになりやすいようです。本作のレッスンでは、これらのハードルを乗り越えられるようなカリキュラムを収録しました。

 また、ふつうにギターを始める方は教本を参考にしながら練習すると思いますが、実際にどれくらいうまくなっているのか、わかりにくいのがネックです。でも、本作は画面に抑えたところが表示されるので、間違っているかどうかすぐにわかりますし、レッスン結果を表示することで上達具合をチェックしやすくしています。

村松自分で作っておいてなんですが、大学時代にあるとよかったと思いますね。当時「ギターを教えてくれ」と言って先輩がつぎつぎとやってきたのですが、それがたいへんだったので……。本作があれば、これで練習してくださいと言えばいいですから(笑)。

――確かに(笑)。本作にはほかにどんなモードが収録されているのですか?

遠藤レッスンのほかにフリー演奏と、有名な楽曲を弾くことができる楽曲演奏を10曲用意しています。あとは、ギター用語や構えかたの解説などを収録したガイドも実装しました。

村松ちなみに、楽曲演奏で選べる有名楽曲は、今後ダウンロードコンテンツで追加していく予定です。

――曲が増えるのも楽しみですね。村松さんはバンドをやっていらっしゃったということですが、本作は本物の楽器を演奏している感覚に近いんですか?

村松手前味噌ですが、演奏している感覚はリアルの楽器にかなり近いと思います。手触りに関しては、私からもかなり口を出しましたね。中古で購入したボロボロのギターを解体して、ネックの太さや角度、フレットの幅、弦と弦の間隔などを本物のギターに合わせる、というようなこともしています。

 あと、本物のギターはヘッドに近づくに連れて、フレットの間隔がだんだん短くなるのですが、ギター型コントローラーでもきちんと再現しました。

 一音、一音ちゃんと音が出ますので、うまい方が弾くとアルペジオ(コードを一音ずつ鳴らす奏法のこと)もできますよ。コスト削減も兼ねてネックを短くしたり、ヘッドやボディーを簡略化したりはしていますが、かなりリアルに作っているので、練習を続けていると指にマメができます。

――ピックは付属しているんですか?

遠藤専用のピックが付属しています。

村松ふつうのギターのピックも使えますが、小さいお子さんが間違って飲み込んでしまう可能性があるので、少し大きいサイズのピックを開発しました。安全性の問題だけなので、愛用しているピックをお持ちの方は、そちらをご使用いただいても大丈夫です。

『ギターライフ』でギターが弾けるようになった社員が続出。約25年ぶりのゲーム開発に取り組んだゲーム周辺機器メーカー・ホリのキーマンにインタビュー
筆者も弾かせてもらった。ミスしたときに画面で補助してくれたりするのがうれしい。

50~90時間ほど練習すればある程度弾けるようになる想定

――販売価格はいくらぐらいになりそうですか?

遠藤ゲームとギター型コントローラー、専用のピックがセットになって、税込12980円の予定です。ちなみに付属はしていませんが、標準的なギター用のストラップを付けたり、ギタースタンドに置いたりすることもできますよ。

村松ギター教室のレッスン料は、1ヵ月に4回通ってだいたい1万円ぐらいが相場になります。本物のギターも必要になるので、お金はそれなりにかかりますが、『ギターライフ レッスン1』なら手軽に始められますし、50時間ほど練習していただくと、ある程度は弾けるようになると思うので、自信を持ってオススメできますね。

――そう考えると、かなりコスパがいいですね。50時間練習すると、弾けるようになるという想定なんですか?

村松弾けるようになる想定時間は、90時間に設定しています。1日1時間練習したとすると約3ヵ月かかる計算ですが、実際には50時間程度で弾けるようになる社員が多いですね。当社では続々とギタリストが誕生しています(笑)。

――ゲームのデバッグをしながらギターが上達されていると(笑)。今回はアコースティックギターとのことでしたが、将来的にはエレキギターなど、ほかの楽器を練習できるゲームや専用コントローラーを出す予定は……。

村松エレキギターの音は入れていて、オプションで切り替え可能です。ほかの楽器を開発するかどうかはいまのところ決まってはいませんが、専用コントローラーと楽器との相性はいいと思うので、ベースやドラムなども開発して、最終的にはセッションができたらいいですね。この夢が実現できるように、まずは『ギターライフ レッスン1』を応援していただけるとうれしいです。

『ギターライフ』でギターが弾けるようになった社員が続出。約25年ぶりのゲーム開発に取り組んだゲーム周辺機器メーカー・ホリのキーマンにインタビュー

先行体験会が追加で実施決定

 これまで行われていた本作の先行体験会が好評につき、4月1日~4月14日まで、追加での開催が決定したとのこと。興味のある方は、以下のリンクよりチェック!

『GUITAR LIFE -LESSON1-』先行体験会について
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