シティコネクションから2024年5月30日(木)発売予定(※)の、Nintendo Switch、プレイステーション5(PS5)、プレイステーション4(PS4)用ソフト『ワイズマンズワールド リトライ』(※Xbox One、Steam版は2024年発売予定)。
本作は、2010年に発売されたニンテンドーDS用RPG『ワイズマンズワールド』を、2画面を1画面にするUIの改修に加えて、新規キャラクタービジュアルや新規&アレンジBGMを追加し、大幅にリファインした移植タイトルとなっている。
そのBGMのアレンジ、ならびに新規BGM制作を担当したのが、ギタリストとヴァイオリニストのふたりによるインストゥルメンタル・ユニット“soLi”。今回『ワイズマンズワールド リトライ』の楽曲について、おふたりにインタビューをさせていただけることになった。
筆者はゲーム以外の音楽にはまったく疎いが、そんな筆者でもプロフィールを見てびっくりするくらい輝かしい経歴を持つおふたり。どんなことを聞けば失礼にあたらないだろうかと、過去一レベルで緊張しつつインタビューの場に赴いたのだが……。
「『イース』で街からフィールドに出たところで、30分くらい音楽を聴いていました」
「『ポップンミュージック』では、Deuilのスマイル派でした」
あっ、これは大丈夫だ。すごく安心した。むしろ我々、ゲーマー側のおふたりだった。
しかしそうなると、そんなゲームの濃い原体験を持つおふたりが世界で知られるミュージシャンになるまでの経歴や、そもそも『ワイズマンズワールド リトライ』の楽曲を担当するまでの経緯が、気になってきて仕方がない。以下、それらについて訊くうちにとんでもなく懐かしいゲームタイトルが始終飛び交うことになった、インタビューの模様をお届けしていく。
その前に……soLiによるメインテーマ楽曲“Re;Try”のミュージックビデオが公開されたので、ご覧いただこう。
ISAO氏(左)
浜田麻里、Fuki Communeを始め、海外の巨大フェスも含めたさまざまなアーティストのライブステージで、多方面に活躍するギタリスト。7弦、8弦などの多弦ギターを独特な奏法で用いてさまざまな音楽性を表現して、音楽単独の枠を越えたエンターテインメントステージの公演をも実現している。
星野沙織氏(右)
国立音楽大学の首席卒業や権威ある各賞の受賞を始め、矢沢永吉、KinKi Kids、LIV MOONなどの名だたるアーティストのライブにストリングス・メンバーとして参加してきた実績を持つヴァイオリニスト。ほかにもさまざまなジャンルのアーティストとのコラボで演奏活動を行ない、好評を得ている。
※この記事はシティコネクションの提供でお届けしています。
soLiのルーツはまさかのゲームの数々
――まずはファミ通.comでお話を伺うのは初ということで、soLiがどのようなユニットなのか、自己紹介をしていただけますでしょうか。
ISAOギターとヴァイオリン、ふたつの楽器を組み合わせたユニットです。ユニット名のsoLiの由来は“solo”の複数形で、ふたりのリードプレイヤーがいっしょに音楽を作っていくというコンセプトで立ち上げました。
――ギターソロとか、ソロパートとかのソロですか。
星野イタリア語ですね。オーケストラの中ではsoliという単語もよく使われていまして、リード楽器2本という意味合いで付けさせてもらいました。
ISAOいまのところアルバムは3枚ほど出させていただいています。もともとは自分たちがゲームが大好きということもあって、たとえばこういうゲームジャンル、ゲームタイトルに対してテーマ曲を作るならどういう曲を作るだろうか、というコンセプトから始めて、曲を書いてきました。アルバムごとに方向性も変えていまして、3枚目は“映画のサウンドトラック”を作るとしたら、というテーマで作っています。
――おもしろいテーマですね、それを聞く前と聞いた後だと、楽曲の印象も変わってきそうです。では続いて、おふたりの音楽を始めたきっかけも教えていただけますか。
ISAO16歳のころにギターを始めたのですが、そもそも僕は『イース』(日本ファルコム/PC版は1987年発売)というタイトルが大好きでして。小学生6年生くらいのころ、PCエンジンのCD-ROM2(※)という一般家庭では買ってもらえない代物を親にねだって買ってもらったんです。
※CD-ROM2:正確な表記は“2”を2乗として右上に小さく表記。家庭用ゲーム機“PCエンジン”の周辺機器で、1988年の発売当時、家庭用ゲーム機で初となる光学ディスクドライブを搭載。CDを使うことで大容量を実現し、長編アニメーションやCD音源などで従来のゲームの常識を突き崩した。
ISAOそのCD-ROM2版の『イースI・II』(ハドソン/1989年)を初めてプレイしたときに、衝撃を受けました。ゲームシステムもそうですが、とにかく曲がかっこよすぎて。街からフィールドに出た瞬間、そこから30分くらいずっと聴いていられたんです。
――名曲“FIRST STEP TOWARDS WARS”ですね。
ISAOそれがずっと記憶に残っていて、中学校を卒業するときにギターをやっていたクラスの友だちがいた影響で、高校に入るしバンドでもやろうかなと思ったのが、音楽自体を始めたきっかけです。そこでゲーム音楽を耳コピできないかな、あの『イース』の曲が弾けないかなと思ったのが、ギターを始めるきっかけになりました。
――『イース』でギターに憧れる流れ、同世代にはめちゃくちゃ共感できるかと。ラスボスの曲など、さまざまな曲がギターアレンジもされていましたね。
ISAOダルク・ファクト(『イースI』のラスボス)の曲とかですね。ほかにも『イースII』のオープニング曲“TO MAKE THE END OF BATTLE”は、いまだに僕の人生のなかでのベスト1の曲です。自分で初めてギターで弾けたときは、本当に感動しました。
――想像以上にすごい原体験をお持ちですね。では続いて、星野さんのほうではどんなきっかけがあったのでしょうか。
星野もともと父と母がピアノをやっていまして、父が音楽教師ということで私にもなにかしら音楽を、ということになりまして。その当時、2歳くらいのころによく遊びに行っていた公園に、ホールが併設されていたんです。
そのホールである日、ヴァイオリンの発表会をやっていたところにふらりと私と母が訪れたときに「あれやりたい!」と私が言い出したのが、ヴァイオリンを始めたきっかけです。
――ゲームがお好きになったきっかけも、子どものころにあったのでしょうか。
星野ゲームについては、もともと家の中にスーパーファミコンとファミコンがありまして。小さいころから父が『スーパーマリオブラザーズ』シリーズ(任天堂/1985年~)をプレイしているのを横で見ているのが好きで、ゲームが好きになっていきました。父に「この面やって!」とせがんで、隣でじっと見たりしていましたね。
――音楽を始めつつ、並行してゲームも好きになっていったわけですね。
星野音楽とゲーム、あとは絵を描くことやアニメを観ることは幼少期からずっとぶれずに好きで、いまも変わらないです。ゲームについてはキャラクターデザインに惹かれるところが多くて、「このキャラかわいい!」とテレビの画面に紙を貼り付けてトレースしたりしていました。
――ああー、ビデオで画面を一時停止してやるんですよね。
星野『うる星やつら』とか『セーラームーン』とかでやっていましたね。とくにるーみっくわーるど(※)は大好きです。家には『うる星やつら』のビデオ全巻と、あとは『未来少年コナン』(※)のビデオ全巻がありまして、両親が共働きだったこともあって、両親が帰るまでそのビデオをずっとループで観つづけて過ごしていました。
※るーみっくわーるど:『うる星やつら』『めぞん一刻』など、漫画家の高橋留美子先生の作品世界全般の総称。同氏の短編集にも同じ名称が使われており、公式、ファン層のいずれでも定着している。
※未来少年コナン:1978年に日本放送協会 (NHK)で放映された、少年冒険活劇アニメ。スタジオジブリ作品で有名な宮崎駿監督の実質的なアニメデビュー作であり、多くの有名アニメーターに多大な影響を与えた。
――まさかここで『未来少年コナン』が出てくるとは、素晴らしい家庭です。続いて、大きな影響を受けた作曲者やアーティストがいらっしゃれば挙げていただきたいのですが。
ISAOそうなると僕の場合は、『イース』のサウンドコンポーザー・古代祐三さんになりますね。『イース』のサウンドトラックと古代さんのサウンドが、とくに自分には大きく影響していると思います。
星野クラシックをずっとやってきたので、何に影響を受けたということはなく、与えられた曲を弾いていくという人生だったのですが、音楽をとくに意識して聴くようになったのは『ポップンミュージック』シリーズ(※)ですね。
※『ポップンミュージック』:KONAMIが1998年に発売した、音楽シミュレーションゲームシリーズ『BEMANI』の第2弾シリーズ。9つの色とりどりのボタンを用いた筐体も含め、全体的にポップなデザインで統一されており、幅広い層に受け入れられて長く人気を誇った。
――ここでクラシックから、まさかの『ポップン』とは。
星野子どものころからずっとゲームが好きで、温泉宿に行くと必ずゲームコーナーで対戦格闘ゲームをやるタイプだったのですが、中学生あたりからは学校帰りにゲームセンターに寄れるようになったんですよね。高校生になるとお金も手に入って度合いがさらに増して、友だちと門限まで遊び続けていました。
――驚かされましたけど、よく考えたら『ポップン』にはクラシック楽曲なども収録されていましたね。
星野クラシックのカバーもありましたし、そもそも『ポップン』のために作られた楽曲も数多くあって、多彩なジャンルが詰まっていたんですよね。和風であったりポップ、ダークネスであったりと、「つぎはどんな曲なんだろう」というワクワク感があって。
――曲名に加えてジャンル名もついていて、個性的かつわかりやすかったですね。“ヒップロック2”なら、あのヒップロックの2曲目なんだなぁとか。
星野各ジャンルに対して、象徴するキャラクターが用意されていたところも含めて全部好きでした。自分の中で、すごく影響を及ぼしているシリーズですね。
――とくにプレイしていたころだと、ナンバリングがいくつくらいのころですかね。
星野『9』(2002年アーケード稼働)あたりですね。キャラクターとしては“Deuil”(『ポップン』世界で活動する3人組ヴィジュアル系バンド)がいて、そのメンバーのスマイル、ユーリ、アッシュについては友だちのあいだで推しが分かれてしまっていて、私はスマ派だったのですが友だちはガチアッシュ派で、危ない空気が漂ったりしていました。
――ここまで来たら、さらにゲームのほうのお話を伺いたいところです。ほかにもおふたりの、忘れられないゲームタイトルなどあれば教えていただけますか。
ISAOファミコンの『ドルアーガの塔』(ナムコ/ファミコン版は1985年)は攻略本なしでプレイしていたら20階くらいで詰んだり、裏面を初めてプレイしたときに感動したりと、いまなお忘れられません。あとは『イー・アル・カンフー』(KONAMI/1985年)も挙げられますね。
星野ええ!? それはこっちでも意外なんですけど。
ISAOあのゲームも大好きでして。5面ごとにループしていきますけど、152面までプレイしたことがあるんですよ。
――いや、それは本当にすごすぎませんか。
ISAOやられたとしても、そこまでプレイしていると1UPしまくって残機がすごいことになっているので、ゲームオーバーにならないんですよ。一生終わらないと思っていたら、ファミコン本体がオーバーヒートして止まってしまったんです。そのとき、「機械に勝ったな」と思ったことをずっと覚えています。
――それはもう完全に勝っていますね。
星野私はスーファミの時代には、『らんま1/2』の対戦格闘ゲームばかりやっていました。プレイステーションが出るまでに3タイトル出ていましたけど、私は『らんま』の登場人物ではとくにシャンプーが狂おしいほど好きで、シャンプーの衣装の事細かな部分まで覚えています。
初代だとコルセットのようなものを着けていて、しかもぼんぼりを出すあたりがとくにお気に入りでした。
――詳細に覚えておられるんですね。
星野それ以外だと、高校のころに夜を徹してやっていたのが『ときめきメモリアル Girl's Side』(KONAMI/2002年)です。声優の三木眞一郎さんがまた狂おしいほど好きで、三木さんが出演されているイベントにも出向いていました。
――ファンの鑑じゃないですか。
星野うちの場合はゲームはやりすぎないように、という家庭だったのと、恋愛ゲームは親にはあまり見せられないとちょっと思っていたのもあって、夜中にヘッドホンと小さいテレビでこっそりプレイしていました。
振り返ってみると、三木さん最推しの友だちがクラスにいて円満に過ごせたり、栄養の供給をお互いにすることで充実したりもしていましたね。もしそこに保志総一朗さん派がいたら……。
――血の雨が降ったかも知れませんね。『機動戦士ガンダムSEED』(サンライズ/2002年~)より『機動戦士ガンダム00』(サンライズ/2007年~)派だとか。
星野『ガンダム00』のロックオン・ストラトスはニール派かライル派かとか、そういう争いもなくて本当によかったです。
――さっきから星野さん側には、争いの火種ばかりが転がっている気がするのですが。
※※担当ライターより※※
このあと20分ほど非常にディープなゲームの思い出話が続いたのですが、泣く泣くカットさせていただきます。その話題の中に出てきたタイトルだけでも列挙させてください。
『Left 4 Dead』シリーズ(Valve Software/2008年~)
『鉄拳』シリーズ(バンダイナムコエンターテインメント/1994年~)
『スプラトゥーン』シリーズ(任天堂/2015年~)
『電脳戦機バーチャロン フォース』(セガ/2001年)
『サイキックフォース』(タイトー/1996年~)
『レッキングクルー』(任天堂/ファミコン版は1985年)
『タイニー・トゥーン アドベンチャーズ』(KONAMI/1992年)
『リトライ』に込めたゲーマーならではの物語性
――聞けば聞くほど、おふたりともゲームミュージックの申し子にしか思えなくなってきたのですが。
星野ちなみに大人になってからも、『サイキックフォース』の曲を6曲くらい弾くというライブをやったことがありますよ。
ISAOつぎはマイトの曲とかウェンディーの曲とか、誰も何の曲かわからない状態だったよね(笑)。僕のほうでもライブでこの前、『R-TYPE』(アイレム/1987年~)の1面から8面までを全部生演奏でやって、ステージごとにボスの曲と説明も挟んだりしました。イタリアから来た知人が、ぽかーんとしていましたけど。
星野私も参加して、『イースI・II』の曲を全曲やるライブもありましたね。ほかに最近のライブだと、『銃声とダイヤモンド』(SCE/2009年)と『星をみるひと』(ホット・ビィ/1987年)の楽曲で対バンライブというのもありました。私は『銃声とダイヤモンド』の側で出て、新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団の木管三重奏さんが『星をみるひと』側で出て、バチバチのコアコアなバトルをくり広げました。
――それはすごく観たかった……。ここまでコアなおふたりがいままでゲーム音楽制作をされていなかったというのは、不思議でならないんですが。
星野大きなタイトルひとつを担当させていただくのは今回が初ですが、以前にはゲームアプリの『ゴ魔乙』(※)で楽曲を提供させていただきました。最初に私のオリジナル楽曲を使用していただいて、そのあとに書き下ろし新曲も提供させてもらいまして、2.5次元の舞台でもメインタイトル曲を書かせていただきました。
※『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』:ケイブが運営する、スマートフォン向け縦スクロールシューティングゲームアプリ。2015年サービス開始。同社作品『デススマイルズ』のゴシック風世界を舞台に、数多くの美少女キャラを自機としたシューティングパートと、さまざまなストーリーを楽しめる。IPコラボや外部クリエーターとの連携も頻繁に行なっている。
――今回が初かと思いきや、すでにゲーム楽曲に携わっておられたんですね。ではそろそろ楽しいゲーム談義は終わりにして、お仕事のお話をさせてください。
ISAOいやぁ、楽しかったなぁ(笑)。
――まず始めに、今回の『ワイズマンズワールド リトライ』のオファーは、どういう経緯で来たのか教えていただけますか。
星野私がプレイさせていただいている『ゴ魔乙』でコラボさせていただいたとき、ケイブさんにまだコンポーザーの松本大輔さん(※2024年現在はシティコネクション所属)がいらっしゃって、舞台なども含めていろいろとやらせていただきまして。そのあと、その縁もあってか、松本さんからオファーをいただくことになりました。
――オファーが来たとき、最初にどう思われたか伺えますか。
ISAOそれはもう、うれしかったですよ。ゲームの音楽を作れるということになって、僕はこのためにギターをがんばって練習してきたんだという気持ちになりました。
星野『ワイズマンズワールド』というゲームについては知らなかったので、調べてみたらなかなかコアなタイトルということで、それをリメイクってどうなるのかと、最初はとまどいました。でも、もっと調べてみるとシステムが当時は斬新で、攻めたタイトルだったこともわかってきまして、だんだん楽しみになってきました。昔からこんなタイトルがあったんだと、ほかの皆さんにも知ってもらいたいなと。
――ニンテンドーDSのRPGという時点で、一般的にはかなり魔境なんですよね。
ISAO2007年から2011年までアメリカにいたので、DSはちょうどそのころのハードで遊べていなかったですね。当時アメリカだと、Xbox一強だったんですよ。
星野私はそのころソニーハードに傾倒していたので、任天堂ハードからは少し離れていた時期かも知れません。
――では続いてお聞きしていきますが、オファーでご依頼された楽曲数は何曲でしょうか。
ISAO新しく書き下ろした曲については、6曲ですね。それ以外の楽曲では昔のMIDIデータをいまの音源に差し替えたりとか、必要なら耳コピしたり、ギターなどを差し込んだりとか、奇麗にリファインする作業に携わらせてもらっています。
――MIDI時代といまとでは音源も大きく違いますし、ほぼ作り直しなのでは。
ISAOたしかに当時とはかなり違いますから、今風にリファイン&アレンジと、どちらか一方だけではないという形で作業させていただきました。
――リファインや新曲制作にあたり、テーマのようなものは伝えられていたのでしょうか。
ISAO僕らの最初のアルバムの1曲目に“Opening Gambit”という曲が入っていまして、その曲を気に入ってくださったとのことで、メインテーマはこういう世界観でこのゲームに合うバージョンをお願いしたいとオファーをいただきました。これは「来た!」と思いましたね、僕がもっとも得意とする曲作りですので。
星野ほかの曲に関しても、バトルで使いたい曲ですとか、ボスの曲ですとか、曲ごとの具体的な指示をいただきました。
ISAOそのおかげで、もし自分たちがボス曲を作るなら、といった形でわかりやすく作曲に反映できたと思います。
――その今回の作曲作業において、こだわりなどがあったならぜひ伺いたいのですが。
ISAO僕は人生では音楽をやってきた時間よりも、ゲームにつぎ込んできた時間のほうが長いうえにRPGも大好きで、『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』もリアルタイムでずっとやってきました。今回の曲作りに関しては、そんな僕から自然と出てきたものが正解なんじゃないかと考えました。
――たしかに、同じRPG好きにはそれこそが刺さりそうですね。
ISAOボスの曲なら“こう”じゃないかなとか、メインテーマも自然に出てくるものをそのまま書けばいけると思えたんですよ。とくに注意したりこだわったりというわけではないのですが、ゲーマーとしての経験といいますか、そういう湧いてくるものに逆らわずに作らせていただきました。
――生粋のゲーマーだからこそできる作曲方法ですね。
星野私のほうだとラストの戦いの曲で、メインテーマ曲“Re;Try”を拡大して使いながら、別の曲として作り上げたのがこだわりと言えるかなと。ゲームの最初に流れるであろうメロディーが、いちばん最後のボス曲で流れてくるというのは、自分の中で好きなパターンなんです。
――ああー、最終決戦でオープニング曲が流れるやつ! それはもうみんな好きです。
星野そうして最後から最初が円のようにつながっていくということで、メインテーマの曲名にも“Re;Try”と付けさせていただきました。自分の中ではこの最後の曲が、とくに大事な曲になっています。
それと、この最後の曲は「わーっ!」と盛り上がるというよりは、壮大でゆっくりとした、悲しさもある曲にしたいとも思いました。『ワンダと巨像』(SCE/2005年)の大谷幸さんの楽曲も大好きでして、その最後の静かすぎる嵐の音と、わずかなコーラスの音だけが響くシーンのような、コーラスワークの雰囲気にさせていただきました。ぜひ、これまでの旅を思い出しながらプレイしてほしいです。
――『ファイナルファンタジーX』の“ザナルカンドにて”みたいな雰囲気ですね。
ISAO『北斗の拳』アニメの後期OPで“SILENT SURVIVOR”をバックに強敵(とも)が浮かぶ感じかもしれない。
――つい世代限定のたとえが続いてしまいますね……。コンシューマーゲームの楽曲制作は初ということで、苦労された点などもあったのでしょうか。
ISAOありましたね。まず、量が膨大でした。ゲーム系のお仕事では当然なのかもしれませんが、ここまでたいへんなのかと驚かされました。あと、リファインのために原曲を耳コピするにあたって「間違っちゃいけない」とか、自分の中で妥協することを一切許しちゃいけないといった意識が細部にまで働いてたいへんでした。
――リファインやアレンジならではのプレッシャーですかね。
ISAOあと、メインテーマ“Re;Try”は生バンドでレコーディングさせていただいているのですが、ふだんならあまり気にしないドラムの音なども若干気になってしまって何度かテイクしてもらったり、こだわりが強くなる分だけメンタルを強くしないと、というたいへんさがあったと思います。
――ゲーム以外の楽曲の制作とは、やはり大きく違うものなのでしょうか。
ISAOこれまで制作してきた楽曲にももちろん責任感はあるのですが、自分を育ててきてくれたゲームというものに対峙したときに、気合いはいままで以上に入れないということで身構えてしまいました。これを年中やっているコンポーザーさんのことは、改めて尊敬しました。
――故郷に錦を飾るような側面もあるでしょうし、重圧は避けられなさそうですね。
ISAOたしかに。ゲームで始まった自分が、やっとゲームに貢献できたかなという気持ちはありますね。
星野私のほうでは新規の作曲のみ担当させていただきましたが、“受け入れてもらえるのか”という不安はいまもまだあります。そういった想いから試行錯誤して、バトル曲などは何回か作り直しています。
ISAO元の作品をプレイしている人に関して言えば、オリジナルにはどうしても勝てないだろうからね。
星野ゲームをやってきたからこそ、自分たちでもよくわかっているんですよね。あのときプレイしたときに聴いた、あの曲が好きだったという想いがある人に、新しい曲をどれだけ受け入れてもらえるかとドキドキしています。
――その流れでお聞きしたいのですが、そうした想いを抱えている人も含め、本作でユーザーの皆さんにこの曲をとくに聴いてほしい、という曲を1曲挙げるとしたらどの曲になりますか。
ISAOそれはやはり、メインテーマの“Re;Try”になりますね。主題曲になりますし、ゲームのテーマである“崩壊”と“魔法”を音でどうにか再現できないかと考えたときに、Bメロにあたる部分がクロマティック(※)の旋律になっているのですが、これは“スペリング”(※)なんですよ。ここが魔法(スペル、呪文)のイメージになっています。
※クロマティック:半音階の音を出せる一部楽器の総称。転じて、ほかの楽器において半音を用いる手法や、本来半音が出ない楽器で半音を生み出すギミックのことも指す。
※スペリング:“シ”の音を半音上げて“シ#”にすると“ド”と同音になるなど、楽譜上の階名やコードでは表記が異なるが実質的には同じ音である部分を分析・解釈する工程。
※“Re;Try”は動画内、2分47秒ころから
ISAOサビに入る前のパートも、魔法を唱えているようなスケール(一定の順番で音を並べた旋律)にしています。『ドラゴンクエスト』で呪文を唱えたときに鳴る、あの効果音のイメージですね。効果音なのですが、フレーズとしてつぎのサビに持っていけるんです。
――ああー、あの口頭で再現するのが難しい効果音。
ISAOそこから最後の部分まで、希望に満ち溢れた戦いのイメージが続くのですが、サビのところで上がっていきながらも怪しい雰囲気も少しある葛藤のような部分もあり、そのあとラストでいきなりどーんと落ちて、ダークになるんです。“最後には崩壊する”というイメージを、楽曲の最後に持っていきました。
――なるほど、曲自体にRPGのような物語性があるわけですね。もう一度聴いてみたらおもしろそうだし、印象が大きく変わりそうです。
絶大なゲーム愛が生む音楽に乞うご期待
――実際にゲームの楽曲制作に本格的に打ち込んでみて、改めて気付けた点や、発見できた点などはありましたか。
ISAO短い曲をループする場面が多いので、たとえば1分20秒のあいだにすべての要素を入れなくてはいけなかったりしたのもたいへんでした。ゲームの音楽コンポーザーの皆さんは、そういう技術にも長けているのだと勉強になりました。
星野私たちが曲を作ろうとすると、いろいろな要素を入れたくてどうしても長くなってしまうんです。そこで1分前後の尺を決めてループさせる、だけどその中だけでも完成されている状態で、いろいろな表情を見せる曲を作るというのは、いままで意識したことがない体験でした。
――短い時間を意識して作るというのは、確かにゲーム音楽ならではですね。
星野時間を意識して作るということに気付いてからは、『ゴ魔乙』の曲などもそう意識して聴いています。だいたい1ループと半分くらいでボス戦に移行するようになっているんだ、とか。
――学びも得られたところで、今後もゲーム音楽制作に携わるとしたら、どんなジャンルやタイトルに携わってみたいと思われますか。
ISAO僕は『R-TYPE』楽曲のカバーをライブでやらせていただいたように、シューティングゲームも大好きでして。そういうジャンルの曲も作ってみたいですね。あとは夢がかなうなら、やはり『イース』ですよね。
――続編がいまなお出続けている、現役バリバリのシリーズですからねぇ。途中から参加するのは、たしかに難しそう。
ISAOシティコネクションさんの前で言うのもなんですけど、ギター人生のきっかけをくれたのが『イース』ですからね。もしその中で自分が楽曲に携わることができたら、もう思い残すことはないでしょうね。
星野『イース』のカバーを演奏するライブのときは、必ず冒頭でISAOさんは「ファルコム!」って言いますからね。
――めっちゃ訴えかけているじゃないですか。
星野私はいま自分でプレイしているゲームに、自分の楽曲を使ってもらえたらうれしいですね。もちろん『ゴ魔乙』もまたできたらいいと思いますし、『スプラトゥーン』のフェス曲とかに追加していただいたらうれしすぎます。soLiの楽曲には、フェスをイメージした曲もありますし。
――『スプラトゥーン』だと、ヴァイオリンやチェロを使った楽曲もありますしね。シーズンごとにイメージもがらりと変わりますから、マッチするチャンスはあるのでは。
ISAOサーモンランの曲とか、チェロの変調子ばっかりでめっちゃカッコイイですよね。
星野ヴァイオリンなら、ここに! いますよ!
――青山テルマさんかな。では続いて、ちょうどシティコネクションの関係者さんも同席されていますし、リメイクしてほしいタイトルなども挙げていただけますか。
ISAO調べてみたら、してほしいタイトルはすでにけっこうリメイクされていたんですよね。『フォーメーションZ』のリメイク(『FZ : Formation Z』)の初報とか、「来たよ!」って拍手喝采でしたし。
ただ、ひとつだけまだリメイクされていなくて、リメイクされたら延々とやるだろうというタイトルがありまして。『バンゲリング ベイ』(※)です。
※バンゲリング ベイ:日本ではファミコン版がハドソンから1985年に発売。見下ろし視点で攻撃ヘリを操作し、全方位に任意スクロールできるシューティングゲーム。空母での修理や補給の概念があるほか、自軍の空母を撃沈されると即座にゲームオーバーになるなど、非常に高難度かつ独特なタイトルだった。
――ここに来て、さらにとんでもないタイトルが出てきましたね。
ISAOあんな鬼畜なゲームは、当時ほかにはなかったと思います。小学校低学年のときに、100時間くらいやり続けて2面に行けた時点で感動しましたから。
――では続いて、星野さんのほうではいかがでしょう。さすがにもうこれ以上濃いタイトルは出ないとは思うのですが。
星野私は『ビブリボン』(※)もすごく好きでして。
※ビブリボン:1999年にSCEから発売されたプレイステーション用タイトルで、開発は『パラッパラッパー』などを手掛けた七音社。プレイステーションに音楽CDをロードさせることで、その曲に合わせたステージが生成されるリズムアクションゲーム。
――ここに来て、さらにレアなタイトルが出てきましたね。
星野『ビブリボン』にブラックビスケッツ(※)さんの『Timing』のCDを入れて、ずっとプレイし続けていたんです。最初に買ったJ-POPの音楽シングルでしたから。
※ブラックビスケッツ:日本のバラエティー番組“ウッチャンナンチャンのウリナリ!!”から誕生した音楽グループ。同番組から誕生したポケットビスケッツのライバルグループとして登場し、1998年発表の『Timing』は代表曲として人気を博した。
――いまならMP3データを読み込ませる形式で、スマホなどでも作れそうではありますね。では名残惜しいですが、そろそろ最後に読者の皆さんに向けてメッセージをいただけますか。
ISAO『ワイズマンズワールド リトライ』の楽曲制作というお話をいただいたときには、僕自身がゲームにつぎ込んできた人生のご褒美だと感じました。そこから一生懸命できる限りの楽曲制作をやらせていただきまして、ゲーム自体のシステムやストーリーなどと曲が合わさってこそ得られる楽曲のクオリティー、相乗効果も打ち出せたと思っています。
ゲームのおもしろさを楽曲でブーストし、また逆にブーストしてもらえるような楽曲として作らせていただきました。僕ももちろんプレイさせていただきますので、皆さんにもまずはゲーム自体をいっしょに楽しんでいただければ幸いです。
星野ゲームが好きで、ゲームに救われながら成長してきた身としては、発売前と言うこともありますが、いまだに自分の音楽がゲーム機などでプレイできるゲームから流れてくるということを信じ切れていません。ここまできてドッキリとかもあるのではないか、という状態なのですが、それに負けじと楽しみにしている気持ちもあります。
発売日も近づいてさらに楽しみが募るのももちろんですが、原作の『ワイズマンズワールド』を知らなかった分、まったく新しいゲーム、しかも久々にRPGをプレイできるということでもあって、楽しみでしかありません。発売後はぜひいっしょにネットなどでも盛り上がりや情報を共有しつつ、楽しめればと願っています。
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