ドイツのSlow Bros.による『Harold Halibut』(ハロルド ハリバット)は、ストップモーションアニメのような独特な表現が目を引くアドベンチャーゲーム。本作のレビュー版をプレイしたので、その内容をご紹介しよう。
なお本作の対応プラットフォームはプレイステーション5/Xbox Series X|S/PCで、2024年4月16日に配信予定。またXboxとPCのGame Passにも対応する。ゲームは日本語字幕&テキストでプレイ可能だ。
手作りの味のある造形物が動き回る、どこか懐かしくて新しい映像表現
先に書いたように、本作の最大の特徴は東欧のストップモーションアニメのようなアナログな温かみのあるグラフィックスタイルだ。手作りの味のあるキャラたちが優しい光に照らされながら動き回る様子は非常に美しい。
キャラやセットの原型は実際に手作りされているので、製作に10年以上かかったというのも納得だ。しかし、本作で実際にやっているのはストップモーションアニメの方法そのものではないのがさらなるポイントとなっている。
ストップモーションアニメでは通常、すべてをコマ撮りして映像化を行う。それに対して本作では、すべてのモデルを一度スキャンしてわざわざ3Dデータに落とし込み、ゲームエンジンのUnityでリアルタイムの3Dグラフィックとして描画しているのだ。
造形物を作り上げてカメラで撮影するという部分までは一緒なのだが、このように手間をかけて造形物を3Dデータ化することによって恩恵を受けているのが、ゲームとしてのリアルタイム性とライティングだ。
Four days until Harold Halibut launches on PC, PS5, and Xbox X|S!!
In 2019, we took these progress pics of our handmade models. You also get a peek into the 3D scanning process https://t.co/P8VDsppBYS
— Harold Halibut out April 16 (@HaroldHalibut)
2024-04-13 07:32:14
というのも普通のストップモーションアニメの方法だと、その性質上カメラまわりの演出が撮影時点でほぼ固定されてしまうし、プレイヤーに自由に操作させるようなインタラクティブ性も出しにくい(※当初はポイント・アンド・クリック型のアドベンチャーゲームにすることも検討したらしい。このあたりの技術的な背景はUnity公式サイトの紹介記事でも少し触れられている)。
でもこの方法なら、実写に見えるように描画のシステムを組み上げさえすれば、あとは普通の3Dゲームと同じようにプレイヤーの操作に合わせてカメラが動いたり、ライティングが変わったりしてもオーケー、というワケだ。
そしてこの映像表現は中盤以降、色とりどりの光が照らす“とある場所”が出てくるようになると特に威力を発揮し、それが単に美しく印象的だけでなく、本作の物語のトーンともマッチしている。
異星の海中で静かに暮らす、奇妙で優しい人々の物語
さて本作の舞台は、地球を遠く離れた異星の海に沈む宇宙植民船“フェドラ1”。かつてアクシデントにより不時着したこの船は、すでに50年以上を水の中で過ごしていた。
空は遠く、半ば目的を失いながら過ぎてゆく日々。主人公のハロルドは、そんなフェドラ1で暮らす人々の中でもひときわパッとしない便利屋だ。
ゲームは主人公ハロルドと彼を取り巻く人々の物語を体験するのが圧倒的にメインの内容で、一部ミニゲームなどもあるものの、ゲーム的な選択による分岐やチャレンジはほぼない。
たとえば序盤は再出発するための方法を模索する科学者マローの助手として雑用をこなし、一日の終わりにラボの下の小さな自室で眠れば終了だ。
それぞれの雑用の中身は“おつかいオブおつかい”という感じで、指定された場所に行ったり人に会ったりすればほぼ完了。肝心の問題はハロルドの行動とは関係ない部分で解決していたりもするが、そんな哀愁のこもったオフビートなおかしみこそが本作の味なのだ。
そしてこの物語が、先に書いたような、優しい光に照らされたアナログな温かみのあるグラフィックにハマる。
フェドラ1の人々は、それぞれヘンなこだわりはあったりするけど根のいい人ばかり。物語上で問題を引き起こす人たちですら、どこか憎めない連中だ。そんな彼らもそれぞれ悩みを抱えて生きていたりするのだが、ハロルドは彼らの話をじっくり受け止める。
子供たちにすら軽くナメられている節があるものの、彼にはそういった優しさがある(柔らかなトーンの英語ボイスも効いている)。そしてこのレトロフューチャーなSF世界で、そんな彼にこそ起きた奇跡がやがてフェドラとハロルドの運命を大きく変えていく。
なかなか物語が大きく動き出さずにスローテンポに進んでいく物語は、ともするとダルく感じる部分かもしれない。クリアーまでは公称12時間、筆者の実際のプレイ時間でも11時間かかり、ついでにゲームサイズも51GBとかなりデカい(これは高解像度なテクスチャーに加えて、一部カットシーンが映像で収録されていることもあると思う)。
小気味のいい映画的なテンポを期待するのではなく、1シーズンたっぷりかけてスローな物語を描いていくアニメシリーズを体験するつもりでプレイするといいだろう。
ローカライズについては自然に訳されていると思うが、レビュー版では訳が反映されていない場所が数カ所あったり、終盤の重要なフラッシュバックシーンで字幕が表示されていない場所があったのは気になった。製品版か早めのアップデートで修正されるようお願いしたい。