『PUBG』アジア大会に見る松木安太郎ポジションの大切さ

公開日時:2017-11-24 22:10:00

 『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』(以下、PUBG)のアジア大会“PUBG ASIA INVITATIONAL at G-STAR 2017が閉幕して5日が経った。感想でも書いてみようか。

 大会は17日~19日の3日間に渡って開催。G-STAR 2017全体を取材した編集部の坂本ビス太には「なるべく見に行っておくれ」とお願いし、僕は配信を見て速報記事を書いたりした。

01_DSC_7029
02a_DSC_7042
02b

現地で坂本ビス太が撮った写真と配信画面のキャプチャー画像で構成しています。

■1日目(Duo)
『PUBG』アジア大会DUO戦で日本チーム“Buhidou Gaming”が2位入賞!【G-STAR 2017】

■2日目(Solo)
『PUBG』アジア大会Solo戦は韓国勢の圧勝! 日本チームではTeam DestroyのArcccccccc選手が健闘【G-STAR 2017】

■3日目(Squad)
『PUBG』日本のSunsister Unknownがラストでドン勝! アジア大会Squad戦を制したのは!?【G-STAR 2017】

(僕は1日目と3日目のやつを書きました)
 

03_DSC_7103

Squad最終戦でドン勝を達成し、きれいなお姉さんからインタビューを受けるSunsister Unknown。

 おもしろかった。日本勢の善戦に一喜一憂し、ときにはアジアの豪腕にため息をもらす。いち観客として楽しんでしまった。Duo戦が行われた17日は金曜日だったため、編集部でひとり「うおー!」とか言ってた。

 大会に参加したのはアジア予選を突破した19チーム(1チームがビザ問題で不参加)。日本からも4チームが参加した。結果を見れば、日本勢の最高順位はDuo戦で2位、Solo戦で8位、Squad戦で5位。アジアの強豪を相手に大健闘である。

 しかも、大会初戦と最終戦で日本勢が見事にドン勝(優勝)。最初と最後の盛り上がりの中心に日本人がいたのだ。誇らしい。

04_DSC_7034

 
 本大会を観て、あらためて『PUBG』は“観戦が(も)楽しいゲーム”だと思い知らされた。基本システムを知ってさえいれば、FPSやTPSに不慣れな人でも、起きていることを理解しやすい。

【『PUBG』の基本システム】
・最大100人で生き残りをかけて戦うサバイバルFPS/TPS。
・武器やアイテムは現地調達。物資の配置はランダム。

 覚えておきたいのは、とりあえず上記の2点。

 建物内をアクティブに動き回っていれば“武器を探している”、窓際をちらちら見ていたら“敵を警戒している”、動きを止めて銃を構えたら“敵の位置に気づいて待ち構えている”など、選手が狙っていることが何となくわかる。

05_124

配信の視点だと敵の位置が見えるのでスリリング。

 加えて“時間経過とともにダメージゾーンが迫ってくるため、序盤のうちに車やバイクなどの足を確保したい”などの定跡を知っていれば、ベターではある。とはいえ、実況・解説者が話してくれることを「へぇー、そうなんだー」くらいの気持ちで聞いていれば問題ない。

 あとは応援するチームや選手がいるとのめり込める。国際大会なら日本代表を応援すればいいだろう。

06a
06b

“車なら安全に高速移動できる”と認識しているプレイヤーは多いと思うが、世界の強豪相手だと気は抜けない。がんがん当ててくるのだ。

 “理解できるからおもしろい”というのは、観賞(鑑賞)するコンテンツ全般に共通する話である。難解な芸術作品は見る人を選び、大衆的なお笑いではあるあるネタが鉄板。そういうことだ。

 “観戦者の理解”を補うために、実況・解説者がいる。本大会では実況をeyesさん(『League of Legends』キャスター)、解説をSHAKAさん(DeToNator所属)とSUMOMOXqXさん(DetonatioN Gaming所属)が担当した。

07_DSC_7044

日本語配信ブース。前列左からSUMOMOXqXさん、eyesさん、SHAKAさん。後列左からGAMEゆうなさん、えっか。

 eyesさんは『League of Legends』専門だと思っていたのでびっくりした。慣れないタイトルだけに難しかったようだが、そつなくこなしていたのは流石だ。

 SHAKAさんとSUMOMOXqXさんによる解説もよかった。SHAKAさんとは付き合いが長いが、大きな舞台で解説するところは初めて見た。口調と声質が聞き取りやすく、適度に冗談も挟む。自分が言いたいことというより、視聴者(僕)が聞きたいことを言ってくれているように感じた。

08

 
 試合の最初の注目ポイントはキャラを乗せた飛行機の航路だ。開始早々、駆け引きが始まる。どこで物資を探すか。車はあるか。付近に降下した敵はいるか。航路が違うだけで、落ちているアイテムがひとつ違うだけで、展開が変わる。

 実況・解説者は選手の初動を見て、一般論と自分の場合を照らし合わせ、展開を予想する。大きな試合では生存を重視するため、中盤まであまり戦闘が発生しないこともザラだ。ああでもないこうでもないと、思考を巡らせる時間が十分にある。わくわくが少しずつ蓄積されていく。

09_DSC_7038

試合後はアナリストが展開を分析。

 一定時間が経過すると、つぎの安全地帯が決まり、そこに向かって少しずつ競技エリアが収縮。時間経過とともにエリアが狭くなるため、交戦が増える。

 人が少ない過疎地が安全地帯に設定されたときは注目だ。全員がそこを目指すので、移動中に自然と接敵する。運命に翻弄されるようにひとり、またひとりと脱落。映画と同じように、誰かの引き金が終盤の盛り上がりのきっかけになる。

 Squad戦の第2ラウンドは手に汗握った。安全地帯が極端に西寄りになったため、海に出て様子を見る選手が続出。陸上での撃ち合いが落ち着いた頃に上陸を開始し、順に倒されていく。ゾンビ映画みたいである。

10
11

★★★松木SHAKA太郎★★★

 『PUBG』の試合は観ていてあまり疲れない。そして、何だかわかりやすく感じる。

 FPSやMOBAは5対5などのチーム戦であることが多い。画面外のことも想定して見ればチーム連携の妙も楽しめる。選手の特徴なんかもつかんでいるのが理想だが、そこまで気を配るのはたいへんだ。

12

 
 『PUBG』は試合の参加人数が多い。情報量も膨大になるはずだが、不思議と気にならない。きっと僕は最初から全体の把握を諦めているのだ。心のどこかで。

 選手の視点、上空からの神の視点、全体マップと、場面は目まぐるしく移り変わる。僕の頭では情報を処理しきれない。だから、難しい部分はカットして、画面上で起きていることだけを漠然と受け止める。それで十分おもしろい。

 試合展開が早すぎないのもいい。プレイヤーが狭い競技エリアに密集し始めると、「もうすぐすごい戦いが始まるぞ」と心構えができる。PCに少しだけ顔を近づけ、目を見開く。そして、呼吸を忘れて画面に集中する。

13a_483
13b_484

 
 試合が進むに従って、実況・解説は熱を帯びていった。日本チームのSunSister Unknownが見事にドン勝を決めたSquad最終戦。残り人数が10人を切ったあたりから仕事を忘れ、いっしょに日本を応援する仲間のように声を張り上げる。

あるあるあるあるある!
当てろ!
まだWeskerがいる! Weskerあああああああ!
頼む!
見えてる! 見えてる!
いけえええええええええええ!
うわああああああああああああああああああ!

 このときの熱狂は本当にすごかった。とくにSHAKAさんのテンションが高い(上記の発言はほとんどSHAKAさんのもの)。サッカーで言うところの松木安太郎ポジションである。

14_DSC_7088
15_DSC_7089

 
 前に某所の配信番組で共演したとき、eyesさんは“実況・解説は、盛り上がりを共有するための装置でもある”と話していた。大きな声を出すことで、そのゲームに詳しくない人にも「歓声を上げるならいまですよ」と間接的に伝える。

 そういう意味では松木安太郎ポジションも大切である。耳から入るSHAKAさんたちの絶叫が僕の興奮を後押しし、引き込まれ、妙な一体感が生まれた。僕はあのとき、間違いなく彼らと肩を並べて日本チームを応援していたのだ。

★★★会心の一撃が存在するFPS/TPS★★★

 思いがけず、SHAKAさん=松木安太郎さんという構図が成立してしまった『PUBG』アジア大会。プロとアマが激突する“天皇杯”のようなeスポーツ大会として、十分な成功を収めたと思う。

 不確定要素の多さは『PUBG』の魅力のひとつ。だからこそ緊張感がたまらないわけだが、「プロがしのぎを削る本気のeスポーツには向かないのでは?」という声もある。一般的なFPSより、圧倒的に運の比重が大きいからだ。

 アイテム運もそうだし、そのとき対峙している敵以外の影響でやられることもある。一発勝負のトーナメント戦なんかとは相性が悪いだろう。とはいえ、運の悪さを知識と経験でカバーするのも立派な技術である。ゴルフだって頻繁に変化する風を計算に入れてショットを打つのがふつうだ。

 本大会もそうだったように、実力を図るなら試合数を増やしてポイント制にするのが落着点だろうか。今後のアップデートでマップが増えていくようなら、日によって使用マップを変え、最終的に獲得ポイントを合算して総合優勝を決めるのもよさそうである。

16_DSC_7188

▲各日の上位3チームには金銀銅のフライパンが贈られた。

 『PUBG』が運に左右されるということは、RPGで言えば“会心の一撃”が存在するようなものだ。最後まで何が起こるか分からないから目が離せない。ぎりぎりのところで会心の一撃が決まったら、ショーとしては最高である。

 PUBG Corp.のCEOを務めるキム・チャンハンさんは、「『PUBG』が一方的にeスポーツを押しつけるのではく、見て楽しいゲームになれば、結果的にeスポーツとして発展していく」と述べている。

※関連記事
『PUBG』の“見る楽しみ”を広げたい――プロデューサーが語るeスポーツへの思い【G-STAR 2017】


 多くの人を引き付けるために、“見て楽しいゲーム”が今後のキーワードになるのは間違いないだろう。配信番組もいろいろな演出が試せそうだ。

 松木SHAKA太郎による応援解説のつぎは、どんなパターンが生まれるのだろうか。楽しみである。

17_DSC_6892

会期中、現地の坂本ビス太から「このカメラマンかっこよすぎない? 圧倒的ラストマンスタンディング感」というコメントともに送られてきた写真。

この記事の個別URL

ファミ通グループでおもにPCのオンラインゲームを担当。企画記事を作るのが好き。
『まいにちがβテスト』は、ミス・ユースケがPCオンラインゲームで遊んだり考えたりしたことをテーマにしたブログです。タイトルには「つねにβテスト時のわくわく感を抱きながらゲームを遊び、実験的な企画もやっていきたい」という意味を込めていると、後付け設定的に考えました。

『PCオンラインゲームのブログ まいにちがβテスト』ブログ