サイゲームスより配信中のiOS、Android、PC(DMM GAMES)対応ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』で、2021年10月20日に新たな育成ウマ娘“マンハッタンカフェ”が実装された。その能力や、ゲームの元ネタとなった競走馬としてのエピソードを紹介する。
『ウマ娘』のマンハッタンカフェ
公式プロフィール
●声:小倉 唯
●誕生日:3月5日
●身長:155センチ
●体重:増減なし
●スリーサイズ:B73、W54、H78影の薄い不思議な少女。人に見えないものが見え、指先で奇妙な紋様を描き、いつも壁際に1人でいる。しかし彼女曰く1人ではなく……常に“お友だち”といるらしい。
コーヒーが好きだが、いっぺんに飲むとお腹が痛くなるため、ゆっくり飲む。
マンハッタンカフェの人となり
オカルト系ウマ娘。本人にしか見えない“あの子”なるお友だちがいるなど、個性派の多いウマ娘たちの中にあってもひときわ強い個性の持ち主だ。ふだんは影が薄いがトレーナーへの愛情はなかなか重いようで、たまにドキッとさせられる。
美浦寮所属で同室はユキノビジン。控え目な性格が合うのだろうか。リアルではユキノビジンがマンハッタンカフェの仔を産んでいる(未出走)。またアグネスタキオンとは同期という関係で、彼女の育成シナリオにもライバルとして登場している。ライバル意識があるのか、彼女に対してだけは態度もかなり辛らつだ。
黒ずくめに黄(金)色のネクタイやワンポイントをあしらった勝負服は、リアルのカフェ軍団のデザイン(黄地+黒襷+黒袖)を反転させたような配色。髪もきれいな黒色で、競走馬のマンハッタンカフェの毛色が全身ほぼ真っ黒だったこと(※)も影響しているのだろうか。また、リアルでの額の“流星”は、ぴょんと跳ねた白いアホ毛として盛り込まれている。
※マンハッタンカフェの毛色の“青鹿毛”は、全身ほぼ黒色であることを指す。全身黒色だと“青毛”となる。マンハッタンカフェ(やスペシャルウィークなど)の父サンデーサイレンスも青鹿毛だった。
“カフェ”の名からかコーヒー党。アニメでもファン大感謝祭で喫茶店を出す準備をするシーンが描かれている(表情も生き生きしていた!)。ただし胃が弱いのでゆっくりと飲むらしい。リアルでは腹腔内腫瘍のために亡くなってしまったので、胃が弱い設定はここから来ているのかもしれない。
マンハッタンカフェの能力
競走馬のマンハッタンカフェの勝ち星はほぼ長距離レースのみだったこともあり、長距離のみの適性がA、戦法は差しのみがAと極端。ただし、適正が狭いのはアオハル杯においては有利に働くだろう(アオハル魂爆発でもらえるヒントが長距離・差しのものになりやすいため)。
成長率はスタミナのみ+30%と極端。こちらも長距離向きだ。また、所持スキルではスタミナイーターの上位であるスタミナグリードに注目。長距離レースでのスタミナデバフは強力だろう。
競走馬のマンハッタンカフェ
マンハッタンカフェの生い立ち
1998年3月5日、北海道千歳市の社台ファームで生まれる。父は日本競馬史上最大の名種牡馬サンデーサイレンス(父ヘイロー)、母はサトルチェンジ(父ローソサイエティー)。マンハッタンカフェは見た目が父のサンデーサイレンスそっくりで、とあるドラマでは“サンデーサイレンス役”として出演していたほどだった。
社台ファームは近年の日本競馬を支えてきた大牧場。同じ牧場に生まれたGI馬には、ウマ娘のモデルになった馬だけでもフジキセキ、エアシャカール、アグネスタキオン、ダイワスカーレット、エイシンフラッシュ、カレンチャンなどがいる。
馬体重は500キロ前後だったがフォルムとしてはやや小柄で、ウマ娘としての設定も身長155センチと、平均よりはやや小さめといったところ。デビュー後にはとんでもない激ヤセをしているように、心身ともに非常に繊細だったようだ。また、性格は父譲りの激しさと母譲りの我慢強さ、そして両親が持つ賢さを備えたもので、体調管理を含めスタッフは気を遣うことが多くたいへんだったものの、騎手にとっては非常に乗りやすい馬だったという。
この気が強いところは、『ウマ娘』でのアグネスタキオンへの態度にも表れている。
マンハッタンカフェの血統
父サンデーサイレンスはアメリカ二冠馬で、種牡馬としても日本競馬史上最高とも言える実績を残す超名馬。マンハッタンカフェが生まれた1998年だけでも、スペシャルウィーク(日本ダービー)、サイレンススズカ(宝塚記念)、スティンガー(阪神3歳牝馬ステークス(現在の阪神ジュベナイルフィリーズ))と3頭ものGI馬を輩出している。
母サトルチェンジは日本人のような名前だが、アイルランド生まれ。ドイツの伝説的名牝Suleika(ズライカ)の牝系に連なる馬であり、近親にはエアグルーヴの同期のライバルだったビワハイジがいる。ビワハイジからは6頭もの重賞ウィナーが生まれており、その1頭がGI6勝馬ブエナビスタ(父スペシャルウィーク)である。
なお、ズライカの牝系はさらに遡りSchwarze Kutte(シュヴァルツェクッテ)が祖となっている。馬名を付ける際はイニシャルを母馬と同じものにする(ただしドイツ国外に輸出された場合はその限りではない)というドイツの馬名ルールにのっとって、彼女から始まる牝系は“Sライン”と呼ばれ数々の名馬を輩出した。
日本でも、上記のブエナビスタのほかソウルスターリング(阪神ジュベナイルフィリーズ、オークス)、シュネルマイスター(2021年NHKマイルカップ)、サリオス(朝日杯フューチュリティステークス)などのGI馬が出ている。
ちなみに、同じくドイツ伝統の血を引くエイシンフラッシュは父がAライン、母がMラインと呼ばれる牝系の出身で、スーパークリークも父ノーアテンションがNラインに連なる血統である。
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またマンハッタンカフェは、3歳上の半兄にオールカマーを勝ったエアスマップ(父デインヒル)が、3歳下の全妹に重賞ウィナーを3頭も生んだマンハッタンフィズがいる。兄の活躍や父がサンデーサイレンスであること、そして自身の持って生まれた身体能力の高さが評価され、マンハッタンカフェはセレクトセール(セリ)で1億3000万円もの高額で落札された。
そのエアスマップはマイル~中距離戦線(1600~2200メートル)で活躍したが、マンハッタンカフェは新馬戦以外、勝ち星はすべて2500メートル以上と極端な長距離適性の持ち主だった。なお、サトルチェンジからはその2頭以外活躍馬は出ていない。
マンハッタンカフェの現役生活
先述したように生まれたころから身体が弱く、牧場関係者も厩舎関係者も晩成タイプと見ていたマンハッタンカフェ。とはいえ、社台ファーム生まれの同期の中では飛び抜けて優れた馬体をしており、ダービーを狙える器とも期待されていたようだ。そのため、管理していた小島太調教師はかなりプレッシャーがあったという。
3歳(クラシック級:2001年)
2001年1月29日、鞍上に生涯の相棒、蛯名正義騎手を乗せ、東京競馬場芝2000メートルの新馬戦でデビュー。このレースでは2番人気3着に終わるが、2戦目で早くも初勝利を挙げる上々の滑り出し。
そしてクラシック戦線に間に合わせるべく、3戦目は弥生賞に出走。同期の大本命アグネスタキオンに挑戦する形だったが、なんと馬体重を20キロも減らしてしまっていたマンハッタンカフェは、勝ったアグネスタキオンから1秒1も離された4着に終わる。
翌月、ダービーへいちるの望みをつなぐべく挑んだ4戦目、アザレア賞ではさらに16キロ減。デビュー戦からじつに42キロ減である。ムダな肉が絞れたという次元の話ではなく、11着と惨敗してしまう。やむなくダービーをあきらめ、立て直しのため放牧へ。
4ヵ月後、放牧から帰ってきたマンハッタンカフェの体重はなんと46キロ増! 数字だけ見るととんでもない増量で心配したくなりそうだが、身体ができてきた彼を競馬ファンもしっかりと評価し、札幌競馬場2600メートルの富良野特別を1番人気で快勝する。続く同コースの阿寒湖特別も勝ち、“夏の上り馬”として注目されるようになる。
※2021年10月20日14時40分追記:阿寒湖特別の記載に誤りがありましたため修正しました。
次戦は菊花賞の優先出走権を手に入れるため、セントライト記念へ歩を進めるも4着に敗れてしまう。賞金の加算もできなかったが、この年の菊花賞はフルゲート18頭に対して15頭しか出走しなかったため、結果的に問題はなかった。なお、蛯名騎手が騎乗しなかったのは4戦目のアザレア賞(河内洋騎手)とこのレース(二本柳壮騎手)だけである。
日本の競馬ファンは“伏線”が大好きである。たとえば、前回のコラムで紹介した2006年カワカミプリンセスのオークスは、“デビュー以降史上最短のGIホース”ということで話題になり、1997年マチカネフクキタルの菊花賞も、神戸新聞杯、京都新聞杯と前哨戦2連勝で人気を集めた。
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そしてマンハッタンカフェ。菊花賞では6番人気で出走することになる。前哨戦で勝ちを逃していたこともあり、条件戦連勝で好調だろうと見られていたが、それでは伏線が弱い。そのため、あくまで“穴”としてしか評価されていなかったのだ。しかし実際はレースに伏線など関係なく、実力がすべて。とくに“強い馬が勝つ”菊花賞ならなおさらである。
レースは11番人気マイネルデスポットが絶妙なペースで逃げ、本命馬たちが最後の直線で外に膨れるのを尻目にまんまと逃げ切ったか……と思われたが、内側の経済コースをヒタヒタと進んできたマンハッタンカフェが、ものすごい末脚を見せてゴール直前で差しきる! 人気のダービー馬ジャングルポケット(この後ジャパンカップを制する)は大外を回らされたロスが響いて届かず4着に。
2001年 菊花賞(GⅠ) | マンハッタンカフェ | JRA公式
GI馬となり、意気揚々と年末の有馬記念へ向かうマンハッタンカフェ陣営。相手は世紀末覇王テイエムオペラオーや、その好敵手として活躍してきたメイショウドトウ、ナリタトップロードら歴戦の強者たちである。
そのメンバーの中3番人気に支持されたマンハッタンカフェは菊花賞同様に中団に控えて進む。しかし今回の馬場は、使い込まれて内側が荒れた年末の中山コースだ。インを突いた菊花賞とは違い、第4コーナーでスッと外に持ち出し、メイショウドトウに馬体を併せるようにして一気に追い込みをかける。メイショウドトウや、さらにその後ろにいたテイエムオペラオーには往年の力はなく、その影を踏むことすら許されなかった。
2001年 有馬記念(GⅠ) | マンハッタンカフェ | JRA公式
見事に2冠を達成し、世代交代を高らかに宣言したマンハッタンカフェ。アグネスタキオン、ジャングルポケットらを擁する“1998年生まれ世代”の強さは本物だった。
4歳(シニア級:2002年)
新馬戦を除き、2600メートル、2600メートル、3000メートル、2500メートルと長距離ばかりで勝ち星を挙げてきたマンハッタンカフェ。そんな彼の古馬初戦は有馬記念と同じ、中山競馬場芝2500メートルの日経賞である。
じつはこのころ、マンハッタンカフェの蹄の状態が悪化しており、その影響もあってか日経賞は1番人気ながら6着に敗れてしまう。特殊な蹄鉄(『ウマ娘』でも靴に付いている)を装着して何とかやりくりしていたが、天皇賞を前にさらに悩ましい事態に……。小島太師もそのことを隠すため、マスコミを避けるようになる。この一連の流れは、ウマ娘マンハッタンカフェのミステリアスな雰囲気にも影響しているかもしれない。
迎えた天皇賞(春)。世間ではマンハッタンカフェと同期のジャングルポケット、そしてテイエムオペラオー世代の“3強”ナリタトップロードとの三つ巴の戦いと見られていた。3頭はお互いをマークし合うように中団でレースを進めていく。
第4コーナーに入り、最初に仕掛けたのは3番人気ナリタトップロード。外から進出を開始する先輩を横目に、2番人気マンハッタンカフェは内側で機をうかがう。そして最後の直線に入るところで視界が開けると、すかさずステッキ(ムチ)を入れ、スパートを開始。ナリタトップロードはジリジリと離され、ゴール直前で1番人気ジャングルポケットがようやく追いすがるも届かない。まさに王道の勝利だった。
2002年 天皇賞(春)(GⅠ) | マンハッタンカフェ | JRA公式
菊花賞から有馬記念、天皇賞(春)というステイヤーの王道ローテーションを連続して制したのはシンボリルドルフ以来で、その後も出ていない。ナリタブライアン、オルフェーヴルら三冠馬でもなし得なかった偉業なのである。GIではついに1番人気に支持されることのなかったマンハッタンカフェだが、真の最強ステイヤーは誰なのかを結果で示してくれたのだった。
そして休養を挟み、秋は国内ではなくフランスの凱旋門賞を目指すことに。休養中は550キロ前後まで体重を増やしていて関係者もヒヤヒヤしていたそうだが、フランスに到着して調教を始めるとみるみるうちに身体も絞れ、いつもの馬体に。前哨戦を経ないぶっつけ本番ながら、スタッフのモチベーションも高かった。
しかしレース中に“不治の病”屈腱炎を発症していたマンハッタンカフェは、見せ場を作ることさえもできず13着に敗れる。そして引退することとなった。同期の皐月賞馬アグネスタキオン、ダービー馬ジャングルポケット、ジャパンカップダート(現チャンピオンカップ)を制したクロフネらも同様にケガで引退を余儀なくされており、“無事是名馬”という言葉の重みを痛感させられる。
生涯成績12戦6勝、重賞3勝(うちGI3勝)、獲得賞金は5億円強という堂々たる数字。新馬戦以外の勝ち星はすべて2500メートル以上の長距離、GIII未出走、GII未勝利にしてGI3勝、さらにGIでは1番人気での出走経験なし(控え目な性格はここから来ているのだろう)という珍記録も並べたマンハッタンカフェだが、伝説に残る1頭であったのは間違いない。
引退後のマンハッタンカフェ
引退後、2003年から種牡馬に転身したマンハッタンカフェ。このコラムに登場するウマ娘のモデルたちは種牡馬時代はなかなか結果を残せなかった馬が多いのだが(※)、マンハッタンカフェは2009年にリーディングサイアーを獲得するなど、種牡馬としても大活躍した。
※編注:日本では長らく内国産(日本産)の種牡馬が苦しむ状況が続いていたため。戦後からずっと輸入種牡馬が強かったが、サンデーサイレンス産駒のフジキセキ(産駒デビューは1998年)が出たあたりから潮流が変わり、現在では内国産種牡馬が主流となっている。
ほかのサンデーサイレンス系種牡馬は特徴がハッキリしていた馬が多かったが、マンハッタンカフェ産駒は距離や馬場(芝、ダート)を選ばないところがあり、牧場からの人気が非常に高かった。残念ながら後継種牡馬には恵まれなかったが、5頭ものGIホースを輩出している。
もともとの体質の弱さもあり、2015年に腹腔内腫瘍のため17歳でこの世を去った。NHKマイルカップを勝ったジョーカプチーノが後継種牡馬として活躍している。
著者近況:ギャルソン屋城
リアル競馬&競馬ゲームファンでもある、週刊ファミ通『ウマ娘』担当ライター。誕生日:9月5日、身長:168センチ、体重:微増(秋の味覚堪能中)。
好きな馬はミホノブルボン、ツインターボ、タップダンスシチー、デュランダル、スイープトウショウ、ドリームジャーニー、ハープスターなど。どこかで逃げ好きが追込好きになっている……。