はじめまして。Bucci(ブッチ)と申します。おそらくほとんどの方はご存じないと思いますので、まずは自己紹介をば。

 もともとはふつうの『カウンターストライク:グローバルオフェンシブ』(CS:GO)のプレイヤーでした。国内やアジアの大会で何度か入賞経験があり、2022年からは“HoneyCombSCUP”というコミュニティ大会を開催。現在までに10度開催させてもらっています。

どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー
『CS:GO』はテロリスト(攻撃側)と特殊部隊(防衛側)に分かれて戦うオンラインFPS(2012年8月21日発売)。試合開始時に付与されるお金で武器や弾薬を購入するのが特徴。

 HoneyCombSCUP第9回大会 決勝戦の試合中は夢のような時間でした。2023年5月13日に“DreamHack Japan 2023 Supported by GALLERIA”内で開催する機会をいただいたのです。会場はなんと幕張メッセ。

 DreamHackはスウェーデンで生まれた歴史あるゲームイベント。昔から『カウンターストライク』大会の併催が定番で、『CS:GO』プレイヤーにとって、そのステージは憧れの場所です。国内3年ぶりのオフラインマッチは、いくつかのメディアでも取り上げていただきました。

どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー
どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー

 今回は、ファミ通.comさんから「その軌跡を書いてほしい」と依頼を受けたので、恥ずかしながら筆を執りました。少しでも『CS:GO』のことを知っていただけたら幸いです。

大会シーンが途絶えるのは嫌だった

 
 自分が始めたHoneyCombSCUPは、参加してくださる方々のおかげで、国内『CS:GO』プレイヤー内では広く認知された大会となっています。ですが、ただの代替大会として開催し始めた当時の自分は、まさかオフラインで開催できるほどの規模になるとは露とも思っていませんでした。
 
 『CS:GO』は世界的にはトップクラスの人気を誇るFPSです。日本で爆発的な人気があるゲームとは少し違いますが、ファンから愛されていることは間違いありません。そんな『CS:GO』は少なからず『VALORANT』の影響を受けたと思います。

 『VALORANT』リリース直後の日本の大会シーンは、 MamE氏とnoppo氏(※)が中心になって開催した“SUNRISE CUP”のみという状態でした。“5E Arena”という外部対戦プラットフォームと提携した大会です。

※MamE(@mameloff_csgo):多くの『CS:GO』大会で解説を務めるプレイヤー。元『PUBG』プロリーグ“PUBG JAPAN SERIES”運用責任者。

※noppo(@noppo_cs):『カウンターストライク』のプロになるため、2007年8月に強豪国スウェーデンに単身で渡ったレジェンド(当時はまだ10代)。

どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー
SUNRISE CUP公式サイト。

 SUNRISE CUPには多数のプレイヤーが参加し、開催頻度は月1回。定期開催ということもあり、『CS:GO』プレイヤーにとっては学校の定期テストのよう。腕試しの場としてもってこいの魅力的な大会でした。プレイヤーとして参加していた自分にとっては、モチベーションを保つことのできた大きな要因でもあり、感謝してもしきれません。

 そんなSUNRISE CUPですが、あるとき2022年夏をもって終了することが示唆されました。国内の大会シーンの現状を理解しているプレイヤーたちは焦燥感と危機感を抱くことになります。

(あれ? 日本でもう『CS:GO』大会って開かれないのかな……)

 当時は『CS:GO』出身のプレイヤーが『VALORANT』で華々しく活躍し、賞賛を浴び始めた頃。彼らが力を磨いたゲームをプレイしている身としては、喜ばしい反面、どこか寂しさと嫉妬を感じていたのも事実です。

 ZETA DIVISIONの活躍や『PUBG Mobile』、『ブロスタ』といったモバイルゲームの盛り上がりもあり、日本のeスポーツはテレビなどの大きなメディアでも取り上げられ、SNSでもeスポーツに関わる人たちの喜びを如実に感じられるようになりました。その一方で、取り残されているような現状を悔しく思っていたことをよく覚えています。

 この状況で、さらに国内唯一の大会が終了してしまっては、いまもただ「このゲームが好きだから」という理由で続けているプレイヤーたちのモチベーションに関わります。何よりも、日本でも長い歴史のある『カウンターストライク』というゲームの大会シーンが途絶えてしまうのは嫌でした。

どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー
HoneyCombSCUPの様子。

 「誰かがやってくれるかな?」と周囲を見渡しても、大会の開催経験のある方は目まぐるしく動くeスポーツ業界で日々忙殺されています。とてもじゃないが『CS:GO』に構っている余裕はない……むしろいままで多忙の合間を縫ってSUNRISE CUPを開催してくれてくださったことが十分ありがたく、これ以上は望むべくもない状態でした。そこで、

 じゃあ、俺が開くか。

 と、HoneyCombSCUPを始めました。

右往左往する中で届いた1通のメッセージ

 とはいえ、自分は知名度もなければ、交友関係が広いわけでもなく、専門家とのコネクションもない、ただの一般プレイヤーです。SNSで「Bucciって奴ホントに『CS:GO』昔からやってた? 誰も知らないんだけど」 なんて言われたこともありました(笑)。

 当然、大会運営のノウハウもなく、賞品も中学生のお小遣いレベルでしか用意できず。賞品や試合用サーバーなど、大会としてのクオリティをどう担保しようかと悩み続けました。

 そんな折、タイミングよく“Tonamel”のキャンペーンが目に留まりました。Tonamelは大会開催用のプラットフォームで、一定数以上の参加者がいれば賞品提供を受けられたのです。さらに、サーバーに関しては第1回大会ではふろー氏(@FlowingSPDG)に助けていただいたおかげで、何とか体裁を整えることができました。

 このときから、HoneyCombSCUPは一介のコミュニティ大会として幸運なスタートを切れたんだなぁとしみじみ思います。

どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー
eスポーツ情報サイト“Negitaku.org”に情報を載せていただくなど、HoneyCombSCUPは多くの人に助けられています。

 ふろー氏が多忙だったため、第2回からは自分でサーバーを用意することになりましたが、参加者はじわじわ増えていきました。

 大会参加者のアンケートからフィードバックを得て、回を重ねるにつれて少しずつ大会運営を改善する試みがうまくいき、大会の満足度が上がったからだと自負しています。

どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー
Tonamelより。第9回からはFaceitでの開催となり、第9回、第10回大会でそれぞれ約30チーム180名の参加がありました。チーム数は横這いに見えますが、MIXでの参加が少しずつ減り、チームでの参加が増えてきています。

 参加者は一般の方から元プロプレイヤー、海外プロチームまで。SUNRISE CUP終了後、唯一となった日本の大会として、少しずつ手ごたえも感じるようになりました。

 ですが、順風満帆だったかと言えば嘘になります。大会主催者という目線から日本の『CS:GO』シーンの厳しさを実感するようになり、ひとりのプレイヤーとして楽しく遊んでいた頃の不安がじわじわ大きくなり始めます。そんなとき、1通のメッセージからHoneyCombSCUPに思いもしない転機が訪れました。2023年2月13日のことです。
 
 メッセージの送り主はESL Japanのプロジェクトマネージャーでした。

「5月13日に幕張メッセで開催される、東アジアでは初の開催となる大型イベント“DreamHack Japan”で『CS:GO』をやりたい」

 ESLとは“Electronic Sports League”の略で、世界最大規模のeスポーツ団体。本家DreamHackの『CS:GO』大会もESLが手掛けています。最初に上記のメッセージを見たとき思ったのが、

(なんで俺なんだ?)

 でした。

 いくら日本で唯一の大会主催者とはいえ、前述の通り自分は競技シーンで大きく活躍もしていない無名の人間。どうしてそんな自分にDreamHackなんていう超有名イベントの話が……? とにかくビックリしました。

 まずは日本の『CS:GO』シーンの現状についてヒアリングをしたいということだったので、自分から見た当時の現状について話をさせていただきました。そして、その1週間後には、DreamHack Japanで行う『CS:GO』大会のマネージメントを任せてもらうことになったのです。

 話はとんとん拍子に進み、HoneyCombSCUP第9回大会にDreamHack Japanへの招待権をいただけることに。そして最終的にはHoneyCombSCUPの決勝戦をDreamHack Japanのステージで行うことになりました。

どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー

 いまでもあのときのドキドキを昨日のことのように思い出します。DreamHack Japanで自分が大会を、それも3年ぶりのオフライン大会を開催できるという喜び。そして日本『CS:GO』プレイヤーの喜びようを、一生忘れることはないでしょう。

 競技シーン志向のあるプレイヤーがほかのゲームに転向していく中、久しくなかったいいニュースをコミュニティに届けられたことが何よりもうれしかったです。

eスポーツの現場で働く理由

 そんなわけでにわかに注目の集まったHoneyCombSCUP。

 それまでは自分の知己の人間を中心としたコミュニティ……有り体に言ってしまえば“残った人たち”にしか認知されていなかったのが、HoneyCombSCUPという大会です。それでも、DreamHack Japanという巨大なオーガナイザーの力を借りて、「日本にもまだ『CS:GO』の大会があるんだ!」と吠えることができました。

 大会名は“HoneyCombSCUP #9 at DreamHack Japan”に決まり、4月8日~9日に行われた予選の参加者数は過去最多となる31チーム・178名。自分の経験の中でも過去に類のない規模に……。

 そんな規模の大会を管理しきれるのか不安でしたが、またもや幸運は舞い降りました。DreamHack Japanの運営母体であるESLが世界でも有数の対戦プラットフォームパブリッシャーのFaceitと昨年に合併していたこともあり、そのサポートを受けられることになったのです。有志による運営協力にも助けられ、大きなトラブルもなく予選を終わらせることができました。

 多数のチームがダブルイリミネーションでしのぎを削る光景は、まさに自分が求めていた大会シーンの盛り上がりそのもの。胸が熱くなりました。

どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー

 予選を勝ち抜いたのは、過去8大会で4度の優勝を誇るuntitledと、日本在住のブラジル人を中心に元プロプレイヤーも所属するEspionage。この2チームが決勝に進出し、幕張メッセでぶつかることに。

 予選終了から幕張メッセでの決勝戦まではあっという間で、気付けば幕張にいました(本番までのいちばんのネックはDreamHack Japanの前後で有給休暇が取れるかどうか、でした)。

 自分がeスポーツのオフラインイベントに関わるのは、大小に関わらず生まれて初めて。何度も配信で見たあのESLのステージ、何も映らずともそこに浮かぶ映像を想像するだけで興奮が収まらなくなる巨大モニター、そして設営に奔走するスタッフ。幕張メッセの広いアクティビティエリアに、eスポーツを愛する人間の熱気が満ちていました。

 あの熱さ、いま自分がその熱さの一員であることの高揚感……。

 それだけでも一生ものの体験です。この感動をほかの人にも共有したい。だからeスポーツの現場で人は働くんだなと、このとき私は理解しました。

どうして『CS:GO』なんですか?

 リハーサルも終わり、いよいよ5月13日の本番を迎えました。

 ステージに立つことすら生まれて初めての経験。MCのトンピ?さんにカバーしてもらいながら何とか挨拶を終え、いよいよ試合が始まりました。

どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー
どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー

 何度も配信で見てきたESLのUIとカメラワーク、リプレイに、テンションは天井知らずで上がりっぱなしに。お客さんの入りは不安材料でしたが、座席は埋まり、立見客が出るほどの大盛況。うれしさ半分安堵半分といった感じでした。

 これまでに大会でも何度もぶつかってきた両チームは、inferno、ancient、nukeの3マップで激闘をくり広げ、最後はnukeを制したEspionageが見事に優勝を飾りました。戦いの様子はぜひアーカイブでご覧ください。言葉では語りつくせないものがここにあります。

【CS:GO】HoneyCombS CUP #9 Finals at DreamHack Japan配信ページ(YouTube)

 Espionageがトロフィーを掲げたその瞬間、フッと体から力が抜けました。

 untitledにもEspionageにも、厳しい国内シーンの中でも「好きなゲームで強くなりたい、もっと強い奴と戦いたい」という、ある意味eスポーツの源流のような気持ちがあったのだと思います。それがあの最高のステージで報われたんだと、感極まりそうになりましたが、グッとこらえて……いや最後にはこらえきれなかったんですけどね(笑)。

 そして最後の壇上での自分のスピーチ。

 内容はnegitakuさんやファミ通.comさんでも掲載されていてこっぱずかしさもあるので割愛。ただ、そこで伝えたかった思いについてだけ語らせてください。

 幕張メッセという大きな会場で、選手たちがすばらしいステージに立てたのは、彼らの力はもちろんですが、この日まで『カウンターストライク』というゲームの歴史をつないできた先人たちの存在が大きな意味を持つと思っています。

どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー

 そもそも、日本で、そしてDreamHackという大きな催しの中で、なぜ『CS:GO』のイベントが開催されたのでしょうか。

 日本にはもっと人気のある別タイトルがいくつもあります。客観的に見ると、はっきり言って『CS:GO』をわざわざあれだけのステージで行うメリットは少ないと思われます。

 それでも開催されたのは、やはり自分を含む関係者は「『CS:GO』はおもしろいんだぞ」と、声を大にして言いたかったからなのでしょう。日本のeスポーツの歴史の中に、このゲームの魅力を証明してくれるプレイヤーが存在する。彼らのおかげで、おもしろさを伝えたい気持ちが大きくなっていく。

 そんな思いが、DreamHack Japanと自分、untitledとEspionage、そしてステージに集まった『カウンターストライク』ファンをつなげてくれたのだと思います。感謝してもしきれません。

どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー

 DreamHack Japanが終わった2023年7月現在、あの日の興奮と喜びを胸に、私は『CS:GO』の大会を開き続けています。

 記事タイトルの「どうして『CS:GO』なんですか?」は、活動を続ける中で言われた言葉です。

 国内シーンについて理解がある人も、そうでない人も、いまの日本で『CS:GO』大会を開くことを不思議に思うかもしれません。その疑問も理解できます。もっと新しくて人気のゲームもあるわけですから。

 eスポーツというジャンルがかつては想像がつかないくらいに大きくなったいまだからこそ、好きなゲームに本気で向き合うことに大きな意味がある。それがひとつの答えだと、私は思っています。

どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー
どうして『CS:GO』なんですか? 好きなゲームの大会を開き続ける理由。実直な男たちのシンデレラストーリー

 ちなみに、記事タイトルの“実直な男たちのシンデレラストーリー”は、担当編集さんの発案です。「一生懸命やってきた人が、運命の人に見初められて、報われる。まさにシンデレラストーリーじゃないですか」とのこと。恥ずかしい。

 シンデレラと違うのは、『カウンターストライク』シリーズはまだまだ終わらないということ。最新作の『カウンターストライク2』は2023年夏にリリース予定です。みなさん、私たちといっしょに『カウンターストライク』を遊びましょう。

※写真提供:吉村尚志(Yossy)