毎回異なるゲストが『HOMEFRONT』を語ってきたこのコーナー。最終回は、日本を代表するヒップホップグループ、ライムスターのメンバーであり、海外ゲームにも精通する宇多丸氏の登場だ! TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』のコーナーをまとめた著書『ザ・シネマハスラー』(白夜書房)があり、海外ゲーム好きであることも知られる宇多丸氏に、本作はどのように見えたのか? 序盤をプレイしてもらいつつ、いくつかのシーンをお見せして話を聞いた。
■ここまでとは思わなかった!
――まずはオープニングムービーをご覧ください。最初に映っているのはヒラリー・クリントン本人です。韓国の哨戒艦撃沈事件の際の会見ですね。報道映像と虚構の映像をミックスすることで、一見荒唐無稽な設定が本当のことのように見えてくるという演出になってます。
宇多丸 近未来ものとして、冒頭の説明をすごく丁寧にやっているのはいいですね。……あぁ、韓国も日本も占領されちゃうんだ。
――はい。一方でアメリカの国力が著しく低下していて“メキシコがアメリカからの難民を遮断する”という事態になっています。
宇多丸 そういう皮肉も入っているんですね(笑)。ゲーム好きの人から評判は聞いていて、設定を聞いたときは『フリーダムファイターズ』を思い出しましたね。あれはアメリカがソ連に占領されるって設定でしたが。アメリカ人が作っているんですよね?
――Kaos Studiosという、ニューヨークの開発会社が作っています。
宇多丸 アメリカ人の共産圏に対するパラノイアというか、アメリカがいちばん強くて暴力的なのはあたりまえなのに「絶対にねぇから!」っていう描写をしたがりますよね、とくに9/11以降。(強制連行中のエグいシーンが流れる)これはすごいな。日本版で描写がソフトになっていたりしないんですか?
――映像描写についてはそのままです。金正日が描かれたポスターなどもそのまま出てきます。
宇多丸 これまでのゲームは北朝鮮を描いても、あくまで“北朝鮮風”だったけど、いいんですかコレ? ほとんどケンカ売ってるじゃないですか(笑)。気に入ったゲーム以外はムービー飛ばしちゃうことが多いんですけど、これはちゃんと見たほうがいいですね。
――レジスタンスには一応、韓国系アメリカ人三世という設定のキャラクターも入っています。
宇多丸 その辺のバランスは取っているんですね(笑)。そうだよな、黄禍論(黄色人種を脅威として恐怖する一種の人種差別)になっちゃうもん。エグいとは聞いていたけど、ここまでやっちゃっていいのかってところまで来てますね。実在の人物もバンバン出てきちゃって、「いかがなものか?」って言われかねないぐらいですけど、それだけにSFとしておもしろそうですね。
■懲りないオヤジ、ジョン・ミリアス
――脚本のベースはジョン・ミリアスが手掛けています。
宇多丸 要するに『若き勇者たち』(ジョン・ミリアスが手掛けた、アメリカ本土がソ連に占領され、若者たちが立ち上がるというテーマの映画)ですよね。「ジョン・ミリアス相変わらずか!」なところが見られる最新作としても興味深いですよね。それにしても、懲りないオヤジですね。懲りないどころかこじらせている(笑)。
――「そんなに占領されたいのか?」と言いたくなりますね。
宇多丸 でも、そういう部分がある人の作品はおもしろいですよね。“絶対こうなってほしくないこと”ばかり描く人。たとえばメル・ギブソンだったら、「オラが村の女たちがほかの部族に奪われちまった!」ってシチュエーションをくり返し描く。個人的なものでもあるんだけど、やっぱり人を根源的に怖がらせる何かがあったりもするわけで。アメリカ人にしてみると「いつか上陸されちまう!」という恐怖があるんじゃないですか。
――ゲーム中では直接描かれないこの世界の歴史もびっしり用意されていて、古新聞として読むことができます。
宇多丸 (日本人の立場で)傍から見ていると「んなわけあるかい!」って思うんですけど、こうやって丁寧に説明されると「2027年ならあるかも」って一瞬思っちゃいますからね。でも、もしアメリカの人がこのゲームを真剣に受け止めて遊んでいたらちょっと怖いな。
――イッちゃってるアメリカ人のテリトリーを進むシーンもあるんですよ。入り口に「侵入者は殺す!」って書いてあって、アメリカ人でも容赦なく撃ってくるという。
宇多丸 頭蓋骨が棒に刺さってる入り口の警告とか、『地獄の黙示録』(ジョン・ミリアスが脚本を手掛けた、言わずと知れた戦争映画の名作)調ですね。(捕虜を嬲り殺すシーンを見て)ここまで残虐な敵が出てくるっていうのはあんまりない。バランス取ろうとしているのかもしれないけど、あっちをヒドくしたから、こっちもよりヒドくするっていうバランスの取りかたなのか(笑)。でも、エクストリームな描写にちゃんとなっていて、いいんじゃないですか? 描写が弱くなっていると海外版を買ってしまうこともあるわけだし。これ当然、レーティングはZ指定ですよね?
――いや、D指定です。
宇多丸 えっ……(しばし絶句してから)いいの!? Zなのに規制されるのはどうなんだと常々思っていたんだけど、通っちゃうんだ……。でもこれ確かに、誰が悪いってジョン・ミリアスだからね。
――非常に個人的なモチーフですからね。海外のプロモーションでも、ジョン・ミリアスの名前を出す際に、「『若き勇者たち』のジョン・ミリアス」という出しかたをしています。
宇多丸 一種のエクスキューズ(言いわけ)なんでしょうね。「あくまでジョン・ミリアスの考えたことですから」という距離感を取れば、こっち(プレイヤー)も安心して遊べますから。『若き勇者たち』は、いまにして思えば「こんなこと大真面目に映画にしてたのね」って話だし。
――関係ないですけど、映画のリメイクも動いてますね。敵国を中国に設定していたところ、問題になって北朝鮮に差し替えるとかなんとか。
宇多丸 あ、リメイクやってるんですか……アメリカって勝手だね(笑)。そりゃ問題になりますよね、当時のソ連といまの中国はぜんぜん違いますから。ふつうにビジネスしてる相手だっていうのに。
■映画も見てみるのがオススメです!
――映像表現の部分ではいかがですか?
宇多丸 影が効いているメリハリのある画面をしていて、そういう意味でも映画的に“入り込める”絵作りをしていますよね。それと、スローになるシーンがありましたけど、ゲームじゃないとできない緊迫感とカタルシスがありますよね。スローモーションで撃って、走りながらマガジン交換しているところ、燃えましたよ。
――では最後にメッセージを。
宇多丸 やっぱりこういうご時世だからこそ、エクストリームなエンターテインメントじゃないと、みんな納得しないんじゃないかなって思うんですよ。現実がこんなことになっちゃっている中で、なんとなくぼんやりした世界観だと、もう入り込めないんじゃないかなって。だから男がやるゲームは、これぐらいイッちゃってていいんだと思います。
――ありがとうございます!
宇多丸 いやぁ、思っていたよりスゴかったです。想像を超えていましたね! エグいのに慣れているつもりでも、さっきのはやっぱりけっこうキましたよ。これならうるさ型も納得するんじゃないですか? あとは、若いゲーマーの人はこの機会にジョン・ミリアスの映画を観てほしいですね。『若き勇者たち』もそうですけど、『ビッグ・ウェンズデー』とか。『デリンジャー』も名作なので。いい映画撮ってますよ。ジョン・ミリアスがどういう映画を撮っているのかを知ると、深みも出るし、ワンクッション置けるので。
――ジョン・ミリアスってこういう人だからこういう話になっちゃうんだよ、と。
宇多丸 そう。ジョン・ミリアスの脳内妄想ってわかったほうがね。でもこれだけ表現が振り切れていて、描写がソフトになっていないのはありがたいじゃないですか。ピンと来たらすぐ買ったほうがいいですね!