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ロンドン・カンファレンスwebプレビュー Vol.3 続・ヴィクトリア朝専門家が明かした歴史考証方法
公開日時:2015-11-14 08:00:00
歴史考証のエキスパートとして†
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▲ヴィクトリア朝専門家 ジュディス・フランダーズさん |
私は、ヴィクトリア朝時代の専門家として、歴史考証をするためにプロジェクトに参加しました。じつは昨日、開発チームにも話しましたが、私にとってこれまでで、もっともいい仕事だったので、これからの『アサシン クリード』シリーズは、ぜひすべてヴィクトリア時代のロンドンにして欲しいと思う。
ユービーアイソフト、ケベックスタジオのスタッフで、同じく歴史考証を担当するヒストリアンのジャン・ヴァンサン・ロイと自分が、この1年努力してきたのは、19世紀のロンドンを構築し、そこにキャラクターが住めるようにしていくことでした。
当時のアクセントまで再現するために†
外見や詳細だけでなく、すべてを作らなくてはいけなかった。例えばこのゲームには実在した偉人達などが登場するが、彼らは、果たしていったい、どのようなアクセントで話していたのかと考えました。
こうしたアクセントを再現するために、同じような背景を持つ人物を探し、その人が後の時代に録音したデータを参照する、という作業をしたのです。社会的経済的に同じような背景を持ち、なおかつ、同じ地域に住んでいた人の声の録音を見つけることが出来たときは、思わず「これだ!」と叫びそうになったほどにうれしかった。
日本のユーザーの方たちは、こうした苦労があったことだけ、知っておいていただけたらと(笑)。
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名称も考証†
また、人物の口調だけではありません。歴史的なリアリティーを作り上げるためには、無数のゲーム内の要素を検討しなくてはならなかったのです。例えば武器の名前なども、大きな問題でした。
19世紀のロンドンは、武器を隠し持つ時代だったため、“ナックル”のような小さな武器が出回っていました。このナックルという名前は、メジャーかもしれませんね。ですが、調べていくうちに、ナックルという言葉は、英国の言葉ではなくアメリカ用語であることがわかったのです。
……これでは使えないと思ったのですが、調査するうちに英国には1857年に“ナックル・ダスター”という競走馬がいたことが判明したのです。これで人々が、当時この名称に慣れ親しんでいたことがわかりました。なので、ゲーム中にナックルという言葉を使っても大丈夫だと判断しました。
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また、“仕込み杖、ソード・ケイン”も、刀が中に仕込まれた杖ですが、これも当時ロンドンの店で、実際に販売されていたという記録がありました。もちろん、このような武器は今は買うことができません。
無事に裏付けも取れたので、名称は“ソード・ケイン”、もしくは形状をそのまま表す“ソード・スティック”というラインで行けばいいのではないかと考え、ケベック・スタジオのスタッフに報告したところ……「“ソード・ケイン”という名称はパッとしない、“ケイン・ソード”の方がクールだ。“ソード・スティック”もおもしろくない」というメールが返ってきたのです。
そこで、さらに調査をして“ソード・スティック”という名称も使われていたことを突き止めて、再度報告しました。そうしたら、ようやく満足していただけました(笑)。
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4頭立て馬車はランボルギーニ!?†
『アサシン クリード シンジケート』では、新たにプレイヤーが“馬車”に飛び乗って走れるようにするため、街角に4頭立て馬車を用意したい……という要望がありました。ですが私は、まず馬は停めておくことはできないと説明したのです。
何故かって? もちろん、この4頭立て馬車を取り入れるというアイディアはとてもよいと思いましたが、この時代にはこのような大型馬車を所有出来た人は、ほんのわずかだったのです。
この事実は、知ってもらう必要があった。
私たちは英国紳士が活躍する映画やドラマを見すぎたせいか、馬車は自家用車のようなものと思いがちです。
ですが実際には、人口250万人に対して、個人所有の馬車(4頭立てと2頭立てを含む)は1万台に過ぎなかったのです。
従って、4頭立ての馬車は……自家用車に例えるなら、ベンツどころかランボルギーニのような存在であり、特別な贅沢品だったわけです。街角にランボルギーニが何台も止まっているなんて、どうかしている世界になってしまいますよね(笑)。
当時の人々は、4頭立てではなく、2頭だての馬車に依存していたのです。ちなみに、こうした馬車はグラウラー(うなる人、ガミガミいう人の意味)と呼ばれたのですが、これは音がうるさいからではなく、運転手たちの性格が荒っぽかったからでした。
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名前に潜む困難な問題†
名前を扱う、ということは困難を伴うものです。私がクリエイティブ・チームと一緒に仕事をしていて難しかったのは(後になって相手は法律担当チームだとわかったのですが)、“パブ”の名前について話し合っている時でした。最初にチームが選んできたパブの名前のリストは、全然ダメな内容だったのです。
なぜなら、法律担当チームは、今日実在するパブの名前を使うことで“使用料”を要求される可能性を心配していたわけですね。なので、リストには、無理にヘンテコな、当時使われるはずのないようなパブの名前が羅列してあったのです。
このパブの名前問題は、なかなかに厄介でしたが、私は1857年のパブの看板についてのエッセイの中に、当時のパブの名前のリストを見つけました。名前はこの本の中から引用すれば、まったく何の問題もありません。みんなホッとしてくれたうえ、正しい名前を使うことができたわけです。
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▲ちなみにこのパブの名は“Thistle&Crown”。当時実際にあったパブの名でした。 |
時代と社会が浮き彫りになる脚本†
他にも、セント・ポール大聖堂の鐘は何時に鳴らされたのか、人工照明写真とフラッシュ写真の違いは何かなどなど、時には面白くないリサーチもする必要がありました(笑)。
しかし、こうして地道に作られたゲームの世界を細かく切り取って検証し、最も良いやり方で歴史を使うにはどうしたらよいかを考えていくわけです。そうした仕事の中で、私が最も面白かったのは、脚本、会話、ト書きを見て考察することでした。
いま私たちは、非常に平坦な社会に生きています。お互いにファースト・ネームで呼び合い、誰とでも同じ言葉で話しますよね。ですがヴィクトリア時代の英国の社会では、男性が同じような社会的レベルにある男性と話す時、また女性と話す時、そして社会的レベルが自分より低い人と話す時は……まったく違う言葉遣いだったのです。
従って、脚本には、非常に複雑な文脈を組み入れる必要がありました。
例えば主人公で女性のエヴィー・フライが、他のキャラクターと接する場合。相手がどんな人物か、年齢、背景、さらには彼女との関係によって、細かく呼び方が異なるのです。“ミス・フライ”と呼びかける人もいれば、“ミス・エヴィー”と呼ぶ人もいる。弟のジェイコブは単に“エヴィー”と呼ぶ。こうした、言葉の端々からも、無意識に社会の層を感じられるような脚本になっていなくてはいけない。
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また、本作のスクリプト・ライターの多くは北米の出身だったので、脚本からアメリカ的な言葉や、21世紀的な言い回しなどを取り除く作業は、とても面白かった。
例えば“マンパワー”などという言葉を見つけて、「とんでもない!」と思ってすぐに赤ペンを入れたのですが、その後、この言葉は19世紀にも使われていたことがわかったので、あわてて赤ペンを消したり。
そのほか、“ハイジャック”という言葉は、19世紀にはどう表現されていたのかと聞かれたこともありました。辞書を調べると、1890年代の言葉だと記載されています。1868年が舞台となる本作から、30年後の言葉です。なので、使用は不可能かと思ったのですが、これも調べてみると、当時の新聞で使われていた事実を見つけることができたので、了承しました。
本作には、ギャングを率いるなどダーティな要素も多いため、私は19世紀の“むかつく”の言い方を調べるために、多くの時間を使いました。その結果、「クレイジー!」という言い方を10通り以上も見つけることができましたよ(ちなみに、いちばん気に入った当時の言い回しは、“彼はボタンが全部揃っていない”というものです)。
また、“ばかやろう”という表現方法も、自分が知っているばかやろうの数よりも、多く知ることができましたので、有意義でしたね(笑)。
ヴィクトリア朝専門家であることは、『アサシン クリード シンジケート』を創作することと同じ†
そうしたスクリプトの中に、“hooch”(フーチ:アルコール飲料の意味のアメリカのスラング)という言葉があり、さすがに、これだけは、アメリカ大恐慌時代の言葉だと感じたので、他に使える言葉のリストを送りました。
それは、以下のような言葉です。“ガーグル”、“タープス”、“ロー”、“ホワイトベルベット”。
……このリストを書いているときは、さすがに私は変わった仕事をしているなと思いました。
さて、ここまで主に言葉にまつわる歴史考証についてお話してきましたが、『アサシン クリード シンジケート』をプレイして、19世紀ヴィクトリア朝のロンドンを歩くと、あなたはこうした考証の積み重ねが絡み合って生まれる、偶発的な風景をたくさん見るのでしょうね。
今回、専門家として本作の開発に参加して気づいたのは、歴史考証という作業は、『アサシン クリード』を創作することとイコールだ、ということです。
物語を語りながら、その世界を作っているという意味において、同じだと思う。
今日お話ししたことをまとめると、何だったのか、
つまりは――「1868年のロンドンへようこそ」、と言っているのです。
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(Vol.4 ヴィクトリア朝の音楽編に続きます)
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