“ポケモン”と“初音ミク”によるコラボプロジェクト“ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE(ポケミク)”。
当初予定されていた18曲の公開を終え、多くのファンに惜しまれつつもプロジェクト終了……とはならず、なんと大勢のファンからの継続を願う声に応えて、追加楽曲の展開を発表。2024年5月10日にはsasakure.UKさんによる19曲目『アフターエポックス』が投稿された。
さらに、20曲目の制作が決定しており、担当ボカロPはKanariaさんに。そして、2024年11月13日にはCDアルバム『ポケモン feat. 初音ミクProject VOLTAGE 18 Types/Songs Collection』が発売。先述のKanariaさんの楽曲を含め、計21曲を収録した2枚組CDとなっている。(※『ボルテッカー (Jewel Remix)』を含む計21曲))
描きおろしジャケットイラストでは、“18タイプの初音ミク&相棒ポケモン”を描いたイラストレーターたちが再集結。ポケミクを盛り上げてきたイラストや設定資料を収めたアートブック、歌詞ブックレットや封入特典も入った、超豪華な特製パッケージとなっている。店舗特典として、アクリルスタンドや缶バッジなど、ファン待望のグッズ特典なども展開しており、まさにファンの“声”が形となった。
そんなポケミクの再出発の担い手となったsasakure.UKさんおよびMV制作を担当した革蝉さんにインタビューを実施したので、その内容をお届けする。
sasakure.UK(ササクレ・ユーケー)
インターネット上で自身のサイトを拠点に、オリジナルのインスト楽曲を発表する活動の後、“初音ミク”などの音声合成ソフトVOCALOIDにインスピレーションを受け、作詞にも挑戦。これらの楽曲を動画サイトに公開すると、その作品性の高さから一躍注目を集める。
時代を越えて継承されてゆく寓話のように、物語の中に織り込められた豊かなメッセージ性を持つ歌詞と、緻密で高度な技術で構成されたポップでありながら深く温かみのあるサウンド、それらを融合させることで唯一無二の音楽性を確立する。
革蝉(カワセミ)
キャラクターデザインやアーティストのMV制作などを中心に活動するフリーのイラストレーター兼映像クリエイター。2019年に投稿された『レプリカ』を始め、sasakure.UKさんによる楽曲のMV制作を数多く手掛けている。
「別の世界に生きている彼らが、いっしょの世界で過ごせるような表現を」
――まずは、今回の“ポケミク”の依頼を受けたときの率直な感想を教えてください。
sasakure.UK
ポケモンにも初音ミクにも強い思い入れがあるので、そのふたつがコラボをすると聞いて胸が熱くなりました。そのうえで、18曲のひと区切りが付いた後の19曲目という特別な楽曲を担当させてもらえると聞き、「これは生半可な覚悟では受けられないぞ」と気が引き締まったのを覚えています。
革蝉
私はいちファンとしてポケミクを楽しんでいたので、まさかそこに自分が関わることになるとは思っておらず、お話を聞いたときはびっくりしました。それまでに公開された作品のクオリティやファンの方たちの盛り上がりを知っているだけに、プレッシャーも大きかったです。
――おふたりとも、ポケモンが昔からお好きとのことで。
sasakure.UK
はい。僕は子どものころに『ポケットモンスター 赤・緑』を初めて遊んで衝撃を受けまして。本当に毎日友だちとポケモンの話しかしなくなるくらい、のめり込んでいました。その後も新作が出るたびに遊んでいて、とくに好きなのは『ポケットモンスター 金・銀』、『ポケットモンスター サン・ムーン』です。
革蝉
私はポケモンとの出会いがアニメだったのですが、当時海外に住んでいたので日本のコンテンツであることを知らずに見ていたんです。しばらく経って帰国した際に、日本で生まれたものということを知りました。そこからさらに興味を持ってポケモンのイラストがたくさん載った書籍を買ってもらい、それを見ながらポケモンの絵をずっと描いていたのを覚えています。本当にたくさん描いていたので、最終的にはほとんどのポケモンを丸暗記して、何も見ずに描けるようになっていました。
sasakure.UK
革蝉さんらしいエピソードですね(笑)。革蝉さんはポケモンの造形に対する愛がすごく深い人なんですよ。
革蝉
ポケモンの造形は本当に大好きです。ちなみに、初めて遊んだ『ポケモン』のゲームは『ポケモン不思議のダンジョン 青の救助隊』でした。その後『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』、『ポケットモンスター ルビー・サファイア』と遡って遊んだ記憶があります。いまでは『ポケットモンスター』シリーズはもちろん、『ポケモンレンジャー』シリーズや『ポケモン不思議のダンジョン』シリーズも含めて、ほぼすべてのタイトルを遊んでいます。
――とくに好きな作品はどれでしょうか?
革蝉
『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』かなと思います。当時友だちと対戦して負けてしまって、最初にもらえるパートナーポケモンを渡すことになってしまったんです。それがショックでしばらく手を付けていなかったのですが、1年後くらいにやる気を持ち直しまして。そのとき手持ちにいたムックルをひたすら育てて、ほとんど1匹でジムリーダーたちや四天王、そしてシロナまでもすべて倒してクリアーしたんです。
sasakure.UK
すごい(笑)。ムクホークに進化するとすごく強いですよね。
革蝉
そうなんですよ。ムクホークはノーマル・ひこうタイプなんですが、インファイトを覚えるおかげではがねタイプにも強くて、不利な相手が少ないんですよね。
――ストーリークリアー後のやり込みプレイもされたんですか?
革蝉
そもそもかなり寄り道しながら遊ぶタイプだったので、クリアー前からモンスターボールにシールを貼ったり、地下のひみつきちで遊んだり、ポケモンコンテストに参加したりと満喫していました。バトルサーチャーを使って、1度戦ったトレーナーと再戦できるのもよかったですね。久しぶりにいちばん始めに戦ったトレーナーと再戦したときに、自分だけでなく相手のポケモンもレベルが上がっていて、それが何だかうれしく感じたのを覚えています。
sasakure.UK
再戦できるの、いいですよね。ストーリー本編でもライバルやトレーナーと再戦するとポケモンがお互い強くなったり進化していたりしていて、互いに長い旅をしてきているんだなあ……というのを実感できますよね……。
革蝉
ほかにはバトルフロンティアもやり込みましたし、きのみも育てていました。映画館でもらえるダークライがナゾのみを持っているんですけど、これがなかなか育たなくて……。
――本当に隅々まで遊んでいますね! いちばんプレイされたのはやっぱり『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』ですか?
革蝉
たぶん『ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー』だったと思います。1度クリアーしたら育てたポケモンを別のソフトに移してさいしょからやり直すというのを7周くらいしていたので。
sasakure.UK
めちゃくちゃやり込んでる(笑)。
革蝉
主人公の後ろに、それまでに登場したすべてのポケモンを連れて歩けるのがうれしくて。なので、2周目以降は旅が始まったらすぐに、別のソフトで手に入れた好きなポケモンのタマゴを通信交換で連れてきて、好きなポケモンとの旅を楽しんでいました。
――本当に『ポケットモンスター』シリーズがお好きだということが伝わりました! 『ポケットモンスター』シリーズの楽曲についてはどのような印象を持たれていますか?
sasakure.UK
本当にプレイしながらずーっと聴いていたので、友だちと自転車に乗っているときには必ず『サイクリング』を歌ったり、自分の人生を色づけてくれた、欠かせないものです。とくに印象的なのはやっぱりオープニングテーマです。もちろんシリーズごとに異なるのですが、『ポケットモンスター 赤・緑』のものをアレンジして作られた曲が多いですよね。今回ポケミクのお話をいただいたときに、僕が、僕らしくアレンジできる楽曲はこの“オープニングテーマ”なんじゃないかと思い、いろいろなシリーズのオープニングテーマを聴きながら制作させていただきました。
革蝉
街ごとにBGMが異なるのがすごく好きです。街も、ものすごい数がありますけど、それぞれに合った曲とセットになっていることで、ひとつひとつの街への思い入れが強まっている気がしています。やっぱり音楽の力ってすごいんだって、思わされます。
もちろん戦闘BGMも大好きで、とくに伝説のポケモンと戦うときの曲は、お気に入りが多いです。『戦闘!ユクシー・エムリット・アグノム』や、『戦闘!ホウオウ』、『戦闘!ルギア』それから『戦闘!ギラティナ』がとくに好きです。ほかには『戦闘!ウルトラビースト』も、いい意味でものすごい異質感があって、聴いているだけで胸が高まります。
――ポケモンと初音ミクの組み合わせについてはどのような印象でしたか?
sasakure.UK
これまでコラボをしていなかったことが不思議に思えてくるくらい、じつは相性が抜群だと感じました。どちらも長年僕たちのパートナーとして寄り添ってくれている存在です。そして、ポケモンはそれぞれに個性や得意なことがあって、ミクにとってはそれが歌なんだと思います。そういった共通の魅力を考え出すとつぎつぎに出てきて、これはもはや“初音ミクはポケモン”だと言っても過言ではないんじゃないかと思ってしまったんです。その瞬間、頭に浮かんできたのが「アシアトも、キズアトも君と生きるための旅人。」というフレーズでした。そこからアイデアをどんどん膨らませて、『アフターエポックス』の楽曲の世界観を作り上げていきました。
――ふだん初音ミクさんとともに作る楽曲と、今回の楽曲ではどのような違いや発見がありましたか?
sasakure.UK
既存のポケモン楽曲をモチーフにしたり、サンプリングしたりしながら作っているので、ふだんとは違うやりかたで新鮮でしたね。もとの音に合わせるためにはどういう編曲をすべきか、どういう音を重ねるとかっこいいのか。ふだんとは違うやりかただけど、考えかたは重なるところもあって。それも含めて楽しかったです。
――ちなみに、苦戦したところはありましたか?
sasakure.UK
苦戦という苦戦はしていないですね……。ひとつ挙げるとすれば、ポケモンと初音ミクの世界観をひとつにすることでしょうか。ポケモンはポケモン、初音ミクは初音ミクで切り分けるのではなく、ポケモンの世界の初音ミク、初音ミクの世界のポケモンというふうに落とし込む。それぞれ別の世界に生きていたはずの彼らが、もしかしたら同じ場所で過ごしていたかもしれない……そんな世界観を表現できる曲を作れるようにとがんばりました!
まだ誰にも気づかれていない!? こだわりの“1音”を探してみて
――改めて、ゲームファンに向けて楽曲の聴きどころを説明していただけますか?
sasakure.UK
全部って言いたいところですけど……(笑)、あえていうなら言葉選びです。ポケモンのわざだったりどうぐだったり、ポケモンの世界にあるものをモチーフに歌詞を作るのもおもしろいと思ったのですが、今回はあえてそれらを使わずにポケモンらしい世界観を表現することに挑戦しました。そこは自分でもかなり工夫しながら制作したところなので、歌詞を読みながらどういった背景やシーン、キャラクターをイメージして作ったのか想像しながら楽しんでいただけたらうれしいです。
――とくにお気に入りのフレーズはどこですか?
sasakure.UK
先ほどお話しした「アシアトも、キズアトも君と生きるための旅人。」はやっぱり好きですね。それから「逆境も、暗闇も君と笑えたら絵空事!」のところも気に入っています。「絵空事」って言葉は、それ自体マイナスな印象のある言葉なんですけど、「君と笑えたら」と組み合わせることでポジティブな解釈ができるようなニュアンスにしました。
革蝉
私は「未来 またね 未来 またね」が強く印象に残っていて、聴いたときにすぐ「こういうシーンにしよう!」という映像のイメージができました。どうしても、「またね」のところでNを見せたかったんです。
――あのシーンは、歌詞が先にあって映像が創られたのですね。『ポケットモンスターブラック・ホワイト』をプレイした人なら、間違いなく心が揺さぶられると思います。
革蝉
あそこで『ポケットモンスターブラック・ホワイト』の要素を入れたのにはもうひとつ理由がありまして。『ポケットモンスターブラック・ホワイト』って、殿堂入り後までは既存の作品に登場していたポケモンたちが出てこないんですよ。なので世代の移り変わりという曲の展開、「期待 移りゆく世代」という歌詞と相性がいいと思ったんです。
sasakure.UK
そういう意味も込められていたんですね。言われてみると確かにしっくりきます。
革蝉
また、今回のMVはミクがホウオウに憧れて追いかけるようなストーリーになっています。なので前半はできるだけホウオウ以外に伝説のポケモンを出さないようにしていて、逆に後半では、トレーナーたちが伝説のポケモンといっしょにいるシーンも入れるようにしているんです。それもあって、あそこはレシラムとゼクロム、そしてNと主人公を描きました。
――最高の演出でした……! 楽曲制作の部分で、sasakure.UKさんがとくにこだわったところを教えてもらえますか?
sasakure.UK
音のこだわりで言うと、僕はゲームボーイが大好きなので、当時の音質を再現したくて、ゲームボーイ実機から音を出して収録したりしています。
それから、いろいろな楽曲をサンプリングして入れていて、わかりやすいところで言うと『戦闘!ウルトラビースト』とか『カンムリ雪原』の曲とかなんですけど。じつはもっと細かく刻んで使っている部分もあって、たとえば『戦闘!フラダリ』などを1音だけ使って、さらにピッチも上げていて、もはやパズルみたいになっているので、意外とまだ気づかれていないものもあるなって思っています(笑)。
――1音ですか!? それはちょっと気づけなかったかも……。でも、このインタビューを読んで探す人が増えそうですね。ちなみにまだ見つかっていないなというものはありますか?
sasakure.UK
『戦闘!エーテル財団』が好きで入れてみたのですが、まだ見つかってないと思います(笑)。間奏にも全部BGMが入っています。それ以外にもほかの音と混ざっていて、よく聴かないと分からないものがいくつかあるので、ぜひとも全部探し出してみてください!
伝説に憧れていた者が、気づけば伝説となる物語
――ここからはMV制作のお話を伺っていこうと思います。革蝉さんが最初に楽曲を聴いたときの感想を教えてください。
革蝉
どの世代でもそれぞれのノスタルジーを感じられるような楽曲だと感じました。なので、誰もが楽しめるような、誰も置いてけぼりにしないようなMVを制作するように意識していました。
sasakure.UK
革蝉さんはいつもそうなんですけど、僕が言いたいことを綺麗にくみ取ってくれるんですよね。細かい指示とか何もせずとも、いつもいちばんいいところに的確な映像を入れてくれます。今回はデモ状態の楽曲を先にお渡しして一度デモ映像を作ってもらったのですが、すごく素敵な映像が上がってきて、そこから自分も刺激されて楽曲制作のいろんなヒントをもらいました……!
――MVには、『ポケットモンスター』シリーズの主人公やライバルや、“18タイプの初音ミク”などが登場する造りだったと思います。このような構成にされた経緯をお聞かせください。
革蝉
まず、ポケモンと初音ミクという、ファンの方がたくさんいらっしゃるコンテンツに携わるということで、中途半端なものは創れないという思いがありました。コンテンツへの理解度をファンの方に負けないほど高めたうえで、どちらも取りこぼさないようにしないといけないと思い、全世代のトレーナーやポケモン、“18タイプの初音ミクと相棒ポケモン”を入れ込んで、現在の仕上がりになりました。
ただ、トレーナーたちとミクは、本来接点がないものでした。ですので、他人であるほうがみなさんのリアルな想い出を肯定できるのでは、と思い、MV中ではあえてお互いを認識しないようにしています。
――MVでの初音ミクのパートナーはプリンでしたが、決まった経緯は……?
革蝉
ほかのクリエイターさんたちが作り上げられた、ポケミクならではの“18タイプの初音ミク”をMVに入れようと思ったときに、その相棒ポケモンたちも入れるべきだろうと考えました。そのポケモンたちのなかで、何となくミクの相棒はプリンがいいと感覚的に思ったんです。その背景には、図鑑番号がNo.0039であることや、プリンが“うたう”を使うこと、MVで描いたミクとカラーリングが似ているといった論理的な理由もあったと思います。
――MVでは初音ミクの衣装が変化するのも印象的です。デザイン面でこだわられた部分について教えてください。
革蝉
小さいミクは、できるだけオリジナルの初音ミクに寄せつつ、ポケモンの世界にいて不自然にならないようにニュアンスを調整しています。表現する人によって個性が出るのが初音ミクらしさだと思っているので、成長したミクには私なりに個性を足して描きました。そして、ホウオウモチーフの衣装を着たミクはsasakure.UKさんからのリクエストで描かせてもらいました。一貫して、MVの雰囲気や世界観には合わせつつ、初音ミクとしてのシルエットやニュアンスを守るように意識して描いていました。
sasakure.UK
最初の草案では、伝説のポケモンであるホウオウを追いかけているうちに初音ミク自身が伝説になるというストーリーでした。それをうまく咀嚼して、MVとして綺麗な形にしてくださったので革蝉さんには感謝しています。
革蝉
私の中では伝説のポケモンを仲間にするのは主人公たちだというイメージが強いんです。初音ミクはホウオウに憧れるトレーナーのひとりで、ポケモンの世界の主人公ではないので、仲間にすることはできない。だけど、彼女にとってホウオウは非常に大きな存在。そんな彼女の心情を表現するつもりで、ああいった衣装をデザインさせていただきました。
――革蝉さんは何も言わなくても欲しい映像を作ってくれるというお話が先ほどsasakure.UKさんからありましたが、おふたりでやり取りをしながら制作された部分もあるのでしょうか。
sasakure.UK
やり取り自体は何回かしましたね。それこそホウオウの話は最初にしたのを覚えています。ホウオウを追いかけるミクのストーリーを共有しながら、こんなシーンを盛り込めたらいいですよねっていう話をしていました。
革蝉
“憧れを追っていた側が、気づけば誰かの憧れになっている”というのは、ボカロ文化そのものだと私は解釈していて。それはポケモンの世界も似ているのかなと思います。
sasakure.UK
旅をしながら強くなって、憧れのチャンピオンになるという話はリンクするところがありますよね。
革蝉
ただ、チャンピオンになっても親から見れば大事な子どもだし、友だちから見れば友だちのまま。変わらない関係もあるという意味も込めて、最後の家に帰るシーンは入れようって決めていました。
――だから最後はホウオウの衣装じゃなかったんですね!
sasakure.UK
ほかのところで言うと、革蝉さんから送られてきたMVのデモで、ミクの相棒ポケモンがプリンになったのを見て、『プリンのうた』をサビで使うアイデアを思いつきました。ニビシティでプリンが披露してくれる歌をサンプリングして曲のサビの編曲に組み込みました。そんな感じで、打ち合わせていない部分でもお互い自然に推敲し合ったりしていますね(笑)。
革蝉
そうですね。『アフターエポックス』に限らず、お互いから上がってくるものに合わせて自分のパートをブラッシュアップすることはよくあります。
sasakure.UK
革蝉さんの映像やイラストを見ているとインスピレーションが湧いてくるんですよね。何か音を足したくなってしまう、そんな魅力があります。
――作品を創り出すうえで、とても理想的ですばらしい関係ですね。ちなみに、『アフターエポックス』というタイトルにはどんな意味が込められているのでしょうか。ホウオウが大空を羽ばたく様子を思わせるタイトルのデザインも素敵でした。
sasakure.UK
エポックは時代という意味です。ポケモンも初音ミクも時代を築いたコンテンツなので、ピッタリだと思いました。そして僕たちは、そこからさらに未来を歩んでいます。ゆえに、『アフターエポックス』というタイトルにしました。
あと、個人的なこだわりで、音の響きが『ポケットモンスター』に似ている言葉にしたい、という考えもありました。僕はいつもタイトル決めに曲作りと同じくらいの時間をかけて考えているのですが、今回もしっかり1~2ヵ月くらいかかりましたね(笑)。“ポケット”と“エポック”、“モンスター”と“アフター”がかかっているうえで先ほど話したような意味もつけられたので、いいタイトルが付けられたと思っています。
革蝉
エポックスの“ポ”はポケモンの“ポ”だなと思って、半濁点をモンスターボールで表現させていただきました。
sasakure.UK
これも何も言っていないんですけど、しっかりくみ取っていただいてありがとうございます!
革蝉
“ポ”を強調したかったので、“エ”はわざと上に書いた“アフター”と同じように線を細めにしつつ、風の流れるようなイメージで書きました。その流れの先にホウオウの羽を置くことで、MVのストーリーを表現しています。
――当然ですが、さまざまな想いが込められた楽曲なのだなと再認識しています。
sasakure.UK
話していて思い出したのですが、ミクはどんなポケモンたちと旅をしたんだろうっていう話もしましたよね。
革蝉
しましたね。そこをMVでハッキリさせすぎるのはちょっと野暮かなという思いもあって、最後のクレジットが流れるシーンでさり気なく描いています。
sasakure.UK
よく見ると、MV本編で出会っていたポケモンを連れているのがわかるところは、じつに『ポケットモンスター』らしい演出ですよね。
革蝉
なかでもカモネギは入れるべきだろうと思っていて。個人的にはカモネギと言えばウバメのもりのイメージがあったので祠を描いたのですが、実際にゲーム内のウバメのもりで出会えるカモネギは、スミ職人(トレーナー)のポケモンなんですよね。でもMVの中では野生のカモネギとして、きっとミクがゲットしたんだろうなって思って描いています。
――今回は革蝉さんのほかにも多くのアニメーターさんたちがアシスタントとして携わられたようですが、そのディレクションは革蝉さんが行われたのでしょうか?
革蝉
そうです。人をまとめるたいへんさもあったのですが、そんな中で「もしかして私って人を見る目があるのかな」と思ったことがありまして(笑)。というのも、ライブのシーンを頼んだ方は、後で聞いたら色違いのタチフサグマを自力で仲間にしたくらいタチフサグマが好きな方だったらしいのです。それだけではなくて、冒頭のバタフリーやアゲハント、ビビヨンが登場するシーンをお願いした方も、むしタイプのポケモンが大好きな方だったんです。偶然なのですが、それぞれの好きなポケモンを担当してもらうことができてよかったなと思っています。
sasakure.UK
1000種類以上いるポケモンの中からピンポイントで好きなポケモンの担当を渡せたって、冷静に考えるとすごいですよね(笑)。
――革蝉さんの特性は“おみとおし”なのかもしれませんね。作品に対してはファンの方からもたくさんの反響があったと思いますが、それらを受けてどう思われましたか?
sasakure.UK
ひと口にポケモンファン、初音ミクファンと言っても、その愛の形は本当にさまざまで。寄せられたコメントからその多様性を感じられて、そんな幅広く愛されるコンテンツ同士のコラボに参加できて幸せな気持ちです。
革蝉
私が見た中で多かったのが「これは自分の記憶だ」という旨のコメントでした。それだけ多くの人の記憶を刺激できてよかったなと、やり切ったような気持ちになれました。
sasakure.UK
それぞれのノスタルジーを刺激したいという話も最初の方にしたような。
革蝉
そうですね、やっぱりノスタルジーというと『ポケットモンスター 赤・緑』を筆頭に最初のころの作品にフォーカスするのがある意味で効果的だとは思うのですが、私はすべてのポケモン作品が好きだし、どの世代を楽しんだ人も肯定したかったので、そういうMVになるように意識して作りました。その想いが見てくださった方にも伝わっていてよかったです。
sasakure.UK
『アフターエポックス』に限らず、ふだんから特別にノスタルジーを意識した曲作りはしていないんですけど、体に染みついた何かが、いつも勝手に僕の曲をノスタルジックにしてしまうんですよね。
革蝉
個人的に『アフターエポックス』は、ノスタルジーでありながらも中盤から後半にかけて新しい音が入っていくところが未来に続いていくんだという感じがして好きでした。ノスタルジーだけだと過去の話だけになってしまうんですけど、おそらく、初音ミク(フェアリー)が映るヘッドフォンのシーンあたりから新しい音が鳴っていた気がして。まだ終わりじゃない、これからも未来に繋がっていくんだっていう感じがして好きでした。……ってすみません、生意気なことを語ってしまって。
sasakure.UK
何を仰いますか。すごくうれしいですよ、ありがとうございます! まさにその通りなんです。どんどん未来に繋がっていってほしい。もうポケモンも初音ミクも、少なくとも1000年くらいは続いてほしいですよね。そういう想いを込めて楽曲を作りました。
革蝉
ジラーチが目覚めちゃいますね(笑)。
――1000年先のポケモンと初音ミクがどうなっているか、楽しみですね。最後に読者の方へメッセージをお願いできますでしょうか。
革蝉
私はポケモンも初音ミクも大好きです。その気持ちをMVにたっぷりと詰め込みました。でも、全員が全員同じような熱量を持っていないといけないわけでは決してないと思います。人それぞれ違った想い出があり、各々のペースで付き合っていくべきものです。ポケモンも初音ミクも1000年続くであろうコンテンツなので、仮に何年か離れていたとしても安心して戻ってこられる場所だと思うんです。その場所のひとつを今回描かせていただいたつもりなので、いつでも戻ってきていいんだと思います。もちろん、ずっといっしょにいてくれる人はずっといっしょにいてほしいです(笑)。
sasakure.UK
『アフターエポックス』をご視聴いただき、ありがとうございます。ポケモンや初音ミクにたくさん素敵な夢を与えてもらった僕自身が、逆にみなさんに作品で伝える立場になって、これこそが僕の中の『アフターエポックス』だなあ……なんてしみじみ思っています。僕や革蝉さん、ほかにも多くの人たちのポケモン愛が詰まったすばらしい作品になりました。何度視聴してもずっと楽しめる作品だと自信を持っています。いっぱい観て、聴いて、いろいろな想いを馳せていただけたらうれしいです。
sasakure.UKさん&革蝉さんが語る『アフターエポックス』MVのこだわりポイント4選!
バトルが始まる前の初音ミクの表情
sasakure.UK
画面左下にトレーナーの足だけが描かれて、ミクがそれに気づいて振り返ってバトルを始めるシーンがあるんですけど、そこでミクが振り返りざまにニヤッと笑うんですよ。あの表情がたまらなく好きなんです。マニアックかもですが。
革蝉
私としてもあそこはかなりこだわって描いているので、挙げてもらえてうれしいです。ポケモンと言えば「目と目があったらポケモン勝負」ですし、このフレーズは私の心にも強く残っています。知り合いなのか友人なのか関係性は分からないけど、トレーナーであるミクは勝負を仕掛けられるのがうれしくて、思わず笑ってしまう。でもそのうれしさを押し込めながら真剣な表情に移り変わらせる、というのを意識して描きました。最後に同じく勝負を仕掛けられるシーンがあるのですが、時が経っても人の本質は変わらないということを表現したかったので、同じ表情で描きました。
sasakure.UK
初めてミクを手に取って作り始めたころ、初めてポケモンを遊んだときのわくわくした気持ちは、僕もいまでも変わらないです。そういった自分とのリンクも感じられて、すごく好きなシーンです。
『ポケットモンスター サン・ムーン』の主人公とウルトラビーストたちが窓の外を走り抜けるシーン
sasakure.UK
たった2秒ほどのシーンなんですが、僕がウルトラビーストが好きなこともあって、印象的なシーンなんです。ミクとプリンがお店の中でマラサダを食べているところ、窓の外をウツロイド、デンジュモク、カミツルギとそれを追いかけるように主人公が走り去っていくのですが、ミクとプリンの表情に細かい差があるんです。
じつはプリンの方が先にウルトラビーストたちに気づいて、驚いて跳びあがっているんですよ。そのプリンのリアクションに驚いたかのようにミクも外を見て、冷や汗を流しています。ふつうに見ているだけだとほぼ見逃しちゃうくらい一瞬のシーンなので、そういう細かいところまでこだわって制作していることにも、注目しながら聴いてもらえるとうれしいです。
あえて描くポケモンと初音ミクの“すれ違い”
革蝉
先ほどもお話したのですが、コンテンツ同士の“すれ違い”をあえて描くことで、初音ミクとポケモンの両方のファンの方の気持ちや想い出を肯定できるのではないかと思い、そこは非常にこだわった部分です。
『ポケットモンスター』の世界で“18タイプの初音ミク”を描く工夫
革蝉
MVは『ポケットモンスター』というゲームの世界観をリスペクトして描いています。だから、本来は“18タイプの初音ミク”はこの世界にいないはず。なので、彼女たちはミクの想像として描くことで成り立つのではないかと思い、そういった描写をしてみました。想像の中という前提だと、エフェクトなども自由に描けますし、CDジャケットにするなど幅広い表現で“18タイプの初音ミク”を描けたと思います。
また、「曲を聴いて元気になる」というのが初音ミクの根本だと思っているので、それを旅の先々で音楽を聴いているシーンで表現しています。なかでもとくに気に入っているのは、飛行機の中で思いに耽っているシーンです。ああいった暗くて閉鎖的な空間では、音楽を聴きながら感傷に浸ることがあると思うんです。そんな中で“18タイプの初音ミク”たちを窓に映すようにどんどん描いていって、最後はオリジナルの初音ミクを描くことで初音ミクへのリスペクトも表現したつもりです。