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『FF7 リバース』泥沼から抜け出す秘策は“気合い”。圧倒的物量を処理したサウンドチームが語る開発裏話【CEDEC2024】

byソムタム田井

更新
『FF7 リバース』泥沼から抜け出す秘策は“気合い”。圧倒的物量を処理したサウンドチームが語る開発裏話【CEDEC2024】
 2024年8月21日(水)から23日(金)にかけて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC2024(Computer Entertainment Developers Conference 2024)”。その2日目に実施されたセッション、“ミッドガルを飛び出せ! 『ファイナルファンタジーVII リバース』(FF7 リバース)における泥沼サウンド制作秘話”の内容をお伝えする。登壇者は以下の4名。

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  • スクウェア・エニックス サウンドディビジョン オーディオプログラマー 谷山輝氏
  • スクウェア・エニックス サウンドディビジョン オーディオプログラマー 岡田滉太朗氏
  • スクウェア・エニックス サウンドディビジョン ミュージックディレクター 河盛慶次氏
  • スクウェア・エニックス サウンドディビジョン シニアマネージャー・サウンドデザイナー 伊勢誠氏
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 『FFVII リバース』から登場する広大なワールドマップを舞台に、『ファイナルファンタジーVII リメイク』(以下、『FFVII リメイク』)から引き続くクオリティーライン、密度を維持すべく、どのようにサウンドを作り込んでいったのかが紹介された。
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 まずは伊勢氏より『FFVII リバース』そのものとサウンドコンセプトについて紹介。リメイクシリーズはオリジナルをリスペクトしつつ、プレイしたことがない人でも楽しめる、懐かしさと新しさを融合させた表現を追求しているという。

 フィールドでの移動からバトルまで、すべてがシームレスに展開することに加え、『FFVII リバース』では新たにワールドマップを追加。自由度が増したぶん、それに合わせてサウンドも大幅に強化することになったという。本作独自の制作テーマとして、前作『FFVII リメイク』から追加変更した部分と制作において意識した部分が紹介された。
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ワールドマップ×BGM

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 続いて岡田氏より、BGMに関する説明が行われ、まずは“原作と
『FFVII リバース』のワールドマップの違い”について解説する展開に。

 原作では、各ロケーションは個別のレベルで分かれており、ロードを挟んでワールドマップから各ロケーションへと移動していた。BGMもそれに合わせて切り換わる仕様だったが、
『FFVII リバース』ではそれらがシームレスになり、すべてのエリアを地続きで移動できるようになっている。

 さらに、ストーリー進行やフィールド探索、クエストなど、ワールドマップ上で取れる行動も多彩になったため、それらの管理(BGM制御を含む)はより複雑化。こうした展開に対応するため、サウンドチームでは“ボリュームによるBGM配置”と“多層レイヤーによる制御”という、ふたつの制御方法が用いられた。

BGMの配置

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 ワールドマップにはロケーションボリュームという箱のようなものが置かれており、それによって空間が区切られている。また、メインストーリーやクエストなど、ゲーム上のさまざまな進行フェーズは“ストーリーフラグ”で管理。

 そうした情報は、プレイヤーがそのロケーションを離れても継続して管理されるため、あとで訪れても問題なく途中から再開できるというわけだ。BGMもこの機能に紐づけることで、キャラがロケーションを出入りすると適切な曲に切り替わるようになっている。
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BGMの多層レイヤー制御

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 リメイクシリーズでは、ほぼすべてのBGM操作をBGMManagerで管理している。そこでは曲の再生リクエストをレイヤー構造で管理しており、優先度がもっとも高いBGMを自動で再生する仕組みになっている。

 例えば、ワールドマップの移動時であれば、フィールドレイヤーにBGMの再生リクエストが入っている状態になる。そこで敵と接触すると、より優先度の高いバトルのBGMが再生され、フィールドのBGMは自動的にフェードアウトする。このようにしてレイヤーごとに管理を行い、最上位にアサインされてる曲をつねに監視。そのとき、もっとも優先すべきBGMを自動的に判断するシステムは使い勝手がよかったそうだ。
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チョコボに乗っての移動→徒歩
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NPCとの会話→ミニゲーム開始

 だが、いいことばかりではなく、このようにしてBGMにこだわり抜いた結果、リソース量は
『FF7 リメイク』の約2倍になってしまったという。品質を向上させるということは、それを実現するための追加設定や確認作業が増えることを意味する。そして不具合が発生した場合、発生源を突き止めるだけでもたいへんな労力を要することになる。

 このような状況を未然に防ぐための対策も講じたそうだが、演出を把握している人間がひとつひとつのBGMを聴き、確認して回るというのが、最善の解決策だったという。歴代ナンバーワンともいえるBGM作業の物量に対して、最終的にもっとも必要とされたのは“気合い”だったようだ。
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ワールドマップ×SE

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 SEについては谷山氏が解説。
『FF7 リバース』のSEには“広大な世界を耳でも感じてもらう”という目標があり、その実現のためにふたつのミッションを提示されたという。

  • リメイクで培った技術をベースにしつつ、プレイステーション5に本格対応し、新たな機能を使って広大な世界を堪能できる音作りをすること
  • 世界中に散りばめられたミニゲーム、カットシーン、乗り物、さまざまなアセット……。そうしたとんでもない物量にすべて対処すること

 谷山氏はまずPS5で導入された本格的なオーディオ機能に注目。革新的な技術である“3Dオーディオ”と“ハプティクスフィードバック”に注力することで、目標達成を目指したと話す。

3Dオーディオ

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 3Dオーディオはステレオヘッドフォンで360度全方位への定位が可能な技術だ。従来のバイノーラルオーディオはオーディオ愛好者だけに親しまれていた印象だったが、PS5では誰でも手軽に実現できる。これに対し、スクウェア・エニックスの“SEAD Engine”では、コンソールの出力設定に応じて、レンダリングフォーマットを動的に変更できるように機能を拡張。

 具体的には、基本のレンダリングでは8CHの7.1サラウンド。3Dオーディオでの出力のときは16CHの3次アンビソニックス。DolbyAtmosのときは12CHで、レンダリングを切り換えられるようにしたそうで、これにより、各出力フォーマットに最適化された音響体験をデザインし、提供可能になった。
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 しかし、アンビソニックスでレンダリングできるようになったとはいえ、すべて従来の方法でサウンドを作って問題なし……というわけではない。大半は問題ないが、一部、例外となるパターンも存在する。

 多くの3D座標にバインドされた音源は、レンダリングフォーマットの変更により、360度の最適な解像度を自然に得られる。しかし、空間配置系のマルチチャンネル音源を制作する際には注意が必要だという。

 従来のサラウンド出力であれば、そもそも平面で出力されるため、森の木々のざわめきや鳥の声などは、空気の音とともに4CHにミックスしてボリューム内で再生すれば十分だった。だが、アンビソニックフォーマットでは音が上下を含む全周に広がるため、上から聴こえてくるように調整する必要がある。空間をデザインする3Dオーディオ対応の実装方針として、谷山氏は以下の3つの方針を実践した。
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  • “高さ”を重要な要素として持つSEはモノラル音源に分離する
  • オブジェクトがある場合はなるべくオブジェクトに座標バインドする
  • 具体的なオブジェクトがない場合も、下層位置に3D配置する

 その結果、膨大な配置量になってしまったそうで、配置音源を緑の文字で可視化した資料も公開された。
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 つねに500オブジェクトくらいがマップ上に存在していた(ときには700を超えることも)が、デザイナーの努力でフレーム分散や距離調整などが行われ、何とか成立させた……とのこと。

ハプティクスフィードバック

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 ハプティクスフィードバックとはDualSenseに搭載された振動機能。サウンドと同じく波形データとしてデザインできるため、サウンドチームで細かな振動のパーツのデザイン制作を担当することになったという。

 従来の振動制御とは異なり、波形データを同タイミングで重ねて配置できる特徴がある。素材やタイムライン配置を組み合わせることで、多様な表現が実現可能となった。『FF7 リバース』では100種類近くの短くデザインした振動を用意してアニメーションとシーケンサーのタイムラインに張り付け、もしくはプログラムで直接再生する……といった手法で活用したという。
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 そこで利用した振動のなかには、内製の振動フォーリーで収録したデータも含まれている。リアルな振動にシンボリックな振動を組み合わせて、メリハリのある振動をゲーム内に実装することができたと谷山氏は話す。

 ここまで説明してきた“3Dオーディオ用の環境音配置”と“振動”に対するこだわりが端的にわかるよう、さまざまなシチュエーションの参考動画も公開され、こちらも好評を博していた。

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カームの上空をヘリが旋回するシーン。高い位置からヘリの旋回音が聞こえるようになっている。
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屋根の上を移動したり、室内で扉を閉めることで、旋回音の聴こえかたが異なることも確認できた。

 このようにSEでも前代未聞の物量となった。当然、サウンドチームとしては作業の効率を改善するために、広範囲でのサウンド配置物の可視化やオブジェクトへのテレポート機能など、さまざまな機能を追加し、デザイナーをサポートしたが、結果的にそれらは“焼け石に水”だったという。

 大勢のベテランスタッフが集まり、知識と知恵を絞ることで、何とかゴールにたどり着けたSE作業だが、こちらでも最後の決め手になったのは、やはり気合いだという。

 谷山氏いわく、「この時代に何を言っているんだと思われるかもしれませんが、今回もやはり、気合いが不可欠でした」とのことで、「新たな技術を生み出すための知識と知恵、そして泥沼(終わりの見えない膨大な量のSE作業を指す)から抜け出すための気合いと根性で、広大なワールドマップ制作をなんとか仕上げることができました」と話し、解説を締めくくった
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 そうして最後に、伊勢氏からも『FFVII リバース』の作業を統括するまとめが語られ、セッションは終了した。その内容は以下の通り。

  • 全体的に『FFVII リメイク』の延長上で開発できると思っていましたが、ワールドマップの追加により作業は一変し、試行錯誤の連続となった。
  • BGMにおいては、感情やシチュエーションの部分をシステムに落とし込むことが難しく、結果、泥臭い作業をこなすことになった。
  • SEにおいては、3Dオーディオを基軸に立体的なサウンド設計ができ、次回につなげられるものになった。振動に関しても制作手法や実装面を確立できたので、引き続き、さらにブラッシュアップしていきたい。
  • そして、やはりBD2枚組は物量が多すぎました……。
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