舞台は連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で内戦が展開されている。大統領に単独インタビューを行うため、ニューヨークを発ったジャーナリスト視点で物語が描かれる。独創的な世界観の作品を多く展開して映画ファンを魅了してきたA24制作の最新作で、全米では4月に公開され興収が2週連続1位の大ヒットとなっている。
日本公開にあたって、同作の監督・脚本を務めたアレックス・ガーランド氏と、『DEATH STRANDING』(デス・ストランディング)や『メタルギア』シリーズで知られる小島秀夫氏による対談が実現。フィクションのなかで描かれる戦争や戦闘についてのそれぞれが思うこと、現在製作が進行中である映画版『DEATH STRANDING』について語った。
小島秀夫(コジマ ヒデオ)
1963年東京都生まれ。ゲームクリエイター、株式会社コジマプロダクション代表。1987年、初めて手掛けた『メタルギア』で、ステルスゲームと呼ばれるジャンルを切り開く。ゲームにおけるシネマティックな映像表現とストーリーテリングのパイオニアとしても評価され、世界的な人気を獲得。独立後初作品となる『DEATH STRANDING』ではノーマン・リーダス、マッツ・ミケルセン、レア・セドゥなど、世界的名優たちを起用。同作品の実写映画化も決定している。映画、小説などの解説や推薦文も多数。ゲームや映画などのジャンルを超えたエンタテインメントへも、創作領域を広げている。
アレックス・ガーランド
1970年イギリスロンドン生まれ。小説家、脚本家、映画プロデューサー、映画監督。ダニー・ボイル監督のSFホラー映画『28日後...』で脚本家デビュー。初の監督作である『エクス・マキナ』では第88回アカデミー脚本賞にノミネートされた。ゲームの分野では『ENSLAVED ODYSSEY to THE WEST』や『DmC Devil May Cry』の脚本を務めた。10月4日より公開の映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』では監督・脚本を担当。
本当に起こるかもしれない、アメリカの未来を描く
僕はずっと前からアレックスのファンで、彼が手掛けるSFや近未来、ポストアポカリプスものといった世界観を見てきました。そんなアレックスが、アメリカの内戦をリアルに描く作品を作ったことに関しては、じつはけっこうショックを受けました。映画としておもしろかったのはもちろんなのですが、そういう時代になったのかなと、恐怖感がありました。
人類が近い将来こうなるだろうという問題を特定するのは得意なのですが、それを防ぐのはどうしても難しくて。世の中で起きている分断や戦争、地球温暖化。これらが現実に起きていること、これから起こりうることだとわかっているのに、何もできない。まるで向こうから津波がやってくるのをただ眺めていることしかできない、そんな状態だと思うのです。
ただ、そのスタンスはSFの形を借りて、これから起ころうとしていることを伝えようとしたエンタメだったんです。それに現実が追いついてきて、アレックスも本作では現実を描こうとしている。いままでのエンタメのリズムが大きく変わりつつあるのかなと思いましたね。
また多くのアメリカ人は、アメリカでは内戦は起こらないと考えていると思うんです。そんな内戦をテーマとした作品をイギリス人のアレックスが作ったというのは、特別な意味があるんじゃないかと。
愛国心的な部分に神経質になっている。そういう人たちにとっては、アメリカにおいて内紛や内戦が起きるというのは想像がつかない、というのが現在の状態なんだろうなと感じますね。
また、現在のアメリカは、何となく不安を感じているのに、それが何なのか、どういうことをもたらしうるのかが定義付けできていない状態なんだと思います。
たとえば、僕が脚本を執筆して誰かに見せると、さまざまな意見や批評が寄せられます。その内容を見ると、意識下ではそう思われるだろうとなんとなくわかっていたはずなのに、いまいち把握できていなかったということがよくあります。このような意識の二重構造が起きているんじゃないかなと。
リアリティを追求し、混沌と化した戦場を表現
『プライベートライアン』のオマハ・ビーチへの上陸シーンを最初に観たときのような、自分も撃たれるんじゃないかと思わされる演出でした。また、決戦時の音もとくに印象に残っていますね。
実際は、銃弾が体を貫通して撃たれた人がそのまま倒れるというのが現実ですよね。今回は現実を描きたかったので、あえて映画的な文法を避けて描くようにしました。実際に人が撃たれるさまを見たことがなくても、「これはリアルだな」と感覚でわかると思います。
A24と組んで挑む、映画版『DEATH STRANDING』
――なるほど(笑)。アレックス監督は、A24と関わってみていかがでしょうか?
――アレックス監督、小島監督。本日はご対応いただきありがとうございました。
インタビューの最後に、アレックス氏は「僕は1970年生まれなので、ゲームとともに育ちました。昔のベーシックなゲームから始まり、そこからずっと遊び続けています。」とゲームプレイヤーに向けてのメッセージも残してくれた。映画というフィクションで、本当に起きるかもしれないリアルを描いた『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。ぜひ劇場でチェックしてみてほしい。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』 作品概要
「お前は、どの種類のアメリカ人だ?」
連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。「国民の皆さん、我々は歴史的勝利に近づいている——」。就任 “3期目”に突入した権威主義的な大統領はテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。ニューヨークに滞在していた4人のジャーナリストは、14ヶ月一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うため、ホワイトハウスへと向かう。だが戦場と化した旅路を行く中で、内戦の恐怖と狂気に呑み込まれていくー
CAST:
- リー・スミス:キルステン・ダンスト
- ジョエル:ワグネル・モウラ
- ジェシー・カレン:ケイリー・スピーニー
- サミー:スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン
- アニャ:ソノヤ・ミズノ
- 大統領:ニック・オファーマン
STAFF:
- 脚本・監督:アレックス・ガーランド
- プロデューサー:アンドリュー・マクドナルド
- 撮影監督:ロブ・ハーディ
- プロダクション・デザイン:キャティ・マクシー
- 編集:ジェイク・ロバーツ
- 音楽:ジェフ・バーロウ
- 音楽:ベン・ソーリズブリー
配給:ハピネットファントム・スタジオ