松竹がゲーム事業に参入。第1弾タイトルとしてSteam向けに『バックパック・バトル』を3月8日にリリースし、発売2週間で世界50万本のダウンロードを記録した。ドイツにオフィスをかまえるPlayWithFurciferが開発を手掛ける同作は、インベントリ構築型ローグライト対戦ゲーム。パブリッシングはPlayWithFurciferとIndieArkで、松竹はマーケティングを担当している。
第2弾はBrave groupと協業してのゲームメタバース事業領域への参入。この3月には、『フォートナイト』内にて、松竹が展開しているお化け屋敷ブランド“松竹お化け屋本舗”のプロデュースにより、ジャパニーズホラーをテーマにしたワールド『呪園』を3月に提供した。
映画や演劇の制作を手掛ける会社としておなじみの松竹は、なぜゲーム事業に取り組むのか。松竹 事業開発本部 イノベーション推進部にてゲームビジネスを担当する4名にインタビューを実施した。松竹がゲーム事業に取り組む経緯や戦略などを聞いた。
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石毛宏明氏(いしげひろあき)
松竹 事業開発本部 イノベーション推進部(文中は石毛)
鶴間花保里氏(つるまかおり)
松竹 事業開発本部 イノベーション推進部(文中は鶴間)
森本高廣氏(もりもと たかひろ)
松竹 事業開発本部 イノベーション推進部(文中は森本)
玉置国大氏(たまおきくにひろ)
松竹 事業開発本部 イノベーション推進部(文中は玉置)
ほかの事業と結びつきが強められるのではないかということで、ゲーム事業に取り組む
――松竹がゲーム事業を始めることにした経緯を教えてください。
石毛
松竹では新規事業に積極的に取り組んでいまして、2019年に事業開発本部という各本部で行っていた新規事業系の事業を統合した本部を設立しました。以降、その本部でさまざまな事業に取り組んできまして、その中のひとつがゲーム事業になります。
松竹の本業である映画や演劇、不動産など、ほかの事業と結びつきが強められるのではないかということで、いま積極的に取り組んでいます。
——いつごろ立ち上げたのですか?
石毛
1年経っていないくらいですね。昨年(2023年)7月に開催されたBitsummitや9月の東京ゲームショウでは、「松竹がゲーム事業に取り組みます!」ということで、右も左もわからないながらに、方々のブースにご挨拶にうかがっていました。「なぜゲーム事業に取り組むのですか?」と、聞かれたりしつつ(笑)。
森本
4人ともゲームは大好きなのですが、ビジネス上のノウハウはなかったので、とにかく手探りでした。
石毛
それでいろいろな方に会う中で、「こっちの方向性だな」というのを少しずつ整理してきました。
——どのような方向性だったのですか?
石毛
“ターゲットは海外”という部分ですね。お話させていただく中で、ゲームビジネスのグローバルでの可能性を非常に感じました。ですので、できるだけ大きい分野をやってみたいということで、この方向性をまずは軸にしようと思いました。
——海外デベロッパーやパブリッシャーとの協業に可能性があるということですね?
石毛
はい。海外の企業と積極的に接点を持つようにしています。一方で、おかげさまで“松竹がゲーム事業に取り組む”となると、興味を持ってくださる日本のゲーム会社さんも多くて、お話を聞いていると、「このゲームは海外でも可能性がありそう」という日本のゲーム会社さんのプロジェクトも多いです。
森本
ですので、国内、海外の会社問わず、“ターゲットは海外”というタイトルであれば、積極的に取り組んでいこうと思っています。
石毛
あと、ありがたいお話ですが、日本のコンテンツは海外の方に本当に好かれていますよね。とくに日本のゲームはとてもリスペクトされています。ですので、とりあえず海外の企業も、松竹は知られていなくても、日本のエンタメ企業と言えば、話は聞いてくれるのでありがたい限りです(笑)。
その海外の企業とたくさん話している中で、日本だけで閉じ籠もるよりも、せっかく可能性があるのだったら、やはり海外市場で勝負してみたほうがいいのではと思いました。そこで「海外のゲームイベントにも行こう!」となって、韓国のG☆STARだったり、台北ゲームショウだったり、GDCだったりに足を運びました。
森本
ミーティングということで言うと、昨年から今年にかけて、とにかくたくさんのゲーム会社さんとお話ししていますね。
石毛
ゲームイベントなどに参加して、会場でご挨拶させていただいたゲーム会社さんとはオンラインで打ち合わせをさせていただいていますし、たぶん200~300社様くらいはお話しさせていただいています。
――そんなにですか? 松竹がゲーム事業を始めるからということで、興味を抱かれたのですね?
石毛
いえ、逆です(笑)。僕らから突撃することが多いですね。
――積極的ですね。
石毛
わからないことばかりなので、「とにかくもうやるしかない!」という感じです。僕らの中にゲーム会社の経験者がいたら「こうやったほうがいいよ」と教えてくれたと思うのですが、誰も何もわからないので、とにかくやるしかない感じです(笑)。
いろいろなゲーム会社さんとお会いする中で、「こういう会社もあるんだ」ということをいろいろと知ることができますし、我々の方向性もどんどん見えてくるということもあります。
タイトル選定の最大の基準は、そのタイトルが“グローバルでヒットするかどうか?”
——松竹のゲーム事業第1弾タイトル『バックパック・バトル』はどのような経緯でコラボが実現したのですか?
石毛
パブリッシャーのIndieArkさんは中国の会社なのですが、2023年の東京ゲームショウでお会いしました。日本のパートナーを探しているとのことだったので、「松竹も初めての取組ですが、いっしょにやりましょう」ということになりました。
それで、将来パブリッシングを予定しているタイトルがあるということで、20本くらい紹介してくれたんですよ。
—— 20タイトルもですか?
石毛
1本1本遊んでいったのですが、その中に『バックパック・バトル』が入っていたんです。自分も初めて遊ぶタイプのゲームで、とてもおもしろくて、気がついたらひたすら朝まで遊んでしまいましたね(笑)。
ゲームにそこまで慣れていない自分がこんなにおもしろいのだから、本当におもしろくて、可能性があるんだろうなと思って、IndieArkの担当さんに、「20本遊んだけど、これがいちばんおもしろいから、松竹でも何かやりたい」というお話をしたら、日本のマーケティングのお手伝いをすることになったんです。それがありがたいことにうまくいっている感じですね。
『バックパック・バトル』に関しては、今後も大型アップデートも含めて、いろいろと展開があるのでご期待ください。
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インベントリ構築型ローグライト対戦ゲームの『バックパック・バトル』。アイテムを整理整頓して自分だけの強力なビルドを組み、ほかのプレイヤーたちと対戦していく。アイテムを賢く整理整頓すればするほど、バトルの実力も上がっていく。2024年3月に早期アクセス版がリリースされるや、2週間で50万本を達成するほどの人気を博している。
[関連記事]『バックパック・バトル』早期アクセス版発売から2週間で全世界50万本の売上を達成。Steamレビューも“圧倒的に好評”を獲得――そもそも、IndieArkはなぜ松竹に声をかけたのでしょうか? やはり日本が世界に誇るエンターテインメント企業だからということも大きかったのでしょうか? 石毛
そうですね。そういった話は出ました。「日本でも歴史があって、信頼されている会社であると思っています」みたいなことはおっしゃっていました。ありがたいことです。
――『バックパック・バトル』のマーケティングはどのような方針で進めたのですか? 松竹ならではのアプローチなどはあったのでしょうか。
石毛
ゲームのマーケティングはやったことがなかったので、IndieArkさんとお話をしながら、「ゲームのマーケティングにはこういう定跡がある」というアドバイスをもらったりしました。ただ、彼らも日本のことはわからないので、「日本に落とし込んだらこれがいいだろう」といったことをディスカッションして、IndieArkさんといっしょにマーケティングプランを考えていった感じですね。
――まさに、試行錯誤ですね。
石毛
おかげさまで、メディアさんにはけっこう露出していただきました。松竹がきちんとメディアさんと会話をして、丁寧にPRをしたというのは、IndieArkさんにも評価していただいています。ありがたいことに、『バックパック・バトル』のSteamページに来ていただいているユーザーさんは日本が1位なんですよ。日本のゲームファンにも注目していただいているタイトルということで、マーケティングがしっかりできたのかなと。
実際のところ、『バックパック・バトル』の契約を本当に決めたのは、発売の1ヵ月くらい前なんです。IndieArkの本社がある深センまで行って、お話を聞いて納得できるようであれば契約しようと思っていたんです。それが、話してみたらすごくいい会社で、メンバーの皆さんもよい方だったので、「やろう!」と決めました。
――会社が選択のひとつの基準になったのですね?
石毛
とはいえ、僕らは会社さんで判断して「こことうやろう」という感じではあまり決めていないんです。
やはり肝要なのは、タイトルです。そのタイトルが本当に売れるかどうかというのを、きちんと話し合って決めるというスタンスですね。さらに言えば、“グローバルでヒットするかどうか?”というのが最大の判断基準になります。
――となると、ヒットするかどうかの判断基準が気になるところですね。
石毛
それはいろいろな要素があります。事前の情報もそうですし、有名なIPで基礎的なファンがいるかとか、あるいはオリジナルタイトルだけど、著名なクリエイターが作っているとか……。あるいは、そういう知名度は一切ないけど、触ってみたらすごかったとか。いろいろな判断基準がありますね。
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ゲーム業界の役に立てられることに取り組んでいきたい
——ゲーム事業の取り組みの第2弾として、ゲームメタバース事業領域への参入も発表していますね。
石毛
Brave groupさんと協業してのブロジェクトとなりますね。Brave groupはVTuberの事務所なのですが、お互いの強みを活かせる新規事業はなんだろう……と考えたときに“ゲーム”とのことになりました。その中でもいくつかのジャンルを検討したのですが、グローバルに向けてメタバースを……との決断にいたりました。
『バックパック・バトル』とゲームメタバース事業領域への参入は、たまたま同じくらいの時期だったのですが、松竹のゲーム事業らしい動きかなと思っています。1本は海外の企業とSteamで低コストでやるし、もう1本は日本のスタートアップ企業と『フォートナイト』でやるしと、ぜんぜん違いますよね。
くり返しになりますが、これが奇しくもメッセージとなっていて、松竹は“海外含めて世界中の会社と組める”し、“ジャンルやプラットフォームも幅広く考えられる”ということですね。ただし、“ターゲットは海外”ということです。
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『フォートナイト』のゲーム内だけでなく、会員向け貸し切り企画のリアルイベント“呪園 Produced by 松竹お化け屋本舗”も、西武ゆうえんちで4月13日と5月11日に開催された。
——今後出てくるであろう第3弾、第4弾はまたまったく違うものになるのですか?
石毛
ぜんぜん違うものも多くあります。プラットフォームも異なるかもしれません。
——ちなみに、家庭用ゲーム機向けゲームにも興味はあるのですか?
石毛
あります。
——いまどれくらいのプロジェクトが動いているのですか?
石毛
リリースすることが決まっているタイトルで、発表したもののほかに、2024年内にあと5 本くらいはあります。2025 年も2024年と同じくらい仕込んでいますね。目標としては、年10本くらいを考えています。
——事業としてはパブリッシングにこだわっているわけではないのですか?
石毛
いずれはやってみたいとは思っていますが、こだわってはいません。そこは臨機応変ですね。相手の希望を聞いて、できることがあればやりますし、できないことだったら別途パートナーを探してあげたり、何か先方のお役に立てることができればと思っています。
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1本でも多くのおもしろいゲームを届けたい
——今後取り組みたいことを教えてください。
鶴間
個人的にはノベル系や女性向けゲームが好きなのですが、そういったタイトルも扱えたらおもしろいなとは思っています。ゆくゆくはそれが横展開につながったらうれしいですね。個人的には、私初恋が『ロックマンX』だったので、何かしらできたらうれしいです。
森本
“松竹らしさ”が感じられるようなゲームをどんどん出していきたいですね。“らしさ”は、1本1本ゲームを出していくなかでできてくると思うので、一歩一歩進んでいきたいです。
幅広く展開していくと思いますので、何が松竹らしいのか、ユーザーの皆さんも戸惑われることもあるかもしれないのですが……。
――それも含めて“松竹らしさ”ということですね。
玉置
松竹の強みとして、総合エンターテインメント企業であることは大きいと思っています。自社開発メインでということはあまり考えていないのですが、企画などから作っていって、それこそゲーム発のIPで、そこからメディアミックスしたりといった展開もあるといいなと考えています。
石毛
柔軟性をもって、いろいろなことに積極的に取り組んでいきたいですね。
——最後に、松竹のゲーム事業の今後の展望を教えてください。
森本
“松竹らしい”と言っていただけけるようなゲームが作れるように、がんばっていきたいです。あと、私には子どもがいるのですが、松竹のゲームを子どもたちに遊んでもらえるようになるくらいのチームになったらいいなと思っています。
鶴間
明日の活力ではありませんが、「このゲームのためにたいへんなことを乗り越えるぞ!」と思ってもらえるようなゲームを、世界中のひとりでも多くの方々に向けて提供していきたいです。
玉置
松竹はお客様目線を大切にする会社なのですが、お客様にプレイしてもらって“楽しい”と思っていただけるようなゲームを提供していきたいです。
そういえば、松竹にはミッションがありまして、それは、「日本文化の伝統を継承、発展させ、世界文化に貢献する」、「時代のニーズをとらえ、あらゆる世代に豊かで多様なコンテンツをお届けする」というものなのですが、まさにそれに象徴されるかもしれません。
※松竹公式サイト“松竹グループの経営方針”はこちら
石毛
世界中のいろいろなゲーム関係者の方とお話をしたり、ユーザーさんと接点を持たせてもらっていると、実感するのは本当に皆さんがゲームをお好きだということです。そんな皆さんに向けて、我々も1本でも多くのおもしろいゲームを届けたいと思っています。軌道に乗るまでには数年かかるとは思いますが、しばらく温かい目で見守っていただけたらうれしいです。
インタビュー中でも言及している通り、4人ともこれまでゲーム業界での経験はなく、真っ白な状態からのスタートだったとのこと。皆さん「ゲームが好き」という点で共通しており、お話をうかがっていると皆さん和気あいあいとしていて、チームワークもばっちりの様子。果たして今後どのようなコンテンツを生み出していくのか、期待したい。